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2008年7月29日(火)

TVアニメ「夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~」 松尾監督のインタビューを掲載!

文:電撃オンライン

 2008年秋に放送開始予定のTVアニメ「夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~」。監督を務める松尾衡(まつお こう)氏のインタビューを掲載する。

「夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~」

 「夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~」は、「月刊少年シリウス」(講談社刊)で連載されているコミックのアニメ化作品。TVアニメ「ローゼンメイデンシリーズ」を作ったスタッフ陣が製作を担当する。

 監督は、TVアニメ「紅」が記憶に新しい松尾氏。音声を先に撮り、それにあわせて映像を作る「プレスコ」方式を本作でも取り入れているという。以下に監督のインタビューを掲載するので、ご覧いただきたい。

「夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~」

――まず監督になった経緯からお聞かせください。

松尾監督:とても簡単で、制作会社のノーマッドから「アニメ化するんだけど、どう?」って原作の単行本の1巻と一緒に、数ページの企画書をもらったのが最初です。

――原作の単行本をお読みになった時の印象はいかがでしたか?

松尾監督:それまで原作は未見だったのですが、非常に「スカッとさっぱりしているな」と思いました。今まで自分が監督してきたタイトルは、濃い内容のものが多かったんですよね。次はライトな内容のもの、観ていて重い感じにならないスカッとするものを作りたいなと思っていたところだったので、ちょうどよかったです。

――そうなると監督としては制作意欲が沸きますね。

松尾監督:実は、今までライトな作風というものに苦手意識を感じていたところがあったんです。例えばストーリーを積み重ねていく、キャラクターの性格を少しずつ見せていくことは、やればやるほど作っている側は安心しますし、その作り方に慣れていたんですね。そういった部分をはしょった「底抜けに明るくていいでしょ?」といったものに対して、今回はチャレンジをしようという感じです。

――監督自身にとっては新たなチャレンジという位置づけなんですね。

松尾監督:アニメではわりと当たり前にある手法だと思うんですけど、今までアニメのそういった部分には触れてこないようにしてきたので、アニメーションとかマンガの持つ独特の「手軽さ」みたいなものを、自分としては初めて描く感じですね。

――確かに監督のこれまでの作品に比べると、スピード感のあるテイストの原作ですが、原作を読んだ段階でどうアニメ化しようと考えましたか?

松尾監督:ストーリーを掘り下げていくことよりも、見た目のスピード感だったりとか、単行本の2~3巻で描かれる戦いのシーンなどのケレン味を見せていこうと思いました。「ローゼンメイデン」は、僕の中ではライトな部類に入っていたりするんですけど、それよりもライトに、キャラクターの心理描写も起きた物事にどう対処するかっていう部分を、普段の生活の延長で描けるんじゃないかと思いました。

――では、アニメ版はスピード感あるアクションシーンの多い作品になると考えていいのでしょうか?

松尾監督:そうですね。アクションシーンだけでなく日常生活のシーンも、畳みかけるような会話劇などをやるんじゃなく、非常にゆったりしたものになるんじゃないかなと思います。

――気軽に楽しんで観られる作品になりそうですね。

松尾監督:そうやって観てもらえるといいなと思います。一応バックグラウンドとして「こういう歴史があって、だから戦うんだよ」というのはあるんですが、あまりそこは気にしないで観てもらったほうがいいんじゃないかなと。メインのキャラクターたちがどういう生活をしていて、どうやって戦っているのかという部分を追って観てもらえればと思います。

――舞台やキャラクターが、個々に大きなバッググラウンドを持っている原作ですが、1クールの中でどう描きますか?

