2009年3月16日(月)
エースコックから3月2日に発売されたカップめん『九州一番星 濃厚豚骨ラーメン』。この商品を開発した植田浩介さんにインタビューを行った。
『九州一番星 濃厚豚骨ラーメン』は、PS3『龍が如く3』の発売元であるセガと、食品メーカー・エースコックのコラボレーション企画として発売されたもの。ゲーム内に登場する架空のラーメン屋“九州一番星”の濃厚豚骨ラーメンの味をカップめんで再現している。価格は231円(税込)。
インタビューでは、架空の店の味をカップめんにするというこれまでにないコラボレーションの苦労や、制作中のマル秘エピソードなどが明らかになった。以下に掲載するので、ゲーム中で九州一番星を食べた人だけでなく、ラーメン好きもチェックしてほしい。
――植田さんはマーケティング部の商品開発グループに属しているとのことですが、普段はどういった仕事をされているのでしょうか?
主に企画をしておりまして、街のラーメン店のトレンドだったりカップめんの主流などを探りながら、ユーザーの方がどういった商品を求めているのかを会社に提案するのが仕事です。その後、スープはどんなものにして、パッケージはこういうものにしてと、商品としてコーディネイトしています。味に関しては、モデルとなる方向性を伝えて、あとは研究室に再現してもらうという工程ですね。
――リサーチのために東京に来ることも?
ラーメンのトレンドは東京に集結しているといっても過言でないと思っています。所用で東京に来た際は、なるべくリサーチするようにもしていますね。
――植田さんは個人的に何味が好きなんですか?
豚骨ですね。今回のコラボレーションにもそれは影響していると思います。博多に行った時に食べて以来、はまってしまいましたね。
――昨年、セガとのコラボとして『龍が如く 大盛り 極み焼うどん 見参!』が発売されましたが、どちらから提案だったのでしょうか?
『龍が如く』シリーズでは、さまざまな業種とコラボレーションすることで巨大なムーブメントを作りたいとセガさんが考えていたようなんですね。そんな中、総合監督の名越稔洋さんが「『龍が如く』のカップめんなどはできませんか?」と提案をくださって、弊社の方でも社内的に盛り上がり、開発に至ったのが経緯です。
こちらが前回発売された『龍が如く 大盛り 極み焼うどん 見参!』。植田さんは「開発には、これまでになかった苦労も多かった」と当時を振り返りコメント。 |
――なぜ、焼うどんだったんですか?
『龍が如く』シリーズは現代を舞台にしていますが、『龍が如く 見参!』は江戸時代が舞台でした。そこから「ラーメンは合わない」という流れになりまして。最初、社内では「『龍が如く 見参!』のロゴをプリントしたラーメンを出してもいいのでは?」という意見もあったんですが、セガさんから「既存の商品にロゴを付けるだけでは意味がない。世界観に合った商品を開発してほしい」という要望があったんです。むしろ我々もそうするほうがおもしろいと思っていたので、そこでメニューを考えました。
――メニューを考えたというのは、ゲームの中に登場するメニューですか?
そうです。セガさんからの前の情報で、祗園の洛外にうどん屋さんがあることを教えていただいた際に、「そこで出しているメニューを商品化しては?」という提案があったんです。ところが、ふつうのうどんではおもしろみがないということで、いろいろ考えていったんですよ。メニューを模索する中で、シリーズのテーマを考えてみた時、“諦めない心”とか“男らしさ”というキーワードが出てきたんです。その時に僕の中で、常に新しいメニューを開発し続ける探究心あふれる店主というイメージが沸きまして。そこで逆にセガさんに、「こちらが考えたオリジナルのメニューをゲームの中のサブストーリーに登場させてもらうことはできないんですか?」と無理を承知で聞いたところ、すでにゲームは完成していることがわかったんです。
――なんと! 一歩遅かったわけですね。
そうなんです。しかし名越さんが、「エースコックさんからこんな提案があったのに、これに応えないわけにはいかない」ということで、私が考えたサブストーリーをセガさんの方で修正していただき、無理やり入れていただいたんです。私が考えていたアイデアの中には、店主がいろいろなものを作る中で、江戸時代なのに汁なしのうどんに挑戦するというものがあったんですが、「新しいことへの挑戦」を商品化したく、焼うどんにしました。
――発売後の反響はどうだったのでしょうか?
