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2013年7月6日(土)

オタ吸血鬼の妹と気まじめな兄をコミカルに描いた『我が妹(まい)は吸血鬼である』小鹿野君則先生を直撃!【Spot the 電撃文庫】

文:てけおん

 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。第82回となる今回は、『我が妹(まい)は吸血鬼である』を執筆した小鹿野君則先生のインタビューを掲載する。

『我が妹は吸血鬼である』
▲zpolice先生が描く『我が妹は吸血鬼である』の表紙イラスト。

 本作は、オタクな吸血鬼になってしまった妹と、吸血鬼討伐機関に所属する気まじめな兄の姿を描いた地域密着型・庶民的ヴァンパイアストーリーだ。6年前、秩父の渓谷で吸血鬼に襲われ妹を失った笹森総一郎は、それ以来、復讐の鬼となって吸血鬼討伐機関・聖ストア騎士団の一員として戦い漬けの毎日を送っていた。そんなある日、笹森の小さなアパートに届いたダンボール箱。そこから飛び出したのは、なんと吸血鬼となった幼き妹だった!

 吸血鬼を狩る立場にありながら、始まってしまった妹(吸血鬼)との同居生活。しかし彼女は血を見れば卒倒する血液恐怖症、さらにアニメや特撮は実況スレに張り付いて視聴するネット中毒者。日曜の朝は眠い目をこすってSHT(スーパーヒーロータイム)を堪能するオタクな吸血鬼だったのだ……!

 小鹿野先生には、本作のセールスポイントや小説を書く時にこだわっているところなどを語っていただいた。また、電撃文庫 新作紹介ページでは、本作の内容を少しだけ立ち読みできるようになっている。まだ読んでいない人はこちらもあわせてご覧あれ。

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 テレビにて、スズメバチハンターの生活に密着したドキュメンタリーを見まして、これを吸血鬼に変換すればおもしろかろうと考えて、この作品の雛形になる短編ができました。その後、電撃小説大賞に応募しました短編を幸いにも最終選考に残していただいたお陰で、これを長編にしてみようという話になり、結果、元型を留めぬ魔改造が施されて現在の形になった次第です。

――作品の特徴やセールスポイントはどんな部分ですか?

 人間の兄と吸血鬼の妹の視点の変化や、それぞれの悩み。人と吸血鬼が一緒に暮らすことの難しさ。そして、太陽が昇っている時は寝ていなくてはいけない吸血鬼が、日曜日の朝をずっと起きて、朝の7時半から始まる特撮番組を見るのは大変であるということでしょうか。

――作品を書くうえで悩んだところは?

 基本お笑い小説ですので、あまり重くはできないながらも、文庫本1冊分は話を繋いでいかなくてはいけない。そんな話の適度な重さには悩みました。また、ずっと短編ばかり書いていたので、当初は長編の書き方が分からず、苦労いたしました。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 今回、本にさせていただけるというお話を頂いたのが、今年の2月ごろだったと記憶していますので、そこから最終的な形になるまで、だいたい3カ月程度だったと思います。

 ただ、私自身が電撃の最終選考に残ったのが“第17回電撃小説大賞”という時点で、それまでボツった作品数はお察しください。

――執筆中に起きた印象的な出来事はありますか?

 クライマックスの舞台となる正丸トンネルには、二度ほど観察しに行っています。また、作中の取材の為に秩父から群馬へのルートを確認しましたが、少し雪の残っていた時期なので、山道がかなりスリリングでした。はい。

――主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 主人公の笹森総一郎に関しては、度を越した熱血は傍目から見ておもしろく、かつ見ていて気持ちが良いという考えから、現在のような性格になっていました。実際、笹森の全てに対して全力投球する姿勢は、個人的に好ましいです。