松尾監督:実はアニメ版では物語をシンプルな作りにするためにバッググラウンドを整理しようと考えました。例えば“比泉”の家はどういう家で……とか、“ヒメ”の家はこうで……とか、個々に説明しなければいけないことがたくさん増えてしまうのを、なるべくまとめようというのが最初にありました。「そんなことをやったら卑怯じゃないか」と思われるかもしれませんが、1話で「この町はこうやってできました」というのを描いちゃいました(笑)。町を守りたい人と、町を壊して自分たちの住みやすいようにしたい人との、シンプルな戦いの構図を見せるために、町の成り立ちや物語のステージの説明を先にしたんです。

――今「シンプルな作り」とおっしゃいましたが、アニメ版の方がキャラクター同士の関係性などもよりシンプルになるのですか?

松尾監督:人物の敵対関係などはマンガでもそんなに複雑ではないので、メインキャラクターにフォーカスしようと、アニメでは登場人物を若干絞っているだけですね。基本的には「メインキャラクターと妖怪との戦い」、これだけです。毎回、妖怪が出てきて戦っていく中で、各話ごとにスポットがあたるキャラクターが変わるという展開が続きます。そして物語全体のラインとして、「この町を危機が襲い、最後に町全体に危機がおよんだ時に、キャラクターたちが力を合わせて戦う」という話になります。

――話が前後しますが、アニメ化するにあたって原作のどこを変え、どこをそのまま生かそうと思いましたか?

松尾監督:アニメでは「元老院」という存在があって、彼らが町を守っていて、妖怪が住みやすくするために七郷って桜を植えたというバックグラウンドがあるのですが、そもそも原作に元老院って存在がないんですね。アニメでは元老院を設定して、彼らが桜と直結していて倒れちゃうとこの町がダメになっちゃう、だから桜の樹を守るという話にしたんです。桜の樹が妖怪に支配されてしまわないようにするために“ヒメ”たちが戦い、妖怪たちの大きなボスとして“円神(えんじん)”というのがいるというのが、アニメの主軸ですね。

――原作とアニメでは、メインキャラクターたちの立ち位置や力関係など、物語の中でのバランスは変更されているんでしょうか?

松尾監督:そんなに変わらないと思いますね。キャラクターの性格などは基本的には原作のままです。原作でも各キャラクターにスポットをあてた話があるので、それをアニメの時系列に合わせて、コミックスの3巻までの中からいくつか使わせていただいてますが、基本は変わってないです。

――それでは次に「絵」に関することなんですが、キャラクターデザインの部分で、監督としてアレンジを加えようと考えた点はありましたか?

松尾監督:先ほど、最初に原作を読んで「ライトな話でいいな」と思ったと話しましたが、語と絵の雰囲気がとても合っていると思ったので、なるべくならこの絵を再現したいというのがアニメ版での僕の希望です。ですからデザイナーの方には「申し訳ないけど模写するくらい似せてほしい」とお願いしました。ただ、やはりマンガなのでコミックスの各巻で絵柄が少しずつ違うんですね。コミックスの2巻まで揃った状態で作業に入ったこともあり、2巻をベースにしてアニメ版のキャラクターを作っていきました。

――アニメの舞台になっている桜真町(原作では桜新町)についてですが、実際にロケハンに行かれたりしたのですか?

松尾監督:実際に桜新町は行きました。部分的に使わせていただきますが、基本的には二子玉川あたりをモデルに少しアレンジしました。原作の舞台も、川があって土手があって住宅街があって、そして高い建物が少ないので、僕の中では二子玉川のほうがイメージしやすかったですね。

――続いて、監督は過去の作品でプレスコ収録を行ってきましたが、今回もプレスコ収録ですか? また、キャスティングについてもお聞きしたいのですが……。

松尾監督:今回もプレスコ収録です。ただ、今まではプレスコのメリットを見せるための作り方というのをしてきたのですが、今回はそれはやらないつもりでいます。キャスティングはもう決まっていて、現在3話まで収録が進んでいます。過去のリップシンクロを目指してプレスコを行った作品などと違い、僕の場合は、声優たちが持ってる息使いを生かして自由に演技してもらおうと思いプレスコ収録を行ったんです。声優さんの中で舞台などもやっている人がいますよね? あれはアニメではできないことをやっているわけです。それを見て悔しくて、なんとかしてその演技をアニメでも使おうと思ったんです。

――実際に収録してみて、今回のキャストについての印象はどうですか?

