2012年8月6日(月)
――ストーリーや世界観はスムーズに決まったのでしょうか。それとも、別の候補もあったのでしょうか。
スムーズに決まったほうだと思います。そもそも一番最初にあったのが“星と遺跡が降ってくる”という一文で、ここからすべての世界観が生まれていったんです。
これまでの『軌跡』シリーズで星をモチーフにしたことがなかったので、今回をそこを描きたかったんですよ。星って、無数の輝きがあって、無数の点じゃないですか。そこから“那由多(無限に近いほど大きい数の単位)”というタイトルが出てきました。
初期の打ち合わせで、“僕らの島には星と遺跡が降ってくる”というキャッチコピーが決まって、そこから肉付けをしていきました。それと、“夏休み”というキーワードもありましたね。
▲本作の主人公は天体観測を趣味とする15歳の学生・ナユタ。夏休みに故郷である“残され島”に帰ってきた彼は、ひょんなことからロストヘブンと呼ばれる異世界を冒険することに。 |
――これまでの『軌跡』シリーズと世界観の作り方は同じだったのでしょうか。
今までの『軌跡』シリーズは、きちんとしたバックボーンがあって、大きな世界の1つの地域で起こる出来事をクローズアップするという手法を取ってきました。『那由多の軌跡』は新しい世界観となるので、“今回使った世界は、この1作品ですべてを使い切ろう”という方向性にチャレンジしました。
すでにゲームをクリアしたユーザーさんはもうご存知だと思うんですけど、『那由多の軌跡』は1作品で完全に完結しています。世界を丸ごと使っているので、続編は難しい作りになっています。それぐらいのことをやらないと、これまでの『軌跡』シリーズと違うことをやったとは言えないんじゃないかという思いがあって、スタート地点で世界の謎みたいなものをきちんと提示しておきたかったんですね。
その世界の謎が解き明かされて、最終的な結末に突入していくという盛り上がり方は、以前にあった『英雄伝説』シリーズの『ガガーブ』シリーズにちょっと近いと思います。かつてそういった作品を作ってきた我々が、今の技術やノウハウを生かしてチャレンジしたらどうなるのか? そんな思いと先ほどの“僕らの島には星と遺跡が降ってくる”というキャッチコピーが結びついて、今の『那由多の軌跡』の世界になっていきました。
▲世界には果てがあり、平面であると信じられているナユタが住む世界。ナユタの夢は、本当に世界に果てがあるのかを知ることだ。 |
――最近のゲームは謎を残して終わることが多いので、1本ですべてを描き切った『那由多の軌跡』は逆に新鮮でした。
ゲームが3Dへ移って、RPGを作ろうとすると膨大なデータ量が必要になり始めたじゃないですか。そうすると、世界を丸ごと描くことは難しいんですよね。我々も同じジレンマみたいなもの感じていまして、久々にそういうRPGを作りたかったという気持ちがあります。
昔のRPGでやっていた壮大な世界を描き切ることを、今の時代にやるとしたらどういう形が考えられるのか。『那由多の軌跡』の開発中には、そういった試行錯誤が含まれていたと思います。
――伏線も全部回収する作りになっていて、クリア後にすごくスッキリしました。
なんとなく、自分たちもくすぶっていたところなんですよ。謎を残したままエンディングを見せるということには。そこを『那由多の軌跡』ではなんとかできないかと考えました。
ゼムリア大陸の物語は密度の高い世界観を描写しているので、あれはあれで物語の見せ方の手法の1つだと思っているんですが、『那由多の軌跡』は思い切ったことができるはずだったので、すべてを描ききる形にしました。
――続編に回せそうなネタも、全部入っていて驚きました(笑)。
それは、従来の『軌跡』シリーズのファンの方からもたくさん意見をいただいてまして。「いったい結社のボスはいつ出てくるんだ」とか(笑)。
今回の『那由多の軌跡』では、それと同じことをやる必要はないだろうと。スタッフとも、「そのぐらいの要素を詰め込まないと、“那由多”という名前に対して恥ずかしいんじゃない?」と話すことが多くて、とにかくアクセルを緩めることは許されないみたいな雰囲気がありましたね。
特にボス戦がそうでしたけど、そういうところに熱意の大半を費やしていきました。ステージ数の多さとかにも、スタッフの心意気が出ていると思いますね。
――1つのステージについて春夏秋冬の4種類が用意されているというのも、すごいボリュームですよね。
四季を表現すると言いつつも、全部はやらなかったりするじゃないですか。先ほどの話に出た、世界を丸ごと描かなくなった風潮の影響もあるんですけど、仮に全ステージに全種類を用意しなくても、ユーザーさんは怒らないかもしれません。それでも、あえてやり切りました。
そういった部分へのこだわりって、我々が大事にしているもので、自分たちがユーザーだったら絶対に欲しい部分だと思うんですよ。だから、そういう部分に対して、今の我々のできうる限りの力で実現したらこうなりましたという感じですね。
▲各ステージには春夏秋冬の4種類が用意されており、それぞれ登場する敵やアイテム、ギミックが異なる。 |
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