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2009年1月5日(月)

【特別対談】竜騎士07氏と飯島多紀哉氏が同人&商業ゲームの作り方を激論!?

文:電撃オンライン

 シナリオライターおよびゲームクリエイターとして活躍している、竜騎士07氏と飯島多紀哉氏の対談の様子をお届けする。

 竜騎士07氏は、爆発的なヒットを記録し、さまざまなメディアで展開しているPC用同人ソフト『ひぐらしのなく頃に』の生みの親。現在は、『うみねこのなく頃に』シリーズを制作している。一方の飯島氏は、スーパーファミコン用ソフト『学校であった怖い話』やPS用ソフト『ONI零 ~復活~』などを世に送り出してきた人物だ。現在は、コンシューマやアプリでのゲーム制作以外にもPC用同人ソフト『アパシー』シリーズなどを制作している。

 そんな2人が、ゲームの怖さに対するこだわりや、同人ゲームの制作について語ってくれた。以下に掲載するので、ぜひチェックしてほしい。(インタビュー中は敬称略)

◆想像が生み出す怖さ

▲竜騎士07氏

竜騎士07(以下、竜騎士):今日は『学校であった怖い話』の飯島さんにお会いできるということですごく楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いします。

飯島多紀哉(以下、飯島):私も竜騎士さんとは一度お話してみたいなと思っていました。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。

竜騎士:私にとって『学校であった怖い話』は、すごく衝撃的な作品だったんです。物語というのは普通、起承転結の因果関係で成り立つため、主人公が祟りに合うとしても、なにかしらの罰当たりなことをしているはずなんですよね。例えば、伊丹十三監督の映画『スウィートホーム』(※1)は、主人公たちが慰霊碑を壊したから祟られた。その行いをしなければ、祟られなかったわけですよね。

飯島:ええ、そうですね。

竜騎士:だから私たちは、心の中に「罰当たりなことをしなければ祟られない」という免罪符を持っていたはずなんです。ところが『学校であった怖い話』は、学校に通っているごく普通の子が、特に何も悪いことをしていないのに祟られてしまう。つまり、ある日私がこの中の登場人物になるという恐怖感がある。だから、私はその理不尽さがすごく怖かったんですよ。当時私は社会人だったのですが、あまりに怖くて夜眠れなくて体調を崩し、次の日は有給休暇を取ったぐらいです(笑)。

飯島:それはすごいですね。でも当時は実際に「怖すぎる」といった苦情が会社に来ましたよ。まぁ、これは当時おもちゃメーカーというイメージの強かったバンプレストから発売したことと、『学校であった怖い話』という一見ライトなゲームタイトルとのギャップが強かったからだと思いますが。

竜騎士:確かに、ギャップによる怖さは人間にありますね。私も『ひぐらしのなく頃に』で、ギャルゲーと見せかけてホラーというギャップは使わせていただきました(笑)。

飯島:あと、『学校であった怖い話』が怖いと言われるのは、やっぱり学校を舞台にしているからだと思うんです。学校は誰もが人生で1度は通る道なんですよ。同じホラーでも病院を舞台にした場合は、入院の経験がある人にしか具体的な恐怖がわからないんですよね。「1つの部屋にベッドが6つあって、そのうちの自分以外の5つは空いている。カーテンは閉まっていて、そのカーテンから影が見える」と言っても、その風景を浮かべられる人と浮かべられない人がいるんです。しかし学校は違う。誰でも共感できる。『ひぐらしのなく頃に』も学校が舞台なので、皆さんがビジョンを浮かべやすいのだと思います。

竜騎士:確かに、『ひぐらしのなく頃に』が昭和50年代の寒村を舞台にしていながら、皆さんに受け入れてもらえたのは“学校”という舞台があったところも大きかったのかもしれません。私は『学校であった怖い話』は、怪談と都市伝説を上手にミックスしているなと思いました。怪談は昭和初期から中期のもので、都市伝説は平成のものなんですよ。だから10代の人がプレイしても40代の人がプレイしても、このゲームは共感できるんです。

