『FFVIIリメイク』や『ゼルダ』新作だけじゃない。時代の変わり目を感じたE3まとめ【E3 2019】

伊藤誠之介
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 米国・ロサンゼルスで開催された“E3 2019”。本稿では、E3に合わせて行われた各社の発表やプレスカンファレンスを受けて、そこから見えてきたE3の現状や、今後のゲーム業界の動向についての考察をお届けする。

ゲームショウというライブ感のある“祭り”の価値が再確認できた今年のE3

 2019年のE3が開催されるにあたって最も気になる点は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が出展を見送った、というところだった。

 アメリカで開催されているE3が、これまで日本でも大きく注目されてきたのは、任天堂、SIE、マイクロソフトの3大プラットフォームメーカーが一堂に会していたからだ。

 日本の“東京ゲームショウ”や欧州の“gamescom”など、世界的な規模なゲームショウはE3以外にも存在している。ただ、3大プラットフォームメーカーが一斉に、今後の動向を発表する機会は限られている。だからこそE3はアメリカだけでなく、日本を含めた世界の関心を集めていたのだ。

 近年、アクティビジョンやエレクトロニック・アーツといった大手パブリッシャーがE3に不参加を表明するなど、ゲーム業界ではE3離れが進んでいると言われる。そして今年、プラットフォームメーカーの一角であるSIEが参加を見送ったことは、E3の存在意義が問われる事態だろう。


 では、実際のところはどうだったのだろうか。日本にいる筆者には、現地の会場の雰囲気はさすがに知る由もない。ただ、各社の発表やプレスカンファレンスの様子を動画配信などで見ている限り、今年のE3も例年通り、あるいはそれ以上の盛り上がりになったと感じている。

 “Xbox E3 ブリーフィング”では、「今年のE3でもっとも多くのゲームが見られる」とフィル・スペンサー氏が宣言したとおり、『Halo Infinite』『Gears 5』といった大作ソフトから『RPGタイム』のようなインディーズゲームまで、数十本のゲームタイトルが矢継ぎ早に披露された。

 映像配信の“Nintendo Direct E3 2019”も、『スマブラSP』の追加参戦キャラから『あつまれ どうぶつの森』、そして『ゼルダ』最新作のお披露目など、ゲームファンの期待を上回る圧巻の情報量となっていた。

 そのほか各社のプレスカンファレンスでも、それぞれ期待度の高いタイトルが次々と発表されており、PS5や後述する“Project Scarlett”といった次世代ハードの姿が見えてきつつあるなかで、今世代のゲームの成熟ぶりが非常に良く伝わってくるE3になったと言えるだろう。

 さらに、今回のプレスカンファレンスで印象的だったのは、大勢の聴衆を集めた会場で新作ゲームが発表されるという“ライブ”ならではの盛り上がりだ。

 “Square Enix Live E3 2019”で『ファイナルファンタジーVII リメイク』の最新映像が上映されて、これまでリメイク版での姿が明らかにされていなかったティファが登場した瞬間、会場から大きな歓声が上がったところなどは、その代表的な一例だろう。

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 また“Xbox E3 ブリーフィング”で、俳優のキアヌ・リーヴス氏が登場して『サイバーパンク2077』を紹介する際に、客席からの声に応じて掛け合いを繰り広げたり、“ベセスダ E3 ショーケース”で『GHOSTWIRE:TOKYO』を紹介する開発者の中村育美氏が、そのユーモラスな語り口で世界的な話題になったりといったことは、観客を前にしたライブでの発表だからこその魅力だ。


 E3では各社が一斉に情報を発表するため、ともすれば個々のゲームの話題が埋もれてしまうという弊害は、それを報じる側である筆者も痛感している。

 だが一方で、各社が次々と情報を発信することで生まれる“熱気”は、一社単独の発表ではなかなか作り出すことのできないものだろう。今年のE3は、そうしたゲーム業界全体の醸し出す熱気に、筆者のようにE3の会場にはいない全世界のゲームファンをも巻き込むことに成功したと思う。

