2011年12月28日(水)
――初めてケイブとしてアドベンチャーゲーム『インスタントブレイン』をリリースされて、ユーザーからの反応などはいかがでしたか?
浅田 初めてアドベンチャーゲームをプレイするという人が実に多かった印象ですね。自分にメールをくれる人がたまたまそういう人だったのかもしれませんが、「ケイブの作品だからとりあえず買ってみよう」という人が多くいました。その感想で“アドベンチャーゲームは、テキストを読むだけのゲームじゃない”という意見があって、そこは自分としても狙っていたところなので、わかってもらえてうれしいなぁと思いました。
▲証拠を提示するだけでなく、証拠内の怪しい部分などを指摘するシーンも。 |
自分の作品の話だけじゃないですが、本作を遊んでアドベンチャーゲームをおもしろく思ってもらえたのなら、“テキストを読むだけじゃないアドベンチャーゲーム”って、世の中にはもっとたくさんあるので、そういった作品もぜひ遊んでもらえたらうれしいと思います。
あと作品を作り終えての感想を言えば、これは自分の性格からくるものなんですが、自分の作品を家に持って帰って遊ぶのがすごくイヤなんですよ。でも、今回は初めてのアドベンチャーゲームですし、本作だけは持って帰って、とりあえずやってみようとは思いました。でもやっぱりダメでした。
――なぜ自宅ではプレイができないのですか?
浅田 ゲームを制作面ですごく振り返ってしまうんです。「なんで俺はこうしなかったんだ」とかですね。もちろん反省すべきところはたくさんあって、それを振り返るのはどんどんやっていくべきなんですが、ポジティブにじゃなくて、ネガティブに振り返ってしまうんです。ネガティブのまま次の作品の制作に入ってしまうのは嫌なので、基本的に自宅では遊ばないですね。それにさんざんデバッグでプレイしていますから……。何周したのかっていうくらいゲーム自体はやっていますよ(笑)。
「もっとこうしておけばよかった」という部分はたくさんあって、開発中にも言ったことはありました。しかし開発期間の問題などで、できなかった部分がたくさんありました。例えば、8月くらいに「なんでこんなシステムにしているのか」という部分があったのですが、今これを言ったとしても直していると間に合わない、なんて部分がありました。ある意味、グッとこらえながら抑える気持ちと、それでもやっぱり直してほしいという気持ちの葛藤がありましたね。
――ゲーム内容に関してですが、物語全体をとおして見て、どの章でもキャラクターが生き生きとしているように感じられました。
浅田 キャラクター同士のかけあいだけで物語が進んでいくような作りになっているので、ある意味、キャラクターがその世界の中で生活しているように感じられて、ずっと見ていたい気持ちになるのかもしれません。
――絵柄が非常に独特でちょっと入りにくいかなと思ったのですが、遊んでみたらグイグイ引きこまれてしまいました。
浅田 おっしゃるとおり「絵がどうしてもダメ」というユーザーさんは多かったんです。しかし、いざプレイしてみて最後までやってみると、この絵でよかったな、と思うユーザーさんも多かったみたいです。オープニングのアニメーションを見てもらうとわかるんですが、ゲーム本編の雰囲気と比べて、グッと渋くなっていると思いませんか? オープニングを見たユーザーさんと、実際のゲームを見たユーザーさんでそのギャップに驚かれた方は多かったみたいです。
▲オープニングでは探偵物のアニメのようなイメージで、ゲーム中のイメージとはかなり離れている。 |
――遊んでみたら「この絵じゃないとダメだ」といういう感じに僕もなりましたよ。あと、本作に登場する女性がすごくエロい格好をしているのに、なぜかエロく感じないんですよね。
浅田 キャラクターデザインを描いてくれた、いるまかみりさんに案として送ってもらった絵を見て、これは派手すぎるというか、ここまで露出している必要はあるのかと思いました(笑)。でも、本作の舞台は芸能界ですし、我々が知らないような華やかな世界なのかも、というイメージで考えて、こんな格好をしていてもいいかという結論になりました。その分、絵柄による入りづらさは出てしまったかもしれません。本編はそんな雰囲気では全然ないんですけどね。そこは反省すべき点の1つと言えます。
――あの衣装のコンセプトはものすごいと感じました。あの世界はもうパンチラという概念はありませんよね。
浅田 もうどうなっているんだ、という感じですよね。パンチラどころか、胸とかも半分以上露出しているような状態ですからね。
▲近未来ということもあり、女性キャラクターの衣装は非常に奇抜だ。 |
――第1章に登場したキズナの衣装とかどうなっているのか、じっくりと見てみたいレベルですよね。
浅田 あの格好はライブとかで真下から見ると絶対に中まで見えますよね。
▲第1章に登場するキーパーソン、キズナ。衣装のある一点に疑問が……。 |
――バルコニーとかに登らせちゃダメですよね。とはいえ、第3章に登場した果張ネイルなどは逆に露出度が低いですね。
浅田 ネイルに関しては“親子愛”がテーマにあったので、そういう意味で抑えたところはありますね。個人的にサブキャラの中ではネイルは気に入っているキャラの1人。ただ、一目見たときに某マンガのキャラにそっくりだとは思いましたが。
▲第3章に登場する果張ネイル。普段の立ち絵ではわからないが、スカートは結構短い。 |
――アイドルを目指しているのにしゃべると方言丸出しというのは萌えるポイントではありますね。