松尾監督:悪くないんじゃないかなと思います。今までだったら起用しなかったタイプのキャストも入っていて、うまく個性が出ていると思います。以前はキャストについては、最初から主張していたのですが、今回は周囲の意見を聞こうと思い最後まで口を出さなかったんですよ。周囲のスタッフの(キャスト候補)リストを見せてもらった時に、そんなに自分の考えとずれてなくてよかったと思いました(笑)。

 ですから、オーディション中も全然しゃべりませんでした。「こういうしゃべり方できますか?」って聞くぐらいで、「もっとこういう感情で話してみて」ってお願いした時に、どのぐらい演技を変えることができたか? というのを僕はチェックしました。声の印象と、僕らの要求に対してどれぐらいフィードバックできるか? それとオーディション中、どれぐらい僕らに質問ができるかを見ました。

 声優と音響監督が話す機会は多いけど、声優と僕らが話す機会が少ない現場が多いのです。でもプレスコって絵コンテしかないから、意思の疎通ができないと仕事にならないんです。アフレコでは、演技の「間」も絵も決まっていて、そこから外れようがないから傷口が広がらないんですが、プレスコだと僕らと話すことができる人じゃないとダメなんです。

――プレスコ以外で今回、演出面で新しい挑戦などは行うんですか?

松尾監督:とても小さいことだけど、僕の作品の中ではカット数が多い方です(笑)。僕はこれまで200から250カットぐらいでした。でも今回は、330カットぐらいあるんですよ。だから過去の作品と比べると、絵コンテの書き方やカット割の仕方も変わっています。よりアニメのスタンダードに近いと思います。

――スタッフ全体に対して監督からリクエストというか、何か伝えたことはありましたか?

松尾監督:どちらかというと「ローゼン」をやっていたころの感覚に戻そうと思っているので、自然とその時のスタッフが多いですね。ある程度は要求するけれど、スタッフの個性を生かそうと思っています。それも原作があるからですね。この方が演出に専念できるんじゃないかと思いました。今回、一歩引いたことで「僕だったら出てこなかっただろうな」という部分が出ています。だからちょっとフレッシュな気持ちです(笑)。

――音楽の部分で監督からリクエストしたことや、また具体的なイメージなどはありましたか?

松尾監督:今まではアコースティックなものやクラシカルなものを好んで使っていましたが、今回はそういうものは合わないだろうと思いました。僕はちょっと昔のロックをイメージしていたんです。グラムロックなどです。そのころのギターの持っているキャッチーさだったりはアニメに合うんじゃないかと思っていて、音楽プロデューサーの方に「やってみてもらえませんか」とリクエストしているところです。あと、今回ミュージカルはやりません。とっても大変なんで(笑)。

――最後に放送を待っているファンの方、視聴者の方へのメッセージをお願いします。

松尾監督:原作を読んでいる人は動く“ヒメ”たちを楽しみにしていてください。アニメから観る人はぜひ原作も読んでみてください。そして、この原作をどうやって1クールで消化するのか? という部分も楽しみにしていてくれればいいなと思います。

(C)ヤスダスズヒト・講談社/桜真町生活相談所

■TVアニメ「夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~」
【放送日】2008年秋
【放送局】TBS、BS-i

【スタッフ】(※敬称略)
 原作:ヤスダスズヒト/月刊シリウス(講談社刊)連載
 監督:松尾衡
 シリーズ構成:花田十輝
 キャラクターデザイン:菊池聡延
 音響監督:鶴岡陽太
 アニメーション制作:ノーマッド
 音楽制作:flying DOG/JVCエンタテインメント
 音楽:土橋安騎夫、IVAN KRAL
 OPテーマ:savage genius「JUST TUNE」
 EDテーマ:ROUND TABLE featuring Nino「ナガレボシ」
 他

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