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2018年9月4日(火)

アークDLチームへのロングインタビュー。ローカライズや予算管理、『サバクのネズミ団!』開発秘話に迫る

文:kbj

 さまざまなタイトルを手がけるアークシステムワークスのダウンロードチーム。その開発メンバーへのインタビューを掲載する。

 アークシステムワークスは格闘ゲームの他に、アクションゲーム、アドベンチャーゲームなど、さまざまなタイトルを開発している。さらに、ダウンロードタイトルとして、安価で購入できるものや、しっかりと遊べるものまで、多数のダウンロードタイトルをリリースしている。

 今回、商品開発部2課の島田聡さん、山田久太さん、ゼック・タンさんに、ダウンロードタイトルの作り方や苦労している点などをお聞きした。『サバクのネズミ団!』や『斬!斬!斬!』など話題のタイトルについてだけでなく、予算や開発のやり方など踏み込んだこともお話いただいているので、ぜひチェックしてほしい。

インタビュー

 なお、インタビュー中は敬称略。このインタビューは2018年6月末に行われている。

●商品開発部2課 課長・プロデューサー 島田聡さん(写真中央)
●プランナー 山田久太さん(写真左)
●ローカライズスペシャリスト ゼック・タンさん(写真右)

ダウンロードチームの生い立ちやメンバーについて紹介

――今日はお時間いただき、ありがとうございます。

島田:よろしくお願いいたします。まず最初に、我々が何をしているのかを説明したいと思います。

 弊社の商品開発部には4課あります。1課は格闘チームで格闘ゲーム全般をやっていて、2課が我々ダウンロードチームです。3課は『くにおくん』や『神宮寺』など、テクノスジャパン版権タイトルやその他いろいろな協業タイトルをやっています。そして4課は格闘ゲーム以外の社内開発チーム。3課もダウンロードタイトルを開発しているのですが、うちのチームが一番多くやっていますね。

 そもそもダウンロードチームはずっと存在していたのですが、課分けされていない状況でした。そんな中で、人数、タイトル数が増えてきたために課としてわけることになりました。

――島田さんはいつごろから課長になられたのですか?

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島田:僕はずっとチームリーダーをやっていましたが、課になる際に課長のような役職が付きましたが、仕事の内容はあまり変わっていませんね。

――課の人数はどれくらいいらっしゃるのですか?

島田:社員以外の方も含めると、ダウンロードチームは18人くらいです。ただ……うちのチームは人数の増減がよくあるんですね。

 例えば格闘ゲームを長く作っていた人が、ダウンロードチームにきて小規模タイトルを作ってみたり、新卒メンバーをうちのチームに入れて、ゲーム開発や仕事をある程度覚えたら、他のチームに移っていったりとか……。特に大きい1課のチームに移動することが多いですね。

――『ファンタジーヒーロー』のインタビューで、外部から入れられた方を会社に慣らすとか、ちょっとした企画をテストケースで走らせてみるとか、そういうテストケースもあると聞いたのですが……。

島田:そういうケースもあります。なお、ダウンロードチーム自体は、大きく何回か代替わりしていまして現在3代目のリーダーのような感じです。最初のリーダーから現在フライハイワークスを率いる黄さんになって、その次に僕がリーダーになっています。

――では、それぞれの役割、自己紹介をお願いします。

島田:僕はチーム全体のタイトルを管理していて、おおむねプロデューサーをしています。

――これまでにどんなタイトルにかかわられていますか?

島田:弊社から出ているダウンロードタイトルすべてではないですけど、大半のタイトルを僕が見ています。3DSで98タイトルある中の、80タイトルくらいには携わっているイメージです。とはいえ、ガッツリ開発に参加しているものもあれば、予算の管理や進行のみで他の人に任せているものもあります。

山田:自分は社内開発の実働部隊の1人で、ディレクター、プランナーになります。社内開発のタイトルとしては、『大開拓時代 ~街をつくろう~』とか『ガチャレーシング』、『サバクのネズミ団!』や『ファンタジーヒーロー』などいろいろあるのですが、その中で3DS版『ガチャレーシング』や『サバクのネズミ団!』シリーズを担当しています。

――後ほどお聞きしようと思っていたのですが、「こういうゲームをやりたい」という企画があって動き出すのか、それとも「3DSで新しいタイトルを作りましょう、ダウンロードタイトルを作りましょう」というコンセプトがあったうえで走りだすのですか?

山田:いろいろあるのですが、『ガチャレーシング』は見下ろし型レーシングゲームの企画が浮いていたのを引き受けた流れでした。

インタビュー インタビュー
▲画像は『ガチャレーシング』のもの。

島田:『ガチャレーシング』は、「3DSのタイトルでなにか作ろうよ」と僕と社長で話をしてて、その時に「見下ろし型のレースゲームを作ってみてはどうか」という方針が固まっていました。そこで山田と内容を詰めていき、動き出したタイトルです。

――そういう意味では、社長主導から始まったタイトルですね。

島田:そういうパターンもあります。一方の『サバクのネズミ団!』はまったく別のケース。ダウンロードチームで「皆で新しい企画を考えよう」との企画募集をかけた時がありました。山田から出てきたアイデアの中に『サバクのネズミ団!』があり、いいタイトルだったので立ち上げたという流れです。

――企画を出された時から手ごたえがあった感じですか?

山田:実はそんなになかったです(笑)。企画を10個くらい出したのですが、「これはある程度は支持されるだろう」という候補は何個かあって、その中の1つではありましたが、その程度の印象でした。とはいえ、そこそこの手ごたえを感じつつ、にやつきながら企画書を書いていたと思うのですが。

(一同笑)

島田:ゲームができあがってから最初の企画書を見返したところ、もちろん細かい部分こそ変わっているのですが、ゲームの大筋は変わってなかったです。最初から企画としてよくできていたイメージがあります。山田は社内オリジナルタイトルの開発を行うことが多いです。

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ゼック:私の立ち回りは、どちらかというとローカライザーになります。私自ら起案するものはあまりないのですが、会社全般の翻訳案件について扱っています。主に私ができるのは英語、中国語、日本語で、これらの言語がかかわるタイトルのチェックや発注を行っています。

 最近はどのタイトルも海外に向けて翻訳を行います。そのため、所属は2課になっていますが1課や3課のタイトルにかかわることも多いです。

 あとはレーティング機関への対応もしています。レーティングは北米と欧州でも異なりますし、オーストラリアやブラジルなどそれぞれ特別なルールがある場合もあります。さらに各パブリッシャー、例えばSIEや任天堂に向けての申請の進捗を私が見ています。

島田:1課タイトルであれば、『ブレイブルー』と『ギルティギア』などの大型タイトルのローカライズは、その課が可能な限り行うのですが、それでも英語の部分のサポートをある程度やることはありますし、案件によってはこちらで完全にやる場合もあります。

――ゼックさんの名刺に“ローカライズスペシャリスト”と書いてあるのですが、ご自身がテキストを翻訳されているのでしょうか? 翻訳であがってきたものを確認するのでしょうか?

