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2015年2月9日(月)

PS3『ヘビーレイン』5周年。折り紙殺人鬼をめぐる傑作ミステリーの思い出(ネタバレなし)【周年連載】

文:ユート

 あの名作の発売から、5年、10年、20年……。そんな名作への感謝を込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として展開中の“周年連載”。連載第17回は、2010年2月18日にSCEから発売されたPS3用ミステリーアドベンチャーゲーム『HEAVY RAIN(ヘビーレイン)-心の軋むとき-』の5周年を記念する思い出コラムをお届けします。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 本作の開発を手がけたのは、フランスのゲーム制作会社“Quantic Dream(クアンティック・ドリーム)”。PS4の技術デモとして公開された『ダークソーサラー』や、2014年にPS3で発売された『BEYOND: Two Souls』を手がけたことでも有名なので、ゲーマーなら一度は耳にしたことがある社名では?

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 そんな実力派スタジオが手がけた『ヘビーレイン』は、独自のエンジンを用いて作られた圧倒的なグラフィックと、会社の創設者でもあるデヴィッド・ケイジ氏が実体験からインスピレーションを得て綴った物語、そしてゲームへの没入感を高める斬新な仕掛けの数々が詰まった傑作となっています。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』 『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

■大切な存在のために、アナタはどれだけのことができますか……?

 自分が本作と出会ったのは、雑誌『電撃PlayStation』での紹介記事の仕事をいただいたからです。アドベンチャーゲームと言えば趣味でギャルゲーかサウンドノベルぐらいしか遊んでいなかったので、なぜ自分が記事を担当することになったのかは謎ですが、それはおいときます(笑)。当時は“Quantic Dream”についてもまったく知らず、「まあ、普通の海外作アドベンチャーゲームなのかな」と思いつつ、情報に目を通していた気がします。

 その考えは甘かった……なんていうと少し大げさですが、資料を読んでいくといろいろとビックリさせられるわけですよ。3年間にわたって起き続けている連続誘拐殺人事件の犯人“折り紙殺人鬼”を4人の主人公の視点で追うというシチュエーション自体は割と普通なんですけど、犯人のターゲットが子どもで、実際に殺されてしまう展開もありうる。しかもその子どもは主人公の1人・イーサンの息子というところが衝撃で……。

 とてもリアルなグラフィックでそんな生々しい展開もあるなんて……。「すげぇショッキングな内容を扱うなぁ……」とかなり驚かされました。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』
『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 その後、どんどんと情報が発表されていったのですが、その内容もすごくて! 誘拐された我が子を救うために奔走するイーサンに対して、犯人からさまざまな課題が出されることになります。その内容は、車に乗って高速道路を逆走してみろだったり、高圧電流が流れている場所を通り抜けてみろだったり、自分の指を切り落としてみろだったり、他人を殺してみろだったり……。もうね……写真と資料を見てるだけで精神がすり減るすり減る(笑)。エグイにも程があるやろ、と。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 この辺は本作が伝えたいことの1つである“大切な存在のためにどれだけのことができるか”って部分にかかわることで、本当に何をしてでも大切な存在を救い出したいか。それとも、そこまでのことはできないのかという、自分の心の“選択”が迫られているわけです。

 たぶんですけど、普通のゲームならなんの躊躇(ちゅうちょ)もなく、ゲームの目的=子どもを救うための選択ができると思います。ただ本作の場合、グラフィックがすごくリアルで、さらに自身をゲーム内の登場人物に投影させるような没入感のある仕掛けが多く用意されているため、本気で迷ってしまうんですよ。

 そりゃ子どもを救いたい……救いたいよ。でも、ここで他人を殺してしまったら……、ここで指を切り落としてしまったら……、なんて、割とマジで考え込んでしまって。ここまでのことをしなくても救い出せるんじゃないか、っていう葛藤が生まれてくるんですよね。自分の選択が結果にどう影響するかは、実際にプレイしてのお楽しみで!

