2009年1月21日(水)
ポニーキャニオンから、DVD-BOX『やさいのようせい N.Y. SALAD DVD BOX 2』が、本日1月21日に発売された。価格は19,800円(税込)。
『やさいのようせい』は、NHK教育テレビで放送されたアニメ作品。ニューヨークのとあるキッチンを舞台に、芽キャベツやガーリックなど、野菜の姿をした妖精たちの日常が描かれる。原作は、『ファイナルファンタジー』シリーズのイラストなどでお馴染みの、天野喜孝さんの画集『N.Y.SALAD(ニューヨークサラダ)』。DVD-BOXが発売されるにあたり、天野さんとマネージャーの鈴木真理子さんにお話をうかがった。
――まず、『やさいのようせい』がアニメ化に至った経緯について教えていただけますか?
鈴木さん:天野がニューヨークにいる時に野菜の絵を描いていたんですが、何枚もたまってしまったので、自費出版で本にして出したんです。それがデジタルメディアラボさんの目に止まり、これを試験的に映像コンベンションで使わせてほしいという話になったんですよ。その後めぐりめぐって、アニメーション企画がスタートしました。
天野さん:デジタルメディアラボさんが、最先端の3D技術で『N.Y.SALAD』をアニメ化したいと言っていたんです。
鈴木さん:当時の3Dアニメって、『トイストーリー』のように表面がつるっとした3Dが主流だったんですね。それに対して『N.Y.SALAD』のアニメは、天野が描いている線をそのまま拾って映像化していたんです。ただこのままではNHKさんで放送するには芸術性が過ぎるということで、絵もカワイくしたんです。当時はスケッチした絵がそのまま動くような感じでしたね。
天野さん:当時技術の競い合いのようなものがあったんでしょうね。その素材として『N.Y.SALAD』が使われたという感じでしょうか。
――『N.Y.SALAD』を描きはじめたのはいつごろなのでしょう?
天野さん:1997年ごろからですね。向こうで個展やゲームの仕事の合間に描いていました。
鈴木さん:そして本が発行されたのが2002年ですね。
天野さん:アニメーションありきとか絵本ありきじゃなくて、仕事の合間にちょこちょこ描いていたんです。それをまとめたのがこの本なんですけど、この時はストーリーも何もないんです。でも映像化するにあたってストーリーを付けないといけないことになって、じゃあ『やさいのようせい』ってなんだ? と、それを考えるところから始まったんです。野菜って食べるものだから、食べられちゃったらかわいそうだなとか、そういった世界観から決めていったんですよ。逆に作っていくというよりは、これはダメ、これはダメと排除していく感じでした。
鈴木さん:まず、しゃべるしゃべらないからですね。しゃべるのだとすれば“妖精語”にしようと決めて、それを作りました。他にも「食べられてしまうのでは?」といった質問をよくされたんですけど、牛は食べるけど牛の妖精は食べないでしょ? と答えていました。トマトの妖精がいたとして、たとえば中国大陸のトマトが滅んでしまったとしても、日本にトマトがあればトマトの妖精がそこにいる、といった具合ですね。
天野さん:あと、人間がいるのかいないのかですね。よく夜中にロフトで作業をしていたんですけど、その時に妖精たちが夜中に動いたらおもしろいなと思いついたんです。朝は普通の野菜に戻っていて、真夜中の冒険のような感じにしたいなと。
鈴木さん:ケルト神話を天野がよくやっているんですが、向こうってたとえば飲みかけのワインが朝減っているのを見て、「妖精が飲んだね」って普通に言うんですよ。「妖精がイタズラしたのよ」って。そういう感じを出したいねという話になったんです。
天野さん:目には見えないけど、このへんにいるとか。絵に描いているガラスのテーブルも、実際にあるものなんですよ。床も台所もそうだし。窓から見える摩天楼は、実はワインのビンなんです。
――アニメの冒頭のシーンですよね。
鈴木さん:最初は窓の外にホントの摩天楼が見えるんですけど、カメラが引いて窓の中に入ってきて、そこにこのビンが立っているんです。
天野さん:窓の内側は別世界になっているんです。窓は結界のようなものなんですよ。
鈴木さん:そして窓から月の光が差し込んできて、影が伸びて野菜が妖精に変身するんです。
天野さん:普通は原作があると、設定などが全部決まっているものなんですが、この作品は幸か不幸か、細かいところをその都度決めていきました。それが大変でもあり、おもしろいところでもあるんですが。たとえば、台所から外に出たらどうなるのかとかね。ニューヨークにはリトルイタリーなどがあるんですが、そこに冒険して行ったらイタリアや中国の野菜がいたり。
鈴木さん:目指していたのは“ムーミン谷”なんですよ。
天野さん:ニューヨーク自体が、いろいろなところから人が集まって雑多な感じになっているじゃないですか。野菜も同じなんですよね。アトリエの近くにディーン&デルーカというスーパーがあったんですけど、そこにある野菜たちはどれもきれいにパックされていてカワイイんですよ。
――野菜をモチーフにされたのは、やはりそういった野菜との出会いがキッカケになったのでしょうか。
天野さん:そうですね。たまに自分も料理を作っていましたし。夜は自分で作らないといけませんしね。
――得意な料理はなんですか?