話題性がものすごくありましたので、ユーザーさんのブログなどではものすごい数とり上げていただきました。もともと焼うどんというものは、カップめんの中ではシェアが少なく、商品数も少ないんですよ。しかし『龍が如く 大盛り 極み焼うどん 見参!』を発売したため、焼うどんの市場が一気に跳ね上がりました。ゲームの発売前の発売だったんですが、瞬発力がすごかったです。
――社内ではどうでしたか?
かなりよかったですね。ゲームとコラボレーションし、そのゲーム中にメニューが登場、開発ストーリーとして楽しめるというのが高く評価されました。味の方も、中部で綿密に制作した上に、セガさんにしっかり監修していただき、いいものができました。実は、このプロジェクトにかかわっているメンバーは、めんもスープもかやくも、『龍が如く』シリーズをやっている人間だけを集めたんです。
――全員ですか? すごいですね。
はい(笑)。デザイナーも『龍が如く』をやったことのある人を探してお願いしています。本来人選は上が適材適所で選ぶものなんですが、『龍が如く』に思い入れのある人間でないと味が出せないということで、私の方で希望を出しました。なにせ、ゲームの中にいる店主が開発したメニューになりますので、そこを理解していないと味が出せないと思ったのです。『龍が如く』のファンを集結し、制作したプロジェクトですね。
これまでのシリーズを遊んでおり、自身も『龍が如く』シリーズのファンだという植田さん。お気に入りのキャラクターは、PS2『龍が如く2』で近江連合に所属する郷田龍司とのこと。 |
――今回、再度コラボレーションすることになったのは、エースコックさんからの提案だったのでしょうか? それともセガさんからの?
『龍が如く 見参!』の打ち上げパーティの時に、名越さんから「次回作をやる時はまたお願いしますね」と言われていたんですよ。そして、夏ごろに正式にオファーをいただきました。サブストーリーはしっかりやりたいと思っていましたし、前回時間がなくてできなかったことをしっかり入れたいと思ったので、我々の方でもかなり構想を練りました。セガさんも「もう少しできたよね」と思っていたようで、「誰もが妥協しないものを作る」を目標にして、動き出したという感じです。
――ゲーム内に存在する店の中にエースコックさんのカップめんが並んでいるのを見た時は、近所のコンビニに来たかのようでドキッとしたのを覚えています。
セガさんのご好意で実現しました。セガさんとしては“ゲームの世界をリアルにしたい”、我々は“ターゲットにあった力のある新しいコンテンツがほしかった”ということですね。これまで、ラーメンぽいイラストだったんですが、それが実在する商品になるとインパクトが違いましたね。
――街もリアルであれば、その中にある店舗もリアルになっている。
はい、すごいですよね。実は私は歌舞伎町に行ったことがなかったんですよ。今回、商品を作る前に行っておこうと思って練り歩いたんですが、初めて入る街とは思えませんでした。
――今回のサブストーリーはどうでしたか?
前回はこちらで考えたものを、セガさんにどうにか入れてもらうというものだったんですが、今回はかなり一緒に考えていきましたね。ゲーム内に登場するラーメンショップとのコラボ経験はもちろんありませんが、有名ラーメン店とのタイアップカップめんをやっているので、いろいろなエピソードも出しました。九州一番星の店主にもそれらのアイデアやエピソードが入っていると思います。
――ご自身がゲーム中に登場していますが、それも最初から予定されていた?
セガさんの方でも最初から「せっかく現代に戻ってきたので、九州一番星のラーメンを商品化しないんですか?」という話はありました。その段階で、もうすでに考えていたみたいですね。前回もコラボレーションしているので、今度はガッチリ出演してもらおうということが。
――けっこう長い時間登場しますよね?
