2008年5月31日(土)
2005年10月にTVアニメが放送され、今年1月31日にDS用ソフト『蟲師 ~天降る里~』が発売された人気コミック「蟲師」。TVアニメで主人公の“ギンコ”を演じた中野裕斗氏が、「蟲師」に携わった人を訪ねたり、「蟲師」にかかわることをしたりするコーナー「蟲の居所」の11回目をお届けする。
題字・漆原友紀 |
「蟲師」は、「月刊アフタヌーン」(講談社刊)で隔月連載中のコミック。本作を題材にしたTVアニメは、幅広い層の支持を獲得して、文化庁メディア芸術祭「日本のメディア芸術100選」アニメーション部門で6位入賞を果たした。また、マーベラスエンターテイメントから発売されているDS版『蟲師 ~天降る里~』は、「蟲師」の世界が100%再現されていることに加え、ゲームオリジナルのストーリーを楽しめることでも話題となった。
木箱制作に精を出す中野氏だが、順調なことばかりではない。中野氏の前に数々の壁が立ちはだかる、木箱制作第4回目をお届けする。
今日はケンちゃんの父上が経営する木工所にやって来た。
ここなら何でも揃っている。そして猫もたくさんいるのである。
早速、愛想のいいサバトラが俺の足元に転がってきた。なでてやるとゴロゴロと喜んでくれた。
猫はかわいい。そういえばゲームの中にも猫がいたっけ。
間違いなく“村長”より話しかけた数は多い。猫好きの俺としては当然だな。
さて、作るとするか。まずは材を10cm程度にカットしていく。
「どの機械使ったらいいんだい?」と俺。ケンちゃんが「あの真ん中のヤツだね」と答える。
デカイな……丸ノコの比ではない。これは何という機械なんだろう?
ケンちゃん「ん? 真ん中の機械だよ」
このヤロウ、蟲師をなめているのか?
ケンちゃん「だってそう呼んでいるんだもん」
名前はさておき、とりあえず作業することにした。それにしてもデカイ、恐い。
スイッチを入れようと手を伸ばした時に
「気をつけてね。指を切った時、30針は縫ったからさ」
とケンちゃんが恐怖心をあおる。
「この野郎!」とミドルキックを叩き込もうとした時、
「あら、いらっしゃい」とケンちゃんのお母さんがやってきた。
俺「お邪魔しております」
お母さん「これ作ったの? すごいわね。何でも使っていいから、頑張ってね」
とダンゴを差し入れに置いていった。
美味しいダンゴを食べて気合をいれて、スイッチオン!
高速で歯が回転する。ぬおおおおおお!
……やはり恐いがここは頑張ろう。一気にいってしまえ!
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ふう、成功。
ケンちゃんは「お、なかなか上出来じゃん!」と言う。
「俺を誰だと思っているんじゃ!」と破壊王ばりの袈裟切りチョップを振り下ろそうとした瞬間、ケンちゃんの姪・モモちゃんが視界に入った。
俺「こんにちは、どこいくの?」
モモちゃん「これからおばあちゃんと映画「クロサギ」を観に行くの」
俺「何? 「クロサギ」かい? おっちゃん少し出てるけど、きっとわからないだろうなあ」
モモちゃん「ん? いいの。ヤマピーが好きで観に行くから。行ってきま~す」
子どもは正直である。
気を取り直して作業を再開する。さすがに大きいだけあって、優秀な機械。
慣れれば効率がよく、あっという間に終了した。
次は大きさがバラバラなものを切るので、チェックを付けて作業していく。
早いが、ドンドン小さくなっていくので、恐さは倍増する。
集中しろ、Don't think feel!
なんとか、ここも切り抜けた。
次に行うのは、引き出しとこれらを合体させる作業。
ここで活躍するのが以前にも使った「フィニッシュ」という工具だ。
パシュッ! パシュッ!! 2発打って、ボンドを付けていく。
……あっという間に終わってしまった。
続きましては、取っ手部分。彫刻刀がないので、まずはフリーハンドで書いていく。
ほぼ半円だろう。これも速攻で終える。
あっ! 背板の皮ヒモを通す穴を忘れていたよ。どうするかな? と思っていたら、ケンちゃんがニヤつきながらやってきた。
ん? それは背板かい? すでに穴が4カ所開いている。
「開けておいたよ」とキレイに穴の開いた板を差し出してきた。
ここで本日の作業は終了としよう。
彫刻刀でも買いに行くか!
次回、彫り師参上!の巻。
彫刻刀を使うのは、いつ以来だろう。おそらく高校時代の美術の時間が最後だろう。
俺はタイガーマスクを彫ろうとして、途中でうまくいかずに長州力にチェンジした。
ところがうまくいくわけがなく、最終的にワケのわからないものになったあの時以来だ。
今回は5本セットになった「利五郎 彫刻刀セット」を購入。立派な名前だが、うまく彫れるかな?
まずは半円の輪郭を彫っていく。ふむ、悪くない。次に指が引っかかる程度、深く掘っていく。
以外に簡単に彫れるな。
やるぜ、利五郎!!