飯島:『学校であった怖い話』は14年前の作品で、発表されたのはTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』と同じ時期だったんです。主人公の坂上は碇シンジと同じく、普段は大人しいのにいきなり感情を爆発させる少年なんですよね。これは当時“キレる若者”という社会問題があったからで、当時の少年少女たちもキャラクターに共感を持ったのだと思います。そのせいもあって、殺人クラブ(※2)のシナリオは当時から人気があったのでしょうね。

竜騎士:殺人クラブ! 私もあのシナリオは大好きでしたね。選択肢をしらみ潰しに選んでアンプルを手に入れた時は狂喜乱舞しました(笑)。日野を倒せた時には、叫び声をあげたぐらいです(笑)。

◆同人だからこそできたゲーム?

▲飯島多紀哉氏

飯島:僕が『ひぐらしのなく頃に』で一番感銘を受けたのは、インターネットを上手に利用したというところなんです。

竜騎士:別に利用したわけではないですけどね(笑)。私が思うに、インターネットはみんなで議論できるところが楽しいと思うんです。例えば『エヴァンゲリオン』が流行した当時は、作品の謎について議論するとしたら学校で仲のいい友だちとすることぐらいしかできなかったじゃないですか。でも、現在はインターネットで簡単に議論を行うことができるんですよ。だから私は、『ひぐらしのなく頃に』の中にある謎を謎のままにしておいて、皆さんに議論して楽しんでもらおうと思ったんです。それが偶然にも、口コミとインターネットで広がっていったんですね。だから『ひぐらしのなく頃に』がヒットしたのは、たまたま時代とマッチした部分が大きいんですよ。もしもこの作品が10年前に出ていたら、こんなに話題にならなかったのだと思います。

飯島:確かに今の時代だからこそありえたゲームでしょうね。ゲーム会社に企画として持ち込んだしても「こんなのはゲームではない」と一蹴されていたでしょう。

竜騎士:確かに同人だからこそできたゲームだと思います。

飯島:そう。一昔前の頭の固い人たちは認めないでしょうね。このゲームはある種の“素材”なんですよね。この“素材”をプレイヤーたちはこねくり回して遊ぶ。つまり、ゲームをクリアすることで初めて同じスタートラインに立てるんです。……例えるなら『ひぐらしのなく頃に』はトランプなんですよ。あれは、本来ただの53枚のカードであり、ポンッと渡されただけでは何もできないと思うんです。ただ頭のいい子は遊び方を考えることができ、皆にそれを教えてあげられる。それと同じで『ひぐらしのなく頃に』も、そういう風に頭が回る人が率先してインターネットで遊び方を提示されたのでしょう。また、インターネットのおもしろいところは、同じ意見のグループと違う意見のグループの2つができるところだと思うんです。だから、議論も運動会と同じでグループに分かれて行われるんですよね。そして、同じ意見の人同士で結束を高めていくんです。だからもしも、『ひぐらしのなく頃に』の問題編が発表された当時、すべての謎がきちんと完結していたら、「おもしろかったね」で終わってしまって、それ以上の議論には発展しなかったのだと思います。

竜騎士:そうですね。『ひぐらしのなく頃に』自体のテーマにも、“人と人とのコミュニケーション”というものがあるのですが、私自身、ゲームというものはコミュニケーションの道具だと思っています。

◆作品の作り方


飯島:実は過去に『ひぐらしのなく頃に』の番外小説を書いてみないかという企画が、僕のところに浮上しかけたことがあるらしいんです。

竜騎士:どこでしょう。そんな大それたことをしようとしたところは(笑)。

飯島:水面下で動いていたらしいのですが、結局僕のところまで企画は届かなかったんですよね。言ってくれればよろこんでやったのに(笑)。他人様の作品を土台にして小説を書くのは作品のイメージというものがありますから怖いですけれど、興味はありますね。

竜騎士:『少年ガンガン』(スクウェア・エニックス刊)さんのほうで“ひぐらしのなく頃に大賞”(※3)というのを開催していただき、一般の方から小説を応募していただいたことがあるのですが、皆さんが『ひぐらしのなく頃に』の世界観をいろいろな風に解釈してくださって、たいへん興味深く読むことができたんですよ。

