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2010年10月6日(水)

極みの境地から見えたこと プロゲーマーとゲーミング 前編1-2

文:電撃オンライン

『電撃ゲームス』

 頂点を目指す者だからこそ見える極みの世界。FPSのプロゲーマーである田原氏の目には、どんな世界が映っているのか。彼が歩んだプロの道、そして“ゲーミング”と呼ぶコミュニケーションの可能性について、数回にわたってお届けする。

プロゲーマー

【人物紹介】

FPSプロゲーマー
【田原“uNleashed”尚展】

 大学在学中に単身渡米し、プロゲーマーチームに加入。現在は各種イベントを主催しつつ、プロゲーマーとしても活動中。


Vol.1-1からの続き)

高額年収はもはや夢
世界のプロゲーマーの懐事情

――ゲーマーの国籍で考えると、やはり強いプレイヤーが多いのは欧米なんですか?

 ジャンルやタイトルによって変わりますが、『Quake Live』に関してはアメリカ産のゲームということもあって、やはりアメリカ人のプレイヤーに強い人が多いですね。日本に『ストリートファイターIV』の強いプレイヤーがたくさんいるのと一緒です。ただ、最近はアメリカとヨーロッパの差が縮まってきた印象です。というのも、アメリカのネットワーク環境はあまりよくないんですよ。

――それは意外ですね。

 逆にヨーロッパは、アメリカと比べるとネットワーク環境が整備されているので、練習環境としては最適なんです。周辺にたくさんの国があるのでプレイ人口も多いですし。アメリカもプレイ人口は多いのですが、西海岸と東海岸のどちらかに集中していて、さらに同じ大陸内といえど遠く離れているため、ラグが多くて練習環境としては優れていません。そのため、最近はアメリカ勢がなかなか大会で優勝できなくなっているようです。

――日本に近い国で考えると、お隣の韓国はプロゲーマーとしての文化が発達しているようですが。

 韓国はFPSではなく、『スタークラフト』などのRTSで名を馳せています。専門分野ではないので、あまり深くは語れませんが、『スタークラフト』において韓国は宇宙一だと聞いています。

――宇宙一!! 世界を超えてしまった(笑)。

 韓国にはプロゲーマー認定協会という機関が存在していて、政府がゲーマーに対して援助をしているんです。韓国でプロゲーマーを名乗るには、この認定協会の試験に合格しなければいけません。そうした仕組みがあるので、他国の人に『スタークラフト』で負けることはほぼないでしょう。

――そこまで差がつくのはどうしてですか?

 韓国のトップクラスに位置するプロゲーマーは、たぶん1億円ぐらい年収をもらっていて、一日中トレーニングをしている人達なんです。そのため、ほかの職業と兼業だったり、それこそ趣味でプレイしている人たちではどうしても勝てない。ちなみに少し前の調査では、子どもたちのなりたい職業でプロゲーマーがプロ野球選手を抜いたそうです。

――収入額もさることながら、プロゲーマーが職業として一般に認知されていることに驚きました! では、アメリカではどうなのでしょうか?

 “e-Sportsバブル”というのが、僕が渡米した2007年あたりにあって、多くのゲームメーカーや周辺機器メーカーが大会のスポンサーになっていました。そのため、賞金総額が1億円を超えている大会も存在し、当時活躍していたプロゲーマーのなかで年収が3,000万円を超えていた人は、30人以上いたと思います。

――3,000万円……それでもすごい!

 しかしその後、先ほどお話ししたWSVGの運営会社の倒産などもあり、e-Sportsバブルがはじけてしまいました。そして、賞金総額は100万円クラスまで落ち込みました。このことから現在は、トップクラスのプロゲーマーでも年収は500~600万円ぐらいだと思います。

プロゲーマーの練習時間を
世界中が誤解している

――田原さんは、プロゲーマーとして普段どんな練習をしているんですか?

 最近はプレイ時間をあまりとっていません。やっても1日に1時間ぐらいでしょうか。ただ“DEMO”と呼ばれるリプレイファイルは、頻繁に見ています。あとは『Quake Live』のステージ内をくまなく歩いて、新しい戦術の構築など、知識面の補充を進めている感じですね。

――プロゲーマーというと、長時間プレイしているイメージがありますが、意外ですね。

 これについては、世界中で誤解があると思うんですよ。たとえば、インタビューでトップクラスのプロゲーマーが「10時間練習している」と話すことがあります。でも、10時間ずっとゲームをプレイしているわけではありません。プレイしている時間は、多くても4時間ぐらいだと思います。残りの時間はDEMOを見て戦術を分析しているか、他のプレイヤーとのミーティングに費やしているんです。

――全体の半分以上は知識面のトレーニングに当てている時間なんですね。

 僕も少し前までは、できるだけゲームをやり込んで、そのゲームを理解するというか“やるべきこと”と“やってはいけないこと”を体に覚えさせる反復練習をしていました。でも最近、反復練習では伸びない限界のところまで到達してしまったんです。というのも海外のトップクラスのプロゲーマーと対戦すると、自分がやろうと考えている戦術を実際にやる前にねじ伏せられてしまうんですよ。その理由は、AIMの差とかではなく、知識量が全然追いついていないから。僕よりもうまいプレイヤーは、僕が有利な位置に立つ前に、それをすべて封じることができるような立ち回りをしてくるんです。

――それは戦術の差ということでしょうか?

