2009年10月14日(水)
ティームエンタテインメントから、10月14日にアーティスト・霜月はるかさんのアルバム『グリオットの眠り姫』が発売された。今回、アルバム制作を手掛けた霜月さんらにインタビューを行った。
『グリオットの眠り姫』は、2007年2月に発売された『ティンダーリアの種』以来のオリジナルアルバム。作・編曲に、『逆転検事』や『グランディア』の岩垂徳行さん、『シャドウハーツ』の弘田佳孝さん、『ワイルドアームズ』のなるけみちこさん、『アオイシロ』のMANYOさんが参加し、話題となっている。霜月さん自身も作・編曲と作詞を手掛けており、さらに今作ではサウンドプロデュースを務めている。
今回のインタビューでは、霜月さんに加えて、企画や世界観、作詞などを一緒に行ったシナリオ・テキストライターの日山尚さんを迎え、企画の発端から世界観に関する考え、さらにはライブに向けての意気込みなどを語ってもらった。(インタビュー中は敬称略)
――まず最初に『ティンダーリアの種』から2年以上が経ち、新作『グリオットの眠り姫』を出すことになったきっかけを教えてください。
霜月:オリジナルのキャラクターや世界を作り、ファンタジー作品を音楽として表現するという“オリジナルファンタジーボーカルアルバム”というのはずっとやってきたことで、それに対して認識してくださっているファンの方々が存在する。『ティンダーリアの種』もその後、いろいろな展開をさせていただきましたが、しばらく経って「そろそろ次のをやりたい」という思いで、1年くらい前から構想を考え始めました。『ティンダーリアの種』も日山さんと作っていったんですが、今回も2人で企画から行い、長い時間をかけて二転三転しつつ詰めていき、今の形になりました。
――『グリオットの眠り姫』というタイトルについてですが、どういう意味なのでしょうか?
霜月:簡単に説明すると、“グリオット”というのは特殊な石なんです。この石は音を山彦のように返してくれるんですが、石を眠らせることで録音できるという仕組みが発見される。それによってレコーダーのような使われ方をするんですね。その力を悪用しようとする人々や背負った運命に翻弄(ほんろう)される双子のヒロインの話になっています。“眠り姫”は、初回限定生産の特装盤に同梱されているファーストガイドブックの設定資料や歌詞カードを読んでいただければわかると思うので、そこは自分の目や耳で楽しんでもらえればと。ひと言だけいうとするなら、この『グリオットの眠り姫』というのは全体を通した上でのキーになる単語です。
――前作と今作で見せたかった違いはどこですか?
霜月:人間模様で描きたかったテーマは前回と大きく違いますね。世界はつながっていても、描く内容は“登場する人間たちがどう動くか”に依存すると思うんです。
日山:『ティンダーリアの種』の時は、違う生き方をした2つの種族が交流をする話でした。今回は、1つの運命を背負って生まれてきた双子のヒロインたちの自分探しがテーマだと思います。双子の2人は仲はいいんですが、比較されることで葛藤や劣等感で道を違え、結末として“成長した2人がそれぞれの結論を出す”という人間模様を描けたかと。前作よりも、人間くさい話が展開しますね。
霜月:『ティンダーリアの種』は2時間映画的なイメージを考えていたんですが、今回の『グリオットの眠り姫』はRPGをイメージしています。主人公たちが冒険に出て成長していく物語を作りたかったんですね。なので、キャラクターに劇的なことが起きたりします。
――前作は岩垂さんと組んだ作品でしたが、今回は弘田さんやなるけさん、MANYOさんとコラボレーションしています。彼らと一緒に仕事をすることになったのはどういうきっかけだったのですか?
霜月:世界観はティンダーリアとつながっている世界。そのカラーを引き継いだものもあるんですが、アルバムとしては新しいことをしたかったんですね。前回は岩垂さんに全面的に協力いただいた上で『ティンダーリアの種』ができあがったんですが、今回アルバムを作る上で、違うカラーを出したかった。それで、いろいろな作曲家の方々に協力してもらい、バラエティに富んでかつ、世界観を表現するような曲ができればと思い、複数人の方にお願いしました。人選に関しては、どういう要素や世界観をこのアルバムに入れたいかを考慮しているうちに、一緒にやってみたい方々に依頼しました。
――サウンド面で、新たなアレンジャーの方とお仕事をされて、前作と変わったところはありましたか?
