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2010年10月22日(金)

【『ソラトロボ』インタビューVol.3】OPアニメに込められた信念

文:電撃オンライン

『電撃ゲームス』

 バンダイナムコゲームスから10月28日に発売される、DS用ソフト『Solatorobo それからCODAへ(以下、ソラトロボ)』。『電撃ゲームス』(アスキー・メディアワークス刊)に掲載された、本作の連載インタビューを電撃オンラインでお届け。Vol.3では、松山洋氏と山川吉樹氏にインタビュー。『ソラトロボ』のオープニングアニメについて、ウラ話満載で語ってもらった。

※インタビューの文章は『電撃ゲームス』6月18日発売号で掲載した内容に一部修正を加えたもの。インタビュー中の名前は敬称略。

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【『ソラトロボ』インタビューVol.3】

エグゼクティブディレクター
松山洋氏(写真左)
 サイバーコネクトツー社長。大のアニメファンであり、今回のオープニングアニメのクオリティーにはとても満足しているとのことだ。

オープニングアニメ監督
山川吉樹氏(写真右)
 フリーランスのアニメ監督。マッドハウスのスタッフの指揮をとり、『ソラトロボ』の世界を見事に表現したオープニングを手掛ける。


●こだわりのスタッフのもと制作されたオープニングアニメ

【『ソラトロボ』インタビューVol.3】

――ゲームのオープニングアニメの制作は、通常のアニメ制作と比べていかがでしたか?

山川:プレイヤーとしては、いいオープニングがついていると、それだけでワクワクしますよね。でも仕事としては大変でした。

松山:制作は2008年の夏から始まったのですが、当初は「Tシャツを着ている時期からスタートして、年末には完成するとうれしいな」と考えていました。しかしマッドハウスさんから「クオリティには妥協できないし、自由に制作したいので納期は相談させてほしい」とご提案いただいて、納期はおまかせしました。最終的に完成したのは、5月でしたね。

山川:申し訳ないです。

松山:いえいえ! おかげさまですごくいいものになりました。完成した作品を見せていただいたとき、あまりにうれしくて、会社の大会議室にスタッフを全員集めて上映会をやっちゃいました(笑)。感動して泣いちゃう人間がいたくらい、スタッフの間でも評判がよかったです。私は、クリエイターとしてアニメーション制作者を尊敬しているんですよ。私たちはコンピュータグラフィックでゲームを制作しているので、ブロックを積み上げるようにプログラムを作って“動く感触”を楽しんでいます。つまり、ゲームのグラフィッカ―は絵が描けなくても“動きのデザイン”ができるんですね。でもアニメーターで絵が描けないという人はいません。絵のアイデアと動きの構図が頭の中に全部入っていて、紙とペンだけで勝負するというのは本当にすごいことだと思います。

――山川さんは、『ソラトロボ』の企画を最初に聞いた時にどのような印象を持たれましたか?

山川:斬新というよりも、どちらかといえば、懐かしい雰囲気を感じましたね。あと設定資料がたくさんあるのを見て、世界観も作り込まれているなと思いました。これまで私がやってきた仕事は、どちらかといえばふわふわしたイメージのものが多くて。ここまでかっちり作り込まれた作品をやるのは初めてじゃないでしょうか。

松山:本当ですか? アニメって、すごく細かく設定を作るものだと思っていました。

山川:そう思うでしょ。実はそれって、人によりけりなんです。もちろん、画面に登場しない設定まで作り込む作品もたくさんありますが、メインキャラクターの設定が紙1枚程度で、脚本すらない作品もあるんです。

松山:その状態から、どうやって作品を作るんですか?

山川:私の場合は、マンガ原作がある作品だったので、マンガを見ながら直に絵コンテを作っていきました。ただ、作業を進めていく途中で発狂しそうになったこともありましたけど(笑)。その時は「脚本いらないよ」なんて言うんじゃなかったと思いましたね……。

松山:そんなこと、よく言いましたね(笑)。そういう作品と比べると、『ソラトロボ』はかっちりしてますね。

山川:私は「設定は目安でしかない」という認識で10年以上やってきたので、作り込まれた設定がある『ソラトロボ』のお話をいただいて、思わず「私が監督で大丈夫なの?」って聞き返してしまいました。

――実際に制作に入ることが決まってから、どのようなスタッフが参加することになったのでしょうか。

松山:今回は、山川監督に絵コンテもお願いしまして、少し形になってきて内容が固まったときにご提出いただきました。それが超燃える内容で、うちのスタッフの狂気乱舞っぷりはすごかったですよ(笑)。

山川:初耳です!

松山:いやいや、ちゃんと言いましたってば(笑)。すごくステキな絵コンテで、テンションが上がったのを覚えています。あと、総作画監督として結城信輝さん(キャラクターデザイン)に参加してもらえたのも大きなポイントでしたね。

山川:結城さんから、招集する制作メンバーとしてベテランの方やすごくうまいアニメーターの方の名前があがってきたので、全員集めるのに時間がかかりましたね。

――ゲームのオープニングアニメ制作の流れで、劇場版やTVアニメシリーズとは違う点はありましたか?

