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2017年9月16日(土)

【電撃PS】『ドラゴンクエストXI』が教えてくれたネタバレについての話。山本正美氏コラム全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.645(2017年8月24日発売号)のコラムを全文掲載!

第114回:ネタバレ禁止?

 『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』を遊んでいます! 思えば『ドラゴンクエスト』の発売が1986年。もう30年以上も経つんですねえ……。あの頃僕は高校生でしたが、初代『ドラクエ』を遊んでいなければ、確実にゲーム制作者としての僕は存在しなかった。それほど衝撃的なゲームでした。きっと、同じようなクリエイターは多いのではないかと思います。

 これを書いている時点で、主人公のレベルは39。ぼちぼちクライマックスに向けての流れが見えてきた状態です。今回、3DS版とPS4版があり、さらに3DS版には2Dモードと3Dモードがあるので、遊び始める前はさてどういう感じで遊ぼうかと迷いました。

 結論としては、序盤は昔懐かしい2Dモードで気持ちを高め(はぐれメタルエディションの2DSLLを買って気分も上々)、仲間が集まってからは3Dモードでキャラを理解し、そしてふっかつのじゅもんを駆使し、PS4の美麗グラフィックで映像的補完をする、という進め方で遊んでいます。

 これまでの『ドラクエ』の歴史を、映像面でも振り返りながら実感できるので、我ながらナイスな遊び方だと自負しながら、冒険の旅を続けています。

 そんな感じで『ドラクエXI』ライフを満喫している僕ですが、こないだ会社の開発チームのメンバーで飲みに行った時、ある人にこんなことを言われました。ちょこちょこツイッターで『ドラクエXI』の進捗に関するつぶやきをしていたところ、それを読んだ彼から、「ネタバレ的なことを書くのやめてくださいよ」と言われたのです。

 『ドラクエ』の歴史はネタバレとの戦いの歴史でもあります。当然僕もそれは理解しているので、ツイートもできるだけクリティカルなことは書かない配慮はしていました。しかし彼は、どんな小さなことであっても「その先をイメージしてしまうからイヤなんです……」と言うわけですね。

 クリティカルなネタバレは書いていないと説明しても、「何を知りたくないかは人それぞれなんで」と返ってきます。「自分がクリアするまでSNSをみなければいいのでは?」とも思いますが、なかなかそういうわけにもいきませんよね。プレイする人のその思い入れの強さが、『ドラクエ』シリーズの強みなんだろうな、と感じた瞬間でした。

 思うに、ネタバレを避ける、つまり「知りたくない情報を知らずに済ませる」ことって、これはこれで結構難易度が高いですよね。僕は映画が好きなので、アカデミー賞でどんな作品が何の賞を獲ったかが毎年楽しみなのですが、大抵授賞式って日本時間だと朝10時とかに始まるので、仕事があって生では見られない。

 なので、WOWOWが夜の21時に放送する日本語字幕付きの授賞式まで情報をシャットアウトするのですが、ずいぶん前のアカデミー賞のとき、たまたま夜に一緒に飲んだアランSVPから、「アレが作品賞獲ったね」と聞かされてしまい、ここでかーっ! とがっかりしたことがありました。

 また別の話で、サッカー好きのプロデューサーが、日本代表の試合結果の情報を、やはり頑張ってシャットアウトしていたのに、下北沢の自宅に帰る途中、渋谷駅のスクランブル交差点がお祭り騒ぎになっていて、「ああ、勝ったのか……」と思わず結果を知ってしまった、という話もありました。

 どれだけネットの情報を断ち、直接的な情報源から遠ざかったとしても、ふとした瞬間や状況で、間接的に「知りたくなかった情報を知ってしまう」ということが起こったわけです。これはもうどうしようもない。予期できないから回避もできない。難しい問題ですよね。

 情報発信者のマインドとしては、たとえば映画で言えば、「オチ」の存在がその作品の価値に直結している場合、さすがにそれについて非体験者に伝えるようなことはしてはいけないと思います。映画「シックスセンス」のオチを、あの映画を観ていない人に事前に伝えるなど、もっての他です。

 小説で言えば、僕は綾辻行人さんが大好きなのですが、ミステリーの金字塔「十角館の殺人」のトリックを、読む前の人に伝えるなど、有り得ないことだと思います。何事も薦める際には相当の配慮が必要。なのですが、このネタバレ問題には、個人的に思うところもあります。

 情報発信者として「知りたくない情報を流さない」ことには、当然僕らも配慮は必要だと思います。作品性を毀損するようなことは、同じ制作者としてやってはいけないことだと思うから。ですが、いわゆる制作のプロが、何らかの作品の情報享受者として、完全に消費者と同じ目線で「ネタバレされると楽しみが減るんだよなぁ」とか言っているのを聞くと、それはそれで違うだろ、と思うわけです。

 まず作り手のマインドとして、「ネタバレにビビらないで済むタイミングで誰よりも早く“その情報”を知る努力」をしてほしい、と思うわけですね。なぜなら体験には旬があり、それを逃すと流行り廃りを見極めるクリエイターとしての感度はどんどん落ちていくからです。その努力をしないで、受け手としてネタバレ怖い、ネタバレしている人アウト、とだけ言い募るのは、ただのティピカルユーザーと同じだと思ったり。

 いやあ、『ドラクエ』っていろんなことを教えてくれるなあ。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

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