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2010年6月18日(金)

日本プレイヤーのTPSの間口を広げたい――『マインドジャック』開発陣に聞く

文:電撃オンライン

 スクウェア・エニックスから発売されるPS3/Xbox 360用ソフト『マインドジャック』について、制作陣にインタビューを行った。

 E3のスクウェア・エニックスブースの一画には、今回が全世界初のお披露目となる『マインドジャック』のデモ機がずらりと設置されていた。西暦2031年という近未来が舞台の、このSF作品を手がけたのは、『スターオーシャン』『ヴァルキリープロファイル』シリーズで知られる山岸功典氏だ。

 なぜ今シューターというジャンルに挑戦したのか。キャラクターの体を乗っ取る=ジャックするというアイデアは、どこから生まれたのか? E3会場内で山岸氏、開発を担当するフィールプラスの上永吉岳宏ディレクター、伊能浩彦アートディレクターの3人に、お話を伺ってきた。(インタビュー中のお名前は敬称略)

『マインドジャック』 『マインドジャック』 『マインドジャック』
▲プロデューサー 山岸功典氏▲ディレクター 上永吉岳宏氏▲アートディレクター 伊能浩彦氏

──本日はお忙しいところ、お時間いただきましてありがとうございます。早速ですが、これまで数々のRPG作品を手がけたことで知られる山岸さんが、なぜ今回TPS(3人称視点のシューティング)タイプのゲームを作ろうと思われたのか教えて下さい。

山岸:RPGも好きですが、同じぐらいTPSが個人的に好きなんですよ。ずっとRPGを作って来ましたが、プライベートでは海外産のTPSタイトルも結構遊んでたりしました。

──なるほど、意外にも洋ゲーTPS好きでいらしたんですね。

山岸:ですので、TPSのタイプのゲームも作ってみたいなあと思っていたところに、開発元のフィールプラスさんに「こんなおもしろい企画を作っているんだけど」とお話をいただきまして。これがシステムも斬新で、かなり魅力的だったんです。実はスクウェア・エニックスは本格的なFPS、TPSタイトルを出していないんですよね。会社的にも、ここいらでFPS、TPSのようなタイトルを……と思っていたタイミングだったので、話がスッとまとまった。というのが『マインドジャック』開発までの経緯になります。

──『マインドジャック』は2031年という近未来が舞台の、SF作品ですよね。FPSやTPSというと、第2次世界大戦といった近現代の戦争をテーマにしたものが多い中、SF色を強く打ち出したのはなぜでしょう?

山岸:もともとSFが好きなんです、というのは『スターオーシャン』といった過去の作品を見ていただければお分かりだと思いますが(笑)。

──確かにそうですね、失礼しました(笑)。特にお好きな作品、影響を受けたものがありましたら教えてください。

山岸:『攻殻機動隊』が好きなんですよ。『マインドジャック』の色や世界観といったイメージも、すごく近いと感じるはずです。

──『スタートレック』や『アトランティカ』系のSFではなく、イメージは『攻殻機動隊』だったんですね。

山岸:まぁ、スタートレック系の未来的なSFは『スターオーシャン』シリーズでさんざんやりましたから。今度は、破滅しかかった世界やドロドロした超未来での話ではなく、それほど遠くない未来だけれどもテクノロジーは今よりぐっと進化した、近未来を舞台設定に選びました。

──ちょっと失礼な質問かとも思いますが、個人的にはSF色の強いタイトルは日本ではヒットが難しいというイメージを抱いています。

上永吉:FPS/TPSタイトルにはいくつかジャンルがありまして、例えば完全ファンタジーだったり、過去の戦争が題材だったり、あるいは異星での戦いがテーマの超SFなどもありますが、ある種、どの題材もやりつくされた感があります。私が興味があったのは、我々が生きている近い未来に起こるであろう戦いでした。それが『マインドジャック』の設定というわけです。

 日本では苦戦しそうでは? というご質問ですが、こういった世界設定は先ほど山岸が触れた『攻殻機動隊』をはじめとしたアニメ、コミック作品にも多く使われていますから、そんなに抵抗はないはずですよ。作り手側の目線で言ってしまうと、まったく文化も言語も違うどこか遠い星という設定の方が、作りやすいんですけどね。ただ、世界市場を視野にいれると、この世界観は適してると思いますよ。

──確かに、アニメやライトノベルで近未来という舞台になじみがある日本人にも、ちょっとディープな世界観を好む欧米諸国にも、受け入れられそうです。

上永吉:戦争モノを作ることはもちろんできますが、実際に軍隊というものが存在する国で開発される、戦争がテーマのゲームに比べると、日本人が作るものはどこかリアリティに欠けていると感じます。我々が自信を持って世界に発信できるのは、やっぱりこの、手が届きそうな近未来のSF作品でした。

