2012年7月23日(月)
――評判がいいということで、販売本数はまだまだこれから伸びていきそうですか?
最初6,000本くらいからスタートして、累計でようやく1万本を越えたのですが、期待しているほど伸びていないんです。一番顕著なのが、まだ売れそうなのに、お店があまり追加発注してくれないこと。なので「買おうと思ったけど売ってないからいいや」という皆さんの声をよく見かけます。
そもそも、今のご時世、お店も万が一在庫を抱えてしまうと大きなリスクになるので、慎重になってしまうんでしょうね。業界のいろいろな方に意見を聞くと、「Xbox 360のオリジナルタイトルとしてはかなり健闘したんじゃないか」と言われるので、まあよかったのかなと思っています。
――個人的には、現状の10倍売れていい作品だと思っていますが、消化率はどうだったのでしょう?
かなりいいです。発売初週だけで8割近い消化率でした。つまり、お店が初回で仕入れた分は、ほとんど一気に売り切った感じなんですね。“仕入れて売れない”ということにはならなかったので、ショップの方に迷惑をかけなくてよかったなと思います。
――新しく手に入れるのが難しい状況になってきていますよね。
店頭にはなかなかないみたいですね。もっと売れる商品力はあるはずなので、とても歯がゆい思いをしているところです。
――リピート発注によって、今後の伸びに期待はできるのでしょうか?
リピートについては、随時店舗さんから来ていてメーカー在庫の分でやり取りしている状況です。本当は、それでは追いつかなくて増産するのが理想的なシナリオなのですが、そこには至っていないです。
――6~7月のAVGは豊作なので、それらをプレイしたユーザーが本作に目を向けてくれる可能性もありそうです。
そうですね。6~7月でAVGの発売が集中してしまったことに対して、“お互いが食い合ってしまうかもしれない”と心配していました。でも逆の考え方もありまして、AVGというジャンルはそもそも大変狭い市場なので、普段はAVGをプレイしない人もたくさんいらっしゃいます。ですがAVGがたくさん発売されることで、「AVGっておもしろいのかな?」とか「なんか盛り上がっているな」という印象が生まれ、何かをプレイした後に「他にないのかな?」と『ルートダブル』をプレイしてくれるような流れができることもあります。
実際、『ROBOTICS;NOTES(ロボティクス・ノーツ)』の体験版が配信されることによって、『ルートダブル』の体験版ダウンロード数が増えたんです。なのでマイナスばかりではなく、プラスな面もすごく大きいのかなと。お互いにユーザーをかなり共有していると思いますので、特定の何かではなくて、2本以上プレイするっていう人は多いと思います。
――より多くのプレイヤーに触れてもらうために、移植はされないのでしょうか?
当初から率先して移植する予定は立てておりませんでした。ですが、プレイした人の感想を見ていると、移植してほしいという意見がものすごく多いんです。他のハードでも出ることで友人に勧めやすくなる、もっとこの作品を広めたい、この作品は移植されてしかるべきだ、と。
プレイしていない人から移植してほしいと言われるのは予測していたんです。でもそうではなく、アンケートやTwitter、ブログに書かれたプレイ後の感想に、移植するべき作品、むしろ移植して! という意見がたくさん書かれているんです。
ということで、その是非と時期について検討にかけられているところです。何がベストなのか、意見が分かれることではありますが、様々な事情を鑑みて、結論が出されることかと思います。
――楽しみです。可能なら全機種で出してほしいなと思います。
要望が多数集まったハードには、できるだけ出したいものです。
――ここからはネタバレ部分に触れていこうと思います。まず、ゲームタイトルの意味をすべて教えていただけますか?