浅田 そうですね、方言などで特徴を出している部分はありましたね。もう1人、方言のキャラというと第5章に登場する華カスミがいますが、彼女と第2章に出てくる絵筆ウィンディは、声優が同じ飯田奈保美さんなんです。飯田さんは『デススマイルズ』でもウィンディ役をやってもらっていますが、これらを聞き比べたときに、声優さんってやはりすごいと思いましたね。
▲第2章に登場する絵筆ウィンディ(左)と第5章に登場する華カスミ(右)。ウィンディのほうは明らかにキツめの女性で、カスミのほうはのんびりとした方言が特徴の女性だ。 |
――同じ声優さんといえば、大家さんと警部が同じ人ということにも驚きました。また、キリン役を釘宮理恵さんが演じられていますが、よくある釘宮さんのキャラのイメージと違う声なので、これも驚きましたね。
浅田 キリンは、演じられた釘宮さんが関西の出身と聞いて、口調が関西弁になりました。元々、元気な少女というイメージのキャラなので、関西弁でやってもらったらいつもとは違う感じが出せるかな、と思ってお願いしたんです。ユーザーさんにも評判がよかったのなら、それはうれしいですね。
▲第1章から第7章まで、すべての章で登場する八飛車キリン。 |
――スタッフロールを見ると、すごくたくさんの声優さんが本作にかかわっていますよね。
浅田 いや、本当にもう大変でした。収録だけで1カ月半もかかってしまいましたし、それ以前に3月の震災の影響で声優さんのスケジュールがものすごく埋まってしまって、収録の日取りがギリギリまで決まらなかったんですよ。震災で収録ができていなかったアニメの収録が、予想よりもギッチリと詰まってしまったみたいで、うちらの収録はいつできるのか、ということをいつもドキドキしていたんです。実は収録が終わったのが8月末なんです。11月に発売予定なのに8月末に収録なんて大丈夫かなと思ったのですが、何とかなりましたね。もうリテイクも効かない時期なんで、台本は気をつけて作成しました。
あと、サブキャラの声優さんもかなり実力派で固めてあるので、それぞれの人の個性が出せるようにしてもらっています。そのほうがきっといい作品に仕上がると思ったんです。
――でも、しっかりとしたサブキャラたちなのに、作中でかなり死んでしまうのがもったいなかったですね。
浅田 そうなんですよね、自分は3章の孔雀リズリサが死んでしまったのが残念でした。非常にいい女性だったんですが、胸もボーンとしていて。あれもどうなっているんだと問い詰めたい衣装ですね。
▲第3章で登場する孔雀リズリサ。芸能プロダクション“レインボーフェザー”の社長で、自らも女優として活躍している。 |
開発の初期段階から首吊りのシーンは見ていたんですが、うわ、こんな殺し方をしちゃうんだと思いましたよ。今作は自分が言うのも何ですが、かなりえげつない死に方が多いと思います。CEROに審査を出して、「CERO C」という返事が返ってきたときに「エーッ!」と思いました(笑)。
▲第3章ではこの孔雀リズリサが犠牲者となる。 |
――あの衣装とあの死に方でもCERO Cなんですね。
浅田 身体の欠損などがなかったので、CERO Cに落ち着いたのかもしれません。とはいえ、丸焦げとかはありましたが……。これは本当にCERO Cで大丈夫かなと発売までドキドキしていました。ただ、うちとしては出せる資料は全部出したつもりでした。後から変えてもらいたいなんて来たら困りますからね。そもそもCEROに出す時の資料には、自己判断で年齢区分を記入する欄があるのですが、そこに思いっきり“D”か“Z”って書きましたからね。D以上になると売り場の棚なども変わってきてしまうので、ある意味Cで収まってくれてよかったとは思っています。
――ところで、女性キャラだけでなく、男性キャラも印象深かったですね。特にヒューゴとか。
浅田 他の雑誌インタビューでも言いましたが、やはり愚湾ヒューゴは好きなキャラとしては外せません。本作では、いいか悪いかは別として、非常に突き抜けたサブキャラを作りたかったんです。とはいえ、メインキャラもそれなりに突き抜けているので、それよりも一歩上のキャラを作るためにはどうしたらいいかと考えました。そこで思いついたのが、1980~90年代のアドベンチャーゲームによくいたようなゲイのキャラなんです。あの頃ってこういうキャラがいっぱいいましたよね。
ユーザーや読者の方には、ゲイバーを知らない人も多いかもしれませんが、最近のゲイバーって女性が非常に多いんですよ。これは自分が本作を作りながら、新宿2丁目のゲイバーに行って学んだことなんですが、本当に女性客が多いんです。土曜日などに行くと、30人くらいしか座れないお店なのに、お客の半数が女性だったりして、逆に男が入りづらかったりするんです。自分がよく行くお店の1つに、すごくヒューゴっぽいママがいるんですよ。ある意味、本作のヒューゴのモチーフですね。オススメのお店なのでぜひ探し出してみてください。金曜と土曜なら自分もたまにいます。
▲作中ではミクリがヒューゴのバーに来ている様子も描かれている。 |
彼のキャラクターを生かして、主人公をヒューゴに変えてみて、彼のバーに来る人たちの様子を描く外伝というのもおもしろいかもと思っています。とはいえ、家庭用ソフトとして改めてリリースするのはちょっとキツイので、スマートフォンなどでちょっとしたアプリとして出すのはいいかもしれません。
――他に好きなキャラクターがいたら教えてもらえますか?