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

■メインストーリーは謎解きが楽しい本格ミステリーが展開

 4人の主人公の中で、イーサンは犯人を捜すというよりも我が子を助けるためにとにかく頑張るというポジションの人物。ここからは、さまざまな方法で犯人を追う、残る3人の主人公であるシェルビー、マディソン、ジェイデンについて紹介していきます。


●シェルビー:折り紙殺人鬼を追う私立探偵

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 シェルビーは元警察官という経歴を持つ私立探偵。過去に折り紙殺人鬼によって子どもを殺された被害者の遺族のもとをまわりつつ、事件を追っていきます。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 犯人が残したと思われる物を回収して事件を追うヒントにしたり、調査で発覚した犯人候補に突撃したりと、独自の調査を頼りに動いているのが特徴です。その行動からいろいろなやっかいごとに遭遇しますが、時には人情で、時にはその腕っ節でと、積み上げてきた経験を生かして切り抜けようと試みます。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』
▲遺族の1人・ローレンと出会い、ともに事件を追うことに。彼女の存在も物語のカギをにぎります。

●マディソン:イーサンに協力する新米の女性新聞記者

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 紅一点のマディソンは、不眠症に悩まされる駆け出しの新聞記者。とある場所でイーサンと出会い、ボロボロになった彼を思いやりつつ、彼女なりの方法で犯人を見つけ出すべく動きます。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 記者だからこその大胆な行動で容疑者や情報源に迫りますが、その行動力が災いして死の危険に直面することも……。また、イーサンとの出会いによって生じる、彼とは別のベクトルでの選択もマディソンの見どころです。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』
▲不眠症の影響で悪夢を見ることも。ショッキングなできごとのすべてが悪夢か、それとも……?

●ジェイデン:プロファイリングと最新捜査ツールを使うFBI捜査官

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 最後のジェイデンは、“折り紙殺人鬼”逮捕のためにFBIから派遣されたバリバリの捜査官。巧みなプロファイリングと最新捜査ツール“ARI”を用いて、地元の警察と連携しつつ犯人を追います。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 “ARI”を使った捜査は彼だけに用意されているシステムで、現場に残された指紋や痕跡などを見つけ出せたり、まるで空間に映像が投影されているようなバーチャル映像を使った犯人捜査が行えたりするのが特徴。犯人確保にもっとも近い人物ですが、同時に死の危険にもっとも近い人物でもあったりします。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』
▲他の主人公とは少し違った捜査を楽しめるのが彼の魅力。また、地元警察との微妙な関係も見どころだったりします。

 この3人にイーサンを加えた4人を主人公として、チャプター形式で物語が進行。4人それぞれの行動から犯人、そして事件の全容へと迫っていく本格的なミステリーアドベンチャーが展開します。

 本作はマルチエンディングなので、すべてが解決するグッドエンドはもちろん、さまざまな形のエンディングも用意されています。その中の1つには、物語中に犯人を追う者が次々と倒れていき、完全犯罪が成立してしまうなんて内容も。その時はイーサンの息子も当然ながら……。

 また、主人公たち以外にも犯人候補となる多くの人物が登場します。ネタバレにかかわるので伏せていますが、主人公たちもいくつもの秘密をかかえています。捜査が実を結び、心に訴えかける選択を乗り越えた後に、あなたは犯人へとたどり着けるか……? 未プレイの人はぜひ遊んでみてください!

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 ちなみに、エンディングにかかわらず犯人は固定ですが、1回クリアして犯人を知ったうえでもう1度楽しむのもオススメです。「この時の行動にはこんな意味があったのか……!」なんて見方ができておもしろいですよ。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

■ゲームに入り込んでしまう没入感を高めるシステムが満載

 本作はアクションゲームのように自分でキャラクターを動かすタイプです。キャラクターを自分で操作して、チャプターごとに用意されている目的を達成していくことがメインになるのですが、その中には没入感を高める多くのシステムが用意されています。

 これはもう、『ヘビーレイン』を遊んだプレイヤーの大半が絶賛する、本作ならではのオンリーワンな魅力です。大げさじゃなく、ゲームでしか味わえない貴重なエクスペリエンスを味わえます。

