2009年8月21日(金)
ズーが本日8月21日に発売したPC版『ファーミング シミュレーター 2009 ~大地へ挑もう! ぼくらの農場生活~ 日本語版』(以下、ファーミング シミュレーター)は、若き農場主となって島の畑を耕し、収穫から販売まで管理する、ドイツ生まれの農場経営シミュレーションだ。経営SLGと言えばマイクロソフトの『ズータイクーン』などに代表されるTycoon系作品だが、そのほとんどはある一日の売上げや原価、顧客の年齢層とニーズといったデータとにらめっこをしながら翌月の仕入れ、店員の雇用や内装を決めるなど、デスクワーク中心の社長業的なプレイ要素が強い。ところが『ファーミング シミュレーター』は農場オーナー=プレイヤー自らトラクターに乗り込み、青空の下でバリバリ大地を耕し、ゴリゴリと麦やトウモロコシを収穫する、超肉体派経営ゲームである。
さらに見逃せないのが、細部までリアルに再現されたトラクター、コンバイン収穫機、種まき機、自動積み込みワゴンなどの農耕器具。エンジン音から農具の振動まで伝わりそうなこだわりは、さすがドイツ人(?)。とにかくでっかい乗り物が大好き! という特殊自動車マニアの心をくすぐるリアルさを、本プレイレポートでじっくり見てほしい。
『ファーミング シミュレーター』にはミッションとキャリア、2つのゲームモードが用意されている。全17種のミッションはチュートリアルを兼ねており、ゲームの基本操作から農場の機能説明、トラクターの操縦とアタッチメントの使い方、舞台となる島の全体図まで一通りを学ぶことができる。ミッションは1つクリアすると、次のミッションが解除されるというタイプではなく、どれでも好きなものから自由に始められるので、まずはトラクターの運転に慣れるためにも制限時間内にコースを走り抜ける“障害コース”、島をトラクターでめぐる“遊覧”から始めよう。ただ畑を耕すのではなく、霧の中で岩を探したり、雨が降る夜という視界が利かない中でワラを固めたロールをベルトコンベアに乗せるといったミッションもあり、バリエーションとその難易度は様々である。
インタフェースはキーボード、ゲームパッド、ハンドルコントローラーの3つに対応しており、オプション画面で切り替えが可能だ。レースゲームのファンでもない限り、あの巨大なハンドルコントローラーが自宅にあるという読者はそんなに多くないと思うので、個人的にはマウスの反応速度は遅めに設定した上で、ゲームパッドでのプレイを強くオススメしておきたい。キーボードによるWASD移動には慣れている筆者だが、カーソルキーやマウスではどうしてもトラクター操作の微調整が効きづらい。ちなみに、初プレイ時にひどい3D酔いを起こして、その後は2時間ほどぐったりしてしまったのだ……。
▲ミッションスタート前には、必ずそのミッションでの目標と操作方法、注意事項などが説明される。ゲーム中のヘルプに出てこないキー操作などもあるので、必ず目を通しておこう。 | ▲ミッションクリアまでの時間によって、ゴールド・シルバー・ブロンズのメダルがもらえる。特に意味はなく、あくまでプレイ目標の一つ。ゴールドが取れるまで無理にプレイし直す必要はない。 |
後述するキャリアモードでは、資金がたまるまで新しい農耕器具は買えないが、ミッションモードでは様々な器具の使い方を一通り試せる。干草を圧縮するクアッドベイラーだの、噴霧器にフロントローダー用パレットフォークなど、都会の日常生活ではまず用のない物も多い(ほとんど?)。トラクターやコンバインの車幅感覚、各種器具の使い方を体で覚えるためにも、ミッションモードはしっかりこなしておきたい。ちなみに本タイトルは『Fendt』ブランドで知られるAGCO、オーストリアの農耕器具メーカーPottingerの協力を得て、ゲーム中に登場する特殊車両および農耕器具はほぼすべて、両社の実在する製品である。トラクターやダンプの重量感、耕運機やすき具の刃の回転など細部まで無駄に……じゃなくて、こだわりの再現力を見逃してはいけない。
兼業農家を実際に営む筆者の知人に、特殊車両を買う際のポイントを聞いてみたところ、返ってきた回答は「多くの機能がいかにコンパクトにまとまって搭載されているか、という機能美。あとは乗っている人に優しい作りかどうか」なんだとか。優しさまではさすがに実感不可能だが、プレイヤーは徒歩での移動も可能なので、時には愛車の周囲をじっくり歩いてその機能美を堪能してほしい。いやホント、農耕器具のフォルムって美しいんですってば!
