2013年8月14日(水)
――開発されてきた中で、印象的なタイトルを教えてください。
『ガチトラ!』、『コンセプション』、『ダンガンロンパ』ですね。『ガチトラ!』は今までのスパイクっぽいタイトルですが、その後2本はそれまでのスパイクではまず出てこなかったタイトル。それまでのスパイクは、『喧嘩番長』や『侍道』、『デコトラ』や『ご当地検定』といったタイトルの印象だったんですけれども、『ダンガンロンパ』や『コンセプション』みたいなタイトルをやるメーカーだったかというとそうでもなく……。
――そうですね。アクションゲームもしくは海外ゲームをローカライズするという印象が強かったです。
はい。そういう部分があったので、立ち上げる前に社内を説得していくことになりました。まず、「僕たちが作りたいゲームはこういう人たちが支持していて、こういう層にフックするんです」みたいなところを説明したんです。それまでそういったタイトルを開発してきていない人ばかりだったので、理解してもらうまで3タイトルとも大変でしたね。
――『ガチトラ!』の開発にあたり、印象的だったことは?
うちは『喧嘩番長』シリーズを出しているんですが、初代『喧嘩番長』を企画した松本(松本朋幸さん)が新しい企画で何かやろうということで、始まりました。1本目のタイトルを何にするかという時に松本から、今後は教師でやりたいと提案がありました。教師モノは人気があるけれども、ゲームではあまり出ていないというところでスタートしました。
学校を舞台にしているという意味で、『喧嘩番長』と近いように感じるんですけれども、教師は教える立場で指導する側。一方の番長は「学校なんて関係ないだろ」ぐらいの位置。完全に異質なものなんですね。物語の方向性も悩みましたね。
――確かに、教師サイドの物語は難しそうです。
プレイヤーがそもそも共感できるのか、という部分が大きい。番長だったら学生のプレイヤーが「男ってこうだよな」とか、「こういうところに憧れるよな」という一面を描きやすいんですね。でも教師っていうと、ともすれば生徒からすると敵側になってしまう。
特にゲームをどっぷり遊んでいるような人からすると「ゲームなんてしないで勉強しなさい!」みたいなことを言ってくる立場です。
――そうですね(笑)。
でも、敵として見えてはいけないんです。こういう先生がいてほしいという教師像を、僕と寺澤、松本の3人でミーティングを繰り返して“トラ”というキャラになりました。似通ったジャンルの中で新しいものに挑戦したという意味で、『ガチトラ!』は印象深いですね。
――続いて『ダンガンロンパ』についてお願いします。
『ダンガンロンパ』については今でこそ“お仕置き”という言葉になっていますが、開発初期は処刑という単語で、ポップな部分が一切ないような状態だったんですよ。そこから寺澤や開発が社内で動き始めたところ、「ちょっと難しいんじゃないの?」という雰囲気でした。「それじゃあどうするか?」というタイミングで僕が合流していって、いろいろ考えました。当時、アドベンチャーというジャンルではあまり販売本数が見込めないのではという話があったので、「これはもうアドベンチャーではないです。これはきっとアクションです! 推理とアクションで新しいジャンル作りましょう」と。
――以前にその話を聞いた時にも驚きましたが、改めて聞いてもその発想に驚きます。
ただ、推理アクションだとパンチがないし、ハイスピード推理アクションで行こう。それならばハイスピード推理アクションらしいギミックを仕込んでいきましょう、という流れです。普通の企画だと、システムがあってターゲットがあって、それに対してこういう遊びを提供していこうという動きがあるんです。でも、『ダンガンロンパ』ではジャンルから始まり、それをシステムに落としていった。
アドベンチャーゲームという枠の中で新しいシステムになっているのではなく、ハイスピード推理アクションという新たなジャンルを作っているという形で動いていったので、今までのゲームの作り方とは全然違いました。『ダンガンロンパ』はまずそこが大きかったですね。
――『コンセプション』は?
