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2010年11月2日(火)

【『ソラトロボ』インタビューVol.7】世界を構築した3人の愛情

文:電撃オンライン

『電撃ゲームス』

 バンダイナムコゲームスから10月28日に発売されたDS用ソフト『Solatorobo それからCODAへ(以下、ソラトロボ)』。『電撃ゲームス』(アスキー・メディアワークス刊)に掲載された、本作の連載インタビューを電撃オンラインでお届け。連載の最後となるVol.7では、松山洋氏に加え、世界構想の中心となったディレクターの磯部孝幸氏、設定イラストを担当した岡部寛正氏にインタビュー。『ソラトロボ』の構想段階からかかわるメンバーだからこそ語れる開発秘話をたっぷりと伺った。

※インタビューの文章は『電撃ゲームス』10月15日発売号で掲載した内容に一部修正を加えたもの。インタビュー中の名前は敬称略。

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【『ソラトロボ』インタビューVol.7】

エグゼクティブディレクター
松山洋氏(写真左)
 サイバーコネクトツーの代表取締役。磯部氏、岡部氏とともに、本作の奥深い世界を作り上げた。

ディレクター
磯部孝幸氏(写真中央)
 システムやシナリオチェックなど、あらゆる作業にかかわる。またイメージスケッチ全般も担当。

美術設定
岡部寛正氏(写真右)
 “犬丸”の名義で背景やモンスターの設定イラストを担当。世界構築にも初期から携わっている。


●世界を生み出した3人は集まるべくして集まった

【『ソラトロボ』インタビューVol.7】

――『ソラトロボ』の設定は、松山さん、磯部さん、岡部さんの3人で練られていったそうですね。どのような経緯で、このメンバーが集まったのでしょうか?

松山:私と磯部は弊社創設時からのメンバーで、処女作の『テイルコンチェルト』からかかわってきました。そしてその作品で考えた“リトルテイルブロンクス”という世界観を長年温め続けてきたんです。岡部は、その時のスタッフではないのですが、弊社への入社を志望した理由が「『テイルコンチェルト』の世界観が好きだから」だったんですよ。それなら参考として作品を見てみようと、彼の運営しているWebサイトをチェックしたら、そこに掲載されていたマンガの登場人物がほとんど“イヌヒト”だったんです! それを見て、「この人はウチの会社に入るべき人間だ」と直感的に思い、すぐに入社してもらいました。でも、その面接の時には、『ソラトロボ』はプロジェクトの呼称すら決まっていませんでした。彼には、面接時にいつか本作を作りましょうと少し話をしたのですが。

岡部:確かに、面接の時にその話をされました。でもその時は、まだ制作が正式に決まってない段階でしたから、設定を考え始めていることは他のスタッフにはまだ言えませんでした。よく仕事終わりに松山から呼び出されて、設定を練るための会議に内緒で連れていかれたものです(笑)。

松山:そうそう。「ちょっと、こっちにおいで~」って、周りに気づかれないように手招きして(笑)。その当時は、主に『ソラトロボ』の設定の作り込みをほかのゲーム制作と並行して進めていました。

磯部:そんな経緯があったので、設定を考えるのはもっぱら通常業務の終了後でしたね。でも岡部が加わる以前から、私と松山で作品のアイデアを出し合ったり、イメージスケッチを描いてみたりと、少しずつ準備は始めていました。

――本作のキーワードである“起源(ルーツ)”や“本格的SF世界”というのも、皆さんで話し合う中で生まれたものなのでしょうか?

