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2008年9月9日(火)

【CEDEC 2008】『MGS4』の音響演出は次なる領域へと小指を突っ込んだ!?

文:電撃オンライン

 本日、「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2008(以下、CEDEC 2008)」において、オーディオセッション「MGS4サウンド制作という…「戦場からの帰還報告」」の講演が行われた。

『MGS4』

 本セッションは、『METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS(以下、MGS4)』におけるサウンド面での演出についてどのような技術を用いたかを解説した講演。『MGS4』サウンドディレクターの戸島壮太郎が登壇し、HDDを使った音響とゲーム音響に対する氏の考えについて話を行った。

■笑いから始まった『MGS4』のオーディオセッション

『MGS4』 『MGS4』
講演では最初に、『MGS4』のオープニングシーン上映が行われた。オープニングを例にした音響演出における技術論が展開するのかと思いきや……「はい、ここで止めて!」と戸島氏。「ここに僕の名前が出ているんですよ」との発言に、聴講者からは爆笑が起こった。

 戸島氏は『METAL GEAR SOLID 2(以下、MGS2)』より参加し、以降のシリーズにサウンド面から携わってきたという。『MGS2』の時は、慣れない音声編集の仕事に苦戦しながらも、自分になりに「お、いけるかな」と思えるものを作ったと話す戸島氏。しかし、「当時のディレクターの村岡(一樹)さんに聞かせたら、壮絶なNGを出されました(笑)」と失敗談を披露してくれた。

 聴講者の心をがっちりつかんで本題に。「プレイヤーの感情を揺さぶること」を最重要テーマとした作品である『MGS4』では、ドラマとその演出に大変こだわって制作されたとのこと。音響演出はドラマの演出だけでなく、そこまでプレイヤーを引き込むためのリアリティーやシンクロ感、操作感を再現する手段として、至るところで駆使されているそうだ。

■HDDを利用したサウンドシステムはこれからの主流になるか?

 『MGS4』では、敵から隠れるのが基本のゲームでありながら、「もはや隠れる場所すらない戦場サウンド」の実現を目指した、と話す戸島氏。戦場効果音には「近景戦場/Blu-ray Disc上にある音」、「遠景戦場(環境音)/HDDにインストールした音」、「戦場ストリーム/HDDにインストールした音」の3つのカテゴリからなる音を使用したという。HDDを利用することで、ディスクドライブだけは不可能だった「4つの波形の音を同時に出力すること」を実現し、3つのカテゴリの効果音を使った、リアルな戦場サウンドの演出に成功できたそうだ。さらに、この4つの波形を使いこなすサウンドシステムは、“スネーク”の危機状態を演出するBGMにも応用されているという。

『MGS4』 『MGS4』
BGMや効果音は、4chの音を最大4つ出力して戦場を演出している。戦場ストリームとは、言わば戦場の雰囲気を演出する音であり、Blu-ray Disc上に乗せにくい音を集めて作っているという。ちなみに収録音の微調整は非常に手間がかかるとのことで、このサウンドシステムを使用することでその手間を回避することもできるそうだ。

『MGS4』 『MGS4』
作中のiPodの再生の際にも、4つの波形の音を使いこなすサウンドシステムが応用されているそうだ。1つでiPod音楽を出力し、近景戦場のオンメモリ音と戦場ストリームを弱めに出力、残る1つには割り振られた遠景戦場の環境音は停止されている。戸島氏によれば、ディスクから再生する音は、プレイヤーの機材環境によって別の音になってしまうという。軽妙なトークで聴講者を笑わせる戸島氏もここでは、「どんな音がでるかわからないからやらないではなく、オンメモリの音でもある程度のパターンはあるので、オンメモリの音にもとことんこだわるべき」と真摯な姿勢も見せてくれた。

 なお『MGS4』では、音を小さく作ることに尽力したと話す戸島氏。これにより強い音を出した時の演出効果がさらに増すのだが、波形をつぶさずに音を小さく作ることは大変な苦労があったと語る。また、初めから順序よく音響を作るわけではないゲーム作業では、物語のどの部分を音響演出のピークとするか定めるために、プロット(ストーリーの設計図のようなもの)をよく把握しておくことも必要なことを強調していた。

 そしてサウンドシステムにおける今後の課題としては、「敵に発見された時の危機状態を演出するBGMが1パターンなこと」だと戸島氏は語る。「敵に見つかった時、1回目と2回目では“スネーク”の気持ちが違うはずなのに、作品では何度も同じBGMが流れて、プレイヤーは「これはゲームなんだ」と冷めてしまう」のが理由だという。ただし、そうであればBGMをどれだけ作ればいいのかなど、超えるべきハードルも多いようだ。

■デモは次なる領域へ小指を突っ込んだ

 次に解説されたのは、デモとゲームサウンドをシームレスにする「Pro Tools/STREAM接続」。これは簡単に言うと、緊迫感のある本当の大事なデモシーンで「NOW LOADING」となるのを回避する技術といったところだ。「今までは、ボス敵が来るぞ、来るぞ、来るぞ……! といったところでNOW LOADINGが入ってしまったのが『MGS』ですが」と話す戸島氏は、このツールによってある程度回避できたのではないかという。

 『MGS4』には、プレイヤーの操作を受け付けるインタラクティブなパートでも、通常はデモでしか使われないモーションキャプチャーなどを用いたNPCが多数登場するとのこと。このNPCはただ動くだけでなく、当然音響による演出がなされている。ここでPro Toolsを使えば、プログラムからNPCの情報を受け取ることで、効果的な音響演出が行えるとのことだ。

 この技術を用いたもっとも特徴的な場面が、ミッションブリーフィングであると戸島氏は話す。物語を描写するデモシーンとなるこのパートでは、“スネーク”や“オタコン”などのキャラクターはモーションキャプチャーなどが用いられて、決められた動きをしている。しかし、ミッションブリーフィングではプレイヤーが自由にカメラを動かせるインタラクティブなパートでもある。ここでの音響演出は、Pro Toolsが駆使された「次の領域に小指くらいは突っ込んだかなと思う部分」と戸島氏は話していた。

 なお、「小島監督は演出を考える時に音を最初に考えるんですよ」と話す戸島氏は、インタラクティブになってきたデモのリアリティが今後の課題だとしている。最後に戸島氏は、「例えばもっと臭くと言われた時に、ハエが飛ぶ音を出せば臭いと錯覚する」という音を利用した錯覚による演出について触れ、それがサウンドのクリエティブなおもしろい部分であると語った。

『MGS4』
「錯覚による演出は、我々サウンドが握っていると思います。作業は単調ですが、クリエイティブな部分を大事にしてください」と講演を結んだ。

(C)1987 2008 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.

■「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2008」概要
【開催日時】2008年9月9日~11日
【会場】東京・昭和女子大学

データ

▼『METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS』
■メーカー:KONAMI
■対応機種:PS3
■ジャンル:ACT
■発売日:発売中(2008年6月12日)
■価格:8,800円(税込)
※『METAL GEAR ONLINE』収録
 
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