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2008年9月23日(火)

【うみねこ対談】『EP3』は当初の予定よりも大幅に難易度を下げています

文:電撃オンライン

 PC用同人ゲームとして発表され、アニメやコミック、コンシューマゲームとさまざまなメディアへと展開し、大旋風を巻き起こした『ひぐらしのなく頃に』。

 その作中に込められた謎やメッセージを独自の視点から推理・考察し、「ひぐらしを2倍楽しむ本」として多くの人に支持された「最終考察 ひぐらしのなく頃に」(アスキー・メディアワークス刊)。この書籍の著者である、考察サイト「PARADOX」代表のKEIYA氏が、『うみねこのなく頃に』の考察本も制作することが決定した!

 そこで今回は、考察本制作発表記念として、『うみねこのなく頃に』の原作者であり、同人サークル・07th Expansionの代表でもある竜騎士07氏とKEIYA氏に対談をしていただいた!!

 最新作『うみねこのなく頃に EP3』の気になる話から、真相にいたるヒント、さらには竜騎士07氏の熱い思いまでを、全3回に分けて掲載していこう。

(インタビュー中は敬称略)

【注意!!】以降の対談には『うみねこのなく頃に』EP3までのネタバレが含まれています。

「うみねこ対談」 「うみねこ対談」


■『うみねこ EP3』は当初の予定よりも大幅に難易度を下げています

KEIYA『EP3』とても楽しませていただきました。まだ3話目ですが、物語の中でかなり真相に踏み込んできたなという印象を強く受けました。特に黄金郷がいきなり見つかるとは思わなかったので、あのシーンはかなり驚いたんですよ。

竜騎士07黄金郷が見つかったのは、「碑文は解けるものなんだよ」というヒントかもしれませんね。それも含め、碑文に対して大幅にヒントが出たと考えてもらっていいんじゃないでしょうか。あとは、黄金が本当にあるらしいと。まあそれも疑わしいですけどね。今回の作品は何も信用できないので(笑)。『EP2』までの感想で「碑文の謎が難しくてわからない」という声が多かったのでヒントを与えた、という部分はあります。

KEIYA碑文に限らず、全体的にヒントが多かったような印象を受けました。

竜騎士07実は『EP3』は当初の予定よりも大幅に難易度を下げたのです。当初は「Land of the golden witch」というサブタイトルで、ものすごく極悪な難易度の作品にする予定でした。『EP1』、『EP2』と来て、ホップステップジャンプといった感じで難易度を高くする気だったのですよ。でも、ご存知の通り、発表した『EP3』、「Banquet of the golden witch」の難易度は「互角」で、『EP2』の難易度「極上」と比べると非常に甘口になっているわけですね。『EP2』までの2作で、読者の皆さんがどこまで物語に噛み付いてこれるのかを試していました。なかにはKEIYAさんのように独自の考えでEP2を解釈されている方もいらっしゃいましたが、残念ながら「多くの人は当初の『EP3』では難易度が極悪すぎて理解できない」と判断したため、難易度を大幅に下げたのです。そのためサポートキャラまで複数登場するという、読者に優しいシナリオになりました。「難しすぎる!」という反応が多かったら続編の難易度を下げるということは、ゲームではよくあることだと思います。

KEIYA私が好きな手術ACT『カドゥケウス』(編注:アトラスのDS/Wii用ソフト)も、最近発売された続編には難易度「EASY」が追加されていました。

竜騎士07そういうものですよね。そして作り直して発表した『EP3』では、元々「解答編」で明かす予定だったことまでいくつか先んじて入れてしまっています。作中に登場した「シュレディンガーの猫箱」の世界観はその1つですね。「六軒島では未確定な事実(つまりミステリーとファンタジー)が同居できる」ということも、ぜひ考えていただきたい問題の1つだったのですが、難しすぎるだろうと思い、明かしてしまいました。そんなわけで「Land of the golden witch」はお蔵入りです。

KEIYA今回は、新たに提示された謎が結構な割合で解かれていますよね。作中で解を与える形式は『EP1』、『EP2』にはなかったと思うのですが。

竜騎士07そうですね。『EP2』までは、ほとんど問題の提示だけでした。『EP3』で解決が与えられた部分は、ヒントだと思ってよいのではないでしょうか。

KEIYA謎が解かれた部分に関しても、その解を信じる人と疑う人がいるようです。

竜騎士07客観的な事実があまりにも少ない世界なので、謎が解かれるシーンがあっても真偽はわかりませんよね。ただ、それにしてもヒントになることは多いシナリオだと思いますよ。

KEIYAそこに関連するのですが、最後に“絵羽”が「犯人は私だ」と自白するシーンがありますよね。また物語の筋道を整理しながら読んでいくと、どのような犯行を誰が行ったのか、なんとなくですが構築できる作りになっていたように思います。その辺りから『ひぐらしのなく頃に』の「綿流し編」を思い浮かべたのですが、いかがですか?