霜月:皆さん個性的な作曲家さんばかりだったので、初めてなりの苦労はありました。今回はサウンドプロデュースも担当しまして、自分がこの世界を霜月はるかのボーカルアルバムで表現するならこういうアプローチでこういう楽曲で……というイメージに沿った形で、アレンジャーさんにはそれぞれの個性を出していただきました。世界観に合った曲で、かつ折角のアルバムなので自分が歌ったことのない方と組んでみたかったというのがあったので、そこに関してははじめましての方も積極的に入れて、挑戦してみました。作曲家の方々とのやり取りは、楽しみつつやらせていただきましたね。
――全13曲ですが、個人的に印象深いものがあれば教えてください。
霜月:自分で編曲までやることってあまりないんですが、アルバムを作る上で1曲だけでもやりたいと思って、2曲目の『消えない欠片』については作詞から作編曲までやっています。時間がかかることはわかっていたので、それはチャレンジでした。これまでは曲を書いて、編曲をお願いすることが多かったんですが、他の現場などでアレンジャーさんのいろいろな仕事を見て学んでいたので、今回やってみようと。皆さんに助けていただきながらも、編曲まで行うことはとても楽しく、達成した時の達成感はかなりのものだったので印象深いです。
日山:霜月さんの作曲は、結構ガッツリやるほうだと思いますよ。
霜月:そうかもしれませんね。作曲と編曲って、認識している仕事の範囲が人によって違うかもしれないんですが、私がファンタジー系の曲を作る時はわりとイメージがはっきりしてる事が多いので、メロディやコードだけでなく楽器のフレーズなども打ち込みます。それをアレンジャーの方に膨らませてもらい、さらに世界を深くしてもらうということもしてきたので、今回の編曲作業はその延長という感じでした。でも数年前に自分ができなかったことができるようになったという実感はあるので、自分の成長を感じられた曲ですね。
――レコーディングに時間をかけることが多い霜月さんですが、今回はどうでしたか?
日山:今回は、アリア語のコーラスがすごく多かったので時間がかかりましたね。
霜月:そうですね。曲を作っている段階でもコーラスが多いと感じていたんですが、アレンジが上がってきて、現場でコーラスを増やしたこともありました。私のカラーとして、ファンタジー的な世界をやる時にはコーラスを入れたい、というのはあったんですが、今回はすごく多かったですね。
日山:スタジオにこもって昼から終電まで、を繰り返していました。
霜月:コーラスは単純に物量が多いんですよ。重ねていくことで音が変化することもある。日山さんもレコーディング時に歌いやすい歌詞に直したりして、現場でいろいろ変わっていきました。……でも、今振り返ってもコーラスは多かったですね。その分、聞き応えはあると思います。
――前作を聞いた人にとっては再び登場するワード“アリア”ですが、どういう意味合いになるのですか?
霜月:アリアは女神の名前だったり、命だったり、歌を包括する言葉です。言語としてもアリア語というものが残っているんですね。それがキーになるのには、前作と変わりません。歌のコーラスや詞の中にも登場します。アリアが女神だったり、世界の成り立ちだったりといったことは同じなので、共通した部分を感じてもらえると思います。
――イラストを担当したのが藤村あゆみさんというのも、世界観のつながりを意識したからなのでしょうか?
霜月:藤村さんのキャラクターについては、前回もやっていただき信頼していますし、世界はつながっているので今回もお願いしたいというのもありました。
日山:その上で、新たにイラストレーターの中山匡さんにも参加してもらいました。中山さんは背景美術が得意だということで、前回藤村さんに完全にお願いしていた部分を2つにわけて、背景や美術設定まわりを中山さんに依頼しました。
――藤村さんと中山さんにイラストを発注する際にお願いしたことや、やり取りする中で印象深いことなどはありましたか?
霜月:中山さんとのやり取りは初めてだったので、設定や世界観を説明して、イメージラフも渡してお願いしました。しかし、中山さんももともとゲーム会社で背景を担当されていた人で、「ゲームで言ったらこういう感じです」とお願いしたらすぐにわかってもらえました。
日山:感性が近そうだと思ってお願いしていたので、大きな食い違いはなかったですね。
霜月:藤村さんに関しては、やりとりをこれまでかなりやっているので、キャラクターの設定と説明だけはこちらでして、デザインはおまかせしました。しかし、やはりイメージと外れることはなかったですね。こちらの感性をくみ取ってくれるところが大きかったので、苦労はほとんどなかったです。
▲左が通常盤で、右が特装盤のジャケット。 |
――先ほどの話で出てきた双子のヒロインというのが、この限定版のイラストだと思うのですが、後ろに描かれている男性キャラクターは?
