2010年5月3日(月)
――歴代の作品における謎解きは、どういった難易度設定をしているんですか?
毎回、その時にできるギリギリのところを突いているだけです。ただ、最初に手にしてくれるのはやはり旧作プレイ済みのお客さんなので、そこを考えると少しずつ歯ごたえは上げる方向になっていると思います。新規のお客さんには、そのぶん導入の説明をわかりやすく、入りやすくする方向でフォローする方向です。記憶管理の使い方を覚えないと先に進めないとか、『だらよ1』では最初からいくつもの場所を並行して探索させずに、ステージをバスだけにして基本的な進め方を狭い中で覚えてもらうとか。
実は『あのすば』初代のX68k版にも、記憶管理のようなものを入れようと思っていたんですけど、複雑にしすぎるとプレイヤーが付いてこられないんじゃないかという危惧があったんです。しかもX68kのユーザーはアクションやRPG主体なので、ほとんどノベルゲームはやっていなかったでしょうし。
アドベンチャーゲームのように“アイテムを使う”という概念を入れれば、やれることの幅は広がりますが、プレイヤーが付いてこられなければ意味がないのでやめました。結果、初代『あのすば』は記憶管理をオートマチックでやるような操作になっています。お客さんが操作に慣れてくれたら、いよいよ『空の浮動産』からマニュアル操作という具合に。
そんな経緯があるので、再装版では当初、初心者導入作品的な位置づけというのも考えて、記憶管理のないままで行くことも検討していました。ですが、初代から10年以上経ち、『ロストカラーズ』や『だらよ』をやっているプレイヤーがいる状態で、ループという概念もメジャーになった。それで謎解きが簡単なままだと味気ないだろうと思いまして、記憶管理を導入しています。ボリューム的にも短くなってしまいますしね。
――ループを使ったゲームは、最近本当に多いですよね。
『あのすば』初代の当時、ノベルゲームと呼ばれるものはギャルゲーかホラーしかなくて、ファンタジーもメタ視点もなかったんです。ループものというジャンル自体がなかった。当時は「同じ文章を使い回すなんて手抜きじゃないか」と言われるのでは……と不安になりながら制作していました。今では、そんなことはないのでしょうけれど。
また、仕事でゲームを作るのは初めてだったので、やることを増やさないという意味では、ループさせたり、バランスを取ったりする必要のない、シナリオ一直線のゲームを作る方が圧倒的トラブルが出にくかったのは間違いないです。が、そうしなかったのは、X68kで出すというところが一因としてありました。
――というと?
おれは物語を物語る媒体も、物語の構成要素だと考えています。小説は“紙に書かれた文字の物語”、映画は“フィルムに乗せられたスクリーン上での物語”というように。だから、物語を書く際はその媒体の特性を常に考慮して、生かして書きたいと思っていました。だから当然、ゲームで物語を作る時はゲームでしか意味のない、ゲームだから価値があるものにしたかったわけです。
X68kユーザーにノベルゲームをプレイさせる以上、”たとえ物語を読むのが主体でもゲームとして楽しめるものにしたい”という意識が後押ししたのだと思います。そういう意味では、X68kというプラットフォームで出したことは、『あのすば』がこのような形になる要因の1つだったといえるかもしれません。
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