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2009年3月25日(水)

【うみねこEP4対談】謎解き部と物語部を両立させられたらいいなと思っています

文:電撃オンライン

「うみねこ対談」

 『ひぐらしのなく頃に』の原作者としておなじみ、竜騎士07さん最新作『うみねこのなく頃に EP4』が昨年末に発表された。そこで『EP3』発売後対談と同様に、原作者であり同人サークル・07th Expansion代表の竜騎士07さんと、『最終考察 ひぐらしのなく頃に』の著者で、現在は『うみねこ』考察本を制作中であるKEIYAさんの対談を3回にわたって掲載する。今回はいよいよ最終回。竜騎士07さんが考える“ミステリー”とは?

第1回のインタビューは【コチラ】
第2回のインタビューは【コチラ】

(インタビュー中は敬称略)

【注意!!】以降の対談には『うみねこのなく頃に』EP4までのネタバレが含まれています。




【参加者紹介】

▼竜騎士07
07th Expansion代表。サークル内では主にシナリオとグラフィックを担当している。『うみねこのなく頃に』以外には、今後発売予定のPC用AVG『Rewrite』にもシナリオライターとして参加。

▼BT
07th Expansionメンバー。主にシステム周りと、公式サイトの管理運営を担当している。

▼KEIYA
考察サイト・PARADOX代表。『ひぐらしのなく頃に』の考察本『最終考察 ひぐらしのなく頃に』が、アスキー・メディアワークスより好評発売中。現在は電撃マ王にて『うみねこ』考察企画“魔女狩りの宴”を連載している。

「うみねこ対談」

【書籍紹介】

『最終考察 ひぐらしのなく頃に』(アスキー・メディアワークス刊)……「各シナリオの真相は?」「圭一のメモを破った犯人と、その意図とは?」「フレデリカ・ベルンカステルの名の意味は?」など、原作(PC)版『ひぐらし』のすべての謎を推理・考察した考察本。単純に真相を書いているだけではなく、読めば『ひぐらし』を2倍楽しめる内容となっている。また竜騎士07さんとの対談、みさくらなんこつさん・しゅーさんなど多数の絵師たちによる描き下ろしイラストも掲載。




第2回からの続き


KEIYA一般的なミステリーではやらないことをいろいろやろうとしている、という意気込みを作中から強く感じます。

竜騎士07そういう気持ちはありますね。私はエンターテインメントとしての“ミステリー”の開放がそろそろあってもよいのでは、と考えています。そういう意味では『名探偵コナン』(週刊少年サンデーで連載中の青山剛昌さんのミステリー漫画。アニメも13年以上にわたって放映中)は素晴らしいと思います。殺人のトリックや密室トリックなどを、お茶の間レベルにまでわかりやすく発信しているのですから。親はこれまで読んできた推理小説のネタを使いたいから、子どもの前で「お父さん、わかっちゃったぞ」と言いたくなるだろうし、子どもは子どもで親の鼻を明かしたいから、先に単行本を読んで得た知識で「僕、このトリック知ってるよ」と言いたいためにウズウズしているだろうし。確かにトリックの中には、とんでもないものもあるのですが、お茶の間にミステリーを開放したという意味では『コナン』の存在は大きいなと。そのような感じで私は今日、本で流行っているライトノベル的な取り扱い方で“推理はもっと楽しいもの”ということをアピールしたかったのです。『うみねこ』というのは、“アンチ”ミステリーという側面があって、ミステリーでは本来やってはいけない作法をいくつもやりながらも、でも同時に“アンチ”アンチミステリーという側面もあります。ミステリーとしての作法を無視した世界をミステリー足らしめるという、不思議な世界観。それらの融合が化学反応を起こしたらおもしろいなと。このようなことを言うと「では竜騎士さんがオススメする推理小説はなんですか?」と問われ、答えた作品が『うみねこ』に照らし合わされて邪推されてしまうんですよね(笑)。ちなみに、今のところ好きなミステリーは『瓶詰の地獄』(夢野久作さんの小説、『瓶詰地獄』の題名でも知られる)ですね。素晴らしいです。とても短いですし。短編ミステリーの最高峰でしょう。