ゼック:確認がメインです。非常事態は自分でやることもあるのですが、基本的には確認作業がメインとなります。

――現在、“ローカライズスペシャリスト”という肩書の人は何人いらっしゃるのですか?

ゼック:その肩書をつけているのは現在のところ、私1人だけですね。

――他にローカライズを一緒にやられている人は?

ゼック:ローカライズをサポートしてくれているメンバーは数人います。また弊社には韓国にアジア支店があって、そこはそこで独自にやっています。

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島田:うちのチームの特色としては、外国人が多いチームとなっていること。3、4人が外国籍で、英語を話せるのがさらにもう2人ほどいます。英語、中国語ができるメンバーはうちのチームに多く、世界に向けて意識している部分ですね。

 ただ、“スペシャリスト”という言い方が適しているのはゼックだけかなと思います。とはいえ1人ですべてやれるわけではないので、それを支えるスタッフが何人かいます。そのスタッフがゼックの担当のタイトルをいくつか受け持ちつつ、また違うディレクターのタイトルを持っています。

ゼック:もう1つの仕事としては弊社のSteamのタイトルのパブリッシング全般を担当しています。最近だとSteam版『BLAZBLUE CROSS TAG BATTLE(ブレイブルー クロスタッグバトル)』は開発の進捗管理から販売まですべてを担当しました。

――現状Steamは、海外に向けて配信するにはかなり便利である反面、問い合わせを含めた、海外とのやり取りが大変だと思うのですが、いかがでしょう。

ゼック:タイトルを一度ネットワークに置くことで、世界中で遊べるようになります。Steamは北米メインということもあり、問い合わせのほとんどが英語。大変ですが、そちらに対応することが私の仕事になります。

――ゼックさんはもともとどちらの生まれなのでしょうか?

ゼック:私はシンガポールで生まれて、4、5年前に日本に来ました。弊社アークに入社したのがその翌年になります。

――もともとゲーム業界に入られたいと思われていたのでしょうか?

ゼック:はい! そのために日本にきました!!

島田:日本に来たのはゲーム会社に入りたいからで、なんだったらアークに入りたかったという。

ゼック:アハハハ(笑)。恥ずかしながら、弊社のゲームは結構たしなんでいます。

――別に恥ずかしいことではないのでは?

(一同笑)

ゼック:昔はゲーム大会に出ていましたからね(笑)。

島田:ゼックは『ブレイブルー』のシンガポール大会で優勝したらしいです。

ゼック:照れますが、はい、取ったことありました。

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▲画像は『BLAZBLUE CENTRALFICTION(ブレイブルー セントラルフィクション)』のもの。

――日本に来るために日本語を学ばれたのでしょうか?

ゼック:日本語を学んだのはもっと前になります。6歳くらいから来日願望があって、12歳で独学になりますが言葉を学び始めました。

――御社タイトルでは特に『ブレイブルー』を遊ばれていたのですか?

ゼック:どちらかというと『ギルティギア』ですね。『ギルティギア』で格闘ゲームの世界に引き込まれて、その世界に入り浸ることになりました。その後はいろいろあって、『ブレイブルー』を始めました。『ブレイブルー』は本格的に大会に出られるレベルまで腕を磨こうという決意で挑みました。

――初めて来た日本はいかがでしたか?

ゼック:6歳のころに『ファイナルファンタジーVI』を夢中でプレイしました。日本のタイトルをかなりプレイしていたうえに日本の情報も仕入れていたため、カルチャーショックはありませんでした。それでも、ワクワクはしていましたね(笑)。

 現在は文化を含めていろいろと日本について知るようになりました。ただ日本の一般知識は苦手です。県の場所とか歴史とか……戦国時代はゲーム知識で多少はありますが……それくらいですね。

『斬!斬!斬!』ではメーカーの知名度が生きる

――ダウンロードタイトルを手がけるようになった経緯について、教えてください。

島田:以前からPCではネットワークからダウンロードするソフトがありましたし、携帯電話のアプリもダウンロードソフトといえばそうだと思います。

 我々が得意とするコンシューマについて言えば、パッケージタイトルのダウンロード版は以前からありましたが、ダウンロード専売タイトルがスタンダードになったのは、Wiiウェアからだととらえています。Wiiウェアのローンチに配信した『おきらくピンポンWii』から参入し、そこからダウンロードタイトルが本格的にスタートしました。

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▲画像は『おきらくピンポンWii』のもの。

――Wiiウェアは2008年でちょうど10年前のことですね。

島田:当時まだ私はいませんでしたが、聞くところによるとすでに弊社の中で数名のチームがあったそうです。Wiiウェアでは月に1本ペースでソフトを出していき、その後はDSiウェアが始まり、PSPでもダウンロードタイトルが始まりました。

 現状は各ハードごとにいろいろな市場があり、さまざまなタイトルを出しています。SIEハードと任天堂ハードにつきましては、おそらくほとんどのプラットフォームで展開しています。それぞれのハードで立ち上げた経緯は多少異なるのですが、弊社の社長が新たな展開があることを聞き、新しい技術を使った施策をやりたい、おもしろいことをやりたいというような狙いから動き始めて、現在に至っています。

――『おきらく』シリーズはキャラクターモデルをある程度共有化させて、遊びを変えることでタイトルを次々に出していく狙いがあったと思いますが、そこからいろいろなタイトルが生まれてきました。どのような流れから生まれていったのでしょうか?

島田:同じキャラクターでいろんなタイトルを出していくことで、キャラクターモデルや設定を流用でき、コストを浮かすことができます。またシリーズとして発売することで、認知度が出るうえに統一感が生まれていきます。

 Wiiというハードの特性やターゲット層を考えて、カジュアルなユーザーやファミリーユーザー向けて『おきらく』シリーズのキャラクターを生み出しました。しかし、そのようなキャラクターには合わないゲームタイトルやシステムもあります。そのため、『おきらく』シリーズ以外のキャラクターも作っていくことになりました。

――最近では1年間でどれくらいのタイトルを出されているのでしょうか?

島田:ここ1、2年は少し減っていますが、それでも年間で20タイトルくらいは発売しています。さらに全世界ベースで北米版や欧州版などもあわせると、50タイトル近くになります。

 とはいえ、すべてが0から開発しているオリジナルタイトルではなく、海外の開発会社が作ったタイトルをローカライズして発売するケースも多いのですが。

――先日発売された『斬!斬!斬!』もその1つですね。

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島田:そうですね。『斬!斬!斬!』はもともとPCで配信されていたものをローカライズしたうえで、PS4とNintendo Switchに移植して発売しています。そのため、ローカライズと移植作業を行ったタイトルです。

ゼック:あとはデバックも行っています。

――海外タイトルを出す際には、御社からタイトルを見つけて契約を打診されるのでしょうか? それとも先方から「ローカライズしていただけますか?」という依頼があるのでしょうか?

