2009年2月17日(火)
短編小説『隙間女(幅広)』で、第15回電撃小説大賞・電撃文庫MAGAZINE賞を受賞した丸山英人先生にインタビューを行った。
『隙間女(幅広)』は、高校生・琢間琢海の部屋に、ある日突然“隙間女”と呼ばれる妖怪がやってくるという物語。このインタビューでは、丸山先生に受賞作や次回作についてお話をうかがった。
▲写真左は丸山先生。『隙間女(幅広)』は、発売中の『電撃文庫MAGAZINE Vol.6』(画像右)に掲載されている。 |
――この作品を書こうと思ったキッカケなどを教えてもらえますか?
丸山先生:書いていた長編が第15回電撃小説大賞の応募締切に間に合わなくて。かわりに短編を書こうと思ったんですが、その時、短編用のネタがこれしかなかったんです。
――作品に出てくる“隙間女”は、実際に伝承などがある妖怪なんですか?
丸山先生:はい。怪談として聞いたことがあったんです。書くことになるかなり前に、ネタとして使えそうなものをいくつかメモしていて。その中で隙間女が使いやすいかなと思て書き始めました。
――先に隙間女という設定を決めてからストーリーを作っていったんですか?
丸山先生:そうです。
――他に候補になった妖怪や伝承などはどんなものがあったんですか?
丸山先生:都市伝説なんですが、“カミソリをくわえて水面をのぞくと将来の結婚相手が見える”というものがありました。驚いたりして水にカミソリを落とすと、その将来の結婚相手の顔に傷がついちゃうんです。傷がついたほうの男を主人公にした話を考えていました。
――そういった都市伝説のような話も好きなんですか?
丸山先生:はい、好きです。
――主人公がぽっちゃりめの女の子が好きというのは、ちょっと珍しい設定かと思うなんですが、実際にモデルなどいらっしゃったんですか?
丸山先生:モデルはいないですね。あらかじめ作っていたキャラクターをそのまま持ってきたという感じです。
――隙間女もかなり美人の設定になっていますよね。
丸山先生:投稿した時は主人公よりも年上の女性で、いかにもモデルといった感じだったんですけど、実際の電撃文庫読者層に合わせて、書き直すことになりました。
――最初、隙間女を年上にしようと思ったのはどうしてなんですか?
丸山先生:隙間女は人間よりも細い設定なので、スラっとした感じをイメージしていたら自然と年上になったんだと思います。
――先生ご自身はぽっちゃりめの年上の女性がお好きなんですか?
丸山先生:いえ、そういうわけではありません(笑)。
――編集として、最初に読んだ時の印象を教えてもらえますか?
担当編集:“ぽっちゃりめの女性が好きな主人公と、細くてキレイだけれど、とにかくだらだらしているお姉さん”というかみ合わない2人を組み合わせて、独特のおもしろさをうまく表現していらっしゃるなと思いました。こういうおもしろさのセンスは非常に貴重だと思います。
――『隙間女(幅広)』というタイトルを選考委員が絶賛していましたが、このタイトルはどうやって決めたんですか?
丸山先生:そんなに意識はしていなかったんです。内容をそのまま付けた感じですね。
――すぐに決まったんですか?
丸山先生:書き始めた時から決まっていました。
――作品を書く時に苦労したことなどはありますか?
丸山先生:とにかく時間がなかったので、書き上げるのに必死でした。
――どれくらいの時期から書き始めたんですか?
丸山先生:4月に入ってからです。
――妖怪が出てくることや、物語の書き出し部分から、ホラー系なのかな? と思ったんですけど、読み進めるとコメディになりますよね。このギミックは狙って書いたんですか?
丸山先生:もともとコメディを書こうとは思っていたんですが、やっぱり妖怪モノですし、ホラーっぽく書いたほうがいいのかな、と思ったのでそうなりました。
――好きな作品や作家さんはいますか?
丸山先生:本はいろいろ読むんですけど、聞かれるとこれといったものが出てこないんですよね……。『ルナル・サーガ』とかでしょうか。
――ライトノベルは昔から読んでいるんですか?
丸山先生:小学生のころから読んでいます。4つ年上の兄が読んでいて、その流れで読んでいました。
――ロボコンに参加したことがあるそうですが、その時はどんなロボットを作っていたんですか?
丸山先生:毎年競技のテーマが決まって、それに向けて作るんです。最初作った時の競技は、パックを集めて、障害物を乗り越えて運んでいくというものでした。
――創作をはじめたのはいつごろからなんですか?