山川:いろいろと違うところはあるはずなのですが、私は不器用なので、“アニメを作る”ということにおいては区別できていません。ただ、制作するメンバーによって、入れ込むカットを変えることはありますけどね。ゲームでもいいプログラマーがいて、こんなシステムが入れ込める……となったら、そこに割くボリュームを増やすじゃないですか。それと同じですね。

【『ソラトロボ』インタビューVol.3】

――監督が特にこだわられた点はどこでしたか?

松山:山川監督のお話で印象深いのは、「『ソラトロボ』におけるロボの動きは、最近のロボットアニメのような動きにはしたくない」っておっしゃっていたことですね。

山川:ロボットの動きには、いくつかの基本のパターンがあります。今のロボットアニメは、そのパターンに合わせた動きが多いんですよ。たとえば“パイロットが怒っていて、戦いを止めようとしている状況”においても、普段と動き方がまったく一緒という場合も少なくないんですね。そんな見せ方を『ソラトロボ』でやったら、失敗すると思ったんです。そこで今回のロボの動きは、マッドハウスのとあるやる気男に頑張ってもらいました。私は、自分が想像するものと多少ズレていたとしても「デキのよいモノやおもしろいモノであればよし」という判断をします。絵というものは、原画を担当したアニメーターの想いが形になったものですから。実際に『ソラトロボ』のロボの動きも、近年のロボットアニメでは見かけない動きになってよかったと思います。

――松山さんのほうから、監督に対して何かオーダーを出されることはあったのでしょうか?

松山:特にアレコレは言っていません。絵コンテをいただいて「これで行きましょう!」という感じで。

山川:たしかに、特別な注文はなかったですね。唯一、私が細かいことを覚えるのが苦手なので、マークや服装の修正指示をいただいたくらいでしょうか。

松山:今回はアニメを制作する前に設定がそろっていたことと、結城さんが総作画監督になったことで、特にキャラクターに対する説明がない状態でもスムーズに制作を進めることができましたね。

――逆に、苦労された部分はありましたか?

山川:私はあまり苦労していません。スタッフから「こんな感じでどう?」って言われたアイデアを「おう、いただき」と採用していっただけなので。

松山:山川監督のスタンスは、他のアニメ監督とは少し違いますよね。制作の苦労を聞かれて「苦労していません」って答える監督はそういないじゃないですか。

山川:撮影担当が苦労しているかもしれないし、原画担当が苦労したかもしれない。でも私は、そこにいただけですから。他の人たちは苦労したと思います(笑)。

――本作はさまざま点において“二重構造”になっているそうですが、アニメにも何か仕掛けがありますか?

松山:オープニングアニメは「はじめまして!」といった雰囲気で、こんなキャラクターが登場して、こんなところが他の作品とは違いますといった自己紹介的な作りです。ただし、ちゃんと“表と裏”を感じられる仕掛けが用意されているので、楽しみにしていてください。

山川:演出面では、オープニングアニメのお約束的な展開を意図的に入れています。私がひねったものがあまり好きじゃないのと、松山さんから「王道でいきます!」というお話を伺っていたのでそうしました。

松山:“王道”はキーワードになっていましたよね。オープニングは、特にその雰囲気が強いと思います。でも物語が進んでいくと、ユーザーの皆さんは違和感を抱き始めると思いますよ。「ひょっとして、この作品はただの王道とは違うんじゃないか?」と。


●古きよき時代のアニメの雰囲気を持つ『ソラトロボ』

【『ソラトロボ』インタビューVol.3】

――本格的なSF作品であるということも、本作の二重構造に深くかかわる部分だと思います。山川監督は、SF作品はお好きでしょうか?

山川:私の先輩たちは「SFとはな~」と強くこだわる方が多いので、「好きです!」と大声では言いにくいですね(笑)。個人的には“少し不思議”くらいがいいかなと。子どものころにロボットアニメのオープニングを見て、ワクワクした気持ちは今でも覚えてますよ。

松山:わかります。オープニングを見ただけで、テンションが上がる作品ってありますよね。

山川:そういうSF作品は、今では少なくなってしまいましたね。でも『ソラトロボ』には、そんな昔のアニメが持っていた“雰囲気”があるんですよ。最近は子ども向けでない感じの作品が多くなってきているので、クリエイターの中には「懐かしいアニメが持っていたものを子どもたちに伝えなければ!」と思っている人も多いと思うんです。そんな時に『ソラトロボ』が出てきたので、「まだ大丈夫かもしれない」と思いました。そういうワケで、松山さんはこれからも頑張ってください。

松山:いやいや、山川監督も作りましょうよ(笑)。

山川:いや、私の立場はフリーですから、作品に愛情は込められても、松山さんのように何百人のスタッフを預かって命をかけるところまでは……。

松山:たしかに私はスタッフを食べさせなきゃいけませんけど、フリーだって個人事業主じゃないですか。生きるも死ぬも自分次第というか。

山川:でも、覚悟の違いはありますよ。アニメーターは強く作家性を求められる職業ではありませんし、こういう作品を作りたいという気持ちがあっても、多勢に流されていく気質なんです。とはいえ、最近はアニメの作画は絵柄がまとめられる傾向にありますが、個人的にはカットごとに顔が変わってもいいと考えています。

