2009年2月12日(木)
『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃大賞の銀賞を獲得した真藤順丈先生のインタビューをお届けしていく。
『東京ヴァンパイア・ファイナンス』は、都会のアンダーグラウンドをにおわせるエッセンスを豊富に取り入れた群像劇。デート終わりの送りオオカミを目指す日野健壱、性転換手術を希望する大田美佐季、振り込め詐欺グループへの復讐を目論む“やえざくらの会”の老人たち、ドラッグデザイナーをやめたがっている濱田しずか。こういった人物たちが、090金融“ヴァンパイア・ファイナンス”を営む女・万城小夜と出会い、融資を受ける代わりにそれぞれの問題に首を突っ込まれる様子が描かれていく。
では、真藤先生と担当編集・徳田直巳のインタビューを掲載していく。
▲写真は真藤順丈先生(写真左)と、受賞作『東京ヴァンパイア・ファイナンス』の表紙(写真右)。 |
――まず、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』を書こうとした経緯から教えていただけますか?
真藤先生:なんらかの形で物書きになりたいと思っていたんです。執筆を始めたころから、ライトノベルが自由というか、制約がとても少なく、自分の思い描いていることを自由に飛躍させられるんじゃないかという感覚があったんです。
――そこでまず、本作をライトノベルとして完成させようと思ったんですね。
真藤先生:はい。とはいえ、ライトノベルをそんなに読んでいませんから、「これがライトノベルだ!」というしっかりとした定義みたいなものは僕の中にないんです。でも、メッセージやテーマをググッと探っていく書き方ではなく、弾むような感じで読めるものを書ければいいなと考えていました。
――“弾むような感じ”とおっしゃっていますが、確かにいくつものエピソードが並行してポンポンポンと進んでいく感じの作品になっています。これは狙い通りといったところでしょうか。
真藤先生:混乱した状態が続いたままでストーリーが進んでいきますが、そういう感覚もアリなのかな、と思って書きました。
――2005年から本格的に小説に取り組んだとのことですが、そのころから小説賞への応募は行っていたんですか?
真藤先生:ええ。書いては送りの繰り返しでした。1次選考も通らないような状況がずっと続いて、去年の頭くらいから通り出した感じですね。
――映画や演劇などの分野でも活動されているとのことですが、創作活動を始めるにいたったのは、なぜなんでしょうか?
真藤先生:10代のころから創作願望はあったんです。でも、自分が物語を作れるところにたどり着けるとは一切思っていませんでした。だから、実際に物語を作っている人たちへの敬意とあこがれはものすごく強かった。
徳田:映画を撮りたいって言っていましたよね?
真藤先生:はい。でも、映画を撮るのは結構大変なんです。まずお金がかかりますし、周りの連中は就職してどんどんいなくなったり(笑)。自分の体力はあるのに、それを使いきれない歯がゆい思いもしたので、しばらく小説に集中してみようかと。
――小説は、昔からよく読まれていましたか?
真藤先生:いえ、それほど読書家じゃありませんでした。
徳田:じゃあ、なんで小説を書こうと思ったの?
真藤先生:現国は好きだったんですよ(笑)。漢字フェチみたいなところもあったし。昔から文章をほめられる機会も多くて、表現のツールとして文章はずっとあったんです。映像でもシナリオを書いたりしますしね。映像においてシナリオは設計図にあたるものですが、文章で絵や音を包括してやっていくとしたらどうなるのかなという思いもあったんです。
――ちなみに、自分で映画を撮ろうと思ったキッカケになった作品はありますか?
真藤先生:キッカケとは少し違うかもしれませんが、好きなのは、デビッド・フィンチャーやパク・チャヌク、ジャン=ピエール・ジュネの作品ですね。ビジュアルに圧倒的な世界観がある監督が好きです。初期衝動に影響しているものは『ニュー・シネマ・パラダイス』ですね。
――映画や映像には、どれくらいかかわっていたんですか?
真藤先生:一度、映像方面で就職しようと考えたこともありました。でも、自分でも映画を撮影したいという願望もあって、自主制作活動ができなくなるのはイヤだと思ったんです。だから、バイトみたいな状態で、映像関連の仕事は、来るもの来るもの片っ端から請けていました。そのうち、自分がなんでやっているのかよくわからなくなってしまいましたけどね(笑)。
――片っ端からというのは、いろいろな方法で自分を表現したいと思っていたということでしょうか?
真藤先生:いやあ、そんなカッコイイものではなくて、生きていくのに必死だったというか……。断ったら仕事がなくなるんじゃないかという感じですね。さっきも言いましたけど「なんでこんなことやってるんだろ?」って仕事ばかりやっていたような気がします。それと、取材らしい取材は特にしていませんけど、夜の街をうろつくことはよくしていましたね。無駄に。
――取材とは違うモノなんですか?
