【春の日本一祭り】幻となったボツキャラクターも公開！ スタッフコメント集第4弾

文：電撃オンライン

「ボツキャラクター、初期設定などの情報と却下した理由」
ディレクター 地引志郎

　皆さんこんにちは。ディレクターの地引です。私の出番は、今日で最後です。つたない文章ではありましたが、楽しんでいただけましたでしょうか。

　さて、本作『夢想灯籠』ですが、改めて思い起こすと、このゲームには自分の好きな要素がすべて詰め込まれています。友情、団結、愛、囚われの女性、バイオレンス、剣戟アクション、熱血ヒーローなどなど。それらすべてを詰め込んで、これでもかと煮込んだのが本作です。私としては、満足のいく作品を世に出したつもりですので、あとは皆さんに楽しんでもらえれば、これに勝る喜びはありません。『夢想灯籠』のコメントはこれが最後になりますが、これからも『夢想灯籠』をよろしくお願いします。

　今回は、最後の特別サービスとして、『夢想灯籠』のキャラクター初期設定を紹介。企画原案である山根氏の初期のキャラクター原案をもとに、どんなふうに変化していったのかを、皆さんにお知らせしたいと思います。

　まずは、初期の主人公の登場です。名前は神代住処（かみしろすみか）、18歳。なんと、赤毛です。ワイルドです。なんか不良っぽいです。これが、『夢想灯籠』の初期の主人公でした。今の主人公・阪守鷲志（さかもりしゅうじ）とまったく違いますね。鷲志が“善のヒーロー”なら、住処は“悪のヒーロー”といえる感じです。

　お次は、元祖ヒロインである水面（みなも）（画像左）と跡火（あとび）（画像中央）の2人です。実は、この水面こそ各務（かがみ）のキャラクターとしての原案になります。そして、跡火。この娘が各務の性格上の原案になります。もともとは別のキャラクターだった2人をくっつけたのは、内面が一部似通っていて、2人で1人にしたほうがキャラクターとして魅力的になると判断したためです。

　しかし、ここで問題が発生しました。企画当初からヒロインは4人にしようと決めていたのですが、水面と跡火をくっつけたため、ヒロインが1人減ってしまったのです。どうしたものかと頭を悩ませていたところ、飯沼が描いてきたTVクルーたち（画像右）を見て、私がそのリポーターに一目ぼれしてしまい、ディレクター権限でその娘をヒロインに昇格させました。そのリポーターが、今の真琴（まこと）です。というわけで、私は今でも真琴ラブです。

　元祖ヒロイン4人衆の残り2人である繋（つなぎ）（画像左）と灯（あかり）（画像中央）ちゃんです。繋は舞（まい）になり、灯ちゃんはなんと灯ちゃんのままです。設定的にも繋は住処の幼なじみであり、灯ちゃんは当然、○○（ネタバレになるので、省略）になります。しかし、この時はまだ灯ちゃんと対になる存在である巴（ともえ）ちゃんはおらず、代わりに凶音（まがね）（画像右）というキャラクターがいたのです。

　さて、ドンドンいきましょう。この男は住処の親友である境弥（きょうや）くん。鷲志の親友・将一（しょういち）の軽いイメージなど、カケラもありませんね。

　そして、男前度が初期のほうが高かった、舞の父親にしてご住職の大護郎（だいごろう）です。大護郎さんには申しわけありませんが、設定の都合上、男前度を下げさせていただきました。もし、こちらの大護郎さんがいいという方は、10年前の大護郎さんだと思うようにしてください。（そうだ……鷲志の父親・一徹（いってつ）と大護郎の若いころの話なんてやれるとおもしろいかもなぁ……みなさんはどう思います？）

　この2人は咎（とが）に盂蘭（うらん）。平安時代の主人公とヒロインですね。流（ながれ）とアルからは、原型がこうだったなんて想像もつきませんね。こんな感じで、初期のキャラクターはそのままだったり、融合したりして今の『夢想灯籠』へとつながっていきました。

　では、最後に、一番設定が変わってしまったキャラクターを紹介します。それは、住処の父親であり、初期『夢想灯籠』で重要な役割を果たす予定で、最終的には鷲志の父親となった一徹です。