 代表的なものでいうと、2010年の日本ゲーム大賞の“ゲームデザイナーズ大賞”の初受賞タイトルとして選ばれた要因でもあると思われる、独創的かつ革新的な部分があげられます。本作はチャプターごとに必要なことを“させる”だけではなく、自分の意志で“できる”ことがたくさん用意されているんです。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 例えばですが、誘拐前にイーサンと息子が2人で家にいるシーン。このチャプターの目的は、時間経過を待って夜になったら息子を寝かしつけるだけ。ですがそこにいたるまでに、息子に話しかけてみる、オブジェクトとして置かれているタイムスケジュールに合わせて宿題をやらせる、晩ご飯を作ってあげる、くしゃみをした息子に風邪薬を飲ませてあげる、1人で部屋に閉じこもって感傷にひたるなど……すべてを書こうとするとすごい量になるぐらいのことができるんです。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 さらにいうと、宿題をやらせなかった結果、別のチャプターで“息子が宿題をやっていなくて先生に怒られた”といった発言をするなど、自分の意志に基づいた行動が物語に影響を及ぼすことがあります。それはもちろん、最終的な目的である“折り紙殺人鬼”の判明につながるものもあれば、前述の宿題のように物語に影響しないものまでさまざまです。

 ただ、宿題の例でいうと、自分の行動によって息子が怒られる結果になってしまった……という気持ちがプレイヤーに残ります。宿題をさせていれば、怒られることもなかったのに、と。

 中には物語にまったくつながらないこともあります。先ほどの例で言うと、1人で部屋に閉じこもって感傷にひたることなんかは、その場限りの行動になります。ジュースを飲むこともできますが、それが物語に影響しないシーンも多々あります。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 ですが、物語の本筋にかかわらずとも、“自分の行動によって起こってしまう結果がある”、あるいは“登場人物になりきってなんの意味もない行動が取れる”といった仕掛けが、いつしかゲームに没入してしまうことにつながっていると思うんです。これらの積み重ねが、重大な選択を迫られた時に本気で葛藤してしまうという気持ちにつながるわけですよ。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 ちなみにゲームプレイ中に要求される操作も非常に豊富で、ムービー的なシーンで反射的なボタン入力を求められる、いわゆるQTE(Quick Time Event)的な操作が必要な場面もありつつ、普通に選択肢を選ぶといったアドベンチャーゲームらしい場面もあります。ただ、その際に特徴的なのが、操作キャラの考えを選択肢から選んで“聞ける”ことと、状況に応じて選択肢の表示がぶれていき、時間経過で選択肢自体が減ってしまうこと。

 考えを聞ける機能は、物語に影響しないタイプの要素ですが、ゲーム的な見方で考えると、何をすればよいかのヒントになっている場合もあります。中にはゲーム進行的にはなんの意味もない選択肢もありますが、それはそれで対象の人物の思考を深く知るのに役立つわけです。だから、ついついどうでもいい選択肢も選んで、そのキャラの心の声を聞きたくなっちゃうんですよね。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』
『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 状況に応じて選択肢の表示がブレるという演出は、正直なところ、「うわ、見づれぇ」と思いました(笑)。だって、ひどい時はすさまじいブレ方をするんですもん。ですが、そう思う反面、実際に焦っていたり緊張していたりする状況だと、動揺して考えもまとまらないよな、なんて気持ちにも。よくよく考えると、登場人物の心情を視覚的に現わす効果としてうまく考えてあるなあと感心させられました。

『HEAVY RAIN -心の軋むとき』

 デヴィッド・ケイジ氏が自らの子どもからインスピレーションを受けて作り上げられたと言われる、このタイトル。大人向けの重めな内容ではありますが、これまでにないゲーム体験が味わえるのは間違いないので、もしプレイしたことがない人は、これをきっかけに遊んでみていただけたらなと思います。気軽に遊べる体験版もありますしね。

 また、当時プレイした人も、5年経った今、あらためてプレイすると、以前とは違った何かが得られると思います。自分も5年ぶりに遊び直したところ、当時よりも個々のキャラクターへの感情移入ができたと言いますか、彼らの行動や思想を以前よりは理解できました。

 父と子の関係性など、まだ子どもがいない自分としては本当の意味で実感できない部分もありますが、あらためて『ヘビーレイン』の物語の奥深さを再認識した形ですね。もう5年、10年すると、もっと物語のテーマを深く理解できそうな気がします!

(C)2010 Sony Computer Entertainment Europe. Published by Sony Computer Entertainment Inc. Developed by Quantic Dream. All rights reserved.

データ

▼『HEAVY RAIN -心の軋むとき- 体験版』
■メーカー:SCE
■対応機種:PS3
■ジャンル:AVG
■配信日:2010年4月15日
■価格:無料
 
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