 プラットフォームメーカーの一角を欠くという、ある種の曲がり角を迎えたE3が今後どのような方向に進んでいくのか、筆者にはわからない。ただ今回のE3は、インターネットやSNSの普及した今だからこそ、大勢の人々を会場に集める“お祭り”が持ち得る価値があると、示すことができたのではないだろうか。

ネットを介してサーバー上のゲームを遊ぶ“ストリーミング”は、どこまで普及するか

 続いては今回のE3から見えてきた、2019年後半から2020年のゲーム業界の今後の動向を考えてみたい。

 事前に予告されていたとおり、マイクロソフトは“Project Scarlett”のコードネームで呼ばれる次世代Xboxを、2020年のホリデーシーズンに発売すると発表した。以前から存在が明かされている次世代のPlayStationと合わせて、いよいよ次世代コンシューマ機が具体的に見えてきた形だ。

 ただし“Project Scarlett”に関しては、専用設計のAMDプロセッサーや広帯域のGDDR6メモリ、そしてSSDを搭載するといった情報しか明らかにされていない。その意味で次世代ハードに関しては、あくまでその存在が示された、という程度に留まっている。

 今回のE3において、次世代ハード以上に大きなトピックになったキーワードが2つある。それは“ストリーミング”と“サブスクリプション”だ。

 ユーザーの手元にあるゲーム機やPCではなく、インターネットの向こう側にあるサーバー上で動作するゲームをプレイする“ストリーミング”に関しては、SIEが“PlayStation Now”ですでにサービスを行っているが、2019年3月にGoogleが“Stadia(ステイディア)”を発表したことで一気に注目を集めている。

 StadiaはE3の直前に概要の発表を行い、アメリカなど世界14カ国で11月からサービスを開始することを明らかにした(日本はローンチ対象外)。Stadiaでは、Google Chromeが動作する環境であれば、PC・TV・タブレット・スマホと、ハードを問わずハイエンドなゲームをプレイできるようになる。

 一方でマイクロソフトは、サーバー上で動作するXbox Oneのゲームを、ストリーミングによってスマホやタブレットでプレイできる“Project xCloud”の開発をすでに進めている。

 さらに今回のE3では“Project xCloud”とは別に、自分のXbox Oneからインターネットを通じて、スマホやタブレットにゲームをストリーミングできる機能を開発していることも発表された。こちらはPS4の“リモートプレイ”とほぼ同様の機能だと思われる。

 ストリーミングによって、ハイエンドなゲームをハードを問わずにプレイできるのは魅力的だが、ストリーミングの快適さには、ユーザーの使用する回線速度が大きく影響する。Stadiaは、回線速度によってプレイ可能なグラフィックのクオリティが変化することが明らかにされている。

 ただしこの点に関しては、“ベセスダ E3 ショーケース”でid Softwareが、ストリーミングに必要な回線速度を40パーセント削減できる“ORION”と呼ばれる新技術を発表している。こうした技術革新が、ストリーミングの普及を後押ししていくことだろう。

 またStadiaでは『デスティニー2』や『ゴーストリコン ブレイクポイント』といった、各社の最新ゲームをストリーミングでプレイできる点がアピールされていたが、逆に言うとそれらは、既存のゲーム機やPCでも遊べるタイトルである。その意味でStadiaならではの個性は、現状ではやや薄い印象だ。

 Googleでは現在、独自のゲームスタジオを立ち上げてStadia用のゲームを開発していると伝えられている。ストリーミングならではのゲームやサービスといった、既存のゲームにはないメリットをゲーマーに対してどれだけアピールできるかが、今後ストリーミングが普及するかどうかの課題となるはずだ。

 その意味で重要になってくるのが、今回のE3でのもうひとつのキーワードである“サブスクリプション”である。

月額遊び放題の“サブスクリプション”が、ゲームのビジネスモデルを変える?