浅田 絵筆ウィンディが好きですね。絵筆ウィンディに関しては、自分の好きなアドベンチャーゲームの1つである『逆転裁判』からヒントを得たキャラですね。あの作品には、すごい個性的なキャラばかりが出てきて、会話の節々でいろいろなアクションをしますよね。そんなキャラを作りたいということで、できた人物です。
――ウィンディが会話中にいろいろな化粧アイテムをセリフとともに“シャキーン!”と出しますよね。あれを見たときに、これは『逆転裁判』っぽいと思いました。
浅田 しかも何回も繰り返しますからね。そういった部分もオマージュとして使わせていただきました……すみません(笑)。ウィンディに関しては、第2章だけでなく、後のシナリオにも出てきますからね。ちなみに好きなキャラは誰でしたか?
▲いろいろなアイテムを取り出しながら会話を続けるウィンディ。 |
――僕は物語初期から最後まで出てくる刑事の“謹飾ミクリ”が好きですね。ゼンヤとどんどん打ち解けていくような感じが。
浅田 彼女には成長というテーマがあるんです。登場当時はツンケンしていて、刑事としても未熟なんですが、ゼンヤたちと行動をしていくことで、自分自身も成長していく。そんなキャラですね。
▲物語が進むごとにゼンヤに対して打ち解けていく様子が描かれるミクリ。 |
あと、私が好きなキャラといえば、やはり主人公のゼンヤですね。これもいろいろなところでお話していますが、当初の主人公はツルツルのトレンチコートを着たような、冴えない中年のオッサンだったんです。それからはだいぶ変わりましたが、ゼンヤもイメージしていた主人公にはかなり近づいたかなと思います。
――ちなみにオッサンのままだと、作中ではどういう立ち回りになる予定だったのでしょうか?
浅田 わかりやすいイメージで言えば、自分たちが昔想像していたような中間管理職ですね。マンガに出てくる係長や課長のような、ビール腹で丸型体型、髪も薄めで……。でも、そんな情けないオッチャンなのに、事件になるとバンバン解決していくような、そういう主人公を考えていたんです。でも、さすがに周りのスタッフから「それは浅田さんの想像の中だけにしておいてください」と言われてしまいました。今考えると、ゼンヤになってよかったかなと思いますね。
――ゼンヤ自身も日常生活においては、かなりダメな主人公ではありますからね。
浅田 そうですね、家賃はためるわ、ツケで飲み回るわとダメキャラなんですが、決めるときは決めるといったキャラになりました。モデル的には『シティーハンター』の冴羽リョウや『EVE BURST ERROR』の天城小次郎みたいな感じを目指しました。冴羽リョウだとスーパー過ぎるのでその中間といった感じでしょうか。ちょっと一般人っぽさも残しておきたかったんです。
▲作中のゼンヤは、普段は三枚目だが決めるべきところは決める男として描かれている。 |
また、ゼンヤには声が当てられていませんが、これについてはかなり悩みました。声を当てるほうがもっと魅力的になったかもしれない反面、逆に当てないほうがいいという意見もありました。最初は山寺宏一さんに声をお願いしたいと思っていたのですが、震災の影響でスケジュールが読めなくなってしまったのと、予算の問題で難しくなってしまいました。では、神谷明さんではどうかという案もあったのですが、それだとまんま冴羽リョウになってしまう(笑)。いろいろと考えたのですが、ユーザーさんに想像する余地を残しておいたほうがいいのかな、ということになり、声はなしになりました。
(C)2011 CAVE Interactive CO.,LTD.
データ
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