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2008年10月7日(火)

【うみねこ対談】ミステリー的な現象には、無限の可能性があっていいはず

文:電撃オンライン

 同人サークル・07th Expansionが制作しているPC用同人ゲーム『うみねこのなく頃に』の考察本が、アスキー・メディアワークスから発売されることが決定した。

 その制作を記念して、07th Expansion代表の竜騎士07氏と、考察本の著者で考察サイト「PARADOX」代表を勤めるKEIYA氏の対談を連載形式でお届けしている。今回お届けするのは、最終回となる第3回。1回目は9月23日の記事を、2回目は9月30日の記事を、それぞれ参照してほしい。

 当然ながら、この対談では『うみねこのなく頃に』のネタバレが多数含まれている。プレイ済みの方のみ、ここから先に進んでいただきたい。

(インタビュー中は敬称略)

【注意!!】以降の対談には『うみねこのなく頃に』EP3までのネタバレが含まれています。

「うみねこ対談」 「うみねこ対談」


■人間はミステリー的な現象に対して、可能性を無限に考えていいはずです

KEIYA現段階で私は、「何を信じるか」というのが『うみねこ』の1つの核なのかなと、強く思っています。

竜騎士07そうですね。それは1つのキーワードですね。確かにおっしゃる通りです。「何を信じればよいのか」というのは、逆を返せば「信じるモノが違えば真実は変わるのか」ということにつながります。

KEIYAそうですね。そこにつながりますよね。

竜騎士07今回はそういうテーマが少し見え隠れしていますね。だからKEIYAさんの予想は近いです。たぶん私の中にある真相の不定形なモヤモヤを、少し照らした呼び方だと思います。

KEIYA描写もそうですよね。ファンタジーが混じった描写のどこを信じるのか。“ベアト”を信じるのか。赤字を信じるのか。いろいろなパターンが想定できて、それによって見方も変わってくるのがおもしろいところだなと。

竜騎士07『EP4』でもまた大きなヒントがいくつか出てくると思います。「出題編」らしくヒントはドーンと出そうと。今読み返すと、『EP1』も『EP2』もヒントだらけだったなと自分では思うのですが。そして『EP5』からは一気に真相を語っていきたいなという予定です。……うーん、よく考えたらヒントではないのかもしれません。むしろRPGの最初の城にある開かない扉のカギ、という感じでしょうか。RPGでは最初の城に開けられない扉があって、その先に宝箱があることが多いと思います。私の作品のヒントも、それと同じかもしれない。初めて来たときにはよくわからないのだけど、先の解答編まで進んでから戻ってくると、そのときに意味がわかるみたいな。そのようなヒントは多いかもしれません。

KEIYA入手した瞬間はどこのカギなのかもよくわからないという。

竜騎士07昔のRPGのカギは、手に入れたらまず最初の町から、どこの扉に合うのかをチェックしなければいけませんでしたからね。あれは面倒でした。カギの合う扉を探し、全世界を回らなければならないようなRPGもありましたね(笑)。

KEIYAだからこそどんな扉でも開けられるカギを手に入れたときに、すごい開放感を味わえましたよね。

竜騎士07ですよねー。世界中の扉を開けて回れますからね。……私はのちに、どんな扉も開けられる呪文を覚えられることが、救済措置だったと知ってビックリしましたよ。レベルさえ上げればカギを見つけられなくてもよいという。ウチの作品にもヒントという名の救済措置はいたるところに用意してありますけどね。そういった痕跡がいっぱい残っているので、自分の描いているフライトマップがそれにピッタリ合うかどうかを見ていただけるとおもしろいと思います。今後少しずつ真相を隠していたモザイクが鮮明になっていくので、物語のテーマや魔女の狙いといったマクロなことから、それぞれの密室の解法といったミクロなことまで、いろいろと思考してください。『うみねこ』では噛み応えのある部分を多めに作ったつもりなので、重箱の隅を突くようにそれらを楽しんでいただけるとうれしいです。

KEIYA私も頑張って楽しみたいと思います。

竜騎士07いつも「魔女狩りの宴」の考察を楽しく読ませてもらっています。本当は今この場で「あのときの考察はよかったですよ」とか話したいのですが、それを話すとかなり答えに近づいてしまうので残念ながら話せません。ただ具体的には言いませんが、非常におもしろい考察であることは確かです。「ここを見てきたか」とか「これがわかっているなら、このカギでこっちの扉も開いちゃうだろ」とか、とてもおもしろい考察がいくつもありますね。ここまで読んでいただけると、いろいろと伏線やワナを張った甲斐があったなぁと(笑)。昔『ラプラスの魔』(編注:ハミングバードソフトからPC-88などで発売されたゲームソフト)というRPGがあって、何もない廊下の、何もないところに隠し扉があるのですが、それはデストラップなんです。

KEIYA隠し扉にデストラップなんですか?