飯島:僕も応募してみようかな(笑)。でもやっぱり怖いなぁ。自分の創造したキャラでさえ、新しい設定とか加えると怒るファンもいるからなぁ。

竜騎士:「ボクの岩下はそんなことはしない!」みたいなことを言われるんですか?(笑)

飯島:ええ、そうです。自分の中に自分流のキャラクターを確立されているのでしょうね。

竜騎士:なるほど(笑)。私が思うに、モノを作るには2つの考えがあって、1つは誰も考えたことがない斬新なことをするか、もしくは誰もが知っている汎用性の強いものを作るかだと思うんです。どちらが成功でも失敗でもないと思っています。誰にでもわかる作品は失礼な言い方をすれば凡庸な作品の言い訳だし、突飛すぎる作品は下手をすれば独りよがりの言い訳になりますよね。すごく難しい。だから私たちが今後モノを作る時、学校文学という1つのものにとらえて言うならば、誰もが経験する身近な設定を生かしつつ、でもオンリーワンを示していかなければならないんです。その中でも、『学校であった怖い話』はストーリーの数と尖がり具合では、他の作品の郡を抜いていますね。怖い話に限らず、切ないストーリーや笑えるストーリーなど、実にさまざまな物語で僕らを魅了してくれるんですよ。

飯島:それは、僕の中でのエンターテイメントなんです。ホラーであれ、他のジャンルであれ、ある程度すべてのジャンルを内包していないと、作品が成り立たないと思います。ユーザーに満足してもらうためには、さまざまな切り口で楽しませることが必要でしょう。だから『ひぐらしのなく頃に』が最初の3時間、4時間が日常シーンで進むと言うのも上手な手法だと思います。ストーリー的に後半のホラー部分が際立つというのもありますが、「ホラーゲームファン以外の層を取り込む」という成功も同時に収めているんです。

◆仕事のスタンスについて


飯島:竜騎士さんは、シナリオもCGもすべてお1人で行っているんですよね? すごいなぁ。

竜騎士:プログラムは弟(※4)に担当してもらっていますけどね。私は人の助けを借りないとゲームを作れないと言う考えが、すでに思考の墓場だと思っています。プログラムができなくて作れないなら、プログラムがなくても作れるもので作ればいいわけですしね。だから、「僕の夢を叶えるためにあなたたちの力を貸してください」ではなく、「僕のできることをします」というスタンスで作ったのが『ひぐらしのなく頃に』だったんです。

飯島:なるほど。そのスタンスは今の若い人のあこがれですよね。若者の中には、目指す目標があっても、具体的に何をしていいかわからない人もいますから。また、やりたいことをやれるチャンスがあっても、好きなことはやるけれど、そのために必要となる過程で嫌なことは避けて通ろうとする人たちもいますね。「カニは食べたいけど、ほじるのは嫌だ!」みたいなね(笑)。

竜騎士:自分で苦労するから楽しいという部分はありますけどね。カニも食べたいからほじるのであって、単純にほじるだけは誰でも嫌ですよね。

飯島:うん。あと業界を目指す人たちの中で、ゲームを遊ぶのが好きなのと、ゲームを作るのが好きなのを勘違いしている人がいますけれど、そういう方が業界で生きていくのは大変だと思います。同人の世界では自分の好きなことだけしていても誰にも怒られません。しかし、商業の世界では、自分の作りたい作品を作ったり自分が描きたい絵だけを描けばいいということはありませんから。