ゼック:移植を行う際には、主にその2つのパターンです。『斬!斬!斬!』は前者で、私がウェブで見つけて、弊社の作風にもマッチしそうだと思って連絡をしました。すると先方からは「アークさんの大ファンなのでぜひ!」という返事がありました。比較的、スムーズに進んでいった案件です。

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▲画像は『斬!斬!斬!』のもの。

――先方が御社を知っていて、スムーズに話が進むことは多いのですか?

ゼック:すべてはないのですが、そういう場合もあります。

島田:弊社を知っているメーカーから「このタイトルを扱ってほしい」と提案されることはあります。あとは、1度お付き合いのあるメーカーから「次にこういうタイトルが控えているのでいかがでしょう」という相談をされることもあります。

――『斬!斬!斬!』でゼックさんがピンときたポイントはどこになりますか?

ゼック:まずは格闘ゲームという部分が大きいですね。弊社のタイトルは“コンボゲー”という意識が強くありますが、このゲームはコンボが一切ないところこそが、おもしろい。コンボ研究をしなくても手軽に楽しめて、対戦する要素を強くアピールできると思い、決めました。

島田:読み合いがすごく大事なゲームで、その駆け引きを楽しめるところでは、うちの格闘ゲームにはない、尖った方向性の格闘ゲームだと感じました。

――反響はいかがでしたか?

ゼック:触っていただいたユーザーからは、ゲーム面は好評です。一部、キャラクター不足などの意見があり、そちらは開発メーカーに打診しています。

 ただ、本作は契約上ライセンスを受け取ってローカライズや移植を行っているに過ぎない……開発は我々ができないことなので、歯がゆさもあります。

島田:各インディーズメーカーはとがって目立つシステムを採用したタイトルを出そうとしていると感じます。弊社内でも、そういうインディーズ的な風潮というか、雰囲気を感じます。

 例えば『サバクのネズミ団!』であれば、莫大なボリュームのゲームは作れないため、世界観とマネージメントのおもしろさを突き詰めて作ろうというコンセプトで挑んでいます。3DS版についてはイベント数やバランスについていろいろとご意見をいただきました。ただ、ゲームの中でやりたかった“骨子”はしっかり作り、それがちゃんと評価されたと捕らえています。

――他に、コンセプトが受けたタイトルや、印象的だったタイトルは?

島田『どぎめぎインリョクちゃん』というダウンロードタイトルですね。ゲームのおもしろさや操作性、ルールが一般的なゲームと比べると少し独特なものに仕上がっています。

 担当したディレクターの中で、いろいろな思惑、目指している方向性がありリリースしたのですが、賛否両論がすごくありました。「ものすごくいい」と言ってくれる人がいれば、「あわない」という人もいて、反響の大きかったタイトルです。このタイトルもダウンロードタイトルという枠組みだからこそできた、あそこに着地したと思っています。

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▲画像は『どぎめぎインリョクちゃん』のもの。

――パッケージだと万人に受けることを想定してしまいがちですが、ダウンロードタイトルであればチャレンジというか、やや一部の人に向けたものも作れると。

島田:そうです。ダウンロードタイトルであるからこそ、“ネタで一発勝負”ではないのですが、ちょっとチャレンジャブルなものを考えて作ることはあります。

ダウンロードタイトルの収支やSteamの結果に迫る

――少し聞きにくいことですが、売れたタイトルと売れていないタイトルがあり、それぞれに目標本数があると思います。10年以上チームが続いているということは収益が出ているからだと思うのですが、タイトル全体を見てバランスはどうなっているのでしょう?

島田:すごく直球な質問ですが(笑)……ここまでやってきているので、収益的にはビジネスとして成り立っています。ただ、ダウンロードゲームの市場はタイトルによって売れるものと売れないものの差がすごく激しい。売れているタイトルに他が支えられているのが実情です。

 とはいえあまり悲観的にはなっていないところがあるのも事実です。

――というのは?

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島田:ここがダウンロードタイトルのいいところでもあり、難しいところでもあるのですが、短期的に見てそこまで売れなかったタイトルでも、何年かかけて動向を探ってみると、地味に少しずつ売れていて、販売本数が積み重なっていき、目標を達成できているタイトルもあります。そういうケースもあるので、一概に判断できない、うまくいかないと言いにくい一面があります。

 また、我々のチームは、積極的にチャレンジをしていく役割を持っているため、売り上げだけではなく、可能性があるタイトルや話題になりそうなタイトルがあれば、やってみる場合があります。例えば大きなプロジェクトを終えた人が思いついた軽めのタイトルを、挑戦させてあげると。

――ここ数年で御社のダウンロードタイトルで印象的だったものがそれぞれにあると思うのですが、どのタイトルになりますか?

ゼック:チームで一番多くの人があげるのは『サバクのネズミ団!』だと思いますね。

山田:そう言ってもらっておいて恐縮ですが、個人的にはアナログゲームからデジタルゲームに移植されたというところを含めて、『シェフィ ―Shephy―』をあげたいです。

島田:もともと、1人用のアナログカードゲームでした。弊社スタッフから「アプリに向いている」という意見があがりました。相談しに行って、アプリ化して発売させていただきました。アナログで形になっているゲームを、あえてデジタル化するやり方はちょっと珍しいことでした。

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▲画像は『シェフィ ―Shephy―-』のもの。

山田:アナログゲームをデジタル化する場合、複数人でプレイするアナログゲームを題材にすることが多いのです。それをデジタル化するとなると、複数人でプレイするために、昨今であればローカルで対戦するだけではなく、ネットワークモードを搭載しなければなりません。

 そうなると、そもそもコストがかかったり、マッチングの問題があったり、1人用モードを搭載すべきか否か、対戦専用のソフトとして売れるのかといった要素がいろいろと出てきます。『シェフィ』はアナログかつ、1人プレイできるゲームだったので、「1人用アナログゲームというジャンルには移植の鉱脈がある!」と思ってすごい印象的でした。

ゼック:私としては、『ギルティギア』と『ブレイブルー』においては“人生を変えたレベル”といっても過言ではないタイトル。それをSteamに移植できたのは印象的ですね。『BLAZBLUE CONTINUUM SHIFT(ブレイブルー コンティニュアムシフト)』で初めて私が担当することになりました。その経験を生かして、『GUILTY GEAR XX ΛCORE PLUS R』を出しました。

山田:Steam版の『アクセントコア プラス アール』からSteam版の特集ページというか、ホームページを弊社で作るようになりましたよね。

ゼック:さらにいえばホームぺージだけではなく、アークシステムワークスというメーカー名で発売するようになったところも反響が大きかったです。

島田:それまでは弊社からではなく、別のパブリッシャーにお願いをして発売してもらう形式をとっていました。『アクセントコア プラス アール』は、弊社がパブリッシャーとなってSteamにソフトを配信することなった最初のソフトで、そこから本格的にStaem参入が始まりました。

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▲画像は『GUILTY GEAR XX ΛCORE PLUS R』のもの。

――Staemに参入されてみて、いかがでしたか?

