2008年4月12日(土)
前編ではキャラクターを中心にお話をうかがった『テイルズ オブ ヴェスペリア』インタビュー。中編では、作品の世界観を中心に、プロデューサーの郷田努氏と、制作プロデューサーの樋口義人氏のお2人からうかがった話を掲載している。シリーズ最高のクオリティとボリュームを誇る『テイルズ オブ ヴェスペリア』が、どのようにして作られているのか、それを知りたい人は以下のインタビューに目を通してほしい。
――世界観についてお聞きします。 舞台となる世界「テルカ・リュミレース」を支える「エアル」とはなんでしょうか?
樋口氏:「エアル」というのは、万物の源となるエネルギーで、それを効率よく使うのが魔導器(ブラスティア)です。ガソリンとエンジンみたいな関係ですね。ある場所から沸いて出て、漂っています。
――「エアル」やブラスティアは人々の生活の中でどのようなことに利用されているのですか?
樋口氏:代表的なのが街を覆っている結界です。街の中心には「結界魔導器(シルトブラスティア)」というものがあって、剣みたいな形をしたものと、大樹の形をした2つがムービーに登場しています。
――結界はなんのためにあるのでしょうか?
樋口氏:基本的には魔物です。あるタイミングから人々は魔物の脅威にさらされるようになって、どうにかして自分たちを守らなければならない状況になったんです。そして研究の結果、ブラスティアを使えば結界を張れることがわかりました。
――それは旧文明の時代のことですか?
樋口氏:旧文明が滅んだ後になります。
郷田氏:他にも水道の水をくみ上げる装置にブラスティアが使われています。今回は、それが壊れるところから物語が始まります。あと、人々が戦うために使う携帯用のブラスティアもあります。「テルカ・リュミレース」では、ありとあらゆるエネルギーをブラスティアで賄っているんです。船の動力もそうですし。
――では、ブラスティアは世界的に普及しているのですか?
郷田氏:そうです。でも簡単に作ることはできません。ブラスティアの中心には魔核(コア)というのものが必ずはまっていて、そのコアは現代文明で作ることができないものなんですよ。なのでコアは、遺跡などから掘り出すしかありません。そのコアを「術式」というものが刻まれた台座にはめ込むことによって、ブラスティアは初めて動きます。
――術式とブラスティアは現代の技術で作ることができるのでしょうか?
樋口氏:完全ではないですが、一応できます。そういったものを研究している人たちもいます。個人で研究している人もいますが、高度な研究技術なので、学者の集まった組織が一生懸命研究しています。コア以外は現代文明です。
――帝国はどのようにブラスティアを管理しているのですか?
樋口氏:明確なラインは定めていませんが、ギルドがうまく回ることによって経済が発展したりするので、許可制のような感じでブラスティアを与えているイメージですね。術式を研究しているグループも、帝国の管理下にあり、ギルドは勝手に術式やブラスティアの研究ができません。コアだけでは使い物になりませんから、研究している部門も帝国がガッツリ押さえてます。
――民間で使えるブラスティアは、個人携帯用のものに限られてしまうんでしょうか?
樋口氏:そうですね。でもそのブラスティアもお店で売っているようなものではないので、魔物と戦うギルドに入った時に初めて供給されます。“ユーリ”は騎士団にいた時にもらったものを使っています。
――先ほどからお話に出ている「ギルド」は、どういった組織なのでしょうか?
郷田氏:この世界には、大きな街が1つあって、その他にいろいろな街があるのですが、魔物のせいでちょっと外に出られる状況ではないんですよ。旅をする人は限られているんです。例えば、貿易を主にするギルドであったり、外にいる魔物を狩るギルドであったり、料理を研究するギルドであったり、そうした有力ギルドと帝国とで世界が回っています。
樋口氏:そういうプロっぽいギルドから、サークルみたいなギルドまで、人が集まればギルドを名乗ることができるという世界ですね。ギルドの存在は、シナリオや世界設定とリンクしていて、“ユーリ”もギルドを作ることになります。
――“ユーリ”のギルドはどんな活動をするのですか?
