2010年11月30日(火)
こんにちは。洋ゲー紹介所“洋鯨亭”のRONです。今回はPS3/Xbox 360のRPG『Fallout: New Vegas(フォールアウト: ニューベガス)(以下、FONV)』の日本版ローカライズについてインタビューを行なったので、その模様をお伝えしますね。
ご存知の方も多いと思いますが、本作の日本語ローカライズを担当しているのはゼニマックス・アジアです。こちらは前作PS3/Xbox 360『Fallout 3』のローカライズも手がけていて、原作の雰囲気をそこなわない翻訳に関しては、前回ご紹介した読者アンケートの回答でも高く評価されていたんですね。
当連載では第21回と第22回にゼネラルマネージャーの高橋さんからお話をうかがっているのですが、今回はさらにローカライズの現場に踏み込んだお話を聞くため、プロデューサーの岩本けいさんにご協力いただきました。
インタビューはかなり長めのお話になってしまったため、今週と来週の2回に分けてお届けします。今週はまず軽めの話題ということで、広告やゲーム序盤についてお届けしましょう。
▲岩本けいプロデューサー。ゼニマックス・アジアでは、ローカライズの作業全般を執り行っています。非常に気さくな方でしたが、お話からローカライズに関して明確なポリシーを持ってらっしゃることがうかがえました。 |
──発売前は、メッセージ性の強い広告がかなり話題になりました。この広告に対する反響はどのようなものでしたか?
岩本さん(以下略):実はあの広告の原案は、前作の頃からあったんです。もともとはあれに近いことをやろうと思っていたんですけど、当時はまだパブリッシャー(販売元)としての“ベセスダ・ソフトワークス”という名前も世間に知られていない状況で、「ここまで強いメッセージを出して、受け入れられるだろうか……」という不安があったんです。そういった理由から、結局この案はお蔵入りになってしまったんですよ。
――なかなか刺激的な内容でしたし、時期を見極める必要があったわけですね。
はい。なので一旦は忘れ去られた案でした。そんな中、今回『FONV』のプロモーションに関する打ち合わせをしていた際に、再びこの広告案が社内で話題に上がったんですね。社内でも、あれは結構いいアイデアだったんじゃないか、という意見が多かったため、今回ようやく日の目を見ることになったんです。
見方によってはかなり過激に映る部分もあるかもしれませんけど、今回は前作をプレイしてくださったユーザーさんがいる分、『Fallout』というシリーズに対する理解の下地はできていたので、やっちゃっても大丈夫だろう! という判断となりました。
▲これが話題となった『FONV』の広告。日本のRPGに対するアンチテーゼとも受け取れる内容が、インターネットを中心に話題となりました。ちなみに、右と左ではメッセージに違いがあります。 |
ただ、この広告の反響に関しては、ちょっと誤解された部分もあったかなと思っています。インターネットの書き込みでは「他社製品をけなすことで自社製品を持ち上げようとする比較広告でしょ?」なんて意見もありましたし。でも、この広告の本当の狙いがとこにあったかと言うと、まず「他社さんとの比較ではなく、ウチのゲームはどうですか?」という疑問を、ユーザーさんに投げかけているわけなんです。ウチのゲームに対して理解を深めていただくために、ああいった内容になっているんですね。
あとは広告なので、もちろん過激なことをやってユーザーさんの目を引くのも重要だと考えていました。ただ、あれでも当初考えていた内容からは抑えた表現になっていたりしますが(苦笑)。
──ということは、当初はあれよりも直接的なメッセージだったんですか?