BT最初にスッと読むと「ああそうか」と思うのですが、よく考えてみると……。

竜騎士07いろいろと筋が合わないよね。それでまた、読者によってある程度見解が分かれているし。あれこそミステリーですよ。読んだ後、我々に思考を楽しむ余地を与えないミステリーというのは、個人的には探偵小説だと思っています。作中の登場人物が勝手に解決してくれるので、我々は「この主人公スゲー」と、手を打つだけですから。このときに「主人公よりも先に真相にたどり着いてやる!」と挑むのは、探偵小説のミステリー的な楽しみ方ですね。対してミステリー小説は、ただ読むだけでも読者に思考することを促す作品のことだと思います。昔よくあった、真相が袋とじになっているミステリー小説は、少々狙いすぎですが正しいのかなと。『かまいたちの夜』も、プレイヤーが考えて選択肢を選ばなければ真相にたどり着けないので、立派な推理小説でしょう。そう考えると『相棒』は探偵ドラマであって、推理ドラマではないですね。探偵ドラマでは“探偵が何かを見つけた”という伏線は張られても、“何を見つけたのかは視聴者に見せない”ということも結構あります。それを見せるか見せないかが、ミステリー作品か否かの分岐点ですね。

KEIYA伏線だけ張って情報は提供しないというのは、よくあるパターンですね。

竜騎士07でも情報を公開してしまうと、エンターテイメント作品としては難しくなるのです。勘のよい人が答えに気付いて、以後の興味を引けない危険性が出てくるので。バレない伏線の張り方というのはとても難しいですよ。私も『ひぐらし』と『うみねこ』で「どうすればバレない伏線を張れるのだろう」と、いつも悩んできました。このような感じで、どうしても難しくて理屈っぽくなってしまうミステリー的な作品を、『うみねこ』ではもっとライトノベル的に楽しんでもらえたらいいなと。だからミステリーファンの方が『うみねこ』を楽しむときは、ぜひこれを期にライトノベルしか読んだことがない人たちにオススメのミステリー作品を教えてあげてほしいですね。誰もがタイトルを知っている『そして誰もいなくなった』も、ネット情報などでオチと顛末(てんまつ)だけ知っていて、本当に読んだことがある人は意外と少ないかもしれないですし。インディアンの歌に合わせた見立て殺人が行われ、人が死ぬたびにインディアン人形が1つずつなくなっていくという緊張感は、実際に読んだ人しかわからないでしょうね。

KEIYAあの作品はそのへんのストーリーテリングがおもしろかったんですよね。

竜騎士07そうですそうです。ミステリー小説はパズルもしっかりしている上、ついでにストーリーとしてもやはりおもしろくなければいけません。孤島に人が集められて「あなたたちは皆、許されざる罪を犯した人たちです。あなたたちを制裁します」なんて音声が流れてきたら、今ならソリッドホラーですよね。『キューブ』(日本では1998年に公開されたカナダ映画。キューブで構成された謎の迷宮になぜか捕えられた男女たちの、脱出劇が描かれる)や『ソウ』(日本では2004年に公開されたアメリカ映画。気付いたときにはなぜか密室に閉じ込められていた2人の男性が、命をかけたゲームに参加させられる)のような。そのようなストーリー的な緊張感を維持しつつ、最終的にはミステリーのパズルもできていれば完璧(かんぺき)。これがいつの間にか乖離(かいり)してしまったんですね。そういう2つの側面があるミステリーにラノベ的な味付けをしたのが『うみねこ』です。“アンチ”ミステリーであると当時に、ミステリーに対する愛でもあります。本当にミステリーが嫌いだったら、最初から書きませんよ。『うみねこ』をキッカケに、ラノベ中心の人にはミステリーに興味を持ってもらいたいし、ミステリー好きの人には変格ミステリーを思い出してもらいたいなあ。私は戦前の、横溝正史や江戸川乱歩の黄金時代。変格ミステリー全盛期は素晴らしかったと思うのだけどなあ。演出優先の事件ばかりで。例えば『悪魔の手毬唄』なんて見立て殺人をする理由はあまりなかったですからね。むしろ見立て殺人にしたせいで、金田一に警戒されて失敗しちゃいましたから。でもそんなこと言うと、私も「では『うみねこ』の見立て殺人にはどんな意味があるのですか?」と聞かれてしまいそうですね。聞かれてもニヤーっと笑って黙っているだけですが(笑)。『ABC殺人事件』の見立て殺人は結構おもしろかった気がします。やはり見立て殺人をするなら、意味がないとダメですよね。