真藤先生:いやいや、お金がなかったんです(笑)。終電がなくなったら、だいたい歩いていましたね。
徳田:そういえば、真藤先生の知り合いやお友だちって、おもしろい人が多いみたいなんですよ。
真藤先生:さすがにドラッグデザイナーはいないですけれどね。でも、アングラな魅力を感じることは確かにあります。
――なるほど。群像劇にした理由はなんとなくわかってきましたが、作品にアンダーグラウンド的なものを取り入れたのはなぜですか? 真藤先生がもともと好きだったからなのでしょうか。
真藤先生:好きですね。 “人間の心の闇”をジットリとリアルに暴いていく書き方もあるとは思うんですが、今回応募した『東京ヴァンパイア・ファイナンス』では、アンダーグラウンドなものを軽快に、ポップに書こうという狙いはありましたね。
――受賞してから実際に発売されるまでについて聞かせていただけますでしょうか?
真藤先生:そうですね、群像劇の並べ方を変えて、推敲を重ねました。
――ちなみに、応募原稿に要した時間はどれくらいなんですか?
真藤先生:実際に執筆した期間ですと、1カ月ちょっとくらいですね。
――何か苦労はありましたか?
真藤先生:締め切りがきつかったですね。1カ月で書き上げた事情のウラには、間に合いそうになくて急いで書いたってところもあります。
――他の小説賞にも応募されていますが、だいたい何作品くらい投稿したんでしょうか?
真藤先生:一昨年の11月に30歳になった時に、「2008年には毎月1本応募してダメだったら(小説を)あきらめよう」って目標を立てたんです。それから出した作品は全部通りましたね。ですから、目標を立ててから書いた作品は4本になります。それまでは、長短編あわせて15本くらいかな。最後に書いたのが『東京ヴァンパイア・ファイナンス』でした。
――真藤先生は、電撃大賞の他にも、“ダ・ヴィンチ文学賞”や“ポプラ社小説大賞”、“日本ホラー小説大賞”などで受賞していますが、なぜライトノベルである電撃大賞に送ろうと思ったんですか?
真藤先生:いろんなジャンルに挑戦してみたかったんです。ライトノベルというものを、ジャンルなどの区別がない自由な表現の場だと思っていたことと、自分の作品はマンガ的な部分が多いので、童心に帰って書いてみたら、イケるんじゃないかな~と。それと、応募要項を読んで共鳴する部分があったからですね。
――真藤先生的には、“童心に帰った”作品なんですか?
真藤先生:作品内で起きている事件だったり、道具立ては年齢層が高めだと思うんですが、気持ちの運びや感情の流れはとても単純なんですよ。
――他の応募作とは意識して書き分けたところはありますか?
真藤先生:いつもだったらもうちょっと悩んで書くようなシーンでも、むしろ勢いとテンポを重視して書いています。
――担当編集者から見て、どうですか?
徳田:勢いはとてもあるんですが、本人的にはいろいろ思うところがあるんじゃないかと思います。今でも悩んでたりするんじゃない?
真藤先生:ええ、まあ(笑)。
徳田:キャラクターの造形や、取り入れてるアイテムとかを見て、やっぱり年齢層は高めな作品だとは思いました。でも、エンタテインメントとして非常に優れていたので、年齢層なんて関係なしに「おもしろければいいじゃん!」って感じですよね。最初に読んだ時に「とてもシャレている作品だな」と思いました。どういう人が書いているのか興味津々でした。会ってみて「なるほどな」と(笑)。電撃文庫にはあまりいないタイプの作家さんですね。
――著者近影でも、オシャレな帽子をかぶっていますね。
徳田:成田良悟先生もよく帽子をかぶっていますけど、成田先生とはちょっと違う感じの印象なんですよね。これまでとは違うタイプの作家さんが増えて、編集としては楽しいです。
――横で真藤先生がかなり苦い顔をされていますが……(一同笑)、お気に入りのエピソードは?
真藤先生:お気に入りのエピソード……徳田さんは何かあります?
徳田:私はヒノケン(日野健壱)のエピソードかな。この作品の中で一番母性本能をくすぐるタイプは彼ですから。
真藤先生:僕はやっぱり……どのエピソードも思い入れがありますね。
―― 一番最初に思いついたのは、どのエピソードだったんですか?
真藤先生:ヒノケンですね。狼男の話ってことで、「じゃあ送りオオカミの話にしよう」くらいのノリでした。で、ヴァンパイア、狼男ときたらフランケンだろう、と。その他にもミイラ男とか半魚人だとか……いろいろ考えましたね。
――モンスターにちなんだキャラクターにしようというのは、初めからアイデアとしてあったんですか?