丸山先生:物語のネタを考え始めたのは、ロボットを作っていた高専のころからです。実際に書き始めたのは大学に入ってからでした。研究がうまくいっていない時に書いていました。
――4月1日にPCが壊れたそうですが、大丈夫だったんですか?
丸山先生:実はそれ、受賞作を書いていた時ではなくて、小説を初めて投稿しようと思った時のことなんです。まぁ、今回も壊れたんですけどね(笑)。
――なんだかPCのトラブルが多そうですね……。
丸山先生:どうなんでしょう。でも、いつも4月になると何かが起こります(笑)。データは毎日USBメモリにバックアップを取るようになりました。
――受賞の決め手になった部分はどんなところだと思いますか?
担当編集:先ほどの話でも出ていましたが、最初に選考委員の皆さんの目に入るのって、著者の名前とタイトルなんです。そこで興味を惹いた部分はあるかもしれません。
丸山先生:特に狙って書いていたわけではないんです……。狙ったというよりも、今回は「とにかく出そう」という気持ちのほうが強かったんです。受賞作が発表されると、毎回「出しておけばよかった」と悔しい思いをしていたので……。
――「電撃文庫MAGAZINE」への掲載にあたって扉絵が入るそうなんですが、イラストはどなたが描いていらっしゃるんですか?
担当編集:電撃文庫では『僕は彼女の9番目』のイラストを描いていただいた、鶴崎貴大先生です。すごくカワイイ隙間女を描いていただきました。
――ご覧になっていかがでした?
丸山先生:いつもしっかりイメージしていない状態で書いているので、むしろイラストでイメージが固まった感じですね。
担当編集:統括編集長の鈴木にも、「この挟まった感じがいいね」と言われていました。ぜひ読者の方に見ていただきたいです!
――ちょっと前の話になりますが、電撃大賞授賞式はどうでしたか?
丸山先生:緊張して全然覚えていないです。
――授賞式の際のパンフレットの自己紹介欄に、座右の銘は“職業服に貴賎なし”と書かれていますが……。これはどういう意味なんでしょう。
丸山先生:タイトルを考えている時に思い付いたもので、言葉として気に入っているだけなんです。職業服といってもいろいろな制服があるじゃないですか。だから、どんな制服でも貴賎なく萌える話を書ければいいなぁと思って。
――え? 萌える? それは、メイド服とかそういうことですか?
丸山先生:はい。
――これって、そういう意味だったんですか。“職業服”と言われたので、ツナギのような作業服を想像していたんですが……。深いですね。
丸山先生:後付けなんですけどね(笑)。
――同期の先生と話しましたか?
丸山先生:川原先生たちと、執筆状況のことなどを話しました。
――今後の展開について教えてもらえますか?
丸山先生:今、文庫として出す作品の打ち合わせをしているところです。夏ぐらいの刊行を目指して進めています。
――ちなみにどんなジャンルになるんですか?
丸山先生:ラブコメです。
――「次の作品を書く時はラブコメにしよう」と決めていたんですか? それとも話し合いをしている間にラブコメになっちゃったんですか?
丸山先生:長編はシリアスなもの、短編はコメディタッチのものと書きわけていたので、長編を書くにあたって、ちょっと暗めのプロットをいくつか担当編集に出したんです。その中に先の話でも出ていた、応募締切に間に合わなかった長編もあったんですが、「シュールだね」と言われてバッサリ切られてしまって……(笑)。結局、「隙間女(幅広)」のコメディの方向でプロットを出すことになりました。
――内容はまだ決まっていないんですか?
丸山先生:吸血鬼をモチーフにした話になります。主人公はすごく健康的な生活を送っているんですが、そのおいしい血を飲もうと吸血鬼のヒロインがやってくるんです。それで、血を飲もうとするヒロインを主人公がこき使うという話ですね。
――立場は主人公が上なんですね。
丸山先生:最初思い付いた時は逆の立場だったんですが、どうも話がうまくできなくて……この形になりました。ヒロインは純血の吸血鬼で気位が高いんです。なので主人公にお願いするのは嫌なんだけど、それでもなんとか血を飲もうとします。対して主人公は血を楯にしてヒロインを屈服させたい。そのふたりの駆け引きを楽しんでもらえれば、と思って書いています。
――では最後に、電撃文庫MAGAZINEで短編を読む方、そして長編を待っている方にメッセージをお願いします。
丸山先生:本を手に取ってくださった方が楽しめる作品作りをしたい、と心掛けていますので、ぜひ文庫も楽しみにしていてください。
(C)2009 ASCII MEDIA WORKS.All rights resered.