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2010年9月2日(木)

【CEDEC 2010】三並達也×三上真司×須田剛一、彼らが語るプロデュースとは?

文:電撃オンライン

【CEDEC 2010】

 パシフィコ横浜で8月31日~9月2日にかけて開催されているゲーム技術者向けカンファレンス“CEDEC 2010”において、9月1日にプロデュースセッション“悪戦苦闘のプロデュース タイトル開発のプロデュース論から、会社全体のプロデュースまで。”が行われた。

 講演では、プラチナゲームズ代表取締役社長の三並達也氏、今年3月に設立されたTangoの代表取締役社長・三上真司氏、グラスホッパー・マニファクチュアCEOの須田剛一氏らが迎えられ、ゲームデベロッパーの経営、タイトルのプロデュースについて語られた。

【CEDEC 2010】
▲左から、須田氏、三上氏、三並氏。

■起業のきっかけ&起業後の苦労

【CEDEC 2010】

 まず語られたのは、各々が起業した時のきっかけだ。これについては、言葉は違いながらも同様に「作りたいゲームを作るため」というのがモチベーションとなったようだ。特に最近起業した三上氏は、若いクリエイターに育ってほしい、若いクリエイターが作りたいゲームを作れる環境を用意してそのセンスを自分も吸収していきたい、という思いを語っていた。

 起業してからの苦労について尋ねられると、「毒のあるクリエイターがそろう中で、その毒をいかに経営やプロデュース側で抑えるかが難しい」と須田氏。さらに「昔(起業したてのころ)は、自分自身の毒を自分でどう抑えるかは難しいですよね」と続けると、『killer7』をともに手掛けた三上氏が口を開く。「『killer7』は、パイロット版だと、割と濃いめけど一般の人にも広く喜ばれそうな企画で行けるなと思った。けれど、カプセルに入れて飲み込んだ毒も、カプセルが溶けると毒がどばーって出てきた(笑)」と、当時の様子を振り返っていた。

 そんな三上氏が、経営者として一番苦労しているのは資金繰りだ。「いいものを作るスタッフが集まってくれているが、お金の面で非常に苦労している」と三上氏。ワールドワイドで勝負できる作品を作りたい、開発の自由度を尊重してほしい、といった条件でラインを成立させようと躍起になっている状況のようで、「ここ1~2カ月は現場仕事は10%、20%しかできていない」と苦心をあらわにしていた。

【CEDEC 2010】

 三並氏の場合は、自身はプロデュースからも離れ、社長として仕事を取ってくる“営業”に特化する選択をした。セガからは複数のタイトルをリリースし、10月21日には『ヴァンキッシュ』の発売もひかえているが、「けっこう自由にさせていただいている」とのこと。パブリッシャーとの付き合いは良好だが、「わがままな社員が多いので、そこで苦労した」と語る。

 そこでマイクを取った三上氏は、「うちの社員は、わがまま言う人のエリートみたいな」とひと言。会場に笑いが起きた。だが三上氏は、「僕の言うことにイエスという人は、立ち上げ期にはいらないのかなと思う」と、それぞれの社員が自分の作りたいものを作ろうとするモチベーションや能力を持っていることを、現在は一番に重視しているようだ。ただし、「できる人は自分に自信があるので、僕が言っても聞かないですよね」と苦労もうかがわせる。それでも「ゲームを1本作ってるうちに、誰にどういう態度を取ればいいかわかってくるので、僕は現場にべた付きするやり方をしています」と自分の経験を語っていた。

■デベロッパーのゲーム開発

【CEDEC 2010】

 苦労を語った後は、“デベロッパーの魅力”というトークテーマに移る。須田氏が語る一番の魅力は「オリジナルゲームを作れること」。グラスホッパー・マニファクチュアの手掛けてきたタイトルは、原作があったとしても、自分たちのやりたいことも入れさせてもらえてきたという。

 三上氏いわく「自由にゲームが作れるか作れないかは、デベロッパーかパブリッシャーかではなく、会社のスタイルによる」とのこと。三上氏の経営するTangoでは、「ゲームのクオリティについては、スタッフの方がグルメ」だそうで、自分が考える以上のものになるのが楽しいと話している。

 ただ、どんなゲームにも予算と時間の制約がある。それでもクオリティと天秤(てんびん)にかけた時、「デベロッパーは、どうしてもクオリティにこだわる」と須田氏は語る。ただ、スケジュールの延長はコスト(人件費)がさらにかさむことを意味しており、三並氏の「2カ月も延びると厳しい。まして半年も延びると――」という言葉には、須田氏も「経営者としては震えがきますね」。

 それでも須田氏は、「自分たちのせいでスケジュールが延びる分には、会社内で吸収できる。そのために組織も厚くしてきましたし」と話す。しかし、バブリッシャーからのオファーでスケジュールが延長し、予算も出ないケースが、もっとも頭を悩ませているようだ。これについては三並氏も、クオリティを犠牲にせず、どう要求をのむかに頭を悩ませた経験があるようだ。

 そうした現状のゲーム開発において、三並氏は、三上氏のスケジュール管理の巧みさをとても評価しているらしい。三上氏は、こまめに各チームにスケジュールの状況を報告させるなど危機管理に余念がないながらも、予期できないトラブルは頻繁に起こるものであり、最終的にはベテランのカンがモノをいうのだと話す。“ベテランのカン”とは、現場でゲームを作ることをもっとも重視した三上氏ならばこそ言えることでもあるのだろう。

■須田氏が経験した最大の危機

【CEDEC 2010】

 最後に、デベロッパーの経営者として須田氏が経験した最大の危機を紹介する。これまでの会社経営の中で、最大の危機と呼べるものを3回経験したという須田氏だが、人にも話せる内容ということで語ってくれたのが、『花と太陽と雨と』を開発していた時の出来事だ。

 このゲームの開発中、資金提供をしていたアスキー(当時)が『ダービースタリオン』を除くゲーム事業から撤退するということが起きた。会社の存亡を問われる事態に直面した須田氏は、宙に浮いた『花と太陽と雨と』の企画を売り込むため、ひたすら新たなパブリッシャーを探して回ったのだという。結果的に『花と太陽と雨と』は世に出たわけだが、「今、いろいろなパブリッシャーさんと付き合いがあるのは、その時の経験があったから」と須田氏は語っていた。

 最後に起業を目指す人へのアドバイスとして、須田氏が語ったのは危機管理の重要性。いいことが続いてる時にこそ、危機管理は重要であり、油断せず早期に危険の芽を摘む必要があるという。細事だからと見逃さない目が、早期に危険を発見する秘訣(ひけつ)といえそうだ。

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