ゼック:毎日毎日、目の前の作業に追われて追って、追って追われて(苦笑)。

島田:Steamで発売するようになって以降は、海外のユーザーから注目されることが多くなりました。特に参入した直後はSteam市場がすごく活気づいていて、今ほどレッドオーシャン(競争の激しい市場)ではなかったので、売上的な意味でもすごくよかったです。

 また、ずっとコンシューマが多かったので、そういう意味ではPCでソフトを発売する経験は大きく、今も引き続きSteamでコンスタントに発売できるようになった意味はあったと思います。あとは、ユーザーの声がダイレクトに自分たちに来るので、ゲームの開発を含めてすごく参考になっています。

山田:Steamだと『MELTY BLOOD Actress Again Current Code』がすごい盛り上がっていた印象ありますね。

ゼック:『MELTY BLOOD』はずっと昔から浸透していたので、あのタイトルにかかわれたことも感慨深いです。サプライズで一気に5つのタイトルを年内に配信する発表をして、ファンが大興奮状態だったのも印象的ですね。

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▲画像は『MELTY BLOOD Actress Again Current Code』のもの。

難しい市場でヒットした『キューブクリエイター3D』

――先ほどレッドオーシャンという単語が出てきました。Wiiウェアの時と比べると、ダウンロードゲームの市場は年々拡大していて、状況がかなり変わっているというように思うのですが、そちらについてどのようにお考えですか?

島田:そうですね。WiiウェアやDSiウェアの時は、市場規模がやはり小さかったです。10万本売れるタイトルはほぼなかったですし、我々もプロジェクトをやるにあたっては、コスト的な限られたものでした。注目度がまだ小さかったので、会社の中でも存在感はあまりなかったと思います。

 ただ、ハードが年々進化するにつれて、ダウンロードタイトルの中でもやれることが増えていったうえに、ダウンロードでタイトルを購入するハードルが下がっていきました。特に3DSの本体の普及と同時にダウンロード数、ソフトの売り上げが上がっていき、大きく発展したと感じました。

――特にここ2、3年はダウンロードタイトルは当たり前というようになってきましたね。

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島田:Steamは毎年すごい伸び率でソフトが配信されています。またSwitchが出たことで新しい市場ができると思い、ローンチから参入しているのですが、想定ほどの結果はまだ出ていない状況です。

 ユーザーはいますし、求められていることもわかるのですが、参入する会社もすごく多くて、市場の中でシェアの取り合いが大きく発生しています。なかなかに激しい競争の世界だなと思っています。

――話題になって売れちゃうと、勝手に動いていくのですが、そこにどうやって食い込むか、ユーザーにアプローチをしていくのかが今の1つの課題かなと思いますね。

島田:おそらく、皆さんがそう感じていると思うのですが、普通にソフトを作って普通に売ってもバーンと跳ねる時代ではなくなっていると思います。

 少し前までは、定番タイトルの『おきらく』シリーズとかを前に出していたのですが、定番タイトルはあくまで“定番”。いきなりドカンと売れるわけではなく、地道に少しずつ売れた結果、そこそこ売れていくから手堅く売っていく流れがありました。ただ、今それをやってもなかなか厳しいと思っています。

――少し前ですが、『キューブクリエイター3D』はランキングの上位に長い間いて、驚きました。

島田:そうですね。先ほどの“注目タイトル”という意味では、『キューブクリエイター3D』はうちのチームの中でもインパクトを与えたゲームだと思います。おそらく、40万本くらいの実績になっているかと。

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▲画像は『キューブクリエイター3D』のもの。

――ダウンロードタイトルからパッケージ化され、さらにNintendo Switch用ソフトが発売されたのは反響が大きかったからでしょうか?

島田:売り上げも当然関係しますが、求めているユーザーの声が大きかったこともあります。まずは『キューブクリエイター3D』を出したところ、サンドボックスゲームを遊びたいユーザーがたくさんいることがわかりました。

 そして『キューブクリエイター3D』はターゲットの年齢が低いので、ダウンロードタイトルを購入する際にハードルがあります。それであればパッケージ版を発売して、両親に買っていただいたほうがいいというリサーチ結果がありました。

 ただ、ダウンロードタイトルがパッケージになるという意味では、うちのタイトルの中でも大きな意味がありました。

――売れなかったタイトルについて、どういう視点でアピールするかなど、対策として考えられていることはありますか?

島田:正直な話、あんまりできてないのですが、定期的にうちの公式Twitterでアピールしていくことをやる必要があると思っています。あと、一番わかりやすいのは“セールをすること”ですね。

 セールで旧作タイトルをメディアに取り上げてもらったり、セールを見た人にアピールしたりすることによって、初めて知った人や買い逃していた人、もしくは発売当時の価格では手を出せなかった人にアピールできます。

――もともとダウンロードタイトルはそこまで高価でないものが多い。たまに「その価格で発売して大丈夫ですか?」と思うこともあるのですが……。

島田:あまりにもセールをやりすぎるのは厳しいのですが、最近はユーザーがセールに慣れているうえに、世の中的にセールが当たり前になっています。そのうえで、セールでしか買わない人もいます。例えば自分の好きなタイトルであれば定価で買うと思うのですが、自分の好きなジャンルだけど、やったことがないタイトル、知らないジャンルの場合、定価を支払うのをためらうこともあるかと。

 さらに、ユーザー全員が発売されているゲームタイトルをチェックしているわけではありません。セールになることで、オンラインショップで目立つ位置に来るのもいいところですね。

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ゼック:ユーザーとして選択肢がありすぎるので、自分のドストライクなタイトルでないと手が出ない。「セールまで待てばいいや」と思われてしまうという一面があるのですが、そういう人には待ったら買ってもらえるという面があります。

島田:3、4年前のフルプライスのゲームは、ダウンロードタイトルと同じくらいの価格で売っている。ここまでセールが行われすぎているとダウンロード専売としてはなかなか厳しい一面があると感じることもあります。

――公式Twitterはどのような活動をされているのでしょう?

島田:弊社の公式Twitterとは別に、ダウンロードチームのアカウント“DL子(でるこ)”を展開しています。こちらは、DLソフト全般の情報を出しています。そこそこな数の人が、弊社DLゲームを支持してくれているので、その人に向けて情報を出していきます。

ダウンロードチームの打ち上げ事情は?