竜騎士07そう考えている方もいらっしゃいますね。「“絵羽”が自白したからといって、それが本当かどうかは証明できない」という意見を読んだことがあります。おもしろい判断だと思いますよ。最後に“戦人”を撃ったことに関しては、“戦人”自身が撃たれる瞬間を目撃しているので、おおむね間違いなさそうです。しかし“南條”の事件しかり、他の事件しかり、確かに“絵羽”だけでは説明できない事件がいくつかあります。また“戦人”は「悪魔の証明」で説明拒否していますが、実際問題として“絵羽”1人がどんな大暴れでみんなを殺したのかについても説明されていませんからね。解釈は非常に難しいと思います。

KEIYAその辺の「空白を埋めていく」という行為が、今回のカギだと私は思っています。

竜騎士07六軒島に真実は1つしかありません。ところが、物語のいろいろな部分が空白になり、見えなくなっています。例えるなら、昼のワイドショーやクイズ番組などでよく見かける「正しい文章のいたるところが「?」のテープで隠されたボード」みたいな感じですよ。正しい真実は1つしかありませんが、いろいろな箇所にテープが貼られて読めなくなっています。読めない箇所に「?」と書いてあるならばまだよいのですが、卑劣にもテープの上に他のことが書いてある。しかも酷い箇所になると、テープが貼ってあること自体もわからないという。このあたりのことは『EP1』のころから言われているんですよ。「最後の観測者が記したボトルメールによって真実が上書きされている、虚飾された物語ではないか?」と考察された方たちはかなり鋭かったですね。そのような方たちなら『EP2』を乗り越えるだろうと思っていたのですが、意外と皆さんファンタジーに弱かったですね。カノンブレードやシャノンバリアなんて、「ここ上書きしました」と親切に書いてあるようなものだと考えていたのですが……。

KEIYA小説の描写や地の文でそれをやられてしまうと、信じる読者は多いかもしれませんね。ミステリーに限らず「三人称における地の文で嘘を書いてはならない」という基本がありますから。でもそこを、作品の仕掛けとして疑っていくことも必要だと思います。「基本をはずしているんじゃないか」と。

竜騎士07地の文の信憑性まで作品の仕掛けとして信じられるかどうかというのは、結局のところ筆者と読者の信頼関係で決まるのだと思います。だから「竜騎士07は『Fate』(編注:TYPE-MOONのノベルゲームシリーズ)が好きだから、単純にこういう要素を入れたのだろう」と考えた人はシンプルにファンタジーと受け取り、「これはトリックで、竜騎士07がオレたちを騙そうとしている」と、地の文に仕掛けがあると信頼してくれた人はマジカルバトルを乗り越えた。そう考えたとき、私は「愛がなければ視えない」という言葉は深いなと思いましたね。

KEIYA愛イコール信頼ですね。

竜騎士07「赤字ルール」も“ベアト”を信じるから成り立っている訳なのですよ。少なくとも“戦人”は律儀に信じているけれども、だからといって「本当に真実しか語らない」という縛りがあるかどうかは立証不能。その水掛け論を物語中で行ってもしょうがないので、『EP2』ではわりと早めに“戦人“が信じましたが。“ベアト”自身にも「妾の赤は真実を語っている」と証明はできません。だから結局“ベアト”との赤字問答は、信頼関係がなければ成立しないということですね。

KEIYA「赤字じゃないから信頼しない」というスタンスの人が増えたのもおもしろかったですね。

竜騎士07そのとおり。「白字は全部疑う」という戦い方もおもしろいです。

KEIYA確かにそれも1つの手段だと思います。

竜騎士07でも同時に「では赤字を完全に信頼してもいいのか?」という疑惑が生まれます。これは我々が「新聞に書いてあることなら真実だろう」、「ゴシップ誌に書いてあることは脚色が多そうだ」と考えることと同じですね。ソースリテラシー(メディアリテラシー、脚注※1)というやつです。『EP4』では少しそういう話が描かれる予定です。少し話は戻りますが、推理小説はとどのつまり、筆者を信頼しているかどうかでおもしろさが決まるのではないでしょうか。そう考えると、電車内などにあるミステリー小説の広告では、作品名よりも筆者名が大きく書かれているということにも納得できますよね。一般的な小説は作品名のほうが大きく掲載されることが多いと思いますが、ミステリー小説だけは逆になることのほうが多いと思います。そのような意味でも、赤字を信じるのか、赤字すら疑うのかという度合いにより、プレイヤーと“ベアトリーチェ”の信頼関係も少し量れるんですよ。