竜騎士07そうなんです。つまり全部の壁を叩かずにはいられない、マッパー殺しのデストラップなんです。入ると扉がロックされて、血の海に飲み込まれてゲームオーバーになってしまうんですよ(笑)。

KEIYA『ミシシッピー殺人事件』(編注:ジャレコから発売されたファミコン用AVG)もひどいトラップがありましたね(笑)。

竜騎士07(爆笑)

KEIYA最初ビックリしましたよ。船室の扉を開けたらナイフが飛んでくるんですから。

竜騎士07ヒュー、ドスッ(笑)。落とし穴もひどいですよね。ヒューって。

KEIYA最初はなんのゲームかわかりませんでしたよ(笑)。人が死ぬような落とし穴が船内にあるんだから、船長もグルですよね。

竜騎士07そういうレベルですよね。

KEIYA造船の時点からワナですよね。どんな組織がかかわっているんだと(笑)。

竜騎士07確かに(笑)。事件の白黒より、落とし穴生成の真相のほうが難解ですね。『うみねこ』もそのような感じで、いろいろな箇所を探れば探るほど、何かしらの反応があっておもしろいかと思います。与えられる答えと与えられない答え、推理できる答えとできない答えなど、いろいろあるでしょう。犯人にしかわからないこともあるのではないでしょうか? 犯人というのは『うみねこ』の場合、「個人」ではなく「現象」ととらえてもよいでしょう。“ベアトリーチェ”が一個人だとは、ひと言も書かれていませんからね。『EP1』の裏お茶会で語られたとおり、“ベアトリーチェ”は擬人化されたルールの可能性が高いわけなので。くれぐれも「“ベアトリーチェ”=誰か」とは限らないので注意してください。彼女は「現象」かもしれないし、「複数人の意思」かもしれない。あるいは「偶然」かも。彼女は最近よくしゃべるので、まるで特定の人物「X」の代理であるかのように誤解する人も多いですが。

KEIYAキャラクターとして認識されていますね。

竜騎士07そうですね。本当に個人とは限りませんのでご注意ください。

KEIYAうっかり忘れている人はいるかもしれないですね。

竜騎士07『ひぐらし』における「ルールZ」が“ベアトリーチェ”かもしれません。「何が起こっても魔女のせいにされてしまう」みたいな感じで。この論説を持っている人たちは「すべての事件は個別に起こっていて、連続殺人は存在しない」と考えていますね。これも非常におもしろい考えだと思います。“ベアトリーチェ”に関してはいろいろな考え方があると思うので、じっくり思考してみてください。

KEIYAそこが手強いところなんですよね。ただ、なんらかの方法で心臓を剥(む)き出しにできるということは、『EP1』の時点で書かれていますよね。

竜騎士07そうですね。“ベアトリーチェ”を構成するルールがわかれば、もうこの世界はかなり紐(ひも)解けます。そこまでわかったら「“ベアトリーチェ”がなぜ“戦人”とゲームをしなければならないのか」「2人は何をやり取りしているのか」みたいな部分まで……。これ以上は言えません(笑)。

KEIYA大事な何かが隠されていそうですね。“戦人”と“ベアト”に関してはいくつか仮説を立てて検証しているところです。

竜騎士07KEIYAさんは本当におもしろい答えを提示してくださるので、私もおもしろくなって先の話までしたくなるんですよ。

KEIYA自分ではどこまで真相に迫れているのかがまったくわからない状態なので、そこが難しいところですね。

竜騎士07いいんですよ。大事なことは真相を当てることではなくて、現在の材料でどんな想像ができるかということなのですから。白紙のスケッチブックと鉛筆を渡されても「何を描いていいかわかりません」と考える人がいるなか、KEIYAさんは「何を描いてもいいだろう」と次々にいろいろなことを描いてくださっています。描くことについても写生に例えれば、普通の人は見たままを描いて終わりです。しかし「印象派」などに目覚めた人なら見たものをそのまま描くのではなく、遊んで描くと思います。対象を擬人化する人もいれば、似ても似つかない怪物に描く人もいるかもしれません。KEIYAさんは描き方のバリエーションが豊富で、多くのことを描かれています。将来的にその中に答えが含まれていたにせよ、含まれていないにせよ、『うみねこ』は発想のゲームなのですから、重要なのは「どれだけ発想できたか」ということなのです。この私の考えは、『ひぐらし』の「スタッフルーム」でも語ったことがありますね。「推理に得点が与えられるとしたら、推理した量がそのまま得点になるべきだ」と。だからそういう意味においては、KEIYAさんはこのゲームを最も楽しんでいるプレイヤーの1人に間違いないでしょう。もちろん真相を当てることが至上目的ではあるのですが、それ以上に「当たらなくてもいいから、多くの仮説を提示する」ことは大事です。『うみねこ』内でも『EP1』で“戦人”が「面で真実に襲い掛かれ……!」と語っていますし。だからKEIYAさんは日本屈指の『うみねこ』プレイヤー。1、2位を争う名プレイヤーだと言い切れますね。