――少し話がずれてしまうのですが、『ブレイブルー』や『ギルティギア』などは、タイトルの開発が終わった際にチーム全体で打ち上げのようなものがあると思うのですが、ダウンロードタイトルの場合はあるのでしょうか?

ゼック:打ち上げ、したいですねぇ。

(一同笑)

島田:え~~っとですね……うちの課は、出ているタイトル数を考えると打ち上げの回数は少ないです。もちろん、歓送迎会などはありますが、やや小規模ですね。

山田:タイトルにかかわっている人間が少なく、1人や2人だったりするので、タイトルが終わったタイミングで打ち上げすると「2人で飲みに行こうか」ってなるんです(笑)。

――普通に夕飯にいくような感じになるんですね。

島田:そうですね(笑)。社内開発でしっかり作ったタイトルであれば、打ち上げをしていいと思うのですが、それでもメンバー4人とかなので、あんまり打ち上げっぽい感じにはならないんですよね。かといってすべてのタイトルで打ち上げをやっていくと、毎週のように打ち上げが発生してしまう。

 先ほど言ったように、出入りが激しいチームなので、歓迎会や送別会を兼ねて飲み会を行っているイメージです。

――やらないと決めているわけではないけど、やりにくいと。

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島田:はい。他のチームは大きいタイトルの開発があるところでスタートして、皆で開発して、一斉に終わることが多いのですが、うちのチームは1人1人がそれぞれ別のタイトルをやっていて、1つのタイトルに対して1人とか3人くらいがついてやっています。このチームは忙しくないけれども、別のチームは忙しいとかが常日頃あるので、なかなか全員の予定をあわせて打ち上げをやりにくいという理由もあります。

――タイトルを兼任している人も多いのでしょうか?

島田:多いですね。社内開発の場合は兼務することは難しいので、担当者が1タイトルに集中して作るのですが、移植タイトルやローカライズタイトルの場合は、開発はオリジナルの開発元がローカライズをしていたり、もしくは移植を担当する開発会社さまに依頼して作ってもらったりということが多いです。そこまでガッツリ開発に入らないため、1人で数本のタイトルをもっているのが多いです。

――複雑ですね。

島田:社内で開発しているタイトルがあれば、移植ローカライズのタイトルもある。さらに言うと、社外の会社との協業タイトルもあるんですね。弊社内だけでなく、開発会社の管理を行う仕事も多いため、やることは少しずつ違います。

 同じ作業をずっとやっているとやり方が偏ってくるので、あるタイトルをやりつつ、別のタイトルをサポートする形をとっています。

――社外のタイトルではどのようなものがあるのでしょうか?

島田:『脱出アドベンチャー』シリーズは脱出ゲームの開発が得意なインテンスさんにお願いしています。

――脱出ゲームといったら、インテンスさんですね。

島田:そうですね! ベースとなる話やギミックは、先方に考えてもらい、それはこちらで監修していきます。完全新規で作るタイトルほど、こちらでかかわる部分は多くないのですが、お互いに意見を言い合って、完成させていくことになります。

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▲画像は『脱出アドベンチャー 第七の予言』のもの。

――あのシリーズも長く続いている印象があります。

島田:はい。最近は3DSの市場が厳しくなってきたこともあり、少しお休みしている状態です。ただ、次の展開も検討しています。

 タイトル数に話を戻すのですが、ゼックであれば今7タイトルくらい持っているのでは!?

ゼック:1課、3課の案件含めると、それ以上ですね(苦笑)。

島田:ゼックは少し特別ですが、2~3タイトル抱えているのはそんなに珍しいことではないです。僕も今は管理の方に重きを置くようになりましたが、3DS全盛期は5本くらいを回していました。

――複数タイトルを持っている場合、それこそ自分の中でのタスク管理がポイントになると思うのですが、何を意識して担当されますか?

ゼック:私の場合、やること全部をエクセルにリスト化してから、1個ずつ片づけていくスタイルを取っています。脳内ではおさえきれないので、とりあえず思ったことを書いておくようにしています。あとで読み返して、「あ、そういえばこれをやらないと!」という、思い出すための予防策としていますね。

島田:……あれですよ。最近弊社には“アクション”、“レボリューション”、“チャレンジ”に続く第4のキーワードに“根性”があるんですが、それじゃないですか!? 

(一同笑)

――第4のキーワード“根性”は皆さんに浸透しているのですか?

山田:浸透していて、Tシャツが作られるほどです。先日行われたイベント“横浜開港祭”などでも販売されています。

ゼック:その根性をよく言う山中さん(※同社の山中丈嗣プロデューサー)から、「多言語のローカライズをお願い」といきなり言われ、「あ……これが根性が必要な時か。なるほどな」と(笑)。

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島田:あの、社内の事業説明会があったんですが、そこでも上の方から自らこう、“根性”という精神論が出ました。うちはそんなに体育会系でもブラックでもないんですが、それでも最後は結局“根性”だという流れはあります。

 弊社メンバーは講演会をやらせてもらうことが多いのですが、聞く人が聞くと、技術の話をしているはずなのに“力業”だと感じたり、努力をいろいろなところでしていると思われたりするようです。

 ゲーム開発においては、技術だけではなくて、根性でなんとかしなきゃいけない場合はあると思います。さらにいえば、プログラムやデザインとかだけではなく、管理仕事も根性で何とかするという。

山田:あとは妥協できるライン、できないラインをはっきりしておくのがいいと思います。……基本的に妥協できないものがほとんどですが(笑)。進捗管理においては取捨選択をちゃんと判断していかないと、難しい場面がありますね。

一番悔しいのは“自分が気づけなかった部分”!

――山田さんが「最近、根性を使ったな!」と思うタイトルは何ですか?

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山田:オールウェイズ根性です(笑)。常時、根性が発動しているのですが、3DS版の『サバクのネズミ団!』の終盤は、いつも以上にすごい“ハイパー根性”を発揮する場面が多かったです。

――具体的にお話いただけますか?

山田:開発の前半のことですが、ディレクターとして発注したグラフィックを監修したり、プログラマーに指示を出す仕様を書いたりなどの作業が多く、データ作成やテキストの用意がまったくできなかったんです。そのため、「ここは後でやるから、こちらで変えられるようにしておいて」と言って、変えられる仕様にしてもらっていました。

 それらが後の方に残っていたので、「ようやく自分のデータが作れる、ゲームの中身が作れる」というところに入ってからが、長くつらい道のりでした。

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▲画像は『サバクのネズミ団!』のもの。

――後から入れるべき要素が多すぎたと。

山田:そうですね。ディレクション部分とプランナーのデータ作成部分の両方をやることになった時、並行してやらずに先にディレクション部分、後半ではプランナーの部分を作ることを想定していたのですが、ディレクション的な部分が途中でなくなり、データ作成に完全に移れることは当然ないわけで……。つまり、ずっとディレクション部分をやりつつ、データ作成も途中からやることになり、単純に後回しにした仕事の分、作業量増えただけじゃないかという……。そこで“ハイパー根性”を発動せねばならなかったのです。

――根性でカバーできる部分と、できない部分があると思うのですけど、すべてをカバーできるのでしょうか?

