2013年6月5日(水)
氷川:現在のアニメは、DVDやBDの販売が前提になったこともあり、どうしても完成品だけが語られ、すぐ忘れられることも多くなっています。でも、アニメーションで本当に大事なのは、人の手によって1コマ1コマ積み重ねて作られている、そのプロセスの部分だと思います。
ロケハンの話にしても、撮ってきた写真をそのまま背景画に描き起こしているわけではありません。ロケハンを通じて得られた空気感や雰囲気、それを美術や作画、演出のスタッフ一同がスタジオに持ち帰り、それぞれの感性でもう一度、絵という形にしたものを積み重ねていって、それで初めてシーンが成立するものなんです。この資料集には、絵コンテや原画や美術ボードという担当ごとに分類されて、それぞれの資料がまとめられています。一見バラバラに思える資料を行ったり来たりすることで、すべてのパートがある1つの気持ちでつながっていることも、感じ取れるのではないかと。
▲実際に本編で使用されているシーンと見比べることも。注意してみると、かなり細かい差異があることに気付く。 |
このシーンでこういう構図が選ばれているのはなぜなのか? ここでこの色の光が足されているのは、どういう意味なのか? そうしたことを考えつつ、この資料集を操作していると、自分自身でもう1回映画の奥深くに潜り込んで、探検しているような感じになれるんですね。そして、そこから戻ってきてもう一度見た時に、映画はきっとよりビビッドに見えると思うんです。
ガイドとして掲載されている僕の文章も、あくまで手がかりになることを書くようにしました。何もかも分析しつくすのではなく、「こういうふうに見るとおもしろいのではないか」というヒントや提案なんですね。それぞれの方があれこれ考えながら、このコンテンツの中を行ったり来たりしてもらえれば、この映画を好きになった方なら大量の情報の中から、いつまででも楽しさがくみ取れることと思います。
――その意味では僕らのようなアニメファンだけでなく、アニメ監督やアニメーターを志している若い人たちにも役立ちそうですね。
氷川:ましてやクリエイター志望者なら、自分がアニメ業界に入って何をしたいのかも、少しは見えてくるかもしれませんね。そのつもりはなかった方でも、これを見ているうちに何かできそうだなと、アニメ業界を志すようになったりするとうれしいです。そうして素晴らしいクリエイターが1人でも増えれば、楽しいアニメを見られる確率が高くなるわけですから、究極にはそんなポジティブな連鎖が生まれてほしいです。
――今回、この完全版資料集が作られたことで、今後に向けての手応えがあったと思うのですが、いかがですか?
小菅:弊社としても、せっかく今回実現できたわけですから、可能であれば他の作品でもこうした資料集を作ることができて、“完全版資料集”ラインナップみたいな形で拡充できればいいなと思いますね。紙の書籍とか電子書籍とか、いろんなメディアが存在する中で、現状ではPS3でしか実現できないものだけに、バンダイナムコゲームスだからこそ可能なコンテンツとして、今後も提供していくことができればと思っています。
森貞:僕らSCEとしては、PlayViewの特徴を生かして、素晴らしいコンテンツが増えていくことはうれしいです。PS3ならではのスムーズな操作だとか、実際に触ってもらえることによって初めて伝わる部分もあると思うので、こうした作品が世の中に出ていくことで、皆さんに触ってもらえる機会も増えていけばいいなと思っています。
氷川:今回は手探りだった部分もあると思いますが、「ここまでできるのなら、ぜひこんな風に入れてほしい」という素材は、まだまだあります。僕の解説にしても、ここまでできるということを前提にもっと細かいリンクを指定するなど、新しい原稿の書き方もできると思います。これまでにないアニメガイドの方法論として、触発されることが多かったですね。
あと、個人的に考えたのですが、今回の資料集は単独の商品としても作られていますが、一方ではPlayViewを使った新作アニメの販促ツールなども可能かと思います。新作アニメのプロモーションは、紙のチラシや公式サイト、YouTubeのPV公開など、バラバラなメディアで行われていますが、PlayViewを使って1つの有機的なパッケージとしてまとめた、“動く企画書”的な見せ方もできると思います。これ自身も1つの作品なので、いろんなアニメ会社さんが新作アニメのPlayViewをPlayStation Storeで公開し、見せ方や中身を互いに競い合えば、おもしろい発展もありますよね。
そんなツールができることで、原作のないオリジナルのアニメ企画も、完成品のイメージが伝わりやすくなると思います。PlayViewで興味を覚えたユーザーが、クラウドファンディングで投資するみたいなところまで広がれば、可能性はものすごく大きいと思います。アニメが単なる消費物になると、いずれは畑が痩せてしまうと思うので、こうした新しいコンテンツの見せ方がアニメを生み出す畑を耕すための、いいきっかけになってくれればうれしいですね。
(C)眉村卓・講談社/ねらわれた学園製作委員会
(C)2013 NBGI
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