竜騎士:確かにプロとアマの違いは明確ですね。プロというのは、自分が好きではないこともできる人のことだと思います。

飯島:特に売れてしまうと、自分のやりたいことができなくなってしまいますね。ある作品が売れると、ファンはその作品と似かよったテイストのものを求めますし、クライアントも当然それを要求してきます。例え、自分が違うテイストのものを作りたくても、なかなかそれが思うようにいかない。そうなると、自分の作りたいものを作っているのか、人が望むものを作らされているのか本質が見えなくなってくるんです。もちろん、自分の作りたいものと人が望むものがマッチしていればそれは大変素晴らしいことなんですけれどね。僕が同人の場に仕事を広げたのも、実はその「自分で納得するものを作りたい」という部分が大きいです。例え、小さな作品でも自分の作りたいものをメッセージとして発表したいという気持ちが強くありました。特に、いったんゲーム業界を離れていたため、商業に復帰したときはシナリオを書くこと以外何もできなかったものですから、ゲーム制作に参加するといってもほとんど口を出せないため、自分が思い描いているような作品に仕上がらず非常に歯がゆい思いをしました。そのために、少しずつスタッフを増やし、小規模でも比較的受け入れてもらえやすい同人ゲームを制作することにしました。最近やっと、商業レベルでも自分が思い描くゲームを制作できるチームを再興できるところまで来ましたけれど、同人ゲームを制作したことは自分にとって大きな収穫でした。本当に、色々なことを学ばせていただきました。

竜騎士:確かにやりたいことができないのはクリエイターとしてツライですね。私はサークルの代表をしていますが、ゲーム制作をする時は「船頭多くして船、山へ上る」の精神でとりかかっています。これは土壇場で論争が起きないようにしているためなんです。

飯島:なるほど。僕も他人に意見された時、それがたとえ正しくても今回の作品に不必要だと思った場合は、「君の言っていることは君のやりたいことだから、それはいつか君が先頭に立って作ればいい」と言いますね。

竜騎士:意見を聞く時は聞きますけどね。マスターアップの直前などにそれをやってしまうとスタッフも迷ってしまう。それが最も危険なんですよね。

飯島:そうですね。私も20年間モノ作りをしてきましたが、その思いはよくわかります。あと私が若いころに現場で叩き込まれたものに「人の意見を聞くな」というものがありました。一見乱暴に聞こえますが、人の意見ばかり聞いていると自分という個性がなくなってしまい、ただの代弁者になってしまうと教えられたんです。クリエイターであるならば、自分の意見をしっかりと持って、自分が道を開拓できるようになれ、ってことですね。だから僕は、ファンの意見を聞いたら、いい意味でそれを裏切ってやろうというのが自分のスタイルになっていますね。

竜騎士:僕もファンの予想を裏切るのは大好きなので共感できます(笑)。インターネットで「またやられた!」とか書かれているのを見ると、してやったりという気持ちになりますね。今後も皆さんの期待を裏切る作品を作り続けたいです。また、私は商業ではなく同人でやっているので、趣味人として自分が楽しいと思っていることをやっていきたいです。現在作っている『うみねこのなく頃に』も、何より私が一番楽しんで制作しています。

飯島:そうですね。それは大事だと思います。いろいろな意味で皆さんに興味を持ってもらえ、そして、おもしろいと思ってもらえるモノを作ることは、一筋縄ではいきません。でも、少しでも多く皆さんに満足してもらい、この作品に出会えてよかったと感じてもらうことが我々の仕事なんですよね。これからも、お互いに頑張っていきましょう。

熱いトークを繰り広げてくれた竜騎士07氏と飯島氏。2人の話題は尽きることを知らず、この後も談笑が続いた。

 竜騎士07氏は『うみねこの泣く頃に Episode4 - Alliance of the golden witch』を、飯島氏は『学校であった恋い話』を、どちらもコミックマーケット75で発売した。また、現在発売中の『電撃マ王 2月号』(アスキー・メディアワークス刊)の付録は、竜騎士07氏に迫る解析本となっているので、こちらもあわせてチェックしてほしい。

(※1)1989年に公開されたホラー映画。呪われた屋敷へ取材に訪れたTV取材陣が、奇怪な現象に襲われていく。カプコンによってゲーム化もされている。

(※2)『学校であった怖い話』のシナリオの1つ。このシナリオでは、怖い話の語り部たちが、実は気に入らない人間をつぎつぎと暗殺してきた殺人クラブのメンバーであるという設定になる。彼らに毒入りのカプセルを飲まされた主人公は、校舎に隠された解毒剤を探し出していくことになるが……。

(※3)スクウェア・エニックスが主催の『ひぐらしのなく頃に』を題材にした二次創作の文学賞。

(※4)竜騎士07氏の実弟で、作品内の演出・スクリプト・背景などを担当。

(C)7th Expansion/竜騎士07
(C)パンドラボックス (C)BANPRESTO 1995


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