だが、18個の引き出しの取っ手を彫るんだぞ?
やれるのか、利五郎?
利五郎はやれるかもしれないが、俺の集中力は持つのか?
難しい作業ではないが、量は多い。まあいつものことだ。
最強の蟲師の称号を手に入れるためだ。四の五の言わずにやればいい。
しかし、孤独な作業はつまらん。DVDでも流しながらやることにしよう。
選んだのはお気に入りの映画「ジョーズ」。何せ、初めて映画館で見た作品がこれである。小学生の俺は大興奮だった。とにかくすごいと思った。これを見て以来、俺は映画の虜になった。休みの日は親父にせがんで、映画館に連れて行ってもらったっけな。とにかく映画なら何でもよかった。
思い出にひたっている間に、ジョーズのお出ましだ。しかし、いつ見てもよくできている。ハリボテのラジコンなのだが、本物そっくりである。モデルは最凶の人食いザメ・ホオジロザメ。これに戦いを挑む男3人を演じるのは、ロイ・シャイダー、ロバート・ショウ、リチャード・ドレイファスという味のある役者人たち。
お気に入りの作品の力を借りて、勢いは増し、すべてを彫り終えた。ちょうど映画もクライマックス。ジョーズが木っ端微塵になった。何度見てもよくできている。
彫り終えた引き出しを収納して、全体を見てみた。
かなりそれらしくなってきたが、少し小さいように見えるのが気になる。
1/6で計算した数字をもとに作ったはずだが、巻き物入るかな? そうだ、どうせなら巻き物も自分で作るか。
ちょっとした和紙でも使ってさ、雰囲気出るよね。そうすると、何を書くか迷ってしまうのが問題だな。
他には、光酒の徳利か? だがこれは小さくないと入りそうにない。緑の盃は、半欠けのヤツを作ろう。いろいろ考えると楽しくなってきた!
だが、その前に引き出し全部に紙ヤスリをかけよう。これも地味な作業だ。飽きるのは目に見えている。プロレスビデオを見ながらやるか。プロレス好きの俺は、試合のビデオを結構持っている。TV放送を録画したものばかりだが、あなどれない試合がたくさんある。よし、第1回MSG(マジソンスクエアガーデン)タッグリーグ戦、猪木・バックランドvsハンセン・ホーガンを観るか! これはすごいカードだよ。ありえん組み合わせだよ。って、こんな試合を見たら手が止まってしまうな。
ビデオはよくないな。となるとCDか。でも最近の曲はサントラばかりだ。どうしたもんかな。宇崎竜童か……大好きな曲ばかりだ。とりあえず聞くか。「愚かしくも愛しく」は、映画「伊賀忍法帳」のエンディングテーマである。渋い! 続いて「落日のセイリング」は映画「猫の息子」の主題歌だ。しびれる。……ダメだな。まったく手が動かない。歌を歌う声だけが大きくなる。
ん!? さっきから何やら視線を感じていたが、やはりお前かい、“ギンコ”よ。
わかったよ、お前さんには逆らえないな、おとなしく紙ヤスリをかけるか。
小1時間ばかり、ひたすら紙ヤスリをかけるとようやく作業は終わった。これでいいかい、“ギンコ”?
えっ!? おまえさんにしては上出来だって?
ケンちゃんみたいなことを言うなよ。
次回、塗ってみよう!
何色がいいのだろうか? 濃すぎても木目が消えてしまうし、薄くても味気ない。ちゃんとした材なら、色を塗る必要はないのだが、安い合板を使っている。特に引き出し部分は、木目がないに等しい。
大工センターへ行って、探してみるも目ぼしい色がない。ふむ……とりあえずクリアでも塗ってみるかい。なんとなくで、水性ステインのクリアを購入した。あとはハケを大中小と3本。果たしてうまくいくだろうか?
塗ってみよう! 意気込んで中ハケで塗ってみたものの、結果は失敗だ。濡れた感じになり、木目が浮き出てくるかと思ったが無反応である。それどころか、フィニッシュや隠し釘を打ったところが目立つようになってしまった。木工用パテでうめるしかあるまい。ということは、多少色を濃く塗る必要があるな。このステインは仕上げで使おう。
結果的には、やり直しとなった。色探しの旅にでも出るとするか。男は辛いなあ。一体いつになったら完成するのか、マーベラス・石綿よ、待たせてすまんな。そして、ナカムラカズアキはどこへ行ったんだ?
・中野裕斗氏近況 |
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リキプロジェクトが製作にかかわる映画ができあがりました。 年の差を越えたラブ・ストーリー「ビルと動物園」と、甲子園常連校の補欠部員が主役の青春映画「ひゃくはち」の2本です。 「ビルと動物園」は7月19日から、「ひゃくはち」は8月からロードショー。 ぜひチェックしてください。 |
(C)漆原友紀/講談社・「蟲師」製作委員会
(C)2008 Marvelous Entertainment Inc.