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2009年11月28日(土)

『ファンタジーアース ゼロ』小説コンテスト電撃マ王受賞作品『銀の願い』前編公開

文:電撃オンライン

 PC用オンラインA・RPG『ファンタジーアース ゼロ』×『電撃マ王』のコラボレーション企画“オリジナルエピソードコンテスト”の結果が、11月27日発売の電撃マ王1月号で発表された(詳細はこちら)。

 ここでは、電撃マ王賞に輝いた作品『銀の願い』の原稿をそのまま全文掲載する。さらに、電撃マ王で『スターオーシャン2 セカンドエヴォリューション』(原作スクウェア・エニックス)のコミカライズを担当した、よしだもろへ先生に『銀の願い』のイメージイラストを特別に描いてもらったので掲載。
 『ファンタジーアース ゼロ』のユーザーはもちろん、よしだもろへ先生のファンにもぜひチェックしてほしい。

『FEZ』

【電撃マ王賞・受賞作品】
『銀の願い』
ペンネーム:ソニア・ルース
イメージイラスト:よしだもろへ




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 1

 キーン。

 キーン。

 キーン。

 狭い家に、鋼を打つかん高い音が響く。

 記憶が曖昧なほど小さな頃から聞きなれた、わたしの一番好きな音。

「ふう……こんなもんかな?」

 振るっていた小槌を休めて、わたしは前掛けの袖で額の汗を拭うと、昼一番の暖かな日光を取り入れる窓に近づいた。

 郊外の丘陵に建つこの家の窓までは、旅商人や彼らを相手にする町商人の喧騒が届かない。

 見えるのは、青々と茂った草と、眠そうに食んでいる羊くらい。

「まあまあ、かな」

 わたしは手の中にある、音の元だった金属――剣のでき栄えをチェックして呟いた。

 両刃の剣は、女性でも扱えるように薄く仕上げてある。鍔元には、戦場でも華やかに、と思って花の細工を施した。

 ――もうすこし薄くできたかな。

 薄くすれば、もっと見栄えがよくなったと思う。まだまだ未熟だな。

 刀身にヒビがないのを確認しながら、昨日の夕飯の残りとして、机に転がっていた食べかけの黒パンを口に入れた。

 味気がなくて、固い。

 黒パンはふつうどこの家庭でもスープでふやかして食べるものだけど、スープを副食に作るなんて、明日のミルクを買うのにも困るわたしにはできない贅沢だ。

 井戸から汲んだ水で黒パンを胃に流し込んだ。

 剣は陽光を照り返して、薄暗い部屋に明かりを差し入れていた。

 部屋はわたしの仕事道具――鋼の原石や槌、ふいごなどで燦然としていて、寝具も敷いたまま仕事を始めたので、足の踏み場がない。

 二日に一回パンを持ってきてくれる知り合いのおばさんには

「だらしない。あんたも、あとひと月で十六でしょう? 気立てはいいのに、こんなんじゃ嫁に行き遅れちまうよ?」

と、来るたびに小言を言われている。結婚する気がないのでどうでもいいけれど。

 だいたい、だ。

 年齢より幼く見られる顔は炉にあぶられてかさかさ、手は槌をいつも振るっているからごつごつ、小さい頃は自慢だった栗色の髪は手入れなんてしてないのでぱさぱさ。

こんなわたしを好きになってくれる人なんているのだろうか?