松山:たしかに昔のアニメは、放送回によって絵柄がバラバラの作品も多かったですね。CMの前後で、絵柄が全然違うというのもありましたし。

山川:「今日の作画担当はあの人だ、かっこいい!」という楽しさを味わえましたね。ただし、作品を売る側の人間からすれば、絵がバラバラだと困るでしょうから、そうは言っていられません。でも、作家性を抑える最近の傾向の中でも、ファンから見るとどうも描いた人間の持つ匂いっていうのは出ちゃうものらしいんですよ。以前、私が描くほうを担当した作品で、監督が目指す雰囲気に合わせて絵を描いたつもりだったのに「あなたらしいね」と言われたことがありますし。でき上がった作品を通してにじみ出てくる何かが、アニメーターの作家性といえるのかもしれないですね。

――話は変わりまして、山川さんがこれまでにプレイされたゲームで、特に印象深いものはありますか?

山川:ドリームキャストで発売された『機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で…』は印象に残っています。オープニングをイラストレーターの小林源文さんが監修した作品なのですが、そこでプロのカメラマンが撮った戦争写真を使っていまして、本当にかっこよかったです。このオープニング映像によって、テロップを流して言葉で説明するよりも、作品のテーマが深くプレイヤーに伝わっていたと思います。あと、ゲーム中ではスペックの都合で3Dのマップのすべてを描写できていませんでしたが、それを「だったら見せなければいい」と、発想を逆転させて、視界の端を砂嵐で表現したところもすごかったです。今の技術なら、かなり遠くまでフィールドを描くことができますが、実際には「そこまで描いてどうするの?」というケースもありますし。

松山:“足し算”ばかりが正解ではないですよね。昔のゲーム機は表現に制限が多かったですが、制限があったからこそ生まれた素晴らしい表現もありました。

山川:決められたワクの中できっちりと作り込めるのが日本人のすごさです。そういう意味で、DSやPSPなどの携帯型ゲーム機は、開発側にとってもプレイする側にとっても、日本人に向いているハードかもしれませんね。


●社長とアニメ監督……違う立場の2人が語る仕事のポリシー

【『ソラトロボ』インタビューVol.3】

――作品作りにおいて、お2人が常に心がけていることやこだわりを教えてください。

松山:何も知らずに作品をプレイしたり見たりした人が、迷わずに「この雰囲気はサイバーコネクトツーだよね」と言えるものを生み出すことがテーマです。それはつまり、自分たちで考えた“誰にも似ていない替わりの利かない存在”を生むということですね。

山川:実は、私は若いときに「あんたの替わりは、いくらでもいる」って言われたことがありまして……。

松山:そんなひどいことを言われたんですか?

山川:ええ。でもこれは言い換えると、“やると言ったことは責任を持ってやりとげなければ以降の仕事がなくなる”ということであり、“ちゃんと完成させることが第一”ということなんです。私たちは、たとえるなら“松山さんたちが作ったオリジナルの設定を素材にして、アニメという料理を作る下町の定食屋”なんですよ。松山さんが中華風にして欲しいと言えば中華を、和食がいいと言えば和食を作る。そこで私がヘタに作家性を出して「和食だけどイタリアンのテイストを……」なんて言いだしたら仕事が終わりませんからね。そして残念ながら、設定や原作をすべてアニメで表現することは、なかなかできません。そのぶん、松山さんが何を描きたいかを一生懸命考えて、シーンをチョイスします。よくアニメ制作の現場では、「脚本と映像で印象がずいぶん変わった」という話を聞きますが、実は文字面、絵コンテ面、フィルム面と、どの制作過程においても印象は変わっているんです。その中で、いかに企画の原点をブレさせずに表現するかを考えて作っています。そこに、まれに自分の好みも入れますけどね。大変だけど、楽しい仕事です。

松山:確かに、アニメ監督が料理人というのは的を射ていますね。『ソラトロボ』の場合は、サイバーコネクトツーのある博多から、“ロボ”や“浮遊大陸”といった数多くの素材を私が運んできたわけで。それを監督に料理してもらって「うん、ウマイ!」と味わえるアニメーションができ上がったといえますね。

――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

山川:ぜひ、発売を楽しみにお待ちください。まだ作品をプレイしていないので全容を語ることはできませんが、私自身も楽しみにしています。

松山:オープニングアニメはとてもクオリティが高く、世界観を十分に感じられる内容になっています。本作が発売されて皆さんが遊べる日が来たら、プレイする前に毎回このオープニングを見て、いい感じに世界観に酔ってから本編を遊んでもらいたいです!

→結城信輝氏にキャラクターデザインについて聞く、Vol.4は10月25日掲載!

(C)2010 NBGI

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