 ヒロインである幾夜は、応募作では実年齢25歳、外見年齢8歳程度で、かなりの厭世家にして世捨て人。外見は銀髪赤眼とロリババア趣味のある私の好みを全力で反映しているキャラクターでした。バイキングに行った子どもが「ハンバーグでしょ、カレーでしょ、ピラフに……あ、プリンも!」みたいに、何も考えずに自分の好きな物を詰め込んだような、そういうキャラクターです。

 その後、幾度かのボツによって、世界設定も大きく変わり、ヒロインの名前や設定、年齢等は変化しましたが、性格の基本コンセプトは、そんなに変化していません。実年齢が下がったことで少し性格が幼くなった以外は、前からずっと、あのような感じでした。

 その意味で、笹森幾夜はずっと首尾一貫したキャラクターであったのかもしれません。実際、私の応募作は彼女の描写によって最終選考に残っていたらしいですし、見方によっては、彼女は私の大恩人と言えると思います。なので、我が家の神棚には、イラスト担当であるzpolice氏が描かれた“笹森幾夜の肖像”が飾ってあります――と、流石にそれは冗談ですが、そうしたことをしても良いと思うほど、彼女は思い入れのあるキャラクターです。

――小説を書こうと思ったキッカケは?

 適当な小説モドキは、それなりに昔からずっと書いていましたが、キチンとした作品を書く切っ掛けは、とある小説サイトに投稿したことです。そこで褒められたり、貶されたり、叩かれたり、恥をかいたりと2年か3年ぐらいお世話になりました。そこの読者の方たちは結構な辛口だったこともあり、お陰で大いに上達した気がします。上達した気になっているだけかもしれませんが。

――初の商業作品というところで、その感想は?

 めでてぇ。その一言です。

――小説を書く時に、特にこだわっているところはどこですか?

 生活感のある描写が好きなので、そういう部分はテンポが悪くならない範囲でできるだけ入れたいといつも考えています。 例えば“ティッシュの箱が空になったので、つい手を突っ込んで遊んでしまったのを兄に見られてしどろもどろになる吸血鬼の妹”のような、日常に潜むほのかな萌えは、大切にしていきたいと思います。

――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

 アイディアを出す時、展開に詰まった時は散歩をしています。ポケットにメモ帳を突っ込んで、とにかく歩きます。ひたすら歩きます。最初の20分くらいは雑念が浮かんできますが、散歩開始から1時間程度立つと、一切空の境地に至ります。その状態であれば、かなりいいアイデアが浮かびますし、集中力も高まっています。

――今後、どういった作品を発表していきたいですか?

 この前、散歩中に『隣の席の幼馴染がホルスタインみたいな乳で誘惑し、俺に子作りを迫ってくる』というタイトルの作品が脳裏を過ぎりました。これのヒロインは、ホルスタインみたいなおっぱいの持ち主なので、当然ミノタウロスの女の子です。念のため“ミノタウロス ヒロイン”で検索しましたが、藤子先生の『ミノタウロスの皿』しか出てこなかったので、恐らく女ミノタウロスをヒロインに据えた作品は無いかと思われます(もしもあったら、ごめんなさい。実際、海外のSFあたりだと平然とありそうでちょっと怖いです)。そんな牛頭女萌えという作品。もしもピアノを弾けたなら、きっとそういう作品も発表できる機会があったかもしれません。

 また、ヒロインが自分を石田三成の転生体だと言い張り、主人公を徳川家康の生まれ変わりと断じて、第2次関ヶ原を挑んでくる『俺の東照大権現が幼馴染と関ヶ原』という転生系日常物も考えました。この際、ヒロインは石田三成をまったくほうふつとさせないアホの子で「どうも、私は石田三成の生まれ変わりらしいのです! …………で、石田三成って誰なの?」という始末。そんなだから、古狸のように老獪な主人公に言いくるめられ、あわや夜の関ヶ原状態に――

 と、そんな阿呆な作品を発表できればいいですけれど、絶対にドクターストップがかかるんでしょうねぇ。

――高校生くらいのころに影響を受けた人物・作品は?