 ……考えるだけで惨めになってくる。

「それはそれとして……」

 たしかにすこし片づけをしたほうがいいかもしれない。代えのない仕事道具を紛失してしまったら一大事だ。

 面倒だなあ、と後ろ向きな気持ちのまま、黒パン五個より高価な石炭を食べて赤々と燃えている炉に水を差した。

 じゅっという音とともに、白い水蒸気が歩けば五歩で端から端まで辿り着いてしまう小屋いっぱいに広がった。

 火がなければ剣は打てないから、今日の仕事はこれでおしまいだ。

 道具を右から左へ移してすこしでも隙間を広げていると、木のドアがぎぎっと錆びた音をたてて開いた。

「なに、この埃は……。アカノ、いるの?」

「……いるけど、なに」

 勝手に押しかけておきながら、汚いわね、と眉をひそめているのは顔なじみの女性――ナノカだった。

 埃がついたと不平を言うナノカの服は、新品のワンピースで、わたしのように二度も三度も売り買いされた、くたくたで色褪せた生地ではなかった。

 ナッツベリーの街でも格式の高い区画に暮らすナノカは、毎日のようにこうして用もなく冷やかしに来るのだ。

「ご挨拶ね。剣を打ち終えて暇になったから顔を見に来てあげたのに」

 ナノカは、やっと空けたスペースに遠慮なしに腰を下ろすと、頭の両側で束ねた馬の尻尾のような髪を手で払った。

 ……だったら、一本でも多く剣を打てばいいでしょうが。

「ナノカのところはそんなに暇なの?」

 わたしの皮肉に、ナノカは余裕の笑みを浮かべた。

「あら、アカノだってよく知っているように、うちはオーレオール一の工房よ? 暇なわけないでしょ。シャルネたちに任せてきたわ」

 さいですか。

 道具を物色しては、ぽいっと捨てるナノカにむっとはするけれど相手にせず、わたしはささくれも目立ってきた木の床に銅貨を積み上げて貯蓄の計算をはじめた。

 銅貨はしめて五百二十三ゴールドあった。剣の材料を買えば、ほとんどが消えてしまう額だ。

今月も苦しい生活になりそう。ため息をこぼすわたしに、先ほど打ち終えた剣を拾ったナノカが、「アカノ、あんたねえ……」と呆れたように呟いた。

「まだこんな売れない剣を造ってるの?」

「……売れるから」

 言うほど簡単ではないことがわかっているけれど、悔しくてつい意地をはってしまう。

「なら、先月何本売れたのよ」

 う。

「……二本、悪かったわね」

 武器屋の店主によると、わたしの剣を買って行くのはきらびやかな衣服をまとった貴族ばかりだという。

 わたしに言わせれば貴族なんて、自分の欲に忠実な、プライドだけでご飯を食べている輩でしかなくて、事実、自分の領土で内紛が起きても、正規兵を頼みにして、買った剣で自ら戦場に赴かない。

 彼らにとって剣は観賞用なのだ。

 今、貴族の間で流行しているという、「貴族のステータス」のために、剣を買っていくのだった。

 そんな貴族に喜ばれても、売れる本数なんて高が知れている。大量の剣を必要とする兵士に使ってもらえなければ、わたしの暮らしは楽にならない。

 ……どうして、売れないのかな。

 わたしに鍛冶のイロハを教えてくれたのはオーレオール一の刀工だったお父さんで――。

「いいかげんやめにして家に戻ってきたら? お墓の下でパパだって泣いているわよ?」

 現代の名工と呼ばれるナノカは、おなじお父さんから鍛冶を学んだ義妹なのに――。

 お父さん――ネルソンは、もともとは新品をなかなか買えない農家のために丈夫なクワやスキを鍛えていた鍛冶師で、剣を造るようになってからも刃こぼれが起きにくいと兵士たちに信頼されていた。