『コンセプション』は、前作のサブタイトルである『俺の子供を産んでくれ!』で、僕と寺澤の間ですごく盛り上がったことがあったんですよ。ちょうど企画の仕込み時期に寺澤から「何か企画を考えてみない?」と言われたので、僕が温めていた企画書……ペラ一枚だったんですが、こういうゲームをやりたいという提案をしたんです。
そしたら寺澤が「俺もこういうのを前に考えていて、社内的に今一つだったんで止めた」と言って企画書を出してきたんですね。それが僕の考えてたものと方向性が同じものだった。
――考えがシンクロしたわけですね。
寺澤が「お前もいいと思うんだったら、アリかもしれない」と言うんで、一緒に動きましょうという流れになりました。ただ……『俺の子供を産んでくれ!』というタイトルは、社内的にさすがに通らないと思っていました。そこで、このような企画を考えているということを、櫻井(代表取締役社長 櫻井光俊氏)のところに持っていったら、「いいじゃないか!」という反応がきて、「……あれ?」って(笑)。
――すんなり通ってしまったと(笑)。
むしろ「こういうところを出していけ」みたいな話になったんですね。そういうところがうちの社風と言えば社風なんでしょうけど、「さすがに行き過ぎかな?」と個人的には思っていたので、いろいろと言い訳を考えてはいたんですよ。根っこの部分はしっかりしたRPGで、あくまで注目してもらうために付いているとか、このシステムがおもしろいんですよ、みたいな。
それらを説明する間もなく「おもしろそうじゃないか」ということになったので、『コンセプション』に関しては、企画を通すのが難しそうに見えて、意外と理解してもらえたタイトルですね。
――個人的に遊んでおもしろかったので、続編が出ることを聞いた時に「『俺の子供を産んでくれ!』シリーズができるのかな?」と思っていたんですが……さすがにならなかったですね。
アハハハハ。実は『1』を出した時に、ユーザーさんから「買いづらい」という意見が上がってしまったんです。僕らとしては、『俺の子供を産んでくれ!』というタイトルの注目度や話題性から、手に取ってもらえると思っていたんです。だた、手に取ってもらえなかった理由を探していくうちに、「割とサブタイトルが大きいね」っていう結論になりました。そこで、『コンセプションII』では手に取ってもらいやすくしようとして、変えました。ただ、コンセプトや中身についてはそこまで変わっていません! というか進化しています(笑)。
――これまでの作品でやりきれなかった点とか、悔いが残った点はありますか?
『トワイライトシンドローム』と『コンセプション』です。『トワイライトシンドローム』は僕がここの会社に入ってきた時、最終調整しているタイミングで、ほぼデバッグしかやっていないんですね。割と最後のタイミングだったのですが、「ここの部分にこういう機能があったらおもしろいですよ」とか「こういうのがないとキツいです」とかを言ったのを覚えています。製品版には、バッドエンドになった時にヒントとか出たりするんですけど、それも最初は一切なかったので、「何でこのバッドエンドに?」と首をかしげてしまった。
――平たく言うと、わかりにくかったと。
開発用のチャートを見たらわかるんですけど、プレイヤーはチャートなしで遊ぶため、そのエンディングに到達する意味がわからないし、どこで失敗したのかもわからない。恋愛モノのアドベンチャーだったら、「この言葉を言ったから機嫌を損ねてダメだったんだな」って推測できるんですけど、用務員のおじいさんの問いかけに対してこっちを選んだとか、どっちがいいかわからない部分で分岐していたり。さらに、それがバッドエンド直前だったらいいんですけど、結構序盤で分岐していて……。
――この選択からもうすでに始まってたか、みたいな。
これは……無理だろうと(苦笑)。そこでプロデューサーに話をして、最後の部分にテキストを足すだけでもかなりわかりやすくなるので入れましょうと掛け合いました。もっと改善できる方法もあったと思うんですが、タイミングが遅かったので、それが精一杯でした。もっと初期の段階から携わっていれば、システム部分でフォローしたり、よりわかりやすい方法を提案したりできたのではないかと。
『コンセプション』に関しては初めてのRPG。開発期間は全力で作ったのですが、新しいものを入れよう、もっと遊べるものを入れよう、と詰め込みしていった結果プレイボリュームが膨大になってしまった。そのため1つ1つの要素にかける力が分散されてしまった。もっと力を集約できていれば、より練度の高い内容にできたと思うのです。そういう思いがあって『コンセプションII』では、『1』で達成できなかった部分を改善しています。
――開発中に困難に当たった時や、行き詰ってしまった時はどのように解消されるのでしょうか?