まずはメインタイトルの話からしましょうか。“ルートダブル”については発売前から言っていたように、表向きには2つのルートがあるので“ルートダブル”としています。もう1つわかりやすいところをお話すると、本作では“ルートBefore”と“ルートAfter”の2つのルートがあり、その2つをクリアすると“ルートCurrent”と“ルートDouble”へと続きます。
ABCDの4つのルートがあり、最終シナリオが“ルートDouble”であると。これはどういうことかと言うと、純粋に“2人の主人公の視点から見ていく”という意味、それに加えて“気持ちが重なり合っていく”ことを表しています。つまり、まったく価値観の違う9人が心を重ね合わせて難局を乗り越えていく、というニュアンスですね。
これ以降の意味は深読みしていくことでわかってきます。“ルート”には“道のroute”と“平方根のroot”という意味があります。“ダブル”のほうは、アルファベットの“W”と“2つを重ねる”意味を持つ“Double”があります。まずは、“道のroute”と“Double”で、最後に向かうべき結末は1つではなく“道は2つある”という意味ができます。2つの手段があり、そのどちらを選ぶのかと。
▲『ルートダブル』のタイトルロゴ |
――キャッチコピーの“誰かのためにすべてを壊すのか。すべてのために誰かを殺すのか”ですね。
解決のために何かを犠牲にするのなら、あなたはどちらを選ぶのか? 最後に何かを失って、何かを得る。最初の企画書の段階でエンディングを2つ用意するつもりだったんです。製品では、√DグッドAfterと√DグッドBeforeと枝分かれしている結末は、最初から設計思想としてあったんです。
ここまでは結果(After)の部分の“ルート”ですね。もう1つは、原因(Before)のほうの“ルート”──“平方根のroot”です。
――根源を意味する“ルート”ですね。
▲Q(キュウ) |
はい。“根源は2つある”と。いろいろと解釈のしようがあるのですが、今回の事件の根っこには、2つの大きな事件があります。1つは、渡瀬がテロを起こすきっかけとなってしまった16年前の“鹿鳴市同時多発火災”です。これによって多くの犠牲を払い、コミュニケーターに対する人々の考え方が変わったり、Q(キュウ)と呼ばれるテロリストが発生する根源になっている。
もう1つは、9年前に起きた“夏彦と悠里がラボに閉じ込められた事故”です。これによって、夏彦はコミュニケーターとしての強力な能力が覚醒する素養を獲得し、悠里は被検体となってラボで隔離されることになります。また、その事件によってラボはさまざまなセキュリティ関係を見直すことになりますし、夏彦の母の天川美夜子はますます研究にのめり込むようになる。
ある意味、今回の事件はさまざまな重なり合いが原因で発生していて、1つの決定的な何かのせいではありません。その中でも特に大きなターニングポイントが、“16年前と9年前の2つの事件”です。これ以前に“アンドレジーの魔女狩り事件”も起きていますが、企画初期は、この2つの事件を基軸にストーリー設定を詰めていきました。渡瀬と夏彦の立場を決定づけたのは、間違いなくこの2つですしね。
あとは、すべての設定の根幹にある大前提がビヨンド・コミュニケーション(BC)という超能力です。この超能力設定の根底にあるのが、“BC粒子”という作中世界で新たに発見された素粒子の働きによるものですが、この素粒子の働きの一番根っこにあるのが“W粒子”という粒子です。つまり“BCの根底にはWがある”ということになります。
また、深読みと言われたらそれまでですが、今回の事故の根っこには“2人のW”がいます。渡瀬(わたせ)と亘(わたる)です。彼らの身の回りで起きた些細な出来事が、すべての始まりだったのかもしれません。
――電撃オンラインで座談会をした時に、“W”は見ようによっては“2つのVに見える”という話題が出たことがあります。
そもそも『ルートダブル』というゲームタイトルは、今のストーリーになる前から仮のタイトルとしてつけていたものでした。
その時に、「そもそもWにはどんな意味があるのかな?」と考えていました。僕はゲームタイトルをつける時に、まず単語を調べつくしてから話に絡めていくことが多いんです。それでわかったのは、Wというのは英語では“ダブルのU(double U)”なんです。ダブルのUということは、2人のあなた(you)、2人の主人公という意味になります。
2人の主人公を扱うことで、渡瀬である自分と夏彦である自分と、“プレイヤーの立場が2つになる”わけです。2人とも自分なので、自分が2つに引き裂かれてそれが最後に出会い、まったく違う価値観に変わった“あなた”が進むべき道を選ぶことになる。……元々はこれをやりたかったんです。価値観の相違や、人と人とはなかなかわかり合えないものだけど、わかり合うことができるだろうか? という部分は『Myself;Yourself』でやりたくて、でもうまく昇華できなかった部分でした。今回はそのリベンジになったわけですが、やっぱりこういうテーマって“ゲームという媒体にすごくマッチしている”んだと思います。ゲームでは、主人公に徹底的に自分を重ねて感情移入するので、プレイ時にその人になりきるわけですね。
“ある時は渡瀬”に、“ある時は夏彦”になって、それぞれの気持ちが本当にわかってきた時に、どちらが本当の自分で、どちらに味方をすればいいのかわからなくなってくる。そういうことになりやすいと思ったんです。そんなこともあり、なるべく渡瀬と夏彦を対立させて、簡単には相容れない関係にしたかったんですね。渡瀬と夏彦は対極的で、スタート地点や立場が違いますし、能力的な部分に関してもそうです。自分が2つに引き裂かれるという感覚はゲームでしか描けないと元々思っていたので、とにかくいろいろなところを対比させました。渡瀬と夏彦には、いろんな対比関係があるので、興味があれば探してみてください。
――ちょうど2人の年齢も2倍ですよね。
年齢に関しては、ちょっとした数字遊びですね。数字遊びとして9と6がいろいろなところに仕込んであります。
(C)イエティ/Regista
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