 テーブルトークRPGに嵌りこんでいて、その中でも汎用テーブルトークRPGシステムである『GURPS』に、すさまじく入れ込んでいました。これはアメリカのTRPGで、日本製のTRPGに比べて取っ付き難いことから、TRPG仲間には受け入れられず、プレイ自体はできませんでしたが、あらゆるジャンルの作品を再現するという謳い文句は伊達ではなく、そのシンプルながらも完成されたシステムは秀逸の一言で、当時の私は完全に魅了されていました。

 自分の好きな漫画やアニメのサプリメントを自作したり、さまざまなキャラクターの再現を試みたりし、最終的には当時、発売していたルールブックをすべて暗記して、ソラで大抵のキャラクターの再現、あるいは作成ができるまでになっていました。なので『GURPS』のゲームデザイナーであるスティーブ・ジャクソン氏は、キャラクターや設定作りの面における私の師の1人です。

 小説方面では、上遠野浩平先生の『ブギーポップは笑わない』の影響は計り知れないものがあります。高校時代の私はとにかく頭が悪く、饂飩(うどん)と蕎麦(そば)の違いもわからない与太郎でした。だから、字の書いてある小説の類などは“頭が痛くなる”と言ってまったく読まなかったのですが、上遠野先生の小説は、とてもおもしろく「ヤベェ、マジヤベェ」と文字の書いてある本を読む楽しさに本格的に目覚めることができました。

 実際、少し大げさに書いた部分はありますが、小説を全て揃えるのは当然として、その他にも『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のCDやブギーポップのピンズ等のグッズも買っていたあたり、相当なモノです。

――現在注目している作家・作品は?

 文筆家としてのナポレオン・ボナパルトに注目しています。歴史上でも類を見ない規格外の男でありながら、その妻にあてた手紙は「頼むから、もっと長い手紙を送っておくれ。ジョゼフィーヌ」とか「若い愛人と会っているから、私に手紙をくれないのだね」などとなげく様は、1つのコントの域に達しています。とてもおもしろいです。

 いや、兵士への布告とか、将軍への手紙ではかっこいいのですけれど、そうして他ではかっこいいせいで、妻への手紙が際立つというか。実際、とてもおもしろい人だと思うのです、いろいろな意味で。

――今熱中しているものはなんですか?

 極めて私的でありますが、最近始めた麻雀の上達に割と熱意を注いでいます。現状、どうにも防御力が低めなので放銃率の低下を目標に打っていますが、どうにも今一です。上がれそうだとベタオリできず、ついつい回し打ちをして、振り込んでしまうことが多いのです。早く、さらりと御無礼とか言えるぐらいに強くなりたいものです。

――ゲームで熱中しているものがあれば教えてください。

 『Minecraft』と『ArmA2』のMODである『DayZ』は最近プレイしたPCゲームの中で、相当熱中したゲームです。ゲーミングPCがやや不調ということもあって、どちらも現在は休止していますが、ちょっとした切っ掛けがあれば、また猿のようにやり込むことでしょう。

 国産ゲームでは、最近になって『斑鳩』をプレイし始めました。その白と黒で構成される世界は、本当に綺麗で、流石は“世界で一番美しいSTG”だと溜息が出てしまいます。そして、属性の切り替えが上手くできずに凡ミスで落ちて、己のシューターとしての技量のなさに、再度溜息をもらしています。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 吸血鬼になった妹を全力で受け止めようとする吸血鬼狩人の兄と、吸血鬼である現在の自分と人間だった頃の自分の間で揺れる吸血鬼の妹。そんな2人と、それを取り巻く人々、そして吸血鬼達が織り成す、人と吸血鬼のすれ違い日記。お手にとって頂けた人に、少しでも笑いを届けることができれば、こんなに嬉しいことはございません。

(C)小鹿野君則/アスキー・メディアワークス
イラスト:zpolice

データ

▼『我が妹は吸血鬼である』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2013年6月7日
■価格:599円(税込)
 
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