2013年3月11日(月)
──BGMだけでなくもちろんボーカル曲の人気も高いですが、作中でも印象的に使われるこれらの詩について、より詳しく教えていただけますか。
土屋:私の作品では毎回言えることなのですが、テーマ曲は、その作品で表現しているコンセプトの根幹を歌詞にして謳っています。この曲に関しては、2分もないくらいの短いものとなっていますが、ファンの皆様によく話題に挙げていただく“ロングVer.”ももちろん存在しています。
今回のボーカルCDでは残念ながら短いまま収録していますが、あえてここで切っています。これにもきちんと意味があるのですが、その意味はまだ明かすことはできません。ただし今後、その意味は必ず明らかにしますし、そして後に続くものなので、ぜひその時を楽しみにしていただければと思います。
制作作業的な面では、基本的にOPはいつも私がメロディを作り、そこへ志方さんにコーラスアレンジと歌唱をしていただく形です。こんな感じでお願いしますと伝えると、世界観を汲んで、コーラスを入れて華やかにしていただけるという感じですね。
志方:物語の中で最初に出てくる詩曲ということで、『アルトネリコ』から続く世界だけど、軸が少し違っているこういう世界だよというのを提示できる最初の場でもあり、すごく緊張して、いくつか案を作って聴いていただいたりもしました。
制作にあたってはアジアの要素、和だったり中華だったり中近東あたりとか、その辺の要素を強くしたいというご要望もいただいていましたし、天文ではなく地文ベースの曲なので、そこを意識して作りました。あとは作中でイオンが詩によって咲かせるのが、花自体が強いイメージを持つ蓮だったので、少し祝詞的な歌詞にしてみたり、どうか咲きますようにと祈るような気持ちを表現しました。
──制作で一番苦労されるのは、そういうイオンの心情的な部分の表現だったりするのでしょうか?
志方:実を言うと、イオン役でとお話をいただいた時には少し戸惑いもありました。『アルトネリコ』の時は強めにいくのが得意なキャラクターにあたることが多かったのですが、イオンちゃんは強いというよりは柔らかい印象が強く、かといって強めにいきすぎるとイオンちゃんらしくない、けれどもやる時はやるというさじ加減が、新しい挑戦という感じでした。
でもよくよくお話を聞いてみると、あとにいけばいくほど、私にお話をいただいた意味合いが強くなってくるというのは感じられました。なので成長する前の頼りないところを表現しつつも、あとで化けるよという片鱗をのぞかせる案配がとても難しかったですね。
──こちらはカノンの詩ですが、そうするとこちらは志方さん“らしい”曲ということになるのでしょうか?
志方:こちらは逆に、謳い手の城南海さんがたゆたうような、おおらかで美しく艶のある声をお持ちなので、曲自体は破壊をもたらすものではありますが、それだけにとどまらず、城さんの持ち味を出せる曲にしたいと思って作っています。あと、他の謳い手さんに曲を提供したのが初めてだったので、失礼があってはいけないなと緊張しました。
カノンは気が強い面もありますが、そうせざるを得ない彼女の気持ちだったり優しさだったり、そういうところが少しクローシェ(『アルトネリコ2』のヒロインの一人)に似ているなぁと作曲しながら思いましたね。なので攻撃的な部分がありつつも、なぜそうしないといけないのかというところをきちんと説明できるように、攻撃的な“急”なシーンと、おおらかで“ゆるやか”な「私はこういう気持ちです」というのを伝えるシーンを同居させたいと考え、ああいう緩急のある曲にしました。
──それであのような曲になっていたのですね。では続いて……タイトルがすでに読みにくいといいますか。
土屋:これは「クェリ イン テ ヒュメ」ですね。『REON-OS』が扱うプログラム言語です。
(※REON-OS…作中に登場するシェルノトロンという、真空管のようなデバイスに搭載されているOS)
志方:謳うほうとしても、とても難しかったですね。この詩を謳う時のイオンは決意をしているけれど、その決意というのはまだ芽生えたばかりのものなんですよね。なので大々的に出すというのはちょっと違う。けれどきっかけは余興の舞台だったとしても、皇女として出場するからには、それなりの覚悟を見せなければいけないという部分で悩みました。
クローシェの決意は、いろいろあったうえでの切羽詰まったような強さがありましたが、イオンの場合は目覚めたばかりのみずみずしい決意であり、あまり強くなりすぎない、でもしっかり表明しないといけないという感じの決意です。
──ネイは『試練編最終幕』などで、いろいろと気になる言動がありましたが。
土屋:そうですね、『ネプトリュード』は……。ええと、ネイがネタバレにつながりやすい難しいキャラなので、なかなか言いにくいのですが(苦笑)。今後にご期待くださいということでお願いします。
──『シェルノサージュ』も発売して10カ月ほど経ちますが、制作していて印象に残っていることなどはありますか?
