2010年1月27日(水)
――ソラが作中でたくさんの人からいろいろな話を聞きますが、その中でも特に好きなエピソードはありますか?
菱田先生:トリトスの話が好きですね。あの悲しい感じがなんとも言えません。
――最初に読んだ時は、あの話が伏線になっていると思わず、びっくりしました。
菱田先生:あのへんは、まだ話を1つにまとめようかどうか迷っていた時期ですね(笑)。
――そうだったんですか(笑)。作品を書くうえで苦労した点などはありますか?
菱田先生:主人公の心理描写を書くのがニガテで、どうやってソラの気持ちを伝えたらいいか苦労しましたね。
――ソラはあまり感情を表に出さないキャラクターですよね。
菱田先生:最初は、読者が主人公の視点になって物語を読み進められるようしようと考えていたんです。なので、主人公にあまりキャラクター性を持たせたくないなとは思っていました。でも書いている途中で、ソラはソラで感情を描いてあげたいなと思ってしまって……。
――確かに、ソラも単なる聞き手ではなく、登場人物の1人として描かれていますよね。ソラが防具屋から動かずに話を聞くという設定も、ストーリーを作るうえで大変ではありませんでしたか?
菱田先生:途中で、どうしてこんな設定にしたんだろうと思うことはありましたね(笑)。
――ソラが、外に出られないという設定ですよね。続編はどうするんだろうと思って読んでいました……。ちなみに、続編の構想はあるのでしょうか?
菱田先生:はい、今考えています。応募する時は完結した作品として書いていたので、続編が書けるなんて思ってもいなかったんです。でも、続編があるとしたらこんな風にしたいなというイメージだけはあったので、一番最初に続編をどうするというお話をいただいた時に、書きたいですとお伝えしました。
荒木編集:作品が美しくまとまっているので、どうしようかなと迷っていたのですが、続編のお話を聞いていて、行けそうだなと思いました。
――2冊目も期待ということですね。
菱田先生:頑張ります!
――この作品以外に、書いてみたいものなどはありますか?
菱田先生:いっぱいありますね。ファンタジーも書きたいですし、現代モノも書いてみたいです。あと今回はシリアスだったので、ギャグに走ったものも書いてみたいですね。
荒木編集:ラブコメのような感じですか?
菱田先生:ラブコメのようで……実は違う、みたいな話でしょうか。
――やっぱり一捻りあるんですね(笑)。
菱田先生:アパレル業界を題材にしたものを書いてみたいですね。せっかくなので、仕事を作品に生かせればと思います。
荒木編集:私と一緒に菱田さんの担当をしている編集が、ラブコメ大王と呼ばれているので……。ラブコメには厳しいと思いますよ。
――そういえば、去年の今ごろも『ロウきゅーぶ!』のインタビューで盛り上がった記憶があります(笑)。
荒木編集:打ち合わせで、作家さんとパンツの柄や見せ方を延々と話しあっているんですよ。「こんなに見えちゃダメだ」とか……。あの情熱がラブコメ大王たるゆえんなんだと思いますね。
菱田先生:ラブコメを考える時は、それくらいの情熱を持たないといけないということですね。
――作品のタイトルはいつごろ決めたんですか?
菱田先生:最初仮でこのタイトルを付けていたんですが、ストーリーがタイトルに絡んできてしまったので、動かすに動かせなくなってこのタイトルになりましたね。最後の章を書くころには、これじゃなきゃダメだなと思いました。
――受賞後の校正作業などはいかがでした?
菱田先生:修正部分を直すのは楽しかったんですけど、著者校正(※文中で使われている漢字を統一するなどの細かなチェック)が大変でした……。
――大きな修正はなかったのでしょうか。
菱田先生:ストーリー自体は変わっていないんですが、見せ方が変わりましたね。
荒木編集:アルフォンスが、最後の大きな事件をソラに語るシーンがありますが、あれを語りではなく回想のような形に修正したのが一番大きかったでしょうか。
――イラストについて教えていただけますか?
荒木編集:第16回電撃イラスト大賞で銀賞を受賞された菜花先生が担当しています。この作品は、メディアワークス文庫なので挿し絵はあまり入らないんですが、出てきた防具やアクセサリなど、象徴的なものを章扉に描き下ろしてもらっています。菱田先生は、菜花先生と仲がよくて、私が菱田先生に菜花先生がイラストの担当になったことを伝える前にそのことをご存じだったんですよ。
菱田先生:菜花さんの日記か何かで「お仕事をいただきました」と書かれているのを見て、「絶対に買うからね!」と言ったら、きょとんとされてしまいました(笑)。
――実際にご覧になっていかがでしたか?
菱田先生:すごくピッタリでしたね。イラストが付くとしたら、線がやわらかい、水彩画のようなほわっとした絵がいいなと思っていたんです。だからとてもうれしかったです。
――同期で受賞された方と交流などはありますか?
菱田先生:みんな仲よしで、ネットを通じて交流していますね。
――ペンネームの由来について教えてもらえますか?
菱田先生:では“愛日”という名前について……。そんなにおもしろいエピソードもないのですが、“一日でも長く愛される作家になりたい”という想いを込めて付けました。
――今回の作品はファンタジー小説ですが、ファンタジー小説はよく読むんですか?
菱田先生:ファンタジーが一番好きですね。
――お気に入りの小説はありますか?
菱田先生:ファンタジーですと、電撃文庫の『キーリ』シリーズが大好きなんです。あとは『狼と香辛料』とか。剣と魔法で戦うようなファンタジーよりは、雰囲気があるファンタジーが好きです。
――なるほど。この作品も、剣や魔法のバトルというよりは、ファンタジーの世界でゆっくり時間が流れるような雰囲気ですよね。電撃文庫の作品はよく読むんですか?
菱田先生:よく読みますね。中でも、壁井ユカコさんの『カスタム・チャイルド』が好きです。『キーリ』もそうですけど、壁井さんの作品は全部大ファンです! 『鳥籠荘の今日も眠たい住人たち』も好きですし。あとは『バッカーノ!』シリーズでしょうか。結構なんでも読みますね。
――それでは最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
菱田先生:優しい気持ちになれる、心温まるストーリーです。小さな幸せを見つけたいと思った時に読んでもらえるとうれしいです。
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