磯部:それは、岡部が加わる前からある程度決まっていましたね。その時から「キレイなだけの世界にしたくない」という想いがずっとありました。

松山:しかし作品のテーマが重いと、第一印象がきつくなってしまう可能性があります。ですから、入口はソフトにしつつ、プレイし始めるとどんどん続きが知りたくなるようなものにしたい……と考えました。

磯部:それで、ソフトな導入の第1部、ハードな展開が待ち受ける第2部という2部構成にしたんです。具体的には、第1部はわかりやすく王道な展開で、“表”にあたる部分。第2部は主人公が自分の生まれた理由や、世界の根本にかかわっていく“裏”にあたる部分になります。この2つの要素が噛み合って、1つのダイナミックなストーリーに仕上がっていると思いますよ。

松山:ストーリーはもちろんですが、それ以外のあらゆるものに裏付けとなる設定を作っていったので、最終的に設定は膨大な量になってしまいました。

磯部:設定が増えていったのは、すべての物事に“表と裏の部分”を作ったからです。それに、自分たちで作った設定に対して、「この設定は何故こうなったのか?」という疑問を投げかけて、それを解決するための補足設定を作っていったから、というのもありますね。こうして、設定のボリュームが膨らんでいったんです。

松山:『ソラトロボ』を唯一無二の個性を持った作品にするには、そうやってひたすら練り込むことが重要だと思ったんです。そうやって、“すべての設定に必ず意味がある”という奥深い世界を作っていきました。

岡部:そんな風に作業していたら、最終的には世界の歴史を4,000年もさかのぼって設定を作っていましたね。

磯部:そうそう。「シェパルド共和国には、ある理由で過去に大きな戦争が2回は起きているはずだ!」という話が出たので、それから年表もしっかり作っていって。その時に、イヌヒトでありながら呪術的な能力を持つオオカミ族など、ゲームには出てこないであろう設定も副産物的に生まれていきました。歴史の他にも、「映画館では映画を見られるようにしよう!」という案もあがってきて、そのための映写機の詳細を考えたりもしましたよね。ただ、どちらも残念ながらゲーム中には反映できませんでしたが……。

松山:他にも「シェパルド共和国のもとになっているのは現実のフランスなのに、なぜ浮遊大陸となっているのか?」とか「同じ国なのに、島ごとに季節が違うのはどうして?」といった疑問を解決するようなアイデアも入れ込んでいきました。このように、設定のアイデアは特に縛りを作らずに出しています。でも、本作のようなオリジナルの世界は、なんでもアリにしてしまうととたんにおもしろくなくなるんですね。それを避けるためにも、作品内で矛盾が発生しないように徹底しています。

【『ソラトロボ』インタビューVol.7】

――なるほど。そうやって決められた設定を、岡部さんがイラストにまとめていったのですか?

岡部:それは、ものによりけりですね。他の人が描いたイラストをチェックしてそのまま使うこともありますし、私が手直しすることもあります。

松山:仕上がったイラストを見ると、たまに「ここに描かれているモノには何か意味があるの?」というちょっとした疑問がわくことがあるんですよ。そういったモノの中には、岡部自身も答えられないような思いつきのネタもあるわけでして。そうなると、その場でまた新たに設定を練り直すことになるんですよ。これは大変でしょう(笑)。描く側にしてみたら、後で描き直すことわかっているイラストを提出するのは、気持ち的にキツいものがあったんじゃないかと思います。

岡部:でも、修正を入れてもらうたびに、確実にいい絵に仕上がっていくのが感じられたので、私はこのチェック工程が当たり前のことだと思っていました。ですから、キツイとかつらいという気持ちはまったくなかったですね。ずっと、楽しんで描かせてもらいました。

松山:こうして“イラストから決められた設定”が、世界にぴったりとハマっていくのは……本当に気持ちよかったですね。これは磯部と岡部の2人の筆が早いからこそできた方法だと思います。

【『ソラトロボ』インタビューVol.7】

――磯部さんはイラストレーターの“WAKA”としてだけではなく、ディレクターとしても開発の中心となっていますが、そちらの作業で大変だったことは?

