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2011年3月10日(木)

話題のMW文庫賞受賞作を書いた浅葉先生&朽葉屋先生&仲町先生がコメント!

文:電撃オンライン

 第17回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”を受賞した『空をサカナが泳ぐ頃』の浅葉なつ先生、『おちゃらけ王』の朽葉屋周太郎先生、『典医の女房』の仲町六絵先生のコメントをお届けしていく。

 『空をサカナが泳ぐ頃』は、出版社で超多忙な毎日を送るうちに、なぜか空を泳ぐサカナが見えるようになってしまった青年が巻き起こす、未来を賭けた大騒動を描いた作品。『おちゃらけ王』は、怠惰な大学生と、彼に用心棒を頼んだ借金まみれの男・魔王との逃亡劇を描いた痛快な青春グラフィティ。そして短編での受賞となった『典医の女房』は、大名に仕える典医の女房にして、病をもたらす物の怪を退治する力を持つ女性・狭霧(さぎり)を主人公にした怪異譚となっている。

MW文庫賞作家コメント MW文庫賞作家コメント
▲『空をサカナが泳ぐ頃』(画像左)と『おちゃらけ王』(画像右)の表紙。
MW文庫賞作家コメント
▲短編の『典医の女房』は、メディアワークス文庫公式サイトにて無料で読めるようになっている。

 では以下に、浅葉先生、朽葉屋先生、仲町先生のコメントを掲載するので、すでに作品を読んだ人も、まだ読んでいない人もぜひご覧いただきたい。

――この作品を書くに至った経緯について、教えてください。

浅葉先生ある日会社でPCを叩いていたらふとひらめいてしまい、そのまま仕事中にプロットを作りました(笑)。全体の流れはわりとあっさりできて、一度書き上げてからキャラクターの機微を何度か書き直しています。スキューバダイビングの経験があるので、それが元になっていると思います。ただ書き上げてから、これがどのジャンルに属するのかさっぱりわからなかったので“おもしろければなんでもあり!”の電撃小説大賞に応募させていただきました。

朽葉屋先生物語的な筋の美しさよりも、文章そのもののおかしさや意外性みたいなものを追いかけたいという思いが最初にありました。実際に書いてみると、冒頭の時点で早くもライトノベルの枠から外れている疑惑が浮上したのですが、電撃小説大賞にはメディアワークス文庫賞があると知っていたので、まあなんとかなるだろうと思い応募しました。

仲町先生きっかけは『雨月物語』の作者・上田秋成に関して原雅子さんが執筆された『江戸の鬼才 上田秋成』(中経出版刊行)という本を読んだことです。町医者だったころに幼い患者を死なせてしまい、秋成もその妻も深く悲しんだという逸話からストーリーを思いつきました。ちなみに、秋成は誤診で患者を死なせたわけではなく、当時の医学では手のほどこしようがない病気だったようです。電撃小説大賞に応募したのは、1次選考を通過すれば評価シートをもらえると知人から聞いたのがきっかけです。ちょうど、作品の方向性やジャンルについて迷っていたころで、プロの編集者から見て自分の作品はどうなのか、どうしても知りたかったのです。

――キャラクター設定について伺います。主人公のキャラクターが生まれた経緯やエピソードなどを教えてください。

浅葉先生空をサカナが泳いでいたら……という設定から入ったので、その不思議な現象についてツッコむ人材が必要でした。なので、まず主人公の役目に“ツッコミ”が入り、ツッコむということはおかしさを指摘するのだから、本人が“常識人”でないといけなくて。でも小説に普通の人を出してもおもしろくないので、その常識人を“演じている”としたら、彼のバックグラウンドには何があるんだろうと考えて生まれました。

朽葉屋先生最初に作ったのは主人公ではなく、その相棒の魔王というキャラクターでした。変人です。その変人に対してツッコミキャラを当てるのでは、ちょっと工夫が足りないというか、普通すぎるので、ここはひとつ“Wボケ”スタイルでいってみよう思い、主人公も非常識な人にしてしまいました。すみませんでした。ただ、そういう大まかな設定はあったものの、細かい性格とか思考パターンなんかは、書きながらつかんでいく感じでした。完全につかんだあたりで物語が終ってしまったので、少し寂しかったような気がします。

仲町先生主人公の原型は、ノートにアイデアを書き連ねているうちにできあがりました。その時点ではまだ舞台は江戸で、“か弱くひかえめで家族思いな、それでいて謎めいた女性”という設定でした。しかし舞台を戦国時代の奈良に変更してプロットを書き始めたとたん、“か弱い”という要素がごっそり抜け落ちました。環境が人を作る、とどこかで聞いたことがありますが、物語の登場人物にもあてはまると思います。

――書いていて楽しかったシーンやお気に入りの場面はどの部分ですか?

