2013年5月18日(土)
電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。第77回となる今回は、『失恋探偵ももせ』で第19回電撃小説大賞《電撃文庫MAGAZINE賞》を受賞した岬鷺宮先生のインタビューを掲載する。
▲Nardack先生が描く『失恋探偵ももせ』の表紙イラスト。 |
本作は、叶わぬ恋の謎を紐解く失恋探偵――千代田百瀬(ちよだ ももせ)と、彼女を手伝う野々村九十九(ののむら つくも)の活躍を描いた学園青春“失恋”ミステリ。失恋探偵は、ミステリ研究会の部室を根城にして行われる、学校非公認の探偵活動。恋に破れた人のために失恋の真実を調べる彼らのもとには、それぞれに失恋の悩みを抱えた依頼人(クライアント)たちが訪れて……。
岬先生には、本作のセールスポイントや小説を書く時にこだわっているところなどを語っていただいた。また、電撃文庫 新作紹介ページでは、本作の内容を少しだけ立ち読みできるようになっている。まだ読んでいない人はこちらもあわせてご覧あれ。
――小説を書こうと思ったキッカケはなんですか?
もともと、幼少のころから物語が好きで小説や漫画に親しみながら過ごしてきました。小学校のころには作文の用紙にお話を書き、先生に見せたりしていたような記憶があります……。また、大学に入学したころにはラジオドラマの脚本コンクールに投稿し、最終選考に残ったりもしていたので、お話自体はコンスタントに作り続けていました。
本気で小説を書いてみよう、と思ったのは……たぶん2、3年前だったと思うのですが、明白な“キッカケ”のようなものはなかったんじゃないかな……。動機としては、やっぱり自分が物語に強い影響を受けて育ってきたように、僕も物語で誰かの人生に影響を与えたいと思った、というところですね。
――この作品を書いたキッカケを教えてください。
「次の作品はどういうのを書こうかな……」とアイデアを考えている時に、山下達郎さんの『Kissからはじまるミステリー』という曲を聴いていまして、その中の歌詞“恋はミステリー 人は胸に悲しい謎をかくして生きている”という部分に強い感銘を受けたんです。
「ほんとその通りだよ!!」「恋はミステリーなんだよ!!」と。で、ミステリーに絡めながら、恋愛の機微を書くお話にしたいな、と思ったのがキッカケです。
――受賞を機に変わったことなどありますか?
受賞するまでは知人にどんなお話を書いているかや、そもそもお話を作っていること自体を明かしていませんでした。第19回の受賞作が発表されたあとに家族を含めみんなに報告したので、一番身に染みて感じる変化は“周囲の人と作品の話をすることになった”というところですね。
逆に、普段の生活はまったく変わっていないような気がします。ただひたすら悩みながら書きまくる毎日、という意味で。
――ご自分の作品が書店に並んだご感想を聞かせてください。
同日発売の作品に、僕が以前から愛読させていただいている作家さんの作品がありまして、それが『失恋探偵』と並んで陳列されているのを見た時に「ああ、同じ舞台にあがったのだ」と実感しました。もちろん、私は実力も経験もまだまだな新人なのですが、あこがれの先輩たちと同じように読者の皆さんを楽しませられるよう頑張ろうと、結構リアルに思いました。
――作品の特徴やセールスポイントはどんな部分ですか?
どうなのでしょう……なかなか自分の作ったものを客観的に見られない、というところはあるのですが、“失恋探偵”というテーマ自体がなかなか特徴的なのではないかな、と思います。あとは、各章にそれぞれ出てくるヒロインはいろんなタイプのキャラを用意したので、一冊でいくつもの恋模様を見られるのはなかなかお得なのではないでしょうか。
――なぜ、“失恋”と“探偵”という要素を組み合わせようと考えたのでしょうか? また、物語の始まりを恋愛相談ではなく失恋相談に置いた部分についてもお聞かせいただければ。
まずは、例の山下達郎さんの曲があって“恋愛”“探偵”という軸が決まったのですけれど、恋愛の中でも失恋に的を絞ったのは、失恋こそが恋愛の中でもっとも感情が揺れるドラマチックな場面だと思ったからですね。
というのは表面的な理由で、実際は僕が“失恋”が好きだったからです。これ、いろんなところで語っていまだに誰にも共感してもらえないのですが、好きな人に気持ちを伝えてそれを受け入れてもらえないのって、受け入れてもらえるのの次くらいに幸福なことだと思うのですよ。
だって!! 好きな人が!! 自分の気持ちを知って!! それについて考えてくれるんですよ!! うれしいじゃないですか!!!! ということで、最初は「恋愛探偵にしようかなー」とも思っていたのですが、最終的に“失恋探偵”になりました。
――この作品を書くうえで悩んだところはどこですか?
