2009年8月6日(木)
8月5日、東京・豊島区にある東京芸術劇場で“第23回ファミリークラシックコンサート ドラゴンクエストの世界”が行われた。
このコンサートは、『ドラゴンクエスト』シリーズの音楽を手掛ける作曲家・すぎやまこういちさんが制作した楽曲を、東京都交響楽団のメンバーが演奏するというもの。指揮は、すぎやまさん自らが行い、演奏の合間には制作中の秘話を交えた話が展開された。今回で23回目となる“ファミリークラシックコンサート ドラゴンクエストの世界”のプログラムは、シリーズ最新作の『ドラゴンクエストIX 星空の守り人(以下、ドラクエIX)』。先日発売されたばかりのタイトルを題材にしたコンサートということで、ロビーや会場内では、DSを片手に開演を待ちわびるファンの姿を多数確認できた。
すぎやまさんは、オーケストラの楽譜を書く時、テストロムでゲームをプレイしつつ、曲を考えていたと話し、交響組曲の作り方にゲームが影響を与えていることを明かした。 |
公演前に行われたインタビューで、すぎやまさんは「たくさんの楽曲を作ってきましたが、中にはかなり試行錯誤したものもあります」と曲制作を振り返った。戦闘の曲も『序曲』も何度もやり直し、最終的にどちらも5曲目くらいで納得がいくものができあがったという。そんな苦労して作った曲を生演奏で聞けるということで、「会場に来た人には、ぜひ楽しんでいただきたいです」と続けた。
『ドラクエIX』で、シリーズナンバリングタイトル9作目を迎えた『ドラゴンクエスト』。長く続けていると、城や戦闘など同じコンセプトで違う曲を制作することになり「大変なのでは?」と考えそうだが、「おかげさまで開発期間が結構あるので、じっくり考えられています(笑)」と語り、「作曲家は肉体的な衰えが来ても、影響は少ないのがありがたいですね」と続けた。作曲家や画家などは、中期・後期に素晴らしい作品を残している人が多いため、それも1つの励みにして制作しているようだ。
『ドラクエIX』は、先日公開されたように、出荷数が350万本を、実売数でも320万本を超えている。見事大ヒットとなったが、発売前にはセーブの数が1つしかないことが議論を呼んだことは記憶に新しい。すぎやまさんは「堀井雄二さん(シナリオ・ゲームデザインを担当)がいろいろ提案してくるし、すれ違い通信もプログラムを必要とする。中断セーブもある上に、セーブの数も確保すると、シナリオ部分やシステムを削除することになるので、スタッフも悩んだ」と開発秘話を明らかに。しかし、すぎやまさん的には、セーブ数は1つだけでも、ゲームの部分やすれ違い通信をしっかり残したことが正解だと考えているという。
「ゲーム中のイベントで、印象深いものは?」という質問に対して、「ベクセリアの最後のイベントは、曲と絵があっていて印象的ですね」と答えたすぎやまさん。 |
そのすれ違い通信が大変流行っているが、すぎやまさんはコンサート当日初めて行ったことを明らかに。取材前に交響楽団のメンバーとやろうと思い部屋に集ったら、部屋にいない他の人のデータを受信したことで、改めてそのすごさに驚いたのだとか。続けてマルチプレイもやってみようとしたが、取材の時間になってしまったため、「まだマルチプレイはあまりやれていません」と残念そうであった。
「曲の中で気に入っているものは?」という質問が飛ぶと、「いろいろな曲を作って、最終的には気に入ったものしか残らないんだよね(笑)」と回答。しかし、その後「作曲者的には静かめな曲や悲しい曲、たとえば『運命に導かれ』に思い入れがあったりします」と続けた。そんな、すぎやまさんが大事に思っているのは、天使界で流れる『天の祈り』だという。最初に1コーラスで作って、テストロムでプレイしたところ、ゲームを始めて結構長い間聴くために、2コーラスにし、最終的に3コーラスにしたのだとか。「あの曲のメロディが『ドラゴンクエストIX』全体のテーマ曲だと思っているので、大切な曲です」と補足していた。
また、特徴的なキャラクターである「妖精のサンディについて、どう思いましたか?」という質問が。どんな返答が返ってくるか報道陣が見守る中、すぎやまさんは笑顔で「テストロムでやった時、音楽とサンディちゃんの雰囲気があまりに合っていて、笑っちゃいました」と回答。他のキャラとは違い、サンディだけ現代のようなしゃべり方をするという落差がお気に入りのようで「僕は、おもしろおかしくて好きだね」と続けた。
公演では、『ドラクエIX』の全曲が演奏された。つい先ほどまでプレイしていた作品の楽曲を生演奏で聴けるということで、ファンにはたまらない至福の時間に。特に印象的だったのは、『酒場のポルカ』の演奏中に、楽団のメンバーの一部が立ち上がり、手拍子を打った場面。すぎやまさんがMCで「手拍子、楽しかったですよね? コンサートでやる時に手拍子をどうするか迷ったんですが、手の空いているメンバーがやってくれました」と説明すると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。
最後まで演奏を終えたが、鳴り止まない拍手に応えるため、すぎやまさんが再び登壇。『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』から『海図を広げて』と『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』から『そして伝説へ』の2曲が、アンコールとして演奏された。演奏が終わっても、感動したファンからも拍手は鳴り続け、それに応えるかのように、何度も姿を見せるすぎやまさんの姿が心の残った。
なお、この日のチケットは発売が始まるやすぐに完売に。当日券も出たが、そちらもあっという間になくなってしまったのだという。これに対してすぎやまさんは「2回公演するという案もあるんですが、オーケストラのスケジュールが押さえられないし、年齢的に僕がひっくり返るでしょ(笑)」と笑いながらコメント。今後、『ドラゴンクエスト』音楽関係のイベントは、8月29日に京都コンサートホールで“トーセ プレゼンツ ドラゴンクエスト スペシャルコンサート”が、9月21日に札幌コンサートホール kitara 大ホールで“都響×すぎやまこういちがやってきた! ~ヒット曲からドラゴンクエストまで~”が開催される。また、9月24・25日には東京メトロポリタン・ブラス・クインテット公演が、旭川と札幌で行われるので、興味がある人はチェックしてみては?
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■第23回ファミリークラシックコンサート ドラゴンクエストの世界