浅葉先生藍と山崎が初めてヒノトと出会ったシーンで、藍のツッコミと山崎のどうでもいいことにいちいち反応するボケ――本人はいたって本気ですが――の掛け合いが、書いていておもしろかったです。某新喜劇のノリですね(笑)。あとは、やはり夕暮れの海岸のシーンです。あそこは藍の複雑な心中を表現するのが難しく、自分で作ったくせに「何この男、めっちゃ面倒くさい!」と思っていました(笑)。でも重要なシーンでもあるので、風景の描写とともに書きがいがありました。

朽葉屋先生中盤、朝霞愛理に追いかけられて全力疾走するシーンは、うまく書けたかなと思います。基本的に自分の文章で笑うことはないのですが、このシーンだけは推敲の時にちょっぴり笑いました。でも、書いていて楽しいと思ったシーンはないです。どんなに楽しげなシーンでもサムライのような顔をして書いていたはずです。読者に楽しんでもらうためには、やはり書き手はサムライになるしかないと、そういう気持ちは常に持っています。

仲町先生今思い返すと、どのシーンも書いていて楽しかった気がします。書きたくても言葉が浮かんでこない時や、推敲中に文章の流れが整っていない部分に気づいた時は結構苦しいのですが……。一番ゆったりした気持ちで書けたのは、主人公の少女時代です。

――作品を書くにあたって注意していた点はありますか?

浅葉先生当然ですが、私以外の人が読んで腑(ふ)に落ちるものを書く、ということですね。空を泳いでいるサカナの描写もそうですが、キャラクターがおのおの抱えているトラウマも、なぜ、どうしてそうなったかを読者にきちんと伝わるように書かなければ、ただドタバタしているだけの話になってしまうので。しかし、かといって重くなりすぎないようにも気を付けました。その点で、藍はよく動いてくれたと思います。さっきは面倒くさいとか言ってごめん!

朽葉屋先生とにかく文章のテンポに注意しました。地の文が続く場面は頭の中で音声にして、スムーズに流れているか何十回もチェックしたり、むずかしい熟語は前後の文脈から意味が読み取れるようにしたりと、結構気をつかいました。あとは、極力説明をしないように気を付けました。この作品は読者に対して開きすぎないほうがいいと思ったので、ついつい説明したくなるのをグッとこらえて、読者の想像力を信頼するように心がけました。

仲町先生舞台となった戦国時代の奈良は、興福寺が政治的な権力を、春日社が宗教的に大きな影響力を持っているという特殊な状況にありました。このあたりの事情をわかりやすく説明するよう気を配りました。語り口の中に時代背景を無理なく織り込んでいけるように注意しましたが、やはり読みやすくておもしろい参考文献に出会えたのは大きいです。“説明しながら読者の興味を引く”という点で、一般向けの歴史関連書籍はいいお手本になります。

――目標を教えてください。

浅葉先生私は小さいころからマンガや小説を読んで育ち、それらからもらった知識や感じた心が今でも重要なウェイトを占めています。とても大げさに言えば、それらに救われたと感じることも多々ありました。今作り手の立場に立たせていただくことになって、今度は私が、作品を通して何かを伝えていけたらと思っています。

朽葉屋先生“うまくなりたい”という思いばかりがあって、将来目指すものを考えている余裕はないです。強いて言うなら、もっと壮大な世界を描いてみたい気もするし、逆に、もっとささやかな日常を描いてみたい気もします。いずれにしても、今よりもずっとうまくならなくてはいけないと思っています。

仲町先生“おもしろい作品を書いて、多くの読者を楽しませ続けること”。何はともあれ、これに尽きます。

――アイデアを得るためにやっていることはありますか?