KEIYAそこが『うみねこ』というゲーム、“ベアトリーチェ”のゲーム盤への向き合い方そのものだと思うんですよ。『EP2』のときは赤字すら信頼していなかった人が多かった気がします。それは結構意外だったんです。私は「ゲームのルールは神聖」という“ベアトリーチェ”の誓いを全面的に信じたので。

竜騎士07でもその宣言は白字なんですよね(笑)。

KEIYA白字なんですよ(笑)。でも「白字だけど信じよう」と。“ベアト”はゲームと称して誘ってきた。こちらもそのゲームに挑戦する。ならばお互いルールには従うべきだと判断したんです。

竜騎士07そうなんですよね。互いに信頼し合わなければゲームというものは成立しないんです。“戦人”は“ベアト”のことを好敵手として認めつつあるんでしょうね。でもそれは「魔女を否定する」という行為とは非常に矛盾しています。悪徳商法に引っかからないために大事なことは、とにかく断って拒否することで、相手の話を聞いて間違いを正すことではありません。話を聞かなければ詐欺になんて引っかからないのですから。

KEIYA今おっしゃったようなシーンは作中にありますね。考察と重ね合わせると思い当たる節があります。“ベアト”の言動や“戦人”との関係は、幅広い解釈が可能なところだと思いますね。

竜騎士07“ベアト”は本当に不思議な人で、彼女が何を狙っているのかを探るのも一興です。そろそろチェス盤理論を駆使すれば、彼女の狙いが読めてくるころかもしれません。ちなみに『EP5』あたりからじょじょに確定的な答えを提示し始めようとしています。でも今回は『ひぐらし』の時よりもヒントが多いので、『EP5』で何かが明かされても皆さんあまり驚かないかもしれません。スクウェア・エニックスさんのコミック版『EP1』の原稿を最近確認したのですが、読んでいて驚きましたね。「こんなにヒントが満載だったのか」と。「ネタバレじゃないの?」なんてセリフもゴロゴロ(笑)。

KEIYAセリフは結構気になるのがありましたね。『EP3』と重なるセリフもいくつかあったと記憶しています。

竜騎士07そうですね。だから『EP3』のプレイ後に『EP1』と『EP2』をプレイすると、ヒントになることも多いと思いますよ。しかし「観測者がいない」というのはおもしろいです。「カノンブレードなんてなかった」と判断できると同時に、もしかしたら本当にブレードで戦ったのかもしれない。“譲治”が“紗音”に会うため、本当に空を飛んだ可能性も否定できない。

――両方の要素を描けるというのは、作者として楽しそうですね。

竜騎士07そうですね。『うみねこ』では現実パートとファンタジーパートがありますからね。これは読者の側に立つと、ミステリーしか信じない人はファンタジーパートの文章は駄文ということになります。逆もしかり。だから現実とファンタジーを両方否定しない人というのが、物語を不思議に味わえている人だと思います。「愛がなければ視えない」とはまさにこのことで、『うみねこ』は相反する2つの世界を相互に理解しないと、物語の半分しか読めないということになるのです。「ミステリーとファンタジーは同時に存在しうる要素」ということを理解しないと、受け取れる情報量は半減してしまいます。

KEIYAこの作品には「ミステリーかファンタジーか」という問いかけがありますが、私は両方をあわせないといけないかなと感じていました。どちらかではなく両方だというのが、1つのポイントなんじゃないかと。具体的な見方はまだ難しいところですが。

竜騎士07そうですね。例えば『EP2』序盤には、“ベアト”が“真里亞”のマシュマロを、“楼座”の目の前で直すシーンがあります。目をつぶっていた“真里亞”の視点からは、魔法で直したのか、もう1本をポケットから出したのかわかりません。一部始終を見ていた“楼座”が空気を読んで「魔法で直した」と言っただけなのかもしれない。どちらにしろ“真里亞”にしてみれば「直ったマシュマロを手に入れた」という「結果」には変わりがないのです。つまり重要なのは「過程がどちらでも結果は共通している」という点。他のシーンでも同じです。部屋内で“朱志香”と“嘉音”が魔女たちに襲われて殺され、“嘉音”の死体が消されたという「ファンタジー描写」と、部屋内に“朱志香”の死体だけが残されている「結果」は一致しています。ミステリーでもファンタジーでも同じ結果になるというのは大きなポイントですね。これが『EP2』でした。ところが『EP3』はもっと極悪になっていて、ファンタジー描写と「結果」が一致していない出来事が発生し始めました。第1の晩で死亡した6人は、ファンタジーパートで殺された場所とは別の場所で発見されています。“熊沢”なんて雨の中、戦ったのですから、死体は濡れていて泥まみれのハズ。でも現実パートではそのような報告は一切ありませんでした。これは『EP2』よりも、現実が魔法で塗りつぶされてわからなくなっているということなのです。

