News

2011年11月19日(土)

【中澤工さんインタビュー 前編】『ルートダブル』ではテンポのよさと疾走感、緊迫感を重視! 何もしないと10分でバッドエンド!?

文:ごえモン

■テンポのいいシナリオを書くためにひと苦労

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』

――ちなみに、コンペの時の月島さんの作品は、どのような作品だったのでしょうか?

 コンペの時の作品は伝奇モノでした。妖怪が巻き起こした怪事件に巻き込まれ、翻弄(ほんろう)されていく高校生たちの物語です。最初はミステリー的な怪事件から始まるのですが、だんだんと町を揺るがす大事件へと発展していくんです。そこで仲間たちが1人1人とやられていくなかで、自分とヒロインたちが知恵を絞って生き残ろうと奮闘する話です。

 コンペの時のお題というのが、どんなジャンル・内容・長さでもかまわないので“主人公たちを絶望的な状況に追いやること。そしてそこから立ち上がる話”“結末にどんでん返しを入れる”の2点でした。このお題で月島さんから上がってきたのが、これでした。本当に、みんな絶対に死んじゃう! っていうくらい絶望するんです。そして最後には、うわっ!? っとなる驚きが仕掛けられていて、とても丁寧にまとまっていました。2週間という短い期間だったのですが、よくここまでまとめて、エンターテイメントに仕上げたなと関心しました。きっと彼ならば、どんな過酷な題材で、どんなに高いハードルを設定してもやってくれるだろうと思いました。

――実際に脚本を月島さんに書いてもらうことになった後で、中澤さんから“こういうシナリオにしてほしい、ここを注意してほしい”など要求したことはありましたか?

 まず第一に、“テンポのいい話”にしたいと月島さんに話しました。ゲームを始めてから、プレイヤーがすぐにおもしろいと感じてもらえるようなつかみのよさと、プレイを始めてから、“止めどきがわからないようなテンポとスピード感”を出したいと。特に今回は脱出モノ・レスキューモノですので、“緊迫感と、脱出へ向かっていく疾走感”がすごく要求されますから、そいうところをしっかり出していきたいですね、と月島さんと話をしていました。

 このテンポについては、よくしていくために何度も何度も試行錯誤を繰り返しました。とても壮大というかスケールの大きな物語で、表にあるパニックモノとしての話の裏に、謎や隠された真実があります。そこの伏線を入れながら、話を破綻なく進めるためには、前半でいろいろと説明をしたり、おもわせぶりなことを入れたりしないといけません。ですが一番最初はそこに傾倒しすぎて、とてもテンポの悪い話になってしまったんです。後半の展開の準備に振り回された感じがして。なのでテキストを削りつつ、伏線部分に唐突感がないように何度も書き直しました。

――すでにAルート(※6)のかなり詳しいプロットを読ませていただきましたが、確かにものすごいテンポのよさと疾走感でした。次から次へと事件が起こって、山場がいくつもあり、本当に息つく暇もなかったです。

 Aルートにはいろいろと盛り込みましたね。ただ、プロットなのですごくテンポがいいんですが、このプロットを膨らませてシナリオにする時にものすごく苦労しました。

 あのプロットをそのまま膨らませると、やっぱりテンポが悪くなるんですよ。この場面でこんなことをして、ここではこの情報を出して、キャラがこう動いて会話をして……とやっていくと、どんどん肥大化していきます。ひたすら会話と説明が続いていくようなシーンが多々出てきて、非常に苦労しました。特にAルートは、主人公の笠鷺渡瀬が記憶喪失という設定なので。

※6……本作には、レスキュー隊員・笠鷺渡瀬の視点で描かれる事件発生3時間後のA(After)ルートと、なぜか事件に巻き込まれた学生・天川夏彦の事件発生前の6日間の記憶をたどるB(Before)ルートがある。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』

――主人公が記憶喪失で何も知らないとなると、プレイし始めたプレイヤーと同じ状況ですね。

 はい。この記憶喪失というのは物語的にも重要なんですが、主人公を記憶喪失にすることによって、プレイを始めたユーザーが近い立場でゲームに参加できるんです。主人公が知らないことはプレイヤーも知らない。だからキャラクターが次から次へと自然な形でちょっとずつ説明してくれることで、主人公もプレイヤーも理解する、という構図になります。本作ではそんな構図を作りたかったんです。

 なので、渡瀬はなんにも知らないんです。そして状況も非常に特殊です。ラボ(※7)という特殊な研究所に閉じ込められていて、刻一刻と死へのリミットが近づいている……。これをいっぺんに説明してしまうと、ものすごく重たい説明になってしまいます。専門用語もたくさん出てきますしね。

 最初はそこのバランスに苦労して、どのタイミングでどこまで情報を伝えようかと考えました。だけど緊迫感やスピード感を出したいので、とにかく走らせてみたり、説明の途中で爆発を発生させたり、「今はそれどころじゃありません!」とあえてわからないまま引っ張ったり(笑)。

※7……物語の舞台となる研究施設。正式名称は“6th Laboratory of Atomic and Biological Organization”。通常ラボ。国家機密レベルの研究に関わっているとの噂がある。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』

⇒3ページ目では、本作のバッドエンドについて語っていただきました。

(C)イエティ/Regista

データ

関連サイト