2010年3月2日(火)
3月1日、東京都内の第一生命ホールで、コンサート“すぎやまこういちと東京メトロポリタン・ブラス・クインテット 金管五重奏による歌劇『魔笛』&『ドラゴンクエストIX』”が行われた。
このイベントは、『ドラゴンクエスト(以下、ドラクエ)』シリーズの楽曲を作曲しているすぎやまこういちさんが主催するクラシックコンサート。演奏は、東京メトロポリタン・ブラス・クインテットが担当し、すぎやまさんは、楽曲の合間にトークを披露した。
まずコンサート開演前、すぎやまさんにコンサートの聴きどころや心境についてうかがった。その後、開催されたコンサートを取材したので、あわせて以下に掲載する。
本日のコンサートについて、すぎやまさんは「これまで『ドラクエ』シリーズの音楽だけ、またはクラシックだけを演奏する機会はありましたが、今回は一緒にやることになりました。ところが、これが違和感がないんです!」と力強くコメント。その理由について、東京メトロポリタン・ブラス・クインテットのメンバーは、『ドラクエ』の音楽をゲーム音楽としてではなく、クラシックナンバーと同じようにとらえているため、モーツァルトの曲と一緒に演奏しても違和感がないと語った。
『ドラクエ』の音楽をどのようにとらえているかについては「私にとって、『ドラクエ』の音楽はバレエ音楽だと思います」という回答が。オペラの場合、オーケストラ演奏が歌の伴奏になるが、バレエの場合は歌がなくステージの演技と演奏だけで構成される。この構成がゲームと近いため、ゲーム音楽をバレエ音楽ととらえていると、すぎやまさんは説明していた。
クラシックとゲーム音楽について、説明するすぎやまさん。「クラシック音楽は、聞き飽きないので長く楽しめるもの。ゲーム音楽も何回も聴くので、繰り返しに耐えるものにする必要があります。作るのは大変ですが、やりがいがあります」と楽曲作成について、熱弁する場面も。 |
これまで、弦楽器やブラスオーケストラなど、さまざまな楽器を使って作曲をしてきたすぎやまさん。曲を作る際は「実際のゲーム機でどう聴こえるか」を念頭に曲を作るのだという。ファミコンに始まり、プレイステーション、ニンテンドーDSなど、いろいろな機種で『ドラクエ』の楽曲を手がけてきたが、どんな楽器編成であろうと、曲のメロディやハーモニー進行は変わらない。「曲の骨組みを生かして、演奏した時のベストを目指します」と楽曲製作について語った。
演奏する東京メトロポリタン・ブラス・クインテットとのコンサートは、これまでに何度も行っている。すぎやまさんによれば、編曲はメンバーの自由にまかせているのだそう。「僕自身、彼らがどんな風に演奏してくれるのか、とても楽しみです」と目を輝かせて、集った報道陣に開演前の心境を語った。
インタビュー終了後、コンサートがスタート。第1部は金管五重奏による歌劇『魔笛』だ。トランペットの高橋敦さんと中山隆崇さん、ホルンの西條貴人さん、トロンボーンの小田桐寛之さん、テューバの佐藤潔さんは、演奏と演奏の間でカツラやぬいぐるみなどの小道具を使った芝居を披露。これまで『魔笛』にふれてきたことがない人に向けて、物語をわかりやすく説明していた。この芝居、随所に笑いを誘うような演出が仕込まれており、コンサートにもかかわらず会場が笑いで包まれる場面も見られた。
とはいえ、楽曲が始まると「さすが、東京メトロポリタン・ブラス・クインテット」という見事な演奏が流れる。会場のオーディエンスは、先ほどまでとは打って変わり、真剣に耳を傾けていた。
第2部では、DS『ドラクエIX 星空の守り人』の曲が演奏された。『序曲IX』が終わると、「第1部は楽しかったね」と先ほどの演奏を振り返りながら、すぎやまさんが壇上に登場。ここですぎやまさんは、5人のメンバーを『ドラクエ』風に紹介。高橋さんを勇者、中山さんを僧侶、西條さんを王子、小田桐さんを戦士、佐藤さんを武器商人のトルネコと説明し、会場を沸かせた。
2曲目に演奏された『ドラクエIX 星空の守り人』のテーマともいえる『天の祈り』が終わると、再びすぎやまさんが登壇。次に演奏される『王宮のオーボエ』について、「実はメンバーに、オーボエがいないんだよね」と暴露。「どんな風に演奏するのか、楽しみにしてきたんだけど、さっき音合わせでチラッと聞いたら、うまい!って思ったね」と続け、観客に期待させるようなコメント。演奏が始まると、高橋さんの手にはピッコロトランペットが握られていた。オーボエの高音をカバーするための秘策のようだ。
『夢見るわが街~酒場のポルカ~来たれわが街へ』は、街に入り、宿屋に泊まり、教会でセーブするという一連の流れが入っている楽曲。朝になった時に流れる音や、セーブ後に流れる効果音までしっかり含まれていた。また『酒場のポルカ』では、小田桐さんが演奏にあわせて手拍子するシーンも見られた。
『ドラクエ』のテーマと聞いて連想するのが、すぎやまさんが「約24年前に突然できた」と話していた『序曲』ではないだろうか。その『序曲』のメロディを使い、作られたのがダーマの神殿で流れる『集え、者たち』だ。すぎやまさんは「1つの曲が色々な形に変化していく。それを楽しんでほしい」と、この曲への思いを明かした。
物語の後半で、人々の平和と幸せを勝ち取る戦闘時に流れる『決戦の時』の演奏が終わると、エンディング曲である『星空へ~星空の守り人』へ。実はこの曲には、すぎやまさんからユーザーへのメッセージが込められているのだという。「この曲を聴く時はゲーム中で世界を見守っていくことになるシーンですが、ゲームを遊び終えたら、この日本の守り人になったほしい! ぜひ、世界をよくしていくように考えて生活してほしいです」と、会場に集った人だけでなく、ゲームをプレイした人に向けてメッセージを送った。
プログラムが終わり、万雷の拍手が会場に響くと、すぎやまさんと東京メトロポリタン・ブラス・クインテットのメンバーが登場。フィールドで流れる『野を越え山を越え~仲間とともに』をアンコールで奏でた。続いて『ドラクエVI 幻の大地』より『奇跡のオカリナ~神に祈りを』が、さらに再び『ドラクエIX 星空の守り人』より『サンディのテーマ~サンディの泪~サンディのテーマ』が披露され、2時間に及ぶコンサートは大盛況で終了となった。
なお、今後開催されるコンサートの情報が明らかになったので、下記に記載する。チケット販売開始は4月ごろを予定している。残念ながら今回チケットが入らなかった人は、サイト・すぎやまこういちの世界をチェックしておこう。
(C)SUGIYAMA KOBO
■“すぎやまこういちと東京メトロポリタン・ブラス・クインテット 金管五重奏による歌劇『魔笛』&『ドラゴンクエストIX』”プログラム