KEIYA例えば私怨(しえん)が原因だったりします。

竜騎士07そうですね。それと見立て殺人にはリスクがあって、実行すると途中で必ず気取られて被害者側が防御を始めてしまう。一度クローズドミステリーを書くとわかりますが、こうなると大変ですよ。私も六軒島という狭い島を舞台にもう4回事件を起こしたのでわかるのですが、事件が発覚したら彼らはとにかく集中する。相互監視を始めて1カ所に篭城(ろうじょう)します。この状態で見立て殺人を遂行するのは大変ですよ。たぶん我孫子武丸先生でもそう言うと思う。そこで「こんな奴らと一緒にいられるか! 俺は部屋に戻る!」以外の方法でパーティを分散させて1人ずつ殺していくのは本当に大変ですから。1つの舞台でよく4回もやったなぁ。まだこれからもやりますが(笑)。

KEIYAたしかに大変だと思います。私が好きな『十角館の殺人』(推理小説作家・綾辻行人さんのデビュー作品)では、みんな同じ建物にいても別室で行動する時間が長いんです。そのためにいくつかの殺人事件が起こってしまうという。もちろんこれは作品の欠点というわけではなくて、ゲーム性を重視したプロットにしたためだと考えています。

竜騎士071カ所に集まったら殺せないですからね。

KEIYA絶対に殺せないですね。あの犯人には。

竜騎士07私は先ほど言った通り、変格型、社会派型の見方をする人間です。つまりミステリー好きの中にありながら“アンチ”本格派の位置にいる人間からしてみると、事件が発生したらみんなが1カ所に集まって情報を共有して、「これからどうするか」という対策を考えて警察に連絡をするのは当たり前、という考え方なのです。でも、集まっちゃったら事件は起こしにくいんですよねー(笑)。“連続殺人”というのは孤立した人を1人ずつ殺していくわけなのですが、孤立しないんですよ。人間がちゃんと理由を持って動けば動くほど、孤立しないですね。それでいて、隠されたなんらかの意図にもとづき、決められた順序で殺していくというのは本当にシンドイ。見立て殺人でもなんでも、ミステリーの犯人は、生きている人間の視覚の外から忍び込まざるを得ない。だから登場人物が全員1カ所に集まった相互監視下は大変です。真犯人だけ別の場所にいたら真っ先に疑われますし。それが本当に犯人だったら読者は納得しないでしょう。やはり読者は“徹底的な相互監視下にいたにもかかわらず実は犯人だった”というのを期待している訳ですから。だからこそ連続殺人パズルを考えるのは非常におもしろいですね。『EP4』までに異なる展開で推理パズルを考えてきたわけですが、個人的には『EP3』が一番よくできたと思っています。具体的にどの事件のことかは、ネタバレになるので説明できませんが。

KEIYA『EP3』といえば、ゲストハウスから自然に人が消えていきますよね。あのストーリーはおもしろかったです。『EP4』の“譲治は階段を下りていない”という赤字で、これまでに執筆してきた推理を斬り捨てられてしまってショックでした。もう一度考え直しです。

竜騎士07階段を下りていないということは、窓から出たとしか考えられない。では譲治が外に出たあと誰が窓の鍵をかけたのか? 2階の窓に鍵をかけられる人間は、戦人か南條か。考えたくはないけれど朱志香や真里亞も考えられる。とりあえず窓から飛び下りたことが確定だとすると、絵羽は本当に譲治と会っていない可能性がある、みたいな。いやー、あのあたりのロジックはおもしろいですね(笑)。私もいろいろ考えました。考えている時って、どんな感じだっけ?

