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2013年3月29日(金)

『BEYOND: Two Souls』ディレクター&エグゼクティブプロデューサーに聞くQuantic Dreamのゲーム作りとは――開発スタッフインタビューその1

文:おしょう

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■まったく新しいビジョンのゲームをパブリッシャーにすぐ理解してもらうのは難しい

――Guillaumeさんはマネジメントを行いつつ、クリエイティブな面では『BEYOND:Two Souls』のトレーラーを作っているとうかがいましたが、今回公開されたものもGuillaumeさんが作られたのですか?

『BEYOND:Two Souls』

Guillaume:そうです。当初、私はビジネス畑の勉強をしていたのですが、3Dグラフィックスタジオを立ち上げてからは、3Dアニメーションの監督をすることもありました。そういう意味でトレーラーの制作は現時点で唯一、自分のクリエイティブな部分を発揮できる仕事というわけです。この仕事だけは誰にも渡したくないですね(笑)。

 マネジメントをしつつトレーラーを制作することで制作チームとかかわり、そのプロセスに触れていく、といった面も重要です。Davidともアイデアの投げ合いをして「これはイエス」「これはノー!」といったやりとりをしています(笑)。

――Davidさんは「マーケティングからゲームの形を作ることはない。あくまで自分が表現したいものをカタチにしているだけだ」とおっしゃっていたのですが、マネジメントの面でGuillaumeさんと衝突するようなこともあるのでしょうか?

Guillaume:ゲームをマネジメントする際に重要なのは、作り手の“ビジョン”に対して、それを信じることができるかどうかです。私はDavidのビジョンをすべて信頼していますし、将来的にも、Davidのビジョンがさらなる成功を遂げることを信じています。アイデアの衝突はなく、Davidと強調し、長い時間をかけて1つのものを形にしていく感じですね。

 ですから私の挑戦は「どうやってそのビジョンを他の人や会社に信じてもらうようにするか」という部分になります。『ファーレンハイト』や『HEAVY RAIN』を作ったときも、そのビジョンに向かって“旅をする”ようなイメージで制作を進めていきました。

――今ではこのスタジオツアーに集まったメディアのように、世界中がDavidさんが生み出すものに興味を持っていますが、『ファーレンハイト』や『HEAVY RAIN』のときは、そのようなビジョンを外部の人々に理解してもらうのに苦労もあったのではないですか?

Guillaume:まったく新しいビジョンを信じてもらうのは難しいことで、特に大変だったのはアメリカのパブリッシャーに『ファーレンハイト』をプレゼンするときでした。マスターの3週間前というほぼ完成前の状況で、ゲームの内容や「自分の行動がその後の展開に影響を与える」というコンセプトを説明したのですが、相手に5分で「それは無理です。そんなゲームはありえない」といわれて信じてもらえず、帰らされてしまった。10時間かけてアメリカに飛んだのに、5分で帰らされてしまうこともあるんです(苦笑)。

 その逆の例は、『HEAVY RAIN』のときの、SCEのフィル・ハリソンさんやマイケル・デニーさんとのミーティングですね。物語を主体としたゲームのコンセプトを伝えただけで、彼らは「あなた方のビジョンを信じる。完成までに長い時間はかかるかもしれないけど、今から始めましょう」と言ってくれました。だから我々は今もSCEの方々と仕事をしているのです。

――確かにパートナー探しはゲームを世に送り出すために非常に重要ですね。

Guillaume:メインストリームとはまったく違ったビジョンで作品を作る場合、一番難しいのは「どの時点であきらめるか」という判断です。ビジョンを実現させるためにはさまざまなパブリッシャーのドアを叩いて売り込まなければいけないのですが、そこでさまざまな声を聞くと、その声にあわせてビジョンを変えてしまいたくなってしまいます。でもそれに耐え、常に一貫したビジョンを持って、長い時間をかけていいパートナーを探していくのがとても大事なことなのです。

――『BEYOND:Two Souls』の制作にあたってはスタッフも大幅に増えたということですが、Quantic Dreamというスタジオ全体の未来像をどのように見すえていますか?

Guillaume:スタッフは大幅に増えましたが、1つのプロジェクトにすべての人員を割いているわけではありません。確かに今回約200人というスタッフに増強したのは『BEYOND:Two Souls』の制作のためという部分が大きいですが、スタジオをどんどん拡大するといった成長戦略をビジョンとして持っているわけではなく、すべてはDavidと2010年に計画したロードマップに基づいています。その中にはPS3のみならず、PS4の時代まで見すえた計画もあります。人材の増強は、次のプロジェクト、未来に向けた戦略でもあるのです。

――人数が増えるとビジョンの共有が難しそうですが、その部分はどのように気を使われていますか?

Guillaume:大人数の間でビジョンを共有するのは非常に難しい部分ではありますが、コミュニケーションの機会を増やし、それぞれの部署で、それぞれの目的にあった形のビジョンを共有するよう心がけています。スタッフ1人1人にきちんと影響する形でビジョンを共有することが大事ですね。

――Guillaumeさんの考える、Quantic Dreamというスタジオの唯一無二の魅力とはなんでしょうか。

Guillaume:難しい質問ですね(笑)。グラフィックやパフォーマンスキャプチャーなど、いろいろと特徴的な部分はありますが、何よりも大切なのは「Quantic Dreamとして作る作品は(プレイヤーにとって)意味のある作品である」ということです。

 プレイヤーの人生になんらかの問いかけをしたり、プレイすることによってその人の世界観に何らかの影響を与える作品。そういったものを作り続けることがQuantic Dreamの目標ですね。

(C)Sony Computer Entertainment Europe. Developed by Quantic Dream.

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