連作短編やミステリ風味のお話を書くのがまったくの初めてだったので、本当にすべてが手さぐりでした。ヒロインである百瀬のキャラも試行錯誤しましたし、それまで書いてきた作品に比べても、全編本当に悩みぬいて書いた作品だったと思います。その分、評価していただけたのは非常にうれしかったです。
――九十九と百瀬について、2人が生まれたきっかけや2人について思うところをお聞かせください。
まず百瀬、というキャラクターを自分好みに作り上げたうえで、それに対応する形で九十九のキャラクターを設定しました。九十九は最初、女性に慣れたプレイボーイ風にしようかとも思ったのですが、僕自身がプレイボーイの気持ちをまったく想像できなかったので断念しました……。
百瀬、というのはなかなかエキセントリックなキャラになっていますけど、個人的には常識人である九十九よりも百瀬に共感しながら書いていた部分が多かったように思います。その……自分も……あんまり空気とか読めないほうなんで……。
――九十九と百瀬が登場するシーンで、お気に入りのシーンはありますか?
基本的に、後半の真面目なやり取りをしているシーンはすべて好きなんですけど、それ以外だと九十九が百瀬に振り回されているシーンがお気に入りですね。聞き込みの場面ですとか、ケース2の2人で出かける場面ですとか、書いていても非常に楽しかったです。
――発売された文庫には、いくつかのエピソードが収録されています。この中で、一番のお気に入りとその理由を教えてください。
うーん、難しいですけどやはり最終章であるケース4でしょうか。『失恋探偵ももせ』自体、この章を書きたくてスタートさせた側面もあったりしますので。特に九十九と百瀬の“アレ”とか、最後のやり取りはお気に入りです。
――個人的には、矜持ヶ谷さんのエピソードがスパイスが聞いていておもしろいと感じました。あのエピソードを書いたきっかけや狙いがありましたら、教えてください。
恋愛感情が“人の気持ち”である以上、色恋沙汰において本当に仕方のない悲劇が発生してしまうことってあると思うんです。倫理や論理や義理で割り切れない部分が、どうしても出てくると思うので。そして『ももせ』が失恋を扱う作品である以上、そういった悲劇への言及を避けることはできないなと。じゃあ、その悲劇に対して僕らがどうすることができるのか、どう向かい合うのか、ということを読者の方や百瀬たち自身にも考えてもらうためにケース3はああいう内容になりました。
――執筆にかかった期間はどれくらいですか? もっとも書きやすかったエピソードと、書くのに苦労したエピソードは?
執筆自体は2カ月くらいで、推敲も同じくらいかかったでしょうか……。出版が決まってからはさらに2、3カ月推敲したので、半年以上書いていたことになるかもしれません。もっとも書きやすかったエピソードはケース1ですね。これは初期稿からほとんど変わっていません。
逆に、他のエピソードはすべて本当に苦労しました。中でも、ケース2、ケース3は投稿から出版までに全編書き直したりしたので……本当に大変でした。
――執筆中に起きた、印象的なエピソードはありますか?
リアルに失恋しました。本当にありがとうございました。
――アイデアを出したり集中力を高めたりするためにやっていることは?
音楽を聴いたり散歩したりしています。結構アイデアって、降ってくるかこないかみたいなところがあって、努力だけではどうにもならなかったりします(もちろん、努力自体は必須だと思いますが)。で、自分の場合歩いたり音楽を聴いて考え事をしている時に「これは!」というものが浮かぶことが多いので、積極的にそういう場面を作るようにしています。
――高校生くらいの頃に影響を受けた人物・作品は?
かなりスパルタな吹奏楽部に入っていたため、小説を読む時間があまりなく音楽ばかり聴いていました。当時好きだったのはピチカートファイブやノーナリーブス、川本真琴さんなどでしょうか。特に、川本真琴さんは百瀬のキャラづくりにも影響しているように思います。
――今後、どういった作品を発表していきたいですか?
十代の高校生の感情の機微や、悩みを描きつつもコミカルな作品、を書きたいです。
皆さんに楽しんでいただけるよういろいろ趣向を凝らしながらも、何かこう、ちょっと引っかかって考えさせられちゃうような、そんなお話を書ければなと!
――読者へのコメントをお願いいたします。
あれですよ、正直他の受賞者の方たちより遅れての刊行になったんで、皆さんにとって若干僕の印象は薄いんではないかと思うんですよ。「あ、これも受賞作なんだ。大賞のとかと違って、帯も金色じゃねーけど」みたいな。でもですね、本気でいろいろ込めましたので! 楽しんでいただけるよう全力を尽くしましたので、ぜひ一度、読んでみていただければ幸いです!! きっと、キュンキュンしていただけることと思います!!
(C)岬鷺宮/AMW
イラスト:Nardack
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