BTぐるぐる歩き回っていますね。

竜騎士07「これじゃこいつら、そのあとで不審がるよなあ」とか、そんな話をずっとしています。公式サイトのキャラ紹介ページにある18人の相関図を印刷して、その上にオモチャの短剣を置いて「まずはコイツを見立ての第1殺人に」というふうに考えてますね。見立ての第1殺人をどこで行うかはキーポイントですね。使用人か大人を全員殺すのが、犯人にとってはラクな展開です。大人が生き残るとやっかいなんですよ。大人は行動力があるし、強いし。

――館に精通している人もいるでしょうし。

竜騎士07そうです。館のいろいろなことを知っているんですよ。有利な部屋や有利な道具を知っていますから。子どもなら何も知らないですからね。だからやはり、あとに殺すのは子どものほうがいいです。しかし前回の物語と同じ流れにはできないですからね(笑)。だから『EP1』と『EP2』で大人殺しをして、『EP3』では使用人殺しをして、『EP4』では……やっぱり大人殺しでしたね。たまには親たちが死なないようにしようと思うのですが、やはりどう考えても親たちが生き残るとつらいです。

KEIYA銃も持ち出しますし。

竜騎士07銃も持ち出すし、頭もいいし、土地勘もある。うーん、手強いです。なんとか、最初に親が死なないストーリーも考えてみます。このような感じで毎回おかしな話を作っています。次からは解答編になるので、これまでとはまた違うようなことも入れたいとは思っているのですけど。ああ、そうだ。それで例の『Land of the golden witch』の話になってくるんだ。最初に予定していた第3話『Land of the golden witch』はお蔵入りになったんですよ。しかし『EP4』以降、推理の方向性が私の期待以上になってきていて。たまに「すごいな。この人と会いたいな」というくらいおもしろい説の人が現れだしているので、『Land of the golden witch』をやろうかなという気になっているんですよ。

KEIYAおおっ。前回の対談で“極悪な難易度”と言っていたシナリオですね。

竜騎士07今の皆さんなら、いけるんじゃないかな? という気がしていて。だから『Land of the golden witch』を解答編用に再構築して、ひょっとすると『EP5』として発表するかもしれません。「当初の予定なら、これがそのまま解答なしで第3話になっていました」という感じで。ただ、まだ言っているだけで作業にも入っていないので、変更になるかもしれませんが。私自身としても、今『Land of the golden witch』はやってみたいです。

KEIYA今発表したとしても、これまでのシナリオのなかで最高の難易度になるのでしょうか?

竜騎士07うーん。今の段階だと、ヘタすると思考停止どころか、真相だと思われかねません。『ひぐらし』で例えれば、『目明し編』のない『綿流し編』みたいな。「魅音が犯人なんだ」で終わってしまうくらい致命的です。

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(C)竜騎士07/07th Expansion 肖像画/江草天仁

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データ

▼『うみねこのなく頃に EP4』
■制作:07th Expansion
■対応機種:PC(対応機種:Windows XP)
■ジャンル:AVG
■価格:2,625円(税込)
※『EP4』には『EP1』~『EP3』の内容も収録。大手同人ショップの通信販売などで購入できる。
▼『最終考察 ひぐらしのなく頃に』
■発売元:アスキー・メディアワークス
■発売日:2008年3月27日
■価格:1,680円(税込)
 
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