何かしら打開策を徹底的に考え、とにかく解決できるまで考えて、代案を含めあらゆる手段を試します。その困難を解消するまで徹底的に動いてしまうので、結果困難ではなくなっていたり(笑)。
――クリエイターになってから日々心がけていることなどはありますか?
2つあって、おもしろいものには日々触れていこうというところと、絶対にやってからでないと批判しないです。
僕は『ドラえもん』が好きなんですが、作者の藤子・F・不二雄先生曰く、漫画を描くタイプには2種類いるらしくて、外での自分の経験を落とし込むタイプと、籠ることによって妄想力を高めて引き出しを作るタイプ。僕はどちらかというと外へ出て刺激が欲しいタイプなので、とにかくドンドンいろんな刺激をもらいつつ、自分のいる意味を作りたいとは思っています。誰かと同じになるよりも、自分だからこそその場にいる意味が持てている、という存在でいたいなと。
自分ならではの感性も出したいけど、皆からあまり乖離しすぎたくもない。一般的に流行しているものを見て、ある意味つねにミーハーでいようとしてます。誰も飛びつかないものに自分だけが飛びつくよりも、プロデューサーとしては皆の感覚を理解したうえで、皆がまだ手を出していないもの、これから手を出すであろうというものはいち早くキャッチしていたいと心がけています。
――社内でも社外でも構いませんが、尊敬していらっしゃるクリエイターはいらっしゃいますか?
ゲーム業界の中で言えば志倉千代丸さんですね。自分の知識や妄想をゲームや設定の中にあますことなく生かせるクリエイター気質なところ、多岐に渡るプロデュース稼業でも成功しているという、とても視野の広い人物というところで尊敬しています。
そして松野泰巳さん。松野さんが作るゲームは結構遊んでいるのですが、中二心をくすぐりつつもリアリティのある重厚で練り込まれた世界観に一気に引き込まれます。その吸引力がすごいなと!
――そんな齊藤さんが最近ハマっていることはありますか?
何年か前からになりますが、音楽ライブに行くのが好きです。ジャンルもゴリゴリのロックからクラシック、観客が女の子しかいないようなガッチガチのビジュアル系とかにもふらっと行っています。CDを聞いてるだけだとわからない、ライブパフォーマンスやMCのおもしろさがあり、ファンとアーティストが一体になって作り上げていくステージ感が好きなので、いろんなジャンルを見ています。いろんな世界があるのを感じられて、刺激になりますね。
――これからゲームクリエイターになろうと考えている人とか、憧れている人に対して「今からこういうことをやっておいたほうがいい」とか何かアドバイスはありますでしょうか。
僕はゲームを作る側に行った経緯が変則的なので、あまり参考にならないと思うのですが……自分がこういう人と一緒に働きたいという意味だと、「これは自分に任せろ!」という分野を何か1つ持っていてほしいです。極端な例ですが、フローチャートを書かせたら天下一品!とか、企画書を書かせるんだったらこいつがNo.1、とか、とにかくスケジュール管理がすごい!とか、自分の武器を持つことは大事かと思います。手ぶらでは戦えないですもんね。
とにかく自分だけの武器を見つけてください。たとえ器用貧乏と呼ばれていて武器がない、と思っている人だったとしても、逆に誰よりも器用にものをこなしていくことで欠かせない存在になる、とか。「こいつにしかできない」っていうことは、「こいつとじゃなきゃ作れない」という意味でもあるので、一緒に新しいものを生み出していく仲間としては、そんな人が理想ですね。
『コンセプションII』の開発経緯と揺れる“あの部分”に迫る!
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