磯部:イラスト制作時のエピソードに似ているのですが、ゲームのステージやシナリオが仕上がるたびに、設定を更新したり補足したりする必要が出てくるんですよ。本作では、それぞれ特色のあるステージでユーザーに遊んでもらいたいという意図があって、冒険中に訪れる島のシチュエーションをまったく違うものにしています。たとえば、ある島のテーマを海にしようということになったら、“魚”が必要になるでしょう。そこで、浮島世界ならではのアレンジとして“空魚”という生物をデザインして、その設定も新たに考える……といった感じです。こんな風にして、ステージやシステムができるたびに、新たな設定が増えていきました。

松山:ゲームの制作を開始する前にたっぷり1年かけて大量に設定を作り込んだのに、実際にシステムを作ってみたら、その設定が足りない状態になったね(笑)。

磯部:当然、私たち3人が作った初期設定をベースにして世界を構築しているのですが、ゲームデザイナーの自分としては、やはり「ユーザーの皆さんにはこういう遊びを楽しんでもらいたい」というところが出てくるんですよ。それを成り立たせるために、また新規の設定が必要になってくるわけです。しかも、突発的に出たアイデアに対して、即対応しないといけなくて……。大変だったぶん、開発チームが手分けすることになり、一致団結して開発にあたることができましたが。チームの団結力や、モチベーションの高さは本当にすごかったですね。


●サイバーコネクトツーにケモノキャラが多いのは磯部氏と岡部氏のせい?

【『ソラトロボ』インタビューVol.7】

――磯部さんと岡部さんは、やはり本作に数多く登場する“ケモノのキャラクター”はお好きなのですか?

磯部:特に“ケモノ”という言葉は意識したことはないんですが、たぶん小学5年生くらいから好きでした。

岡部:まあ、私たちが子どものころは、ケモノが出てくるアニメがたくさんありましたからね。

磯部:私は考えごとをする時に、落書きをするクセがあるんですけど、その落書きはいつもケモノのキャラクターになってしまっていますね……。なんというか、悩むことなく手が動いて、ケモノを描いていくんですよね。もう、これは生まれる前から刷り込まれていたとしか思えないです。

岡部:先ほど話題にあがりましたが、私もWebサイトでケモノの漫画を描いていました。

松山:弊社の作品にケモノのキャラクターがよく登場するのは、この磯部と岡部のせいですね(笑)。

岡部:ただ、私の場合はケモノが好きというよりも“獣人”が出てくる世界観が好きなんですよ。ですから、パターンの引き出しがあまりないんです。おじさんやおばさん、あとは子どもくらいしか描けません。磯部みたいなキャッチーなイラストを描くのは難しいでしょうね。どちらかというと、キャラクターを描くよりは、街並みを考えたり、人々の生活模様を考えたりといった世界全体を掘り下げていくほうが得意ですね。

――お気に入りのキャラクターを教えてください。

松山:私は“熱血バカ”が好きなので、レッドですね。

磯部:私はエルですかね。サブキャラクターでいいなら、あるクエストに登場する新人君かな。この子もおバカでいいですよ。もちろん、本作のメインキャラクターは大好きだし、思い入れは強いです。でも、それに負けないくらいサブキャラクターもおもしろいものが作れたと思います。あくまでストーリーの脇役ですが、性格も外見も個性的なヤツが多いですよ。

岡部:私が好きなキャラもサブキャラクターですね。レッドにいろいろ指令を出すゲべックというオッチャン。

松山:オヤジキャラ押しだねぇ(笑)。

岡部:私は、物語には“ちゃんと子どもを導く大人”が必要だと思うんですよ。『ソラトロボ』ではゲべックがその役割で、一見するとちゃらんぽらんに見えるけど、ちゃんと大人のやるべきことを果たしているような人物です。少しだけですが、彼はレッドの親とか兄貴分に近いような存在かなと思ってます。最近のゲームのストーリーには、子どもの主人公がいつの間にか世界を救ってしまって、「大人たちはどこで何をしていたの?」というものがありますよね。『ソラトロボ』はそうではなく、「しっかり子どもを見守って、その成長を促す大人を描きたい」という想いも込められています。ですから、ゲべックのようなキャラの存在は大事だと考えています。

