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2008年9月10日(水)

【CEDEC 2008】「大事なのは経営と創造の均衡」――カプコン稲船氏が基調講演

文:電撃オンライン

 9月9日~11日の3日間、コンピュータエンターテインメント協会が東京・昭和女子大学において開催している「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2008」。その2日目となる本日9月10日の基調講演に、カプコン常務執行役員・ダレット代表取締役社長の稲船敬二氏が登壇した。

▲写真は、本日の基調講演に登壇した稲船氏。「技術的なことではなく、今日は僕の考え方を分けるつもりでお話していきます」と前置きし、50分間の講演に臨んだ。

 この講演で稲船氏がテーマにしたのは、「ビジネスとクリエイティブの関係」について。2つの関係をわかりやすく飲食店や男女の仲に例えて「高くて美味しいものを出すのは、当たり前。会社として成功し成長していくためには、安くて美味しいものを作るにはどうしたらいいかを考える必要があるんです」と言い、「ビジネスとクリエイティブは、本来矛盾する関係にあるものです。そのバランスを考えていくことが、大切で難しいことなんですけどね」と苦笑しつつも、基本となる考えを披露。さらにクリエイターと経営陣の両者にメッセージを投げかけていた。

■クリエイターに求められる姿勢とは?■

 はじめに「クリエイターがあんまり考たくない「ビジネス」の部分こそが、実はゲーム作りにとって大事なことなんだと思います」と言った稲船氏。「ここにいるクリエイターの皆さんは経営サイドから「今期中に間に合わせろ」とか「これって売れるの?」などと言われているでしょう。それに対して「うるさい!」と感じるかと思います。でも、経営サイドが言っていることって重要なことなんです。ここ数年で、カプコンが重要視してきたことでもあります」と口にした。

 続けて「現場でよく聞く言葉で「いい物を作るのに締め切りを延ばして何が悪い?」、「経営にクリエイティブなことを言ってもムダ」というものがありますが、これはクリエイターの甘えです」と鋭い言葉をピシャリとたたきつけた。

 「極論すれば、ウソをついたっていいんです。例えば4年前に新しいハードが登場しはじめた時、経営陣に「どのハードで出せば売れるの?」と言われた人も多いでしょう。でも、そんな未来のことなんてわからないじゃないですか。そこで「わかりません」と言っているようじゃダメなんです。「絶対売れます」と言ったらいいんです!」と持論を展開し、「「わかりません」って言われたら、金出す側だって困るでしょ?」と、経営陣の考えを想像することが肝要であると説明した。さらに「「それは稲船さんだから言えることでしょ?」と考えている人がいるかもしれません。しかし、その時点でダメです。それは自分に自信のない証拠です」と断じていた。

 この講演中、クリエイターに厳しい言葉を向けた稲船氏だったが、自分の考えや経験を振り返って「クリエイターは、ゲームのことを知っているだけじゃダメです。それは大前提です。「ゲームを作ることだけが仕事」なのではなく、「ゲームをどう売るか? このゲームを発売することで、会社にどのような利益がもたらされるのか?」までをプロデュースする感覚を持つ必要があるんです。数字って、そんなに難しいことじゃありません。難しく考えるからいけないんです」と、ヒントになるような言葉も口にしていた。多くのクリエイターにこの感覚が欠けていると見ている稲船氏。こうした感覚を身につけようとすることが、クリエイターに求められる姿勢になると話した。

■常に新しいことを――それが活路につながる■

 上で述べたクリエイターに向けた言葉の他にも、この講演で稲船氏は、経営陣に向けて「苦しい時ほど新しいことや困難なことにチャレンジすることが大事」という言葉を投げかけていた。ここではサッカーを例えに出し、「もし全日本の監督だとして、ブラジルに3点を先制されていたら、どうします? ここで4点目を取られないようにしようと考えるようじゃダメなんです――攻撃です!」と強く言い、「どん底の時こそリスク回避を考えます。「新しいゲームじゃなく、数字が見えやすい続編を出せ」と。これじゃダメなんです」と言い、ある程度のリスクを見込んだうえで、新しいことにチャレンジすることこそ成長に欠かせないものであるとした。また「クリエイターが甘えているように、経営陣の中にはクリエイターのことをあなどっている人も多い。クリエイターはゲームバカじゃないんです。本当は数字のことだって理解できるんです」と指摘した。

 さらに、日本でヒット作を作ったクリエイターが報われていない点を取り上げて「海外の話をすると、大ヒット作を作った場合、クリエイターはお金だけでなくストックオプション(※1)などの優遇措置が与えられるところもあります。日本には、なかなかそういうところはありません。これって、クリエイターがさらに数字のことを考えなくなる一因じゃないでしょうか?」と分析した。

 最後に、稲船氏は「この4年間カプコンは、いかにクリエイターと経営が交わって仕事していくかを考えてやってきました(※2)。日本のゲーム業界の未来がいいものになるかどうかは、このあたりにかかっていると思います。稲船がエラそうに言っていたけどどうだったのか、これからのカプコンを見ていてもらいたいと思います」と言い、講演を締めくくっていた。

※1 あらかじめ決められた金額で、自分が所属する会社から株式を購入できる権利。自社の株価によって得られる利益が変動する。
※2 カプコンの業績については、カプコン2007年度アニュアルレポート内の「財務ハイライト」などを参照のこと。

■「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2008」概要
【開催日時】2008年9月9日~11日
【会場】東京・昭和女子大学

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