　どうでしょうか。今の一徹とはまったく似ても似つかない、とてもワイルドな感じになっております。もし、住処が主人公のままだったら、この『夢想灯籠』はどういう話になったのか──それは私にもわかりません。

　さて、『夢想灯籠』誕生秘話の一端ですが、楽しんでいただけましたでしょうか。私からお伝えできることは、これですべてです。お付き合い、本当にありがとうございました。

「CG制作、絵コンテで意識した（参考にした）漫画やアニメなどの表現方法」
グラフィックディレクター 神林中

　毎度どうも、グラフィックディレクターの神林です。今回もまた例によって、タメになるのかならないのか、いまいち不明な話を書きます。やはり“演出的元ネタ”あたりが適当ですかね。

　元ネタは、どの演出にもそれなりにあります。とはいっても、そのまま流用するのは恥ずかしいので、なるべく避けるようにしましたが。まあ、僕の演出は、すっかり血肉に溶けている宮崎駿とか押井守とか細田守とか富野由悠季がベースなので、そういうオーソドックスなところは、たぶん普通に元ネタといってもいいんでしょう。……すみません、オタクなもんでそのへんは外せないんです。

　まあ、それは放っておいても出てくるものとして、今回特に意識的に取り入れようと思ったのは映画監督リドリー・スコットの画面レイアウトの手法でした。

　あの人の映画は、ディテールがわかりやすいのが特徴ですけど、本当はレイアウトが非常にち密なんです。情報が過不足なくて、しかも情感もたっぷり。お芝居の空間もきっちり説明されている。本作がしっかりと絵で見せるという方向性であればこそ、こういうレイアウトを目指したいなーと思い、コンテ作業前にも、作業中にも監督の映画を何本も観てました。

「ブレードランナー」、「グラディエーター」、「キングダムオブヘブン」あたりは特に意識して、注意深く観ました。言うまでもなく、どれも傑作です。

　どれだけ拾えたかは、皆様の評価による部分ですが、たとえばキャラクターの顔を見せなくても、今そこにいるキャラクターがどんな感情なのかを、想像できる絵になってるんじゃないかと思います。

　あと、飯沼くんのクリーチャーデザインが特撮などを志向したものだったので、スケール感を強調するカットなど、特撮的なレイアウトをいろいろと取り入れました。物の大小や距離感に関しては、特撮以上に意識して作られる映像はありません。ホントにディープな特撮マニアの人ほどではないですが、僕も一応特撮をたしなむので、そういうものが好きな方には親しみ深い構図を各所に見ていただけるのではないでしょうか。

　逆に仕上げに関しては、レイアウトの写実性と対照的に、絵としてのあいまいさを残すようにしました。影に落ちたり光で飛んだり、空気や印象を大事にした感じですね。強弱のあるペンタッチで空間を表現することに関しては、水木しげる画伯や伊藤彦造といったペン画を主体とする画家の絵を、色の抽象化や省略については川瀬巴水という浮世絵画家の絵を制作の共通認識としてみたり、研究材料にしたりしていました。興味のある方は調べてみてください。

　よく誤解されるのですが、細かく描くことばかりがよい絵を生む要因ではありません。必要な情報を必要なだけ描くのが前提で、それ以上の情報は単にノイズになってしまいかねません。実際、PSPの画面にあまりに高精細な絵を出そうとしても、画面のピクセル数は限られているのだし、見えないものは見えないのです。むやみに大きいと容量も食うし、プログラマーに怒られたりするので、いいことがありません。そのあたりの素材の割り切りについては、PSP『メタルギアソリッド・バンドデシネ』が非常に心強いサンプルになりました。

　まあ、こういった過程の情報は、でき上がってしまえばわりと意味のないものなのですが、「こんなこと考えてたのかー」、とか「全然できてねーじゃん」とかいろいろ思っていただければ幸いです。結果は、お手元の製品を見ていただければおわかりになるかと思います。お気に召しましたら最高ですが、いかがでしょう？

(C)2009 FOG/NIPPON ICHI SOFTWARE INC./BROCCOLI

▼『夢想灯籠』

■メーカー：日本一ソフトウェア

■対応機種：PSP

■ジャンル：AVG

■発売日：2009年3月19日

■価格：通常版 5,040円（税込）/初回限定版 7,140円（税込）

　

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