真藤先生:そうですね。それぞれモンスターになぞらえられるような人物と物語にしようとしました。
徳田:読んでもらえるとわかりますが、それぞれのエピソードが挿入される前に、キャラクターに対応したアイコンが描かれているんです。これは真藤先生自身がデザインしたもので、応募原稿の段階から入っていました。実際に出版するものにも真藤先生のデザインがそのまま使われています。
――応募原稿の段階で、こういうものを用意してくる人って、結構いるのでしょうか?
徳田:設計図や地図を描いてくるような人もたまにいますね。ただ、それがあるからといって評価が上がることはまったくないのですが(笑)。
真藤先生:徳田さんにはホントに頭があがらないです(一同笑)。怒られたりはしないんですけど、常にプレッシャーをかけられて……いえ、当然のことなんですけどね(笑)。
――イラストを担当した佐々木少年先生とは、どういったやり取りをしていましたか?
真藤先生:そんなにこちらから要望を出したりはしませんでしたね。
――佐々木先生のイメージに任せたところが大きかったと?
真藤先生:そうですね。たとえば小夜だと、“装飾品をつけている”だとか、“黒髪”くらいのことしか伝えていません。僕自身が、人物を書く時にあんまり具体的なイメージを持ってしまうと筆が細るところがありまして。改稿の際には、特にその部分を言われましたね。「もうちょっと人物を作りこんでほしい」と言われて、どうしたらいいのかなあ? と悩みましたね。
徳田:特に小夜の造形をいじってもらいました。もともと、もっと長身で美人なお姉さん系のキャラクターだったんです。それを、もうちょっと身長を低くして小悪魔的な造形にしようって話しましたね。真藤先生の中に、そうしたキャラクターがカワイイという感覚がないようで、「これが萌えなんですか?」って聞かれました(笑)。
真藤先生:こういうやりとりがあって、万城小夜の場合だと、目の特徴やしぐさなんかを書き込んでいきました。その時点で、(佐々木先生から)ラフイラストが何枚かあがっていましたので、それも参考にさせてもらってイメージをふくらませていきました(※左写真参照)。
徳田:実を言うと、最初は真藤先生の中にはまったく小夜の造詣についてのイメージがなかったんです。そこを私が「身長は?」、「髪の長さは?」、「目の印象は?」といった具合に無理やり聞き出していって、本人に絵を描いてもらったりしました。
――これまでと全然話が変わるんですが、ゲームで遊んだりするのでしょうか?
真藤先生:実は僕、ゲーム大好きなんですよ!
――そうなんですか?
真藤先生:でもいざゲームにハマるとすべてのものを追いやってゲームに熱中しちゃうので、20台の前半くらいから封印してます。
――どんなゲームが好きなんですか?
真藤先生:『ドラゴンクエスト』とか『ファイナルファンタジー』のような、RPGですね。一度夢中になっちゃうと大変なんで、老後の楽しみに取ってあります。ゲームのおもしろさって、別の娯楽とは一線を画しているところがありますもんね。DSも欲しいんですけど……それこぞずっと遊んでそうで、怖くてできませんね。
徳田:ちょっとオーバーな言い方かもしれないけど、ゲームのおもしろさに対抗できるのは、小説だと思うんですよね。イメージをふくらませることができる行間がたくさんあるので。真藤先生にはガシガシ書いてもらいたいです。
――徳田さんは「ガシガシ書いてもらいたい」と言っていますが、今後は、どういった作品を書いていきたいですか?
真藤先生:う~ん、そうですね……。今そのことで、とても悩んでいるんですよ。いくつか賞を取ったので、それぞれの特質を生かしつつ、いろんなジャンルに挑戦していきたいとは思っています。自分の中にある新しいものを書いていきたいですね。今のところは全っ然わからないですけど。
徳田:あんまり言い過ぎると、自分の首も絞めちゃいますから(笑)。
真藤先生:あ、そうですね(笑)。じゃあ、現代劇から離れたものにも興味を持っています、くらいの感じで。
――では最後に、読者へのメッセージをお願いします。
真藤先生:パニックになりながらも、「大丈夫! 大丈夫!」と励まされながら書いた作品です。お買い求め……いただけたら……。
徳田:もっと自信を持って言いましょうよ!
真藤先生:いやあ、怖いですよ! 本を出版するときはつねに怖いです。電撃文庫の読者に受け容れられて、楽しんでもらえることを切に願っています。よろしくお願いします!
――ありがとうございました!
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