樋口氏:あまり目立ってボランティアみたいなことをするわけではなく、目の前に困った人がいたら、そういった人たちを助けていきます。特に「世界平和のため」のような大げさな目的はないです。もっともお金のためではないという意味では、ボランティアみたいなものかもしれませんね。
郷田氏:サブシナリオについてもシリーズ最大級になっていて、“ユーリ”の作ったギルドにかかわるサブシナリオも多いですよ。
――それはプレイヤーが自由に取捨選択できるような形式ですか?
樋口氏:いえ、いわゆるクエスト形式で引き受けるものではなく、キャラクター性の掘り下げですね。語られていないシナリオの行間の補足であるとか、バックグラウンドの描写であるとか、サブキャラクターたちに関してもたくさんエピソードを用意しています。『アビス』を見ていただけると一番わかりやすいのですが、サブキャラクターの背景を語ったものが多いですね。今作がシリーズと違うのは、単発のサブシナリオではなく、連続したサブシナリオが多いことです。途中でエピソードが抜けてしまうと、連続シナリオが進まなくなってしまうので、いろいろ寄り道しながらやってほしいです。
郷田氏:メインストーリーが、“ユーリ”たちのギルドを中心に動いていくんです。そこが物語では重要な意味の1つです。
樋口氏:ギルドは世界設定に説得力を持たせる一要素ですね。“ユーリ”たちが作るギルドは、5大ギルドと違ってサークルのようなノリになります。
――5大ギルドは物語に大きくかかわってくるのですか?
樋口氏:メインではないですね。世界設定の一要素としてそういったものがあります。当然、途中で協力したり衝突したりはありますけど。別に主人公たちの目標は「世界一のギルドになるぜ!」ということではありませんから。
郷田氏:設定的には、歴史上にあった実際のギルドと同じようなものですね。
樋口氏:要素として必要だから用意してありますが、ギルドがなくなったら、シナリオの根幹がなくなるかというとそうではありません。味つけの1つです。
――バトルシステムはどのようなものになりますか?
樋口氏:『アビス』の「FR-LMBS(フレックスレンジリニアモーションバトルシステム)」が基本となったシステムです。『アビス』の時はスキルを覚えないと使えなかった「フリーラン」も、最初から使えます。ただし細かい味つけはだいぶ違うものになっています。
――戦いに使うブラスティアはどういった効果があるのですか?
樋口氏:まず、作品に登場する多くの武器がなんらかのスキルを持っています。武器を装備して戦い続けていくと、魔導器がスキルを吸収するんです。吸収したスキルは個人のものになるので、武器を変えても使えるようになります。
郷田氏:他にも治癒術などの術を使うためにブラスティアが必要です。逆に言うと、ブラスティアを持っていれば、術を使えない人もそういった術を使えるようになりますね。
――“エステル”が使う術もブラスティアによるものですか?
樋口氏:基本的にはそうです。そのへんの武器屋のオヤジとかがブラスティアを持てば、術を使えるようにもなります。本編中、そういうシーンはないと思いますが。
――スキルを覚えるのに必要なブラスティアはどう充実させていくのですか?
樋口氏:ユーザーが何かしら操作をする必要はないです。設定上、ブラスティアがスキルを吸収していることになってますが、ユーザーがすることは、武器を合成して、その武器を装備することになります。だから例えば、この武器は攻撃力は半分しかない、持っている武器で一番弱いけれど、その武器にしかないスキルを覚えるために装備するという選択は生まれると思います。
――では魔導器や術式はシステムではなく、世界設定に絡んだ要素になるのでしょうか?
樋口氏:「ただの人間がなんで魔物と戦えるんだ」というものの説得力ですね。そういう説得力は必ず必要になると思っています。
郷田氏:「今まで一般人だったのに、なぜいきなり戦えるようになるんだ」と思うじゃないですか(笑)。
――確かにそうですね(笑)。この世界で戦う人は皆、ブラスティアを持っているのでしょうか?
樋口氏:この世界では当たり前のことです。ブラスティアを持たずに戦う人は原則いません。まあ戦うこと自体はできますが、やられちゃいますよね(笑)。ザコ敵をザコ敵のように扱えるのがブラスティアの力です。
世界観や世界設定についてお話をうかがってきたインタビュー中編。ラストの後編では、『テイルズ オブ ヴェスペリア』開発にあたってのこだわりや、発売後の展開について掲載している。後編を読んで『テイルズ オブ ヴェスペリア』開発の全貌を知ろう!
(C)藤島康介
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