 そんなお父さんの工房は、たくさんの弟子が詰め掛けていて、みなし児のわたしやナノカが拾われたときには朝昼晩関係なく鋼を鍛える音が響いていた。

 頑固で偏屈で、いつも怒ったような顔をしていたお父さんが、わたしたちに鍛冶を教えたのは気まぐれだったのだと思う。

 気に入らない人がいれば、すぐ追い出してしまうようなお父さんだったからよっぽど機嫌がよかったのだろう。

 それでも、わたしもナノカも、槌を遊び道具にして見よう見真似で鋼を打っているうちに、いつの頃からかネルソン派の後継者と呼ばれるようになっていた。

 男社会である鍛冶に女性はなかなか見当たらないので、お父さんは後継には反対のようだったけれど、わたしは認めてくれるなら工房を継ぎたいと思っていた。

 ――でも、晩年、病床の中でお父さんが後継者に指名したのはナノカで、それからすぐにわたしはこの離れの工房を譲り受けて家を出たのだった。

 わたしの小さな家に置かれている剣や道具なんて、いくら雑多としていても限られている。

剣を品定めしていたナノカはすぐ飽きたようで、つまらなそうに帰るわと腰を上げた。

「そういえば……アカノ、まさか品評会には出品しないでしょうね?」

「? なにそれ」

「あんたねえ……すこしは街に出なさいよね」

 ナノカが昔からのいらいらしたときの癖で乱暴に髪をかきむしった。どうせ後になってぼさぼさになった髪に、せっかくセットしたのに! 

 と怒るのだからやめろと言っているのに。

「町長から告知があったのよ。今度の収穫祭で剣の品評会を行うって。優秀な作品は国に奉納されるとかで、みんなはりきってるわよ」

 出品の締切りと、まあアカノの剣じゃ入賞は無理だろうけどせいぜい頑張ってみたら? と言い残してナノカは帰っていった。

 ……品評会、かあ。

 わたしは道具の残りを片付けながらぼんやり思った。

 ナノカの言うように入賞は難しいだろう。けど、これはチャンスかもしれない。国に認めてもらえれば、兵士にも剣を使ってもらえるようになるかもしれないのだから。

 目下のところ最大のライバルは、やはりナノカだ。

 本人の性格とは関係なく、武骨なナノカの剣は、お父さんの剣とともに丈夫で切れ味が良いと評価が高い。

 わたしの物とでは、おなじお父さんの娘であり直系の弟子でも評判に天と地ほどの開きがある。

 ……負けたくない。

 たとえお父さんの正統後継者のナノカが相手でも剣だけは負けたくない。ここにもお父さんの後継者がいる! とみんなに伝えたい。

 ただ、相手はお父さんのすべてを受け継いだナノカだ。

 材料も設備も不利である。

 それでも勝てる見込みがある。

 ――霊銀鉱という鉱物がある。

 霊銀鉱は、最近発見された金属で、これだけでは固くも柔らかくもなく、これといった性質のないつまらない鉱物なのだけど、ほかの鉱物を混ぜると通常以上の強度や軟度に変わる。

 鍛冶師の間では「魔法の銀」と呼ばれている。霊銀鉱があればわたしの手元にある鉱物を、一年働いても買えないほどの鉱物と同等以上の物に変えてくれるはずだ。

 ただ、問題もあって、この鉱物の「性能」は鋼鉄を打つときの「想い」に比例するのだという。

 想いの如何で、レア鋼鉄にもクズ鉄にも化けるらしい。

 ……まあ、らしい、というだけで、鍛冶師の間でも賛否両論あるそうだけれど。ちなみに、わたしは否定派だ。

 想いに反応するってどんな鉱物だ。

 問題はまだある。霊銀鉱が貴重で、市場になかなか出回らないのだ。

 手に入れるとしたら、自分で採ってくるしかない。幸いにも採掘できる場所は知っている。

知ってはいるけれど、モンスターが徘徊しているので、一人では危険。護衛が必要になる。

 護衛を雇うお金なんて、わたしを逆さに振っても出てこない。想い云々はまゆつば物だろうから、どうとでもなりそうだけれど、お金は悩んでも沸いてこない。

 さて、どうしたものか。わたしは考え込みながら、小屋の中を歩き回った。

 外で羊がンメーと鳴いた。

 お気楽でいいなーとわたしは窓の外を見て、羊の奥の光景に目を細めた。

 口元が緩むのを抑えきれなかった。

 わたしは口には出さずに呟いた。

 ――護衛、げっと。

『FEZ』

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データ

▼『ファンタジーアース ゼロ』
■運営:ゲームポット
■ライセンス元:スクウェア・エニックス
■対応機種:PC(対応OS:Windows 2000/XP)
■ジャンル:A・RPG(オンライン専用)
■プレイ料金:無料(アイテム課金)

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