ビックリしましたね。「そこまでしてもらっていいんですか?」という感じで。自分でもすごく似ていると思っているんですが、ゲームの中に出ているというのがおもしろいみたいで、周りからの反応はかなりありました。映画に出るよりも、ゲームに出ることのほうがめずらしいみたいで好評です。流通の方々を相手にプレゼンに行ったんですが、その時の受けもすごくよかったですよ。現状なんですが、カップめんはいろいろとやり尽くされてきている。味に直接関係のないコラボレーションでも、切り口としておもしろいものであれば、相手の目を引けるということを確認できましたね。
ゲーム中に登場する九州一番星と植田さん。「自分がゲームに登場するという貴重な体験ができてよかった」と笑顔で話していた。 |
――このコラボレーションで、苦労したことなどがあったら教えてください。
前回の時もあったんですが、架空の味を再現するということで「どんな味なの?」という議論になりました。九州一番星はPS2の『龍が如く』から出ている店なので、開発スタッフの方でもイメージを持っているはず。私たちもそれを曲げた商品は作れないので、最初はイメージのやり取りばかりでした。「こういう店主がいて、こういう味のラーメンを出している。店主は実はこんな過去を持っている」とかを、繰り返しました。そのイメージが合わさってから、味に入るという進行ですね。
――味の方向性が固まったのはどれくらいなんでしょうか?
12月の頭くらいですね。それまで試作品を作って、セガさんに送って食べてもらい、意見を吸い上げて、それを反映させるという。普段、自分たちだけで作る時は、メーカーサイドの意見なんです。いい意味だとプロ目線ですが、消費者目線でないという風にもいえる。そこにセガさんの意見が入ることで、いつもとは違い、新鮮でしたね。……とはいえ、実は開発陣の中にはかなりカップめんに精通している方が多く、プロに近い人も大勢いましたが(笑)。
――弁護するわけではないですが、ゲームクリエイターや編集者というのは、カップめんに詳しい人間が多いと思いますね。作業中、夜中にお腹がすいても店は閉まっているので。
ワハハハ。ご多忙な仕事なんですよね。しかし、「具が少ない」とか「麺がやわらかい」とか、相当カップめんにはうるさい人たちでした。それだけ味にこだわっている人の意見を吸い上げたので、いつもより大変でしたね。どこで折り合いを付けるのか、かなり苦労しました。菊池正義プロデューサーにとりあえず伝えたざっくりとしたイメージが、商品の決定案の味に近かったんですね。私自身、九州一番星にはプレイヤーとして何度も通っていたので、ある程度のイメージができていたんだと思います。
――九州一番星に足繁く通うというプレイヤーに初めて会いました。他にも回復手段は豊富に用意されていますが、なぜ九州一番星を選んだのですか?
多分、私がラーメンを好きだからだと思います。体力の回復手段はいつも九州一番星でした(笑)。『龍が如く』に登場するお店の中では、かなり愛着がある店だったので、今回のこの企画はどうしても成功させたいという決意で臨みましたね。
――ゲーム中の設定などにも、いろいろアドバイスをしたと聞きました。
多分セガさんの中でも、最初の段階でそこまで店への意識はなかったと思うんです。それが証拠に『龍が如く』には、豚骨ラーメンの本場・博多にはないような「わかめラーメン」とか「のりラーメン」があるんですよ。なので、九州一番星のバックボーンというのは、今回のコラボレーションでかなり深くなったと思います。セガさんとやりとりしている中で「あくまで『龍が如く』のベクトルに合わせてなら、設定を膨らましてもらっていいですよ」ということだったので、あの店の背景については、いろいろ提案させてもらいました。
――カップめんの話になりますが、普通の豚骨ラーメンではなく、なぜ濃厚豚骨にしたのですか?
東京に来る際に、本場の豚骨ラーメンの味をそのまま持ってくる店って少ないんですよ。そんな中でガンコにストイックに博多の味を伝えているというスタンスが、あのゲームの世界にマッチすると思ったんですね。周りに流されない、信念を持っているという熱いものを入れたかった。セガさんも「そのほうが『龍が如く』の世界観に合う」と感じてくださったのではないでしょうか。
――パッケージのアイデアはエースコックさんのご当地ラーメンなどの経験が生きていたのですか?