志方:どんどん曲が増えていってしまうことですね(笑)。「身を削っているなぁ」というのもあるのですが、それよりもこれだけのものを任せていただけているので、自分なりの表現をしてみたいなぁという思いもあります。
──作曲をされるうえで、自分の中で常に心がけていること、軸になっていることなどはありますか?
志方:その作品を愛していらっしゃる方々に満足していただけるようにしたい、という思いが一番にあります。自分ではこういう風に作るかもしれないと思ったとしても、この作品で考えた場合には、その手法ではなくこうしたほうがいいかなというのは、まだまだ至らない部分も多いですが常に心がけています。そういう風に、作品作りの端っこではありますが表現させていただけることによって、自分の活動でも幅が広がるので、すごくありがたいなと思っています。
──これはどちらかというとプレイヤー視点での話になるのですが、『シェルノサージュ』のお気に入りの部分などがあれば教えてください。
志方:『アルトネリコ』の時から「世界観がすごい素敵!」というのがずっと続いていて、背景などを手掛けられている松本秀幸さんのイラストが本当に大好きなんです。制作過程でイラストを先に見せていただくこともあるのですが、毎回新しいイラストが上がるたびにわくわくしながら見て、「あ、こういう曲が合うかな」って思ったりしています(笑)。
──今後、他の作品などでもぜひ活躍していただきたいなと思っているのですが、こういうタイプの音楽を作ってみたいというのはありますか?
志方:民族でガチガチな感じの曲を作ることが多いのですが、たまにフレンチポップみたいな曲もやってみたいなとは思います(笑)。
──それはまた、イメージとはまったく違った方向ですね。
志方:民族系の需要が多いので、なかなか依頼が来ない感じのジャンルですね。あとは自分のラインに近いということでいくと、ホラーな曲などもやりたいなぁと。ドロドロした感じで「こわ~い」みたいな、ひずんで、ゆがんだ感じの曲とかを作ってみたいなぁって思ったりします。
──普段作曲されている時は、自分とはかけ離れたものを作ってみたいというような欲求はあるのでしょうか。
志方:全然違うものを作ってみたいというのは常にありますね。ただ、そういう実験的なことは自分がもっと年齢を重ねたりとか、別の境遇になった時にもできるので、今求めていただけているものがあるのだとしたら、まずはそこをきちんとお返ししたいなと思います。
あとはいろんな作品にかかわらせていただけることによって、自分の中で“好き”がたくさん増えるのがうれしいんですよ。曲を書く時に最初にやることが、その作品に触れさせていただいて、その作品で自分は何が一番好きかというのを明確にすることなんです。この作品のここが好き、このキャラのここが好きという、たくさん“好き”が増えていくってうれしいんですよね。その作品を愛しているユーザーの方に「そうですよね、ここ好きですよね。私もこことか好きなんです」と、音楽で訴えかけていく感じですね。
──サントラには書き下ろしのボーナストラック『煌の砂漠を旅する少年』が収録されていますが、この曲についても詳しく教えていただけますか。
志方:当初は特に書き下ろしとかはない予定だったのですが、どうせならば新しい何かがあれば楽しいのではないかと考えて収録させていただきました。もともとは廃墟のBGMにいいかなと構想していたのですが、そこには別の曲を使ってしまったので、結局使わなかった曲になります。
『シェルノサージュ』はイオンちゃんの心の旅であり、実際に夢世界の中では世界を旅していて、旅のイメージが強くあったので、この曲もすごく旅をイメージした曲になっています。サントラで各地の曲が流れる中、最後に“旅をしてきた”ようなオチがつくといいよねという意図もあります。
──ここまでお話を聞いて、土屋さんがかなり志方さんを信頼してお任せされているなと感じましたが、土屋さんから志方さんへ、今後ここを期待をしているというようなメッセージはありますか。
土屋:これからイオンは、それはもうすごいことになっていくので、「バーーーン!」という感じでお願いします。私は志方さんご自身が「これだ!」という曲を自由に作っていただくのが、誰にとっても一番だと思っているので、迷わず突き進んでください(笑)。
志方:なんだかすごい挑戦状を受け取った気がします(笑)。
──それでは最後に、今回発売されたCDについてひと言いただけますでしょうか。
志方:ボーカルCDは曲がロングバージョンになっていて、私の曲だけでなく、他の方の曲もすごくスケールが大きくなっています。ゲームの中だと限られた時間しか聴けませんが、実はそれだけではないというスケールの大きさを楽しんでいただけるとうれしいです。
サントラのほうは、PS Vitaのゲーム音源だと聞こえない音とかがクリアに聞こえるようになっています。ゲームの音楽そのままを踏襲しつつも、音楽として楽しめるようにリアレンジしましたので、こちらも楽しんでいただけるとうれしいです。
(C)GUST CO.,LTD. 2012
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