山田:それはもちろんカバーできないんですけども、カバーできる部分とできない部分があるっていうのはなんか違うかな、という感じですね。

 “根性”の定義によると思いますが、自分の中の定義では、「できる限り効率化した後の、もう手作業しか残っていないという地点」だったり、「これは手作業でしかクオリティを上げられないな、という地点」だったり、そのような境地に到達した後の、最終的な手作業それ自体を“根性”と呼んだり、その手作業をするためのリソースを絞り出すパッシブスキルを“根性”と呼んだりするんじゃないかなと思います。

 そのため、最終的にはどんな場面でも基本的に“根性”というものは使われるはずなので「“根性”でカバーできる部分とできない部分がある」というより、「どんな部分でも、“根性”でカバーできることもあればできないこともある」という認識ですね。

――発売した後に、タイトルに対しての心残りがあると思うのですが、山田さんはいかがですか?

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山田:自分が社内開発で作ったのが『ガチャレーシング』と『サバクのネズミ団!』になります。……予算が無限にあるわけではないので、本当は入れたかったがそぎ落とした企画や、ネタや仕様があるのに入れられず、開発初期から後悔していた部分もありますね(笑)。

 そのなかでも一番悔しい部分となると、“自分が気づけなかった部分”だと思います。

――気づかなかった部分というのは?

山田:もし心に余裕があれば、コストをかけずに仕様を少しだけ変えて遊びやすくなっていた部分や、UIを少し変えるだけでわかりやすくなった部分に気がつけるんですね。ただ、それに気づけずリリースしてしまった際に、その部分を何度も指摘されるとボディーブローのようにじわじわときいてきて、メンタルがドンドン削られていきます。

 「次回は必ずなくす!」と思うのですが、次作も忙しくてカバーできないことはありますね。

島田:ユーザーから言われることの多くは、想定していたり時間や予算の都合で削った部分だったりするのですが、自分たちが思っていなかった設計上のミスや、考えていない仕様を言われると、ショックが大きいというか、反省する必要があるケースです。

山田:そのうえで自分が心掛けているのは、多少気になる部分があったとしても、遊んだ人が楽しめる“ゲームの芯”となる部分はしっかり作ろうとしています。もちろん、粗や仕様のミスはないほうがいいですが……。

――少し突っ込んだ話になるのですが、予算はどのようにして決まるのでしょうか? タイトルの予算は固定で決まっているのですか?

インタビュー

島田:あくまでうちのチームのやり方ですが、必ずしもバジェット(予算)ありきではありません。作ろうとしている内容と売り上げ目標本数から金額を算出して、その予算に収まるように作れるか作れないかというところで決めています。そのため、企画の内容次第で決まるイメージです。

――ではタイトルの価格はどのようにして決められるのでしょう?

島田:予算を基準にしながら、発売するタイトルがそのマーケット上でどのくらいのクラスなのかを考えます。同ジャンルの他タイトルの価格やボリューム、現在の市場の流れなどを考えつつ、バランスをとって決めていくことが多いです。自分たちの都合だけで値付けをしても、売れないものは売れない。そのため、他のタイトルとのバランスを見ています。

――個人的にはゲームで体験できる密度も価格を見るうえで重要だと感じています。

島田:わかります。そういう意味では弊社は密度の濃いタイトルを作っていますし、価格もそこを加味して決めていると自負しています。『脱出アドベンチャー』は820円前後で、早い人だと4時間や6時間で遊び終えるようですが、おおむねユーザーからは満足度が高いですし、『サバクのネズミ団!』は800円~1,200円で、20~30時間は楽しめます。

 最近のユーザーは、価格よりも時間にかける満足度を大事にしている人が多いと感じます。これだけ多くのゲームが次から次へと出ているので、遊んでもクリアできないで次のタイトルを遊ぶ人もいる。そうなるとそのゲームをプレイしてどれだけおもしろい体験を得られるかがポイントになり、ゲームの質自体を高める必要があると思いますし、値段もそれにあわせた形で考える必要があると思います。

ユーザー間で話題になった“鰻”をどうするのか……

――今もありましたが、ダウンロードタイトルは数多く発売されています。ここ最近で気になったものや印象的なものはありますか?

インタビュー

ゼック:個人的には『BattleTech』はすごくやりたいタイトルです。バックが付いているからこそできたプロジェクトだと思いますが、内容はさすがだと思っています。

山田:自分は『Donut County(ドーナツカウンティ)』というゲームが印象的です。地面に穴があり、プレイヤーはその穴を操作して、地上にあるオブジェクトを穴に落としていくと、穴が大きくなっていく。それを繰り返して穴を成長させていくタイトルです。

 2017年のE3で発表された時、アートがかわいいし、システムもおもしろそうだと思いました。なんか、いろいろと応援したくなる事情のあるタイトルなんですよね。8月に発売されるので楽しみです。

――DLタイトルは配信直前、もしくは配信日に情報が出ることが多いのですが、大型のインディータイトルではかなり早くに情報が出ることもありますね。

島田:ダウンロードタイトルについて、ゲームメディアにずっと情報を掲載してもらうのは難しいと思っています。また価格が比較的安価なので、発売よりずっと前に情報を出して「このタイトルを買うぞ!」と待っていてもらうものでもないのかなと。

 それよりは、ちょっと見た時に「来週配信されるのか。ならば買おう」というテンション、なんでしたら発売前後や当日以降の方が重要だと思っています。

インタビュー

山田:あと、一気にユーザーに情報を拡散してもらって勢いを瞬時に作るのも重要だと感じています。発売日に皆さんが楽しみにしていて、一気に購入してもらうことでSNSで情報で広まって、それを見た他の人がまた買ってくれるという流れですね。

 生放送での紹介直後に配信ということができると最高です(笑)。

島田:『サバクのネズミ団!』はニンテンドーダイレクトでご紹介いただき、その直後から配信できたので、初動がすごくよかったです。

――話題と言えば『斬!斬!斬!』も発表された時に大きな反響があったと記憶しています。

島田:このゲームが日本で最初に紹介された時に、ゲージに“鰻”という文字があり、それが話題になりました。そのゲージはクリティカルヒットが効くようになったらスローモーションになる防御システム用のもの。「なぜ“鰻”なんだ?」という疑問から、「このゲームはなんだかおかしいぞ」と、話題になったんです。

ゼック:ユーザー内で“鰻”、“鰻”と、かなりバズっていました。一方で「なぜ“鰻”なんだろう」という突っ込みもありました。敵の剣を見切れるようにするものなので、日本語としては“心眼”が正しい。わかりやすさもあって、コンシューマにする際に“心眼”に直したんですね。

インタビュー

――“鰻”と書かれていてもわかりにくいですからね。

島田:“鰻”のネタというがわかる人はそのままでもいいと思いますが、わからない人もいる。そのため、“心眼”に変更するけども元の“鰻”もそのまま入れることにしました。

ゼック:画像を公開した時にはユーザーからは「なぜ“心眼”にしたんですか! “鰻”に戻してください」という意見をたくさんいただいていました。裏ではどちらも作っていたのですが当時は言えかったことが印象的でした。

島田:両方入れることで、もとのユーザーにも納得してもらえます。我々はゲームをただ移植するのではなく、いい意味で改善したいと思っているためにこのような形をとらせていただきました。

――他にローカライズするにあたって印象的だった出来事はありますか?