パッケージでも、かなり議論はしました。うちとしてはカップめんのおいしさをしっかり訴求したい。セガさんの方ではゲームの宣伝になるようにしたい。入れるべき情報が多いので、少ない面積をフル活用するために2面印刷をしています。コストはかかってしまうのですが、そこまでしないと無理だということになりました。あとご当地ラーメンだと、両面印刷で情報を入れるというのはわりとあることなので。
――ふたをめくった時のおもしろさもありますよね。
狙いとして、一見すると本物のご当地カップめんに見えるようにするという目的があるんです。もちろん、誤解を与えないように注意書きを入れていますが、PS3のリアルなグラフィックが入っている。パッと見、九州一番星が実在するお店のように感じてもらえれば、ゲームのファンではない人でもカップめんとして購入し、その後で「九州一番星ってどこにあるの?」ってなった時に、実はゲームの中に存在するという段階を踏めば、カップめん好きにもこのタイトルをアピールできると考えています。
これまでの経験が生きているという『九州一番星 濃厚豚骨ラーメン』。しかし、社内からは「問い合わせの電話が来るのでは?」と慎重になる声もあったとか。 |
――食べさせていただきましたが、スープがかなり濃厚でおいしいかったですね。
ただのロゴ貸しには絶対にしたくなかったので、味は相当作りこみました。コストもかけています。スープの粘度・濃度は、通常のカップめんではありえないほどです。豚骨のうま味をどこまで入れられるかは、限界まで挑戦しています。中に液体スープと粉末スープが入っているんですが、それぞれの量が多くて、パックできるのか不安になったほどです。おいしいスープを作れたんですが、製造適性に合うかどうかは、最後の最後まで不安でした。それくらいに力を入れているので、これまでのカップめんでは表現しきれなかったスープを味わっていただきたいですね。
これまでのカップめんにはなかった、濃厚な豚骨スープを楽しめる。麺がスープを持ち上げているのがご覧いただけれるだろうか? |
――「豚骨をバキバキにすればいい」というセリフに驚いたんですが、あれは自身のものですか?
「あまりバイオレンスな表現は……」と、社内でも若干議論になりました(苦笑)。しかし、普段我々がご当地カップめんを作る際に行う交渉を、そのままゲームにしてもおもしろくないんです。そして『龍が如く』はすごくマジメなドラマなんですが、ユーモラスなシーンもふんだんに用意されている。なので、そこは理解してもらうように説得しました。サブストーリーは、あれをやったユーザーさんが「食べてみたい」と思うように趣向をこらしています。セガさんの方でも、できるだけ最後までやってもらえるように楽しくしてくれているのがうれしかったですね。
――ここは見てほしいというところは?
カップめんメーカーとしましては「何からヒントを得て作っているか」というのは、実際のカップめんを作る過程でもあることなので見てほしいです。ラーメン店を経営されている方も一緒だと思うんですが、ちょっとしたものからヒントをもらうという、アンテナの張りめぐらせ方はしっかり出せたと思います。
――今後、取り組んでみたいことや挑戦してみたいことなどありましたら、お聞かせください。
私自身、カップめんと他業種とコラボには可能性を感じています。今回はゲームとのコラボレーションでしたが、それ以外にもいろいろなコンテンツとやってみたいと思っています。
――最後に、カップめんの発売を楽しみにしていた人や、ゲームをやっていたけどこのコラボレーションを知らなかったという人に、メッセージをお願いします。
『龍が如く3』でサブストーリーをプレイした人は、食べたくなるような仕掛けを用意しています。桐生一馬がゲームの中で食べるのではなく、実際のコンビニに行って購入して味わっていただきたいです。そして、ゲームユーザーではない人たちにも、パッと見て『龍が如く3』について関心が沸くようなコラボレーションになっていると思います。ゲームをやる人もやらない人も、皆さんにぜひ味わっていただきたいです。
「もし、『龍が如く』の次回作が開発されるなら、またコラボレーションをしたい……んですが、今回かなり出し尽くしたので、次はさらに大変になりそうです」と笑いながら話していた植田さん。氏が尽力したカップめん『九州一番星 濃厚豚骨ラーメン』は、全国のコンビニ・スーパーで発売中! |
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