──では少し話を変えまして、本タイトルではプレイヤーは幽体離脱と言いますか……思念体のような存在で、次々と体を乗り換えてプレイできる“マインドハック”が大きな特徴となっています。このシステムを思いついた、きっかけなどはありますか。

上永吉:ありますね。まずマインドジャックという言葉には2つの意味があるんです。1つは他人がプレイしているゲームに入り込む(ハックする)という意味。もう1つがゲームの中のキャラクターを乗っ取るという意味になります。

 まず最初の他人のゲームをハックという部分ですが、さらに2つの意味合いが含まれているんですよ。ご存じの通り本タイトルではホスト(親)が立てたルームのルールに従い、ホストとの協力プレイまたは妨害を行う敵対プレイが可能です。そこであえて敵対プレイを選び、AIではない他プレイヤーのミッションを妨害する、ちょっとした背徳的な喜びです。そして協力プレイの選択も可能なので、一般的なゲームにおける対戦プレイと協力プレイの両方を、同時にかなえてあげられるんです。

──1点気になるのは、その、日本人プレイヤーはマルチプレイでも大変お行儀のよい遊び方を好む傾向があります。ふたを開けてみたらどの部屋も、全員が味方にしかなれないCO-OPモードばかりになりそうな気もします。

上永吉:確かにそういう傾向はありますよね。でも、だからこそ相手プレイヤーのミッションクリアを阻止する、そんな遊び方もあるんだよという文化を日本の方にもっと紹介したいです。FPSで言うところの、本当にトップの層のうまい人っていますよね。FPSだと完全に敵味方になりますが、『マインドジャック』の場合、敵側でプレイしても半分は味方のような存在なんです。だからマルチプレイ対戦の文化を日本に紹介する上でも、いい題材じゃないかと思います。

──ちなみにメインターゲット層は中級以上のプレイヤーですか?

上永吉:いえいえ、『マインドジャック』は完全にカジュアルゲーマーが狙いです。E3で体験されたバージョンは、1つのマップでいろいろな要素を体験できるよう、登場する人物や敵の数などを調整してあるので、実際より少し難しくなっていますが。

山岸:ターゲット年齢は表現方法の関係で15歳以上というレーティングになる可能性がありますが、ゲームシステム的には誰でもプレイできる内容です。もう1つ、他人の体をジャックできるということは、ゲームオーバーになったり自分のキャラが死んでしまったり、ということを意識しません。通常のTPSのように、ゲーム開始直後にいきなりうまい人に撃たれて終わる、だからTPSとかFPSはイヤだなあと思わなくて済みます。出入りはミッションの途中で何度でも可能なので、イヤになったら出てしまえばいいわけです。

──少し話は変わりますが、新しい武器やサブミッションの追加などをDLCで出される予定はありますか。

山岸:DLCについては、まだ検討中です。ただ、何らかの形で追加要素は出していくつもりです。

──それでは最後に、『マインドジャック』ならではの魅力、ここに注目してほしいというポイントを、皆さんからお願いします。

伊能:E3バージョンでは空港のマップぐらいしか体験できませんが、マインドジャックされてしまうという世界観を出すために、色の使い方に気をつけました。もう1つ工夫したのは光です。特にTPSの場合プレイヤーには背中が見えていることがほとんどなので、背中に対する光の描写。ここを見てほしいです。キャラクターの顔と同じぐらい、肩越しの光に気を使いました。

山岸:スクウェア・エニックスのTPSタイプのゲームということで、RPGばかり作っていたプロデューサーが作ったということならではの、一風変わったものが出来上がってると思います。敷居はかなり低めにしましたので、シューターが難しそうと思った人も、ぜひ手を出してみてください。日本のプレイヤーはTPSをちょっと毛嫌いしている傾向があるので、『マインドジャック』がその間口を広げるタイトルになりたいです。ある種『マインドジャック』は実験的なタイトルかもしれませんね。これが成功すれば、もっと遊び方を工夫したゲームタイトルが作れるでしょう。

上永吉:ディレクターの立場から言いますと、キャンペーンモードとマルチプレイの融合のバランスに力を入れていて、最終的には長くずっと遊べるキャンペーンモードを作りたいと考えています。もう1つ、今までの対戦ゲームは人が集まるのを待って、集まったら開始という感じでしたが、『マインドジャック』はホストになれば誰でも途中参戦してくるし、逆にいつでも他人のゲームに勝手に入っていけます。本当に自由度が高い、好きなように遊べます。山岸が言ったとおり、少し挑戦的なタイトルですが、プレイヤーの皆さんに受け入れられれば、もう少し発展したタイトルも作れる拡張性のあるゲームですよ。

──ありがとうございました。

『マインドジャック』

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データ

▼『マインドジャック』
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:PS3/Xbox 360
■ジャンル:ACT
■発売日:2010年10月予定
■価格:未定

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