島田:スムーズでやることがないものがあれば、かなり手を入れるものもあり、タイトルごとにまったく異なります。

ゼック:日本で先日発売された『Fallen Legion(フォールンレギオン)』が私の担当だったのですが、そのタイトルも印象的でした。まずプロジェクトの概要としては、弊社が担当したのは、日本語テキストの翻訳、そこに声優のボイスを付けることでした。開発は開発会社が担当しました。

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▲画像は『フォールンレギオン』のもの。

島田:オリジナル版には掛け声などはあったのですが、基本的にはストーリー上にはボイスがなかったのです。ただ、移植、ローカライズをして日本で発売するにあたっては、ボイスを付けた方がいいだろうということで、フルボイス化をしたタイトルです。

ゼック:ボイスを付けるにあたって、いろいろ勉強させていただきましたし、開発元には「日本の声優さんが声を付けてくれた!」とすごく喜んでもらいました。

島田:印象的だったことではないのですが、ローカライズで意識していることは言語です。少し前であれば言語は日本語と英語だけでよかったのですが、最近では中国語、繁体字、簡体字、さらに韓国語を入れることをやっています。

 中国語はSteam市場が伸びてきているという理由もあるのですが、海外の北米、欧州とかを見ても世界的に増えているので、中国語は必須かなと。

 韓国語は韓国自体にもマーケットがあるうえに、うちのアジア支店があります。そのために韓国語を入れやすいので、それらの言語はほとんど全部に入っています。最初の日本語を作っている時点から全言語を入れることを意識してやっています。

――日本語で作りつつ、並行で5カ国分のテキストを用意するのは大変ではないでしょうか?

島田:Wiiウェア時代やPSP時代は、初めから多言語対応で開発するのは大変だったのですが、僕たちも長年続けてきたことでノウハウがたまっています。去年、北米現地法人を立ち上げて、ますます海外に向けて、弊社のソフトを楽しんでもらえる環境を作れればと考えつつ、取り組みを行っています。

――その5カ国語を用意していると、ドイツ語やフランス語など、さらなる他言語を追加してほしいという要望があるのでは?

島田:もちろんあります。そこの部分についても増やしていきたいという気持ちはありますね。

山田:『新大開拓時代』というシミュレーションゲームを出した時、その国の言語が入っていないにもかかわらずドイツとフランスでかなりの数売れていたので、アップデートでドイツ語・フランス語を追加したという話を聞いた覚えがありますね。

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▲画像は『新大開拓時代 ~街をつくろう~』のもの。

――実際に売れたのですか?

山田:どうだったのでしょう(笑)。そこまでは把握していませんでした。

島田:もちろん言語を増やせばそれなりの成果はあると思いますが、今後のタイトルすべてでやるべきかどうかは検討していく必要があると捕らえています。

 あまり言語に依存しないタイトルは、そこを頑張ってもそこまでの効果はないですし、言語がすごく大事なゲームはなるべく他言語対応していくことに意味があると思います。そのうえで、予算や売り上げを加味して考えていきたいです。

ユーザー層によって異なる意見。今後の目標を明かす

――ユーザーからいろいろな意見をもらうと思うのですが、その中で特徴的だったものは?

ゼック:海外となると熱心なファンが多くいらっしゃいます。弊社の不足部分ですが、海外のユーザーがどうやって弊社に声を届けるのかを知らなかったために、サポートに頼るしかなかったということが多々ありましたね。たまに電話で英語の問い合わせが来た際には、私が直接応対することもあります(苦笑)。

島田:DLタイトルのユーザーの反応については、カジュアルなゲームは反応が薄いです。『おきらく』シリーズはそこまで声は多くないのですが、コアなゲームというか尖ったゲームであればあるほど、反響が大きくなります。

 先ほども出た『サバクのネズミ団!』の意見はすごく多いですね。あとは『脱出アドベンチャー』もよく来ます。好きなファンがいるようで、その方々が「続編をすごく楽しみにしてます」とかキャラに対する想いとか、ファンレターのような問い合わせ、アンケート結果を確認しています。

――ファン層によっても、来る内容が異なるわけですね。

島田:DLタイトルは、要素を絞っているというか、内容が限られていることが多いため、そこに対してダイレクトな意見が多いですね。

山田:個人的には、ユーザーの意見や反応を見る場所という意味では、Miiverseがなくなったのが非常に残念です。『キューブクリエイター3D』が売れたきっかけにも絡んでくるのですが、小学生はスマートフォンやパソコンを持っていなくて、3DSだけがインターネットに繋がる唯一の道ということもあります。そうなるとMiiverseが低年齢層のもってる唯一のSNSになる。他のSNSでは見えない、大きなパイをしめる低年齢層ユーザーの意見や反応がみれる貴重な場だったので、今からでも復活してくれないかなー…。

 あと、ファンアートの数も多かったです。『ガチャレーシング』はインターネットランキングがない、シングルプレイオンリーのゲームだったのですが、にもかかわらずMiiverse上でユーザーが自発的にタイムアタックのランキングで競い合ったり、登場する車の絵を描いたり、さらにはなんと二次創作っぽい小説を書いていたりして、広がりを感じました。そういうタイトルじゃないはずなんですが……。

――今後、チームとして目指していくことはありますか?

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島田:DLチームとしては、尖ったゲーム、うちだけのオリジナルが詰まった変わったゲーム、特徴のあるゲームをこれからも作っていきたいと思っています。

 移植やローカライズについては、引き続き高品質な状態でユーザーに届けられるように頑張っていきたいです。また、日本マーケットで発売したいが、できていない海外メーカーや、いいコンテンツを持っている会社と協力して、いいゲームを日本のユーザーに届けることを引き続きやっていきたいです。

――ダウンロードタイトルでやってみたいことはありますか?