浅葉先生ネットよりTVを見る時間を多くすることです。TVは私の好みにかかわらず、いろいろな情報を一方的に流してくれるので、たまにチャンネルを変えながらつけっぱなしにすると短時間でぼう大な情報を得ることができます。その中で、今まで見向きもしなかったところに目がとまって新しいアイデアが生まれたことが何度かあります。きっかけは新人の女優さんだったり、売れ始めた芸人さんだったり、TV-CMのキャッチコピーだったり、番組に使われたCGだったり。ここだけの話、黒い宝箱ですよ、あれ。

朽葉屋先生『おちゃらけ王』に関して言えば、国語辞典を適当にめくってみて、目についた単語をもとにネタを考えたりしました。あとは、風呂に入って湯船の中で言葉の氾濫(はんらん)を待ったりもしました。そうしていると大体、言葉の氾濫なんか起きず、いつの間にか寝てしまっているので、ストレス解消になります。ストレスが解消されるばかりで物語が進まず、ストレスがたまる! そういうモヤモヤの隙間からアイデアを発見できたらいいのになあと思います。

仲町先生資料を読んで、取材に行って、書こうとする対象への知識と興味を深めるのが第一です。作品について人に話してみるのも効きます。人との何気ない会話で、いいアイデアが浮かぶことはしょっちゅうあります。先に書いたように、ノートに書き連ねていくのもいい方法だと思います。その場合はたいてい、近所のカフェまで出かけていって書きます。動かずにじっと考え込む、というやり方はどうも向いていないようです。

――趣味や、現在ハマっているもの、得意なものなどはなんですか?

浅葉先生ハイドロカルチャーという方法で植物を育てているのですが、去年食べ終わったアボカドの種を水に浸けておいたら発芽したので、そのままハイドロの鉢に移し育てていました。すると思った以上に成長してしまって、もうすぐしたら添え木をしないと自立できないくらいの高さになってしまいました。これはちゃんと土の鉢植えにしてあげないとダメなのかも……。でもそうしたらまた栄養を吸収して伸びるわけで、それならいっそ地植えにしてあげたほうが……うちマンションなんですけどね。どなたか暖かい地方の庭付きの家に住んでる方、引き取ってもらえませんか? あ、植えられるような土地を持っている方でも結構です。

朽葉屋先生朽葉屋周太郎は本当に趣味がなくて困っています。湯船の中で言葉の氾濫を待つとかいうのも、本当は暇だからお湯につかっているだけなのです。お湯につかる、TVを見る、糸ようじで歯の間を掃除する。それ以外には何もやることがない。歯がキレイになったところで別に楽しくもなんともない。どうにかしてください。

仲町先生取材などで知らない町に行って、こまごまとしたものを買うのが好きです。高価な品ではなくて、ほんのささやかなものを。ただし、編集部の帰りに神田の古書店街へ寄る時にはちょっとだけ奮発(ふんぱつ)して高い本を買います。“無駄になるかも?”と思って買った本が、原稿で行き詰まった時の突破口になったことがあるのでなかなかあなどれません。少し前まで、ヘタの横好きで何カ所かのビリヤード場に出入りしていたのですが、最近さぼっているのでブレイクショットすらできなくなっているかもしれません。

――それでは最後に読者にメッセージをお願いします。

浅葉先生まだまだ駆け出しの新人ですが、温かい目で見守っていただけると幸いです。皆さんの“お気に入りの1冊”に加えていただけるよう頑張りますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

朽葉屋先生夏祭りを舞台にして、おかしな人間たちが立ち回る物語です。ファンタジー的な要素もあり、とにかくにぎやかで笑える話に仕上がっていると思います。終始一貫して馬鹿な登場人物たちですが、彼らなりの哲学や意志が、確かにあります。そういったものをくみ取って、なおかつ笑い飛ばしていただけると大変うれしいです。あと、表紙がかなりカッコいいですよ!

仲町先生現在、メディアワークス文庫公式サイトで作品が無料公開されています。どうぞよろしくお願いします。

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データ

▼『空をサカナが泳ぐ頃』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2011年2月25日
■価格:620円(税込)
 
■『空をサカナが泳ぐ頃』の購入はこちら
Amazon.co.jp
▼『おちゃらけ王』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2011年2月25日
■価格:620円(税込)
 
■『おちゃらけ王』の購入はこちら
Amazon.co.jp

※『典医の女房』は、メディアワークス文庫公式サイトにて全文無料公開中。また、本作のその後を書き下ろしで加えた文庫『霧こそ闇の(仮)』は2011年5月25日に刊行予定。

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