メッセージというか、最初はもっと暴力的なイメージを与える写真だったんですよ。最終的に使用されたのは色味も明るめでスタイリッシュなものですけど、最初の案では全体的に暗い色調で、人が金網の中に閉じ込められている写真だったんです。イメージ的には、何かに抗議するデモ隊のような感じですね。今回はこれをベースにブラッシュアップして、あのような広告になりました。
写真のメッセージが書かれた板やプラカードは、前のバージョンの名残なんですよ。色々と騒がれてはしまいましたが、結果的にはインターネットではこの広告をコラージュして遊んでくれた人まで現れましたし、話題になったこと自体はよかったなと思っています。
──結果的には成功、ということですね。
はい。僕らは前作の時からなんとか『Fallout』シリーズが持つおもしろさを伝えたくて試行錯誤をしてきたんですが、ありきたりな言葉と画面写真だけではどうしてもすべてを伝えられないんですよね。どれだけ「このゲームは自由度が高いですよ、やれることがいっぱいありますよ」と発信しても、なかなか伝わらないんですよ。なので、だったら今回は少し違うこともやってみよう、と。
特設サイトを作って過激な広告も作れば、誤解でバッシングされてしまう可能性も十分にありえるけども、それを承知した上で展開していこうと考えていました。結果、色々と誤解も生んでしまいましたが、『FONV』を多くの方に広く知ってもらうことができました。たぶん、こういった試みは次回作以降でもやっていくのではないかと思います。
あと、ぶっちゃけて言うと「“某大作RPG”ディスってんのか?」というご意見もかなりいただきましたよ。でも、ウチはそもそもお願いしている流通さんが某大作RPGを作っている会社ですから。もちろん、事前に事情を説明してご快諾はいただいてますので、ご安心ください(笑)。
――せっかくですから、誤解の1つは解いておきましょう(笑)。
──今作では、表現内容が理由でカットされた部分はないとのことですが?
そうですね。人間の身体欠損表現に関しては前作同様ですが、今回は核関連の直接的な表現がないため、日本版でカットされてしまったイベントなどはありません。
──では、CEROの審査もスムーズに?
はい。表現は前作同様なので、「前作と同じです」で問題はありませんでした(笑)。こういった通りのよさを見ると、表現内容に対する日本での考え方は2~3年前と比べるとだいぶ状況が変わってきているな、と感じますね。たとえば、日本の大きなメーカーでもあるSCEさんからもZ区分タイトルが発売されていたりしますし。そういった、洋ゲーを含むレーティングを取り巻く状況の変化もあって、審査がスムーズにいったのではないかと思っています。
──以前よりも、洋ゲーを取り巻く環境のムードが変わっているように思いますか?
そうですね。『Fallout 3』の頃は、まだまだZ区分タイトルは非常に限られた数でしたからね。他社さんからもポツポツと出てきたことで、仲間が増えてきたという印象です(笑)。あと、ユーザーさんがレーティングに対してしっかりと意見を言うようになってきたことも大きいですし、それを議論できるインターネットという場があるというのも大きいですね。これは、レーティングに対する理解が深まってきていると感じています。
──たとえば、昔の雑誌のグラビア写真なんかでも、当時過激だと言われたものが今見るとおとなしめだったりすることがあるじゃないですか。なので、時代によって少しずつその基準や解釈は変わっていくような気はします。
そうですね。私としては変わっていってほしいですし、みんなで「このレーティングは正しい、間違っている」と言えるようになるといいですよね。個人の考えはもとより、国の文化や宗教も違いますから、その違いを理解したうえで、どこまで許容できるかを考えられる機会が増えるといいんじゃないかと思います。それには私たちメーカーも含めて、お互いに話合いできる場や環境をもっともっと整備していく必要があると思いますね。
→次ページでは、ハードコアモードの秘話などを紹介!(2ページ目へ)
Fallout: New Vegas(R)(C) 2010 Bethesda Softworks LLC, a ZeniMax Media company. Bethesda Softworks, ZeniMax and related logos are registered trademarks or trademarks of ZeniMax Media Inc. in the U.S. and/or other countries. Fallout, Fallout: New Vegas and related logos are trademarks or registered trademarks of Bethesda Softworks LLC in the U.S. and/or other countries. Developed in association with Obsidian Entertainment Inc. Obsidian and related logos are trademarks or registered trademarks of Obsidian Entertainment Inc. All Rights Reserved.