山田:今、島田が言ったような、高品質で尖ったタイトルを作ることは重要だと自分も思っているのですが、一方でチームが大きくなっていて、フットワークが大分重めになってきているのも事実です。

 フットワークを軽くしていく意味合いで、ゲームのプロトタイピングを3カ月に1本くらい手軽にできるようなしくみを使って、ガンガン出力していきたいと思っています。

島田:重くなっている理由としては、開発規模が大きくなっているところが関係します。3DSのころは予算も時間もそこまでかからなかったので、企画を通しやすかったのですが、徐々に環境は変わってきていています。

 最近インディーズのゲームを見てもよくできているだけでなく、ボリュームやクオリティが高くなってきているのを感じます。弊社はインディーズではなく、それなりの規模で開発する必要があるので、「このタイトルをやろうよ」といって簡単に進められなくなっているので、それを円滑にやっていくためにも、工夫する必要があると思います。

――最近のDLタイトルを見ていると、内容がしっかりあるのに安価で感心することが多いです。

島田:価格競争は激しくなっているので負けないためにその値段設定にしているとか海外で人件費があまりかからないとか、いろいろな理由はあると思うのですが……。なので、価格を決める際には弊社の中でも毎回激しく議論をしています。

――ゼックさんの目標は?

ゼック:私がゲーム業界に入ったのは、自分の言語能力を生かして日本のゲームを世界中に届けることを第一の目標としていました。今はDLタイトルに限らず、海外のビッグタイトルを翻訳し、リファインして、ただ翻訳しただけではない、よりよいローカライズをして、日本に届けることをしたいと考えております。

 DLタイトルといっても必ずしも安いイメージだけにならないように意識しております。

――パッケージタイトルのダウンロード版が売れているということは、DLタイトルで力を入れているタイトルも同じ値段でも売れる可能性があるということですよね。

インタビュー

島田:はい、パッケージとダウンロードを併売しているタイトルを見ても、DLソフトの購入割合が上がっていることが数字として出ています。場合によっては、フルプライスのダウンロード専売タイトルを売ることもこれからはあり得ると思っています。

ゼック:物理的な理由として、北米であればゲームを1本買うのに何時間も運転しなければならないという事情もあって、海外ではダウンロードが伸びています。

島田:僕もこの仕事をしているせいか、DL版を買いたいと思うことが多いですね。でも限定版があるソフトだと迷いますね(笑)。

ゼック:あと、パッケージ版を出す場合、ワールドワイドでどうしてもずれが生じたり、もしくはずれがないように調整したりする必要があります。ダウンロード版では同時期に出しやすいですね。特にSwitchであればマルチで配信することが手軽になっているので、最近では同じ地域であれば同時期に配信しています。なるべくタイムラグはないほうがいいので。

さまざまなタイトルを意欲的にリリースしていきます!

――何か御社タイトルでアピールしたいものがありましたらお願いします。

山田:自分が担当している『サバクのネズミ団!改。』が、PS4/Switch/Steamの3プラットフォームで配信されています。

 シミュレーションゲームということで、コアなゲームかと思われるかもしれませんが、シナリオや雰囲気づくりを頑張っているタイトルです。また、かわいいキャラが好きな人やSF映画、西部劇が好きな人にオススメできるような小ネタを仕込んでいるので、そのあたりをアピールしておきたいです。

 あと、最近では『サバクのネズミ団!』のLINEスタンプを出しています。頑張って作ってもらったので、こちらもぜひ(笑)。かなりふざけた内容になっています。

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▲画像は『サバクのネズミ団!改。』のもの。

――ありがとうございます。では次のタイトルを。

ゼック:『斬!斬!斬!』はPS4版に続いて、8月30日に配信されました。基本的に格闘ゲームですが、コンボを決めるのではなく、一撃を綺麗に入れることができれば勝ちという、一撃必殺をテーマとしています。防御としては“鰻”(心眼)の仕様と、相手の攻撃をはじくことができ、一瞬の油断が命取りになる刺激的なゲームになっています。ネットワーク機能で全国のユーザーとオンラインで斬り合えます。

 また、先ほども話に出た『フォールンレギオン』という、海外のインディーズ会社が作ったRPGをPS4/Switchで配信しています。本作はストーリーが分岐するRPGで、プレイヤー自らの選択肢によってストーリーが変化していきます。

 バトルは若干リアルタイム性になっているのですが、手軽に押したボタンに応じて攻撃が出せるわかりやすい仕様になっています。パーティーメンバーの攻撃を組み合わせてコンボを繋げて、相手に大ダメージを与えたり、魔法で相手を駆逐したりできます。

島田:若干アクション性があるRPG戦闘という形になっていて、うまいタイミングでボタンを押すことで戦闘が有利になっていくため、単純に見えて単純なだけではない、刺激的な戦闘を楽しめるゲームです。

ゼック:エンディングは一緒なのですが、途中までの道のりではいろいろな物語があって、違った内容を見ることができます。何回も遊ぶことができる作品で、お買い得です。

島田:海外タイトルの場合はもとの値段があって、オリジナル版の開発会社の意向もあるので、そこを含めて価格を調整しています。日本版だけ極端に安くとか高くとかということは難しいです。ただ我々としては、なるべく日本という市場でユーザーが納得できる価格になるようにして2,800円にしています。

――絵柄も日本人が好みそうなイラストになっていますね。

島田:日本のゲームを好きで、日本のゲームをリスペクトしていると言って作られている開発者は海外に多いです。弊社のタイトルがアニメ寄りになっているので、うちから出すことについてすごく好意的に思ってくださる会社は多いです。本作のそのようなタイトルです。

――そして、『キューブクリエイターX』ですね。

島田:ダウンロードタイトルではないのですが、『キューブクリエイターX』が発売されています。前作は3DSでダウンロードタイトルとして始まったのですが、パッケージソフトが発売されて、さらにSwitchでも発売されました。

 Switch版はかなり大幅な進化を遂げていまして、できることが増えていたり、世界が広がっていたりします。今までいなかった村の人が登場するといった、大きく進化を遂げてボリューム満載のゲームになっています。うちのチームとしてぜひ遊んでもらいたい1本です。

インタビュー
▲画像は『キューブクリエイターX』のもの。

――以上でしょうか?

島田:最後に電撃さんと親和性の高い『ウィザーズ シンフォニー』をお願いします。ダウンロードチームと言いながら、パッケージタイトルなのですが、僕がプロデューサーを担当しているということもあり紹介させてください(笑)。

 こちらは弊社30周年を担っているタイトル。本格的なダンジョンRPGとして鋭利制作していますので、これからの情報にご期待いただければと思います。

 他にもいろいろなタイトルを出していきます。ぜひ遊んでいただき、感想や気になったところがあるようでしたら弊社までお送りいただければ幸いです。

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▲画像は『ウィザーズ シンフォニー』のもの。

――本日はありがとうございました。

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