霜月:それぞれのヒロインのパートナー的な存在です。赤い髪のキャラはライルという名前で、RPGでいったら主人公です。
日山:前にいるシトラというヒロインのパートナーで、同じ村で育ち、一緒にきっかけを持って旅に出ます。
霜月:アルバムは女性ボーカルなのでヒロインたちにスポットを当てたのですが、ゲームだと男の子のライルが主人公になると思っています。もう1人のグレインというキャラは、双子の姉であるローザのパートナー的な存在です。彼女の運命や気持ちに共感して成長していく中で、ライルたちと戦ったり、時には共闘したりします。
日山:どの視点から描いても成長をテーマにしたかったので、この4人に関しては皆が主人公という気持ちで制作しています。他のサブキャラがいっぱいいて、そのあたりはファーストガイドブックで描いています。……とてもCDアルバムの説明とは思えませんが(笑)、ゲームが好きな人にはわかってもらえるのではないかと。
――『ティンダーリアの種 ドラマCD』の時に、霜月さんはアリア役をやられていますが、今回もドラマCD化した際には出演を考えていますか?
霜月:アハハハハハ(笑)。ええっと、今回もうまい感じにハマる役があれば……。前回のアリアをやった時は日山さんが「これはキミがやるべきでしょう。セリフも書いたから、ハイ!」っていう感じだったので、今回もそういう風になれば。
日山:きっとやります! もちろん、他にもいろいろなことをやりたいとは思っているので、実現できるメーカーさんがあればぜひご連絡ください(笑)。
――「いろいろなことをやりたい」ということですが、すでにライブをやることが決定しています。この構想はいつからあったのでしょうか?
霜月:ライブをやろうと決まったのは、アルバムを作っている最中ですね。去年行ったライブ“Haruka Shimotsuki solo live LV.2~シモツキンはレベルが1あがった~”は、いろいろなボーカル曲をひっくるめてのライブで、それはそれで1つの形でした。でも、ファンタジーの世界感に特化したライブというのもやってみたいと思っていたので、タイミング的にはCDの発売後ということもあって、オリジナルファンタジーコンサートというのをやってみようと。その世界を感じてもらえるようなライブにしたいと思っています。
――世界観を感じられるような演出などを期待しているファンも多いと思うのですが……。
日山:探り探りの状況ですが、その辺は今まさに頑張っています。
霜月:アルバムを聞いてきた人は楽しんでもらえるような作りにしたいし、あまり知らない人でも世界を感じて興味を持ってもらえるようなライブにしたいですね!
――Webラジオ“霜月はるかのFROST MOON CAFE”を1年間やってきて、どうですか?
霜月:どうでしょうね?(笑) でもとても楽しんでいます。1年前と比べて、自分の素でできるようになりましたし、しゃべることに対しての抵抗感はなくなりましたね。
日山:昔はプロフィールに“あがり症”って書いてあったけど、それも感じないくらいにしゃべれるようになりましたね(笑)。
霜月:本当にあがり症だったんですよ! 余計なことを考えすぎて失敗するタイプだったんです。でも1年間やってきて、リスナーの方々との交流や反応をいただいて、「こちらが発信しているけど、結局は会話なんだな」と思えるようになったんですね。投げかけたことに関して、反応があって自分なりに解釈してもらう。「会話やキャッチボールと同じなんだな」って感じてからは、楽になってあまり構えずに素を出せるようになりました。成長のきっかけをもらったような気がします。ぜひ聞いてください!
――今後やっていきたいことはありますか?
霜月:企画としては、いろいろな表現をするというのをやっていきたいです。多様な導入口からこの作品を知ってもらえたらと思っているので、『グリオットの眠り姫』に関してもさまざまな展開に挑戦していきたいです。個人的には、ラジオもそうですが体験してみることで変わることって多々あると思うので、いろいろなことをチャレンジしていきたいと思っています。
日山:『グリオットの眠り姫』は、ボーカルアルバムとしても楽しんでもらえるもので、オリジナルファンタジー作品としても楽しんでもらえるものにしたいと思っています。今度もいろいろな展開をしていきたいと思っていますので、ぜひチェックしてください。
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■“Haruka Shimotsuki Original Fantasy Concert 2009-FEL ARY ARIA-” 概要