――ケモノのキャラクターと同じく、ロボのデザインもかなり特徴的ですよね。

松山:まず、デザインをするにあたってロボに乗って強くなるだけなら「当たり前すぎるなあ」という思いがありました。銃や剣を使うのなら、主人公自身に戦わせればすんでしまう話ですよね。ですからロボにしかできない“重いものを持ち上げる”や“ミサイルをつかむ”といった生身ではできないギミックをデザインにも盛り込むことに決めました。

磯部:そう決まったら、おのずと腕に特徴のある今のダハーカのデザインにまとまりましたね。

【『ソラトロボ』インタビューVol.7】

――話は変わりますが、本作はハードなSFのストーリーが展開するそうですね。磯部氏と岡部氏が影響を受けたSF作品があれば教えてもらっていいですか?

磯部:私は、アニメの『王立宇宙軍 オネアミスの翼』がすごく心に残っていますね。オリジナルの世界でありながら、歴史、社会、教育の設定が作り込まれているんですよ。この作品を見たら、自分もいつか独自の世界を作って表現しようという思いが芽生えました。その夢を、『ソラトロボ』で叶えることができたわけです。あと、“世界が深く作り込まれているからこそ、ストーリーに説得力が生まれる”ということも、この作品から学んだことの1つですね。

岡部:実は、私が影響を受けたのもこの作品で、まったく同じ意見です。弊社に入社して、磯部とこの作品について語り合った時は「ああ、この人と自分は同じモノを食べて生きてきたんだな」と感じましたね。


●ゲームの見どころとユーザーへのメッセージ

――改めまして、本作で特にユーザーに楽しんでほしい点について教えてください。

磯部:シナリオ的には、やはりストーリーが盛り上がる山場に注目してもらいたいですね。第1部の後半で、エルがレッドに少しずつ心を開いていくエピソードがあるのですが、そこが見どころの1つになります。

岡部:私が好きな部分は、第2部のとある切ないシーンです。ネタばれになるので詳しくは言えないですが、あそこは……何度見ても泣いてしまいますね。

松山:あとは、Wi-Fi通信にて今後配信される予定の追加コンテンツにも力を入れています。数はそれなりに用意していまして、こちらはアクション性よりもストーリー性に力を入れているんですよ。キャラクターの内面を掘り下げたり、ストーリーの後日談を描いたりといった内容になっています。シナリオ担当の野口が本当によく頑張ってくれて、“おまけとは言わせないレベル”の深いエピソードになっています。配信が開始されたら気軽に楽しんでみてもらいたいですね。

――もし、本作の世界観を生かした他の物語を描くとしたら、どんなものが考えられるでしょうか?

磯部:松山がよく「ゲームで世界を平和にしたい」と言うんですが、僕はその考えを素晴らしいと思うんです。だから、子どもたち戦争について考えてもらえるきっかけになるような内容がいいかな。

松山:メッセージ性の強いものを目指すのは確かですね。『ソラトロボ』でもこだわっている“生きること”と“死ぬこと”をちゃんと描いた物語にしたい。いつか大人になる子どもたちに向けた内容になるでしょうね。

――最後に、発売を楽しみにしている読者の皆さんにメッセージをお願いします。

磯部:世界観、ゲームシステム、ストーリーのいずれにおいても、私たちがおもしろいと思ったアイデアを詰め込んでいます。どんな人でもハマれて、好きになってくれるものに仕上がっていると思います。

岡部:この作品は、おじいちゃん、おばあちゃんになっても「おもしろかったな~」と思い出してもらえると思います。本当に、愛を込めていますよ。

松山:いよいよ10月28日にソフトが発売されます。この作品を手に取っていただくきっかけは、イラストだったり、世界観だったりと人それぞれでしょう。でも、きっと遊べば一生手もとに置きたい特別な作品になるはずです。そして買ってくださったユーザーの皆さんが作品を愛し、応援してくだされば、「『ソラトロボ』と同じ世界の別の物語」でもお会いできるんじゃないかなと思います。ぜひ、心ゆくまで楽しんでください!

(C)2010 NBGI

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