2010年7月30日(金)
7月29日に日本一ソフトウェアから発売されたPSP用ソフト『セカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~』。本作の、電撃オンラインオリジナル・書き下ろしショートストーリーを掲載する。
本作は、“青春-自己-探索-ミステリアス-認識-アドベンチャー”と銘打たれたテキストAVG。主人公の青年が、記憶障害を抱えたヒロインとともに5年前に起きた事件の真相を探るというミステリアスなストーリーがつづられていく。
今回掲載するショートストーリーは、本作のシナリオを担当した深沢豊さんが書き下ろしたもので、ヒロイン・彩野、千秋、由加里によるある夏のひと時がつづられる。キャラクターデザインを担当するもりちかさん描き下ろしのイラストもあわせてお届けする。
▲彩野 | ▲千秋 | ▲由加里 |
鮮魚売り場からは威勢のいい声が聞こえ、レジの前には長い行列ができていた。夕方のスーパーは買い物客でにぎわっている。由加里は足を止めると、後ろでカートを押している2人――彩野と千秋に話し掛けた。
「ここで売ってるわよ」
「本当! たくさんあるね」
彩野は商品の袋を手に取りながら2人に聞く。
「ね。先生、これなんてどうかな?」
「ううん……筒のやつが多いかなあ。ちょっと、怖いかも」
彩野はふむ、確かに、と頷いた。
「これは? 袋が大きいから、たくさん入ってそう」
由加里が別の商品を指さすと、彩野が答えた。
「えっと……これは……どうかなあ。袋は大きいんですけど、ほら、実際に入っているのはそんなに多くないような……」
「ああ、言われてみればそうかも。底上げしてるの? ズルイなあ」
彩野と由加里はうーん、と唸る。黙って横にいた千秋が、口を開いた。
「彩野さん、由加里先生、これはどうでしょうか? “子ども向け”って書いてありますけど」
「え? あ、うん! これならいいかも。先生、どうですか?」
「どれどれ……いいわね。楽しそう」
「じゃあ、決定―!」
彩野は手に取っていた品をかごの中へ入れた。
「だいたいこれで、買うものそろった……かな」
手帳の中とかごの中の品物を比較し、由加里と千秋に聞いた。
「あ、もうちょっと、追加、いい?」
「えっと、由加里先生、忘れたもの、あります?」
「うん。ちょっとね。今思いついたの。向こうの野菜売り場のほう、行っていいかな」
由加里はナスとキュウリを手に取ると、後ろを振り返った。カートを押している二人の姿が見える。千秋が彩野になにか説明しているのがわかった。こうやって少し離れた所から2人を見てみると、まるで親子か仲のよい姉妹の様にも見えた。
「はい、これもお願いね」
由加里は2人の元に行くと、手にしていた野菜をかごの中に入れた。
「すみません、私も追加しちゃいました」
そう言うと、千秋はかごの中の“ちくわ”を指さした。
「ふむふむ。なるほど。それと――」
由加里は辺りを見渡した。
「あった! じゃあ、これもね」
そう言うと由加里はかごの中に“おがら”――皮を取った麻の茎を入れた。
***************
スーパーで買い物を済ました3人は、公園へと向かった。時間通りなら、そろそろ彼らが来ているころだ。どこからか、ひぐらしの鳴き声が聞こえた。電柱につけられたスピーカーから『帰りの歌』が聞こえていた。空は暗くなり始めている。通り過ぎていく家の窓からカレーの匂いがした。
公園に着くと、広場で遊んでいた子どもたちが駆け寄ってきた。子どもは3人。男の子、男の子、女の子の順に横並びになっている。女の子は首輪がつけられた猫を胸に抱いていた。
「猫さんだ」
彩野は目を細めて言った。
「はい。あの子の家で、飼ってるそうです。――ちょっと、すみません」
千秋は買い物袋の中を探り、女の子の元に行く。
「キミも来ると思ったよ」
猫の頭を撫でると、千秋は女の子にちくわの袋を渡した。匂いをかぎつけた猫は「にゃあ」と一声をあげると女の子のもとから下り、頭を彼女の足にすりつけ始める。
「ふふ。現金だね」
由加里は左の男の子のもとに行くと、声を掛けた。
「待った?」
「ううん。晩ご飯食べて、今来たところ」
男の子は照れたように、頬をポリポリと掻きながら答えた。
「えっと、すみません、この子たちって――?」
手帳をめくりながら彩野は由加里に聞いた。彼らの事について、手帳に記載はない。
「最近ね、友だちになったの。それでね、話を聞いたら、どうやら彩野さんとも――」
由加里は「ね」というと、男の子のほうに手を置いた。男の子は横の2人に目配せする。
「――おねえさん、こんばんは!」
「知り合いだって」
「はい、今晩は――。それじゃあ君たちのことも、ちゃんと手帳に書いておかないとね」
彩野は笑みをこぼし、真ん中の男の子の頭をなでると、由加里に訊いた。
「先生、この子、直哉くんに似てません?」
キュウリでつくられた馬と、ナスでつくられた牛がロウソクの隣にそっと置かれる。由加里はライターでロウソクに火をつけると、“おがら”に火を移した。子どもたちはそれぞれの手に花火を持つと、ロウソクから花火に火をつけた。燃えあげる音とともに閃光が辺りを照らすと、子どもたちは歓声をあげた。
「これは迎え盆? それとも、送り盆、ですか?」
子どもたちの花火を眺めながら、彩野が由加里に聞いた。
「彩野さんは、どっちがいいと思う?」
「決めてないんですか?」
「うん」
由加里は、空に上がる煙を眺めながら言った。
「ユウイチ君に聞いてみる?」
「……先生……」
「……私たちも、花火、しない?」
由加里はそう言うと、線香花火を彩野と千秋に渡した。
(著:深沢豊/イラスト:もりちか)
なお『電撃PlayStation Vol.475』(7月9日発売)と『電撃ゲームス Vol.11』(7月29日発売)でも、それぞれ異なる書き下ろしストーリーを読むことができるので、ぜひこれらの雑誌もチェックしてほしい。
(C)2010 Nippon Ichi Software, Inc./TEXT.