 戦術を含めた知識の差ですね。実はFPSの世界では、1位から200位までのプレイヤーのAIMの速さや反射神経は、ほとんど変わりません。そんななか、トップ10として君臨し続けている人たちは、その日の体調や調子などに左右されない知識の部分で、明らかにズバ抜けているんです。

――知識についてお聞きしますが、具体的にはどういった部分の知識が必要になるのでしょうか?

 一番差が出るところはステージの知識です。たとえば、このステージのここに立っていれば、相手が姿を見せるルートが2つしかないので、行動を制限できるとか、そういったことですね。有利な場所を知らないと、操作がいくらうまくても負けてしまいます。これはFPS全般に共通することですね。

――なるほど。

 あと、これは『Quake Live』に限った話かもしれませんが、ステージ内の決められた場所に決められたアイテムが置いてあるんです。そして、そのアイテムを取ったあと、何秒後にリポップするかも決まっています。たとえば、自分の耐久力が回復するアーマーを取ると、25秒後に再び出現します。自分でアーマーを取ったらその時間を覚えておいて、次にいつ出るかを算出するんです。ゲームには重要なアイテムが2つあって、それはこのアーマーと回復アイテムのヘルス。これらをいかに取り続けられるかが重要になります。ただ、相手も当然アイテムを取りに来るので、そこも予測しながら行動するというのが、動きの基本となります。

――そこに、お互いの駆け引きが発生しているということですね。

 はい。中級者までのプレイヤーだと、自分が負けた理由を撃ち合いの技術などに求めてしまいますが、実はそうではありません。上級者ほど、自分の思うように相手を動かすテクニックがうまいんです。上級者に負け続けている状況では、立っている位置や武器の強さなど、相手が何かしらのイニシアティブをとっていると考えるべきですね。

(10月7日掲載 Vol.1-3へ続く)

【用語解説】

●スタークラフト
 Blizzard(現在はActivision Blizzard)が1998年に開発したRTS。テラン、ザーグ、プロトンという3種族から1つを選び、種族ごとの文化にそった兵器を製造しつつ、他種族と宇宙の覇権を争っていく。

●DEMO
 『Quake Live』における対戦のリプレイファイルのこと。プロはこれの分析・研究を怠らない。

●AIM
 FPSにおける専門用語で、照準を相手に合わせて狙いを定めること。初心者同士の戦いでは、このAIMの速さと正確さによって勝負が決まる。

●リポップ
 取得することでその場から一度消滅したアイテムが、時間経過などの要素で再び出現すること。

●アーマー
 『Quake Live』にはアーマーシャード、イエローアーマー、レッドアーマーという3種類のアーマーがある。後者になるほど耐久力の回復量が多い。リポップ時間は25秒。

●ヘルス
 体力が回復するヘルスは4種類存在する。ヘルス/ラージヘルスは体力の回復量の上限が100までだが、メガヘルス/グリーンヘルスは体力の回復量が100を超える。リポップ時間は35秒。


―海外の主な大会―

プロゲーマー
▲オフライン大会では豪華なステージが用意されることが多く、相当数の観客が会場に集まることも。

 『Quake Live』の大会は、北米とヨーロッパを中心に、オンライン・オフラインを問わず多数開催。世界的な不況により多くのゲーム大会が姿を消すなか、100万円単位の高額賞金を誇るオフライン大会“Intel Extreme Masters”が軸となり、大規模なものも行われている。主要な大会となるとプレイヤーが世界各地から招かれるため、国際色豊かなイベントになることが多い。なお、常に上位にランクインされるようなトッププレイヤーたちは、大会に参加するため積極的に海外遠征をしている。

・2010年の主なオフライン大会
 2010年2月 Intel Extreme Masters4 Asian Championship
 2010年3月 Intel Extreme Masters4 Global Finals
 2010年6月 Electronics Sports World Cup Grand Finals
 2010年8月 Intel Extreme Masters5 Global Challenge Shanghai
 2010年8月 QuakeCon 2010
 2010年8月 Intel Extreme Masters5 Global Challenge Gamescom
 2010年8月 Asus Summer 2010
 2010年10月 Intel Extreme Masters5 American Championship


―田原氏のプレイ環境―

プロゲーマー
▲これが田原氏の普段のプレイ環境。マウスパッドの場所を確保するため、キーボードはひざの上に。

 田原氏は、ゲーマー向けをうたうハイグレードなデバイスを好んで使用している。特にマウスパッドは、自らも開発に参加した『ARTISAN KAI.G3 飛燕 Soft』を愛用しているとのこと。モニタに関しては、普段はCRTモニタを使用するが、大会直前になると液晶モニタに切り替え、会場の環境に合わせた練習を行う。そのほか、意図的に椅子の高さを変えるなどして、どんな環境でも普段と変わらずにプレイするための練習にも取り組むそうだ。
 

・使用PCのスペック
【CPU】Intel Core 2 Duo E8500
【VGA】GeForce 8800GT
【サウンド】SoundBlaster X-Fi Go
【キーボード】Cherry G85 Black
【マウス】Dharmapoint DRTCM15
【マウスパッド】ARTISAN KAI.G3 飛燕 Soft
【ヘッドセット】Steelseries Siberia v2 Fullsize
【モニター】FlexScan T565(CRT)/BenQ FP222W(液晶)



『電撃ゲームス』

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データ

▼『電撃ゲームス Vol.13』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2010年9月24日
■価格:650円(税込)
 
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