KEIYAありがとうございます。恐縮です。

竜騎士07そういう方たちがネット上で意見を発表することで、ネットを巡回している人たちが彼らの情報を抽出し、手強くなります。KEIYAさんが発表した考察を読んで、KEIYAさんと同じ理論武装をしてくるのですから。場合によってはさらに自分の知識で、派生した考察も展開させてくるでしょうし。「このネット社会に存在する強者たちを何万人も敵に回して、4年間近くも真相を守り通せるのか」という不安はいつも抱いています。もしすべてが明日にでも打ち破られ「ここからの2年間はただの答え合わせだな」とか言われたら、もう私はツライですよ(笑)。だから作品を作るときは、絶対に見破られないような物語を考えています。KEIYAさんはすでにある程度踏み込んで来ている箇所があるので、今後が楽しみです。人間おもしろいもので、「ここまでは取れますが、あれはまだあなたには取れない宝箱ですよ」と言われると、取りたくなるんですよね。『うみねこ』にも、現在の皆さんにはまだ取れない宝箱がいくつかあります。昔のA・AVGには当たり判定がいい加減な作品もあったので、取れないハズの宝箱がバグ技などでムリヤリ取れることがありました。それってものすごく幸せな気分になりましたよね(笑)。

KEIYAそういう作品は結構ありましたね。変な位置にある宝箱が見えると、すごいアイテムが入っているような気がするんですよね。いろいろな手を使って、そこにたどりつきたくなるものです。

竜騎士07『ゼルダの伝説』(編注:任天堂のA・AVG)は新アイテムが見えていても、特定のアイテムがないと絶対に入手できないですよね。ジャンプの距離がギリギリ届かなかったりとか、その設計のすごさは芸術の域まで達していると思います。余談になりましたが、『うみねこ』というのは「1つしかない答えを見つけるゲーム」とは違うのですよ。本来の本格ミステリーの楽しみ方はそれなのかもしれませんが、私はミステリーはもっと気軽に楽しんでよいモノだと思います。今の状況から考え得るあらゆるトンデモ説を羅列し、その中に1つでも当たりがあれば勝ちだ、と思えばよいのです。現在の日本人は「与一の弓」のような、「1本の矢だけで的を射るのがすばらしい」という考え方があるようですね。すると1本しか矢がないので慎重に撃ちたくなり、「風が止むまで撃たない」「もっと的が近づくまで撃たない」「今はヒントが足りないから撃たない」などといろいろな理由をつけて矢を撃たなくなってしまうのです。ウチの作品は「矢なんて何本でもあるのだからドンドン撃ってください、その代わり、ウチの的は見えませんが」みたいな感じですね。KEIYAさんが深読みした説の中には「言葉尻を捕まれてしまったけれど、そこは深読みしなくてもよい場所なんですよ」という説もたまにはあります。しかしそれすらもすばらしい。「うまいなあ」と指を鳴らしてしまいます。そういう推理を読むたびに「こっちにもワナを張ればよかった」と思います(笑)。「ひょっとするとこっちに的があるというのはウソかもしれない。オレはこっちにも撃つぞ」と多方面に撃つのは、弾幕として非常に優秀ですよね。KEIYAさんの弾幕は画面を美しく覆う、“レミリア”(編注:PC用同人STG『東方』シリーズに登場するキャラクター)みたいな本当にすばらしい弾幕です(笑)。まだこの世界では弾幕を張る推理の仕方をする人があまりいないですね。1発だけで決めようとするから至近距離まで近づこうとする。それはつまり『EP5』以降が発表されるまで待つということですよね。そこまで近づいてから撃っても、おもしろくはないと思いますよ。それよりはKEIYAさんのように美しい弾幕を張って推理をするほうが楽しいでしょう。だから当たった外れたで推理の価値を決めないでほしいと思います。それよりも「どんな可能性をどれだけ想定できたか」のほうが重要でしょう。本格派のミステリーゲームを遊ぶときも、頭の中で1つの仮定しか考えなかったら当たらなくて当然。あらゆる可能性を考えて、その中の1つが当たっている、というのが正しいと思います。しかしゲームの場合、1つしか答えを入力してはいけないという作品が多いですね。1つしか考えられなかったら、視野が非常に狭くなってしまうと思うのですが……。「誰もいない部屋に飲みかけの水が入ったコップが1つ置いてある」という状況から考えられるシチュエーションは無数にあるはず。それを1つしか考えてはいけないというのは、意地悪な話です。そう考えるとミステリーゲームの存在が、「推理は1つのみ」という思い込みを浸透させた原因のひとつかもしれません。でも本来、人間はミステリー的な現象に対して、可能性を無限に考えていいはずです。世界各地の神話がよい例ですよ。太陽が東から昇って西へ降りる理由を、各地の神話は全然違う理由で解釈しました。「ある1つのミステリー現象についての解釈は、山ほど存在してよいはず」というのは、『うみねこ』に暗に込めたメッセージの1つですね。だから“ベアトリーチェ”は隙(すき)のある言い方をします。それを回避できれば、どのような説でもミステリーを主張できるのです。「ただ1つの真実を見つけろ」とは言っていません。「“ベアトリーチェ”を打ち破れるだけのウンチクを見せてみろ」ということなのです。だからもっと気軽に考察を楽しんでください。私は「ミステリーはカジュアルに楽しんでよいもの」だとずっと前から思い続けています。例えば、現場の鑑識が発見してきた証拠を提示され、それを鵜呑み(うのみ)にした仮説や、鑑識が買収されているという仮説を立てる。このように1つの事象からあらゆる仮説を無限に広げていく発想を楽しんでもらいたいなというのが、『うみねこ』の隠れたゲームシステムなんです。『ひぐらし』のころはあまりそのような作り方はしていません。どちらかというと「ミステリアスな世界観のなかで少年少女たちが翻弄(ほんろう)されて……」という、青春モノっぽいテイストが強かったですね。『うみねこ』では「発想の遊びを楽しんでほしい」ということをかなり強く思っているので、青春モノみたいな要素はありません。その代わりにゲーム性は非常に高いです。そういう意味で2つの作品は「ゲーム性が全然違う」といえるでしょう。推理が外れることを恥ずかしいことだとは思いません。それよりも立てた仮説が少なく、狭いことのほうが恥じるべきことだと常々考えておりますが、皆さんはいかがでしょうか?