 “サブスクリプション”とは“定期購読”という意味で、一定の料金を払うことでさまざまなサービスを受けられるようになるビジネスモデルだ。そしてこのサブスクリプションは、ダウンロードの不要なストリーミングと非常に相性がいい。

 音楽でいえばSpotifyやApple Music、映像ならNetflixやHuluのように、ストリーミングとサブスクリプションの組み合わせは、月額などの定額料金で膨大な種類のコンテンツに気軽にアクセスできて、それらを即座に楽しむことが可能になるからだ。

 ゲームに関して言えば、SIEの“PlayStation Now”も実は、ストリーミングとサブスクリプションの組み合わせのサービスだ(ダウンロードも対応)。またストリーミングではないが、EAは“Origin Access”というPCゲームのサブスクリプションサービスを、以前から行っている。

 そしてXboxも海外では、“Xbox Game Pass”と呼ばれるサブスクリプションが、すでに2年前から行われている(日本での開始時期は未定)。特にマイクロソフトからリリースされるタイトルに関しては、その大半が発売当日からXbox Game Passでプレイできるため、海外ではXboxを支える人気サービスとなっている。

 今回のE3でマイクロソフトは、“Xbox Game Pass for PC”というPCゲーム向けのサブスクリプションを新たに発表した。さらに、Xbox OneとPCのサブスクリプションにXbox Live Goldを組み合わせた新プラン“Xbox Game Pass Ultimate”も発表している。

 このようにXbox Game Passのサービスが拡大しているのは、将来的なストリーミングでの活用を意識している面があるはずだ。Xbox Game Passの多彩なソフトにストリーミングで気軽にアクセスできるようになれば、音楽や映像と同様に、Xboxを取り巻く環境は大きく変わる可能性がある。

 またユービーアイソフトも、自社のPCゲームをDLCも含めて、月額で自由にプレイできる“Uplay+”を、今回のE3で発表している(日本での展開は不明)。

 一方で、この11月から海外で始まるStadiaのサービスは、基本的にゲームタイトルごとの課金となり、サブスクリプションによるいわゆる遊び放題ではない。先に紹介したように、Stadiaではゲーム機やPCで発売される各社の最新ソフトがプレイできるため、そうした他ハードと価格を揃える必要があったのではないだろうか。

  • ▲スクウェア・エニックスの『Marvel’s Avengers』も、各種ハードに加えてStadiaでのリリースが予定されている。

 ただしユービーアイソフトは前述の“Uplay+”を発表した際に、2020年からPCだけでなくStadiaでも、この“Uplay+”のサービスを行うと表明している。Stadiaでは今後、このような形でメーカー単位のサブスクリプションが広がっていくかもしれない。

 このように今回のE3ではストリーミングとサブスクリプションが、次世代ゲーム機以上にホットな話題となっていた。ストリーミングとサブスクリプションの組み合わせは、すでに音楽や映像の世界で起こっているとおり、ダウンロード販売以上に大きなビジネスモデルの変革を、ゲーム市場にもたらす可能性がある。

 ただ、そこで気になるのが、各社の日本での対応だ。先に説明したように、2019年11月に予定されているStadiaのローンチから、日本は外れている。またXbox Game Passは、日本でもサービスを行うことが以前から告知されているものの、いまだ実現には至っていない。

 今後のゲーム業界を大きく変化させる可能性を持つ海外での動きが、日本でなかなか実現されないとなれば、日本のゲーマーにとってはもちろん、日本でゲームを制作する各メーカーにとっても、あまり好ましくない状況となってしまう。できればそれは避けたいところだ。

 2019年後半から2020年にかけて、ゲーム業界が“次”の時代に向けて動き始めるのは間違いない。だが、これからやってくる“次”の時代はゲーム機が世代交代するだけでなく、PCやスマホ、ストリーミングなどさまざまなサービスが絡み合う、より複雑な選択肢が提示されることになる。

 その時に世界が、そして日本のゲーム業界がどのような道を歩んでいくのか、しっかりと見定める必要があるだろう。2019年のE3は、そうした未来へのスタートラインになるはずだ。

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※画像は放送をキャプチャーしたものです。

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