KEIYA塗りつぶされている範囲は全体的に広がりましたよね。

竜騎士07実は『EP1』のジャケットの裏面から、すでにそのことは書いてありました。「王道ミステリーは次第に魔女幻想に侵食されてゆく」と。『EP1』ではファンタジー描写はまったくなかったですよね。つまりシナリオが進むほど、「魔女幻想」描写の現実への侵食が広がっているのです。このままのペースで『EP4』になったら、どこまで侵食されるのか恐ろしいですよね。ただ『EP3』でかなりヒントを出したので、このへんで読者の皆さんから「オレたちを舐めるな! もう手加減なしで叩き潰す!!」という力強い言葉をいただきたいところです。

KEIYA仮に読者の多くが『EP4』を簡単に乗り越えるようなことがあれば、難易度を再度急上昇させる可能性もあるのでしょうか?

竜騎士07もちろんです。『うみねこ』を執筆する姿勢として1つだけ『ひぐらし』とは明確な違いがありまして、それは作品を発表したあと必ず読者からの反響に耳を傾けるということです。だから『うみねこ』は直前の反響で作品の難易度を変化させています。そういう意味でも『うみねこ』は、私と読者の「ゲーム」ですね。そのため完結後にプレイする人と、現在ライブでプレイしている人では楽しさが大きく違うと、いろいろな場所で発言しているんです。『EP4』では、『EP3』のラストで登場した魔女“エヴァ”の通称・赤字ラッシュに対する読者の「あんなの隙だらけだぜ」という仮説を、“ベアトリーチェ”がズガンズガンと切り捨てるでしょう。“南條”の検死が信用できないなら、検死しなくても誰でも死亡していると判断できるわかりやすい死体を用意しましょう。銃で撃たれたような血のりは一般人には識別不能ですが、『EP1』のような顔面を砕かれた死体なら誰でも「死亡している」とわかると思うので。このようにプレイヤーが用意した答えを見て、“ベアトリーチェ”はそれを否定しているのです。

KEIYA赤字ラッシュは、それまでに赤字で死亡が確定していない人物の犯行で解決できそうな雰囲気があるのですが、果たして真相がそれほどシンプルなのかなと。

竜騎士07あの赤字ラッシュはプレイ中なら「これって八方塞がりじゃないの?」と考えてしまいやすいのですが、ネットで何人かの考察を読めばすぐに「そういう抜け道があるんだ」とわかると思います。個人ではわからなくても、みんなで連帯すれば乗り越えられるというのは、少し『ひぐらし』的でいいですね。あの赤字ラッシュのシーン中にはハッタリもありますから。

――2、3度読んでみると、ハッタリのようなシーンが見えてきますよね。“ワルギリア”と“ロノウェ”が大げさに驚いているシーンとか。2人は驚くことで「本当に隙がない」と思わせようとしているみたいでした。

竜騎士07味方のフリをして酷い人たちばかりですね(笑)。とにかく当初から「解くべき問題は犯人やトリックだけとは限らない。あらゆることが考察の対象になりうる」ということは宣言させてもらっているので、いろいろと考えて真相を探ってほしいと思います。ちなみに私は二重に隠すことが大好きです。人間は1つの真相にたどりつくと、それで満足して考えなくなる癖がありますよね。まさかその真相のさらに先に、本当の真相があるなんて思わないでしょうし。

KEIYAサスペンスでよくある「起承転「転」結」のように2回ひっくり返すみたいな感じですか。

竜騎士07そうです。そうしたいですね。まだ予定なので、できないかもしれませんが(笑)。



対談第2回は9月30日に掲載予定! 乞うご期待!!

【※1】ソースリテラシー(メディアリテラシー)
さまざまな出所から与えられる情報の正誤などを自ら正しく判断し、誤った情報に惑わされず正しい情報を見極めて活用する能力。

(C)竜騎士07/07th Expansion 肖像画/江草天仁

データ

▼『うみねこのなく頃に EP3』
■制作:07th Expansion
■対応機種:PC(対応機種:Windows XP)
■ジャンル:AVG
■価格:1,575円(税込)
※『EP3』には『EP1』、『EP2』の内容も収録。購入は、全国の同人ショップ、アニメイト通信販売などから行える。
▼「最終考察 ひぐらしのなく頃に」
■発売元:アスキー・メディアワークス
■発売日:発売中(2008年3月27日)
■価格:1,680円(税込)
 
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