KEIYA「発想のゲーム」というのは確かに感じていました。『うみねこ』は考えることがとても楽しいので。だから読者の方は考えることがイヤなのではなくて、取っ掛かりがつかめないから、考える部分までたどり着かないのだと感じています。『EP2』で魔女に屈服してしまう人が多かったと思うのですが、それを乗り越えて多くの「IF」を考える楽しさを体験してほしいなと私も思います。一気読みする予定の人もおそらく、考察を楽しめないと思うんですよ。「一気に先に進まず、立ち止まって咀嚼(そしゃく)してみようよ」という考察の楽しみ方は広めていきたいと考えています。

竜騎士07『EP3』ではかなり親切に考察の楽しみ方などを描きましたが、『EP4』でも親切にガイドするかは微妙なところです。個人的には甘くした後には厳しくしたいなと。『EP4』では相当ひどいパズルを出題する予定ですよ。『EP3』のラストバトルは赤字ラッシュでしたが、『EP4』のラストバトルはシンプルかつ致命的。本当に強力な攻撃は一撃で効きます。“戦人”も“縁寿”もまとめて「はぁ?」と言わせますよ。今度は「ツン」も「デレ」もなしです(笑)。



【※1】魔女狩りの宴
「電撃「マ)王」で連載中の、KEIYA氏による『うみねこのなく頃に』考察企画のこと。毎号2ページで、主に最新作を中心とした考察文章が掲載されている。

■『うみねこのなく頃に』考察本制作決定記念企画
「最終考察 うみねこのなく頃に(仮)」著者・KEIYA氏に、推理・考察してほしい『うみねこのなく頃に』に関する謎・疑問点などを大募集します!

以下のメールアドレスに【氏名(ペンネームでも可)、年齢、推理、考察してほしい『うみねこのなく頃に』に関する謎・疑問点】を明記してお送りください。

edit1-umineko@ml.asciimw.jp

この企画で採用された謎・疑問点は、制作予定の考察本の中で、実際にKEIYA氏の推理、考察でもって答えさせていただきます。また今後、電撃オンラインで、一部の謎に対してのQ&Aなどを行っていく予定です。たくさんのご応募お待ちしております!

(C)竜騎士07/07th Expansion 肖像画/江草天仁

データ

▼『うみねこのなく頃に EP3』
■制作:07th Expansion
■対応機種:PC(対応機種:Windows XP)
■ジャンル:AVG
■価格:1,575円(税込)
※『EP3』には『EP1』、『EP2』の内容も収録。購入は、全国の同人ショップ、アニメイト通信販売などから行える。
▼「最終考察 ひぐらしのなく頃に」
■発売元:アスキー・メディアワークス
■発売日:発売中(2008年3月27日)
■価格:1,680円(税込)
 
■「最終考察 ひぐらしのなく頃に」の購入はこちら
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