2010年9月1日(水)
スクウェア・エニックスから11月11日に発売されるPSP用ソフト『タクティクスオウガ 運命の輪』。このソフトについて、ディレクターの皆川裕史さんにインタビューを行った。
▲本作のディレクター・皆川裕史さん。『ファイナルファンタジータクティクス』や『ベイグラントストーリー』、『ファイナルファンタジーXII』といった数々の作品を手掛ける。 |
本作は、1995年にスーパーファミコンで発売され、今なお根強い人気を誇るシミュレーションRPG『タクティクスオウガ』を再構築したもの。覇権争いに揺れるヴァレリア島を舞台に、青年・デニムの視点で物語が描かれる。オリジナル版を制作したスタッフらが中心となって開発にあたっており、見た目だけでなくバトルデザインにも新たな要素が加わっているという。
今回は、“再構築”というテーマについて、お聞きしている。なおこのインタビューは、8月21日発売の『電撃ゲームス Vol.12』(アスキー・メディアワークス刊)に掲載されているもののダイジェスト版となる。全文読みたい人は、ぜひ誌面で確認してほしい。
――今回のインタビューでは、本作が目指している“再構築”という部分への意気込みや、新たなキーワードとして登場した“運命の輪”というシステムを中心にお話をお聞きしていきます。まずは、皆川さんがどのような立場で、本作の開発にかかわっているのかを教えてください。
肩書きとしてはディレクターという役職ですが、やっている仕事の内容としては、オリジナル版を作っていた当時とあまり変わっていないかもしれません(笑)。松野さん(※1)がゲームデザインをして、吉田(※2)がイラストを書いて、僕はそれをゲーム画面化するための、グラフィックのベース作りを担当しています。あとは、社内開発スタッフの編成が主な仕事ですね。
※1……ゲームデザインを担当した松野泰己さん。代表作は『タクティクスオウガ』、『ファイナルファンタジーXII』、『ベイグラントストーリー』など。
※2……キャラクターデザインを担当する吉田明彦さん。代表作は『タクティクスオウガ』、『ファイナルファンタジータクティクス』、『ファイナルファンタジーXII』など。
――そもそも今回の“再構築”に関するプロジェクトは、いつごろに具体化したのでしょうか?
『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』がPSPで発売されたあとぐらいなので、2007年ごろですね。自分は当時、ゲーム開発から離れたセクションに就いていて、「そろそろ、またゲームを作りたいな」と思っていました。
そんな時にちょうど、「そろそろ『タクティクスオウガ』はどう?」という話が出たんです。それなら、ぜひオリジナルメンバーを集めてやりたいと、僕のほうから松野さんに声をかけました。それからしばらくは、お互いのスケジュール調整があったため、本格的に開発がスタートしたのはもう少しあとの話ですね。
――ハードについては、最初からPSPという携帯ゲーム機を想定されていたのですか?
TVの中にある“箱庭のような戦場”というのが、オリジナル版時代からのイメージでした。ですから今回は当初から、両手で戦場をつつみこむようなイメージとして携帯ゲーム機を考えていました。さらに本作はマップが広いので、広範囲を見わたせるPSPが最適だろうと判断したんです。
▲再構築という形で15年ぶりによみがえった『タクティクスオウガ』。PSPというハードは、早くから決まっていたようだ。 |
――単なるリメイクにしなかった理由というのは?
ファンの方たちにとって、最良の形というのはなんだろう? ということを考えた結果ですね。作り直すのであれば、オリジナルメンバーが集まったほうが喜んでもらえるだろうし、せっかくこのメンバーが集まれたんだから、ただキレイに作り直すだけじゃおもしろくないだろうと。それでディスカッションを重ねて、今の“再構築”という形に落ち着きました。過去の作品を知らない新しい方にも、過去作をやり込んだ往年のファンの方にも、どちらの層にも楽しんでほしいという方向性を考えたんです。
――非常にユーザーの思い入れが強い作品なので、再構築のバランス調整は大変だと思うのですが、実際はいかがだったのでしょう。
そこは、松野さんも僕たちも非常に悩みました。どこを変えるべきで、どこは残すべきなのか。ただ単純に追体験するだけでは、オリジナル版をプレイした方にとって新鮮味がありませんから、見た目や雰囲気はあまり変えずに、ゲームデザインを変える設計にしました。「変えないでほしい」という声もあるとは思いますが、個人的には、その真意は「よかった部分を変えないでほしい」だと思うんですよ。自分にも経験がありますが、思い出は美化されるもので、その思い出を壊されるのはイヤじゃないですか。
そこで今回の再構築では、「美化された思い出を形にする」ことを意識しています。思い出をそのまま再現するだけでは、「美化された思い出」には勝てないと思うんですよ。例えば、仮に2Dのドット絵をそのまま再現しても、「自分の思い出は、こんなにチープなグラフィックじゃなかった」となるんじゃないかと。なので、今回のグラフィックは3Dの技術を使いながら、あえてそれを感じさせずに2Dに見えるようにしているんです。
――ゲーム性についても、そういったスタンスで調整を行っているのでしょうか?
ストーリーやグラフィックに比べると、ゲームシステムについては、今の時代に適した新たなおもしろさを盛り込むことを優先しています。せっかくオリジナルスタッフが集まっているのに、以前と同じ遊び方をなぞるだけでは、もったいないじゃないですか。当時のゲーム性と当時のグラフィックをそのまま楽しみたいのであれば、オリジナル版をプレイすればいいわけで。我々が目指す再構築は、移植や完全版とは違う部分なんです。
――そういった再構築に関する部分には、オリジナル版の際にやろうとしてできなかったことも含まれていますか?
基本的には、今の時代に合わせて考え直して、作り直しています。自分としてはオリジナル版のハード・スーパーファミコンでできることはおおよそやりきりました。もちろん、もしスケジュールと容量があれば、際限なくやりたいことが増えていったとは思いますけど(笑)。
▲オリジナルの要素も加えられている本作。画面の新キャラ・ラヴィニスは、ロンウェー公爵に仕える女性騎士だ。 |
――ちなみに、当時の皆川さんがオリジナル版の『タクティクスオウガ』で目指していたものとはなんでしょう。
当時の僕はグラフィッカーでしたので、演出や見せ方の部分ですね。『伝説のオウガバトル』の演出は、いかにケレン味を持たせて派手にできるかを追求していましたが、それに対して『タクティクスオウガ』では、ジオラマ感というか、箱庭の戦場をのぞき見ているような雰囲気を出すことにこだわりました。
松野さんからも、バトルとイベントの区別がないシームレスさを出してほしいというオーダーがありましたし。ちなみに、松野さんが書いた当時の企画書は今もちゃんと保管してあるんですけど、そこに書いてある内容がすごい密度なんですよ(笑)。スタッフが一丸となって、いろいろなことを実験しようとしていましたね。
次回(9月8日掲載予定)も、再構築というテーマについてお聞きする。
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※画面は開発中のもの。