▲Monsoon TRITORON 200 噴霧器:作業幅6m | ▲Fendt 1290 S ベイラー | ▲Poettinger SERVO 35S すき |
▲Fendt 5270 C(コンバイン):穀物タンク容量9000L | ▲Lizard 7210(コンバイン):穀物タンク容量4500L |
▲Poettinger SYNKRO 2600 耕運機 | ▲Fendt 614:最大出力121 kW/165 hp |
▲「なんだかよく分からないけど、農場を相続しちゃいました」という超ゆるい設定で始まるキャリアモード。海外産の経営ゲームでは結構ありがちなオープニングなのだ。 |
基本操作と島の概観が頭に入ったら、キャリアモードへとゲームを進めよう。キャリアモードはミッションモードと違い、特に目標やゴールなどは設定されていない。これまで学んだ知識を生かして、広大な農場をきりもりしていく日々が始まる。
キャリアモードを始める前に難易度設定を決めるのだが、これはゲームスタート時、農場のサイロに備蓄されている穀物の量が異なっている。トラクターの運転技術に自信がない、のんびり余裕を持ってプレイしたいという人は、“簡単”で始めるとよいだろう。、IキーでPDAを開くと島のマップ、四日先までの天気予報、農場の資金とサイロの備蓄量といった情報が一覧で見られるのだが、その中から今日の穀物買取価格をチェックして各穀物を最も高値で買ってくれる施設へ運び、たまったお金でよりよいトラクターを購入してしまうのが序盤プレイのコツである。遺産として残された車両も農耕器具も、古びているためパワーやスピードに劣る。特にトラクターは移動も含めて何かと乗り回す頻度が高いので、いち早く買い替えることをオススメしたい。
農業機器を扱う島で唯一のお店、フェント販売店の販売価格はプレイヤーの評価によって少し安くなる。評価をあげるためには島中に散らばってい空き瓶を拾い、リサイクルボックスにいれるだけだ。1本回収すれば1%の信頼を得られ、100本全部を見つけられればかなり値引きしてくれる。
▲小麦、大麦、キャノーラ、トウモロコシのサイロと古いけれど一通りの道具がそろった農場をそのまま相続することに。島の畑はぜーんぶアナタのもの……って広すぎる! 島の半分近い面積が農場で、それをすべて相続するっていったいどんなシチュエーションですか? |
あとはもうひたすら農場を開墾し、種をまき、肥料をやり、成長したら収穫して売り払うを繰り返し、大農場の経営を満喫しよう。トラクターの低いエンジン音とトウモロコシをカットしていく機械音に身をゆだねつつ、目の前に広がる金色の野を見つめていると、不思議なことに心が癒されていくんだなぁ……。雨が降ると収穫作業は行えないので、そんな日は空き瓶探しに精を出すのもよし。トラクターだけで島の観光名所を巡ったり、浜辺を暴走するもよし(といっても40kmぐらいしか出ないのだが)。これぞまさにエコでロハスなカントリーライフ(?)だ、たぶん。
1点だけ残念なのは、島の公道には住民と思しき人が運転する車も走っているのに、ゲーム内にはプレイヤー以外一切、人が登場しないこと。できれば穀物を売りにいく醸造所や、アルバイトができる園芸店などには看板娘がいて、何度も会話を重ねるとだんだんと打ち解け、プレイヤーの農場が儲かり始める頃にはいつの間にか結婚フラグが立っていたりすると、一人ぼっちの農作業も寂しくないのだが。って、すでに別のゲームですねこれは。
なお、少しでも『ファーミング シミュレーター』の雰囲気を味わってもらうために、約5分のプレイ動画を公開したい。時々トラクターが左右にふらついているのは筆者の運転技術がヘタなせいなので、そこはお許しいただきたい。
『ファーミング シミュレーター 2009~大地へ挑もう! ぼくらの農場生活~ 日本語版』は、経営SLGという人気ジャンルの中でもかなり異色の作品だとは思うが、プレイしてみると何ともいえない味があり、不思議な魅力を持っている。「経営SLGは好きだけど、同じパターンばかりで飽きちゃった」という人に、ぜひ一度プレイしていただきたい。苦労して育てた大麦畑に、ミステリーサークルを描くのも結構楽しいものですよ? (麻生ちはや)
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