天野さん:パスタですね(笑)。この作品は、仕事ではないところから出てきた作品なので、気負いもないし、よかったですね。
――お仕事の合間に絵を描かれていたそうですが、苦労したことなどはありませんでしたか?
天野さん:全然苦労してないですね。だってやってもやらなくてもいいんだもん(笑)。自分で好きに描くだけだから。
――本にする段階で描き下ろしをしたものなどはあるんですか?
天野さん:ありましたね。オチを付けないといけないので。
鈴木さん:最初と最後のイラストと、パーティ会場に向かう絵が描き下ろしですね。
――イラストを描いていた時期は、どういった仕事をしていたんですか?
天野さん:ゲームのキャラクターを作っていました。『X-MEN』のウルヴァリンとか。
――アニメをご覧になっていかがでしたか?
天野さん:デザイン的だなと思いました。背景がないじゃないですか。これ、背景を描いちゃうと普通のアニメになってしまうんですが、背景を描かないことでオシャレで大人っぽいアニメになったと思います。そこって一番大事なところだと思うんです。名前も『N.Y.SALAD』――ニューヨークのサラダっていうのもちょっとオシャレな感じがするでしょ(笑)。都市の持っているイメージが、作品の中にも出ればいいなと思っていたので。ニューヨークって壁も白いんですよね。『やさいのようせい』も背景の白い部分は壁なんですけど、それが何もないような空間に見えているんです。そういうオシャレ感が出ているなと思いましたね。
――アニメを制作するにあたって、スタッフにご要望を出されたことなどありましたか?
鈴木さん:逆に要望を受けました。もとのイラストのままだと少し怖いので、アニメ向けにカワイらしく、わかりやすくしてほしいと言われたんです。それで天野が描き下ろしました。
天野さん:昔取った杵柄で、キャラクターを作りました(笑)。NHKで会議が明日あるからと言われ、その時に徹夜で描いたんですよ。それまで仕事にしないがコンセプトだったのに、やっぱり仕事になっちゃったかと思いましたね(笑)。でも大事な会議だったので仕方ないですね。
鈴木さん:DVD-BOXにデザイン画が入っていますから見てみてください。
天野さん:今ね、ハロウィンでおもしろいキャラクターがいるんですよ。この間ニューヨークのディーン&デルーカで買ってきたんですよ。
▲「これはちょっと大きいかもしれないね」と天野さん。『やさいのようせい』は手の平に乗るのがコンプセトになっているとのことだ。最初に生まれたのはガーリックの妖精だという。 |
鈴木さん:今はもう日本でも売っているんですが、昔はなかったので物珍しかったんです。たとえば向こうの芽キャベツって、薔薇の花のような形をしているんです。
天野さん:芽キャベツを放っておくと、乾燥して羽のようになってくるんですよ。
――天野さんの描かれるイラストは、『ファイナルファンタジー』などもそうですが、全体的にミステリアスな雰囲気がしますよね。でもこの『やさいのようせい』のキャラクターたちはカワイらしいですね。
鈴木さん:この『やさいのようせい』も怖いキャラクターなんですよ。『ハクション大魔王』のアクビちゃんなんかもそうですけど、天野のキャラクターって、カワイイんですけどどこか怖いじゃないですか。それが持ち味なんですよね。キモカワ系なんです(笑)。
天野さん:怖いというよりは“リアル”だね。アニメの方はカワイくなっていますが、イラストの方は実際にある世界を描いたようなリアルさがある。絵本はその中間でしょうか。夜中に何が起こっているかわからない、そういったホラーな面もあるんです。山へ行って寝そべると虫がいるじゃないですか。草があって、木があって。普段の生活とは違うところに全然知らない世界があるんですよね。ちゃんとそこに命がある。そういう風に考えると、こういう世界があってもいいのかなと思うんです。大人になってしまうとなかなかわからなくなるけど、子どものころって、アリの行列をじっと見ていたり、コオロギを探したりしていたじゃないですか。そういうのって、大事だと思うんですよね。
――お気に入りのキャラクターは誰ですか?
天野さん:やっぱり芽キャベツがカワイイなと思いますね。最初は主人公がいなくて、どれにしようかと絞っていって芽キャベツに決まったんです。
――最後に、ファンへのメッセージをお願いします。
天野さん:オシャレなアニメーションですね。そういうエッセンスが入っていると思います。CGという最先端の技術で古典的なものをやるところにおもしろさがありますね。野菜が動いているだけでもおもしろいでしょう?
▲こちらが『やさいのようせい N.Y. SALAD DVD BOX 2』のパッケージの画像。 |
(